アシュア短編集_遺書   作:イエローケーキ兵器設計局

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 Ruth……Ruth!お願い!目を覚まして!目を覚ましてよ!


2.P-38Fの遺言_下

 沈んでしまい、ピクリとも動かないRuth。海面に着くなり、沈みゆくARMS。無慈悲に開く救命ボート。

「Ruth……Ruth!すぅ……はぁ……すぅ……!」

 ドボン。飛び込んで出来た泡が私を包む。水を掻いて掻いて手を掴んだ。息が苦しい。ARMSの接合部をパージする。

「ゴポポポポ……!げほっ!げほっ!らす!Ruth!起きて!Ruth!Ruth!お願い!目を覚ましてよ!置いてかないで!一人にしないで!Ruth!」

 人間で言う心臓のところを押して押して押して押して押して押して押して押して押して押して……押して押して……起きて!一人に……一人にしないで!

「……げほっ!」

「Ruth!」

「Kelly……?ここは……?」

「海の上だよ」

 見渡す限り何も無い。私達以外に何も無かった。さっきまで着けていたARMSももう沈んでしまって手が届かない。もう完全に2人ぼっちだ。

 

「代理人も飛んでるDOLLSも誰も見ないね……」

「うん……もしかしたら死んだのかな、Kellyも私も」

「……わかんない」

 もしここが死後の世界で、私達が既に死んでいるのだとすればどうすれば良いのだろう。

「何か聞こえない?」

「確かに聞こえる……近くに居るみたい」

 まるで羽音のような……。

「……私を居ない者扱いとはなかなか酷いな」

 声の主は私達のせいで行方不明になっていたコルセアさんだった。

「よっこいしょ……ありがとう」

 コルセアさんはいつものフリフリは脱いでいて水泳訓練の時の水着になっていた。

「3時間は泳いだんだ、少し休んでもいいだろう?何があった」

 これまでの経緯と事情を説明する。いつになく真剣な表情で彼女が私を見る。

「……そうか」

 蒼色の猫のような瞳の奥の奥、代理人達が心と呼ぶモノが私達をきっと睨んだ。でもそれは一瞬のことで。すぐに普段の柔らかい表情に変わる。

「よく正直に言えた」

 Ruth共々頭を撫でられる。わしゃわしゃ〜。

「どうして怒ったりしないの……?」

「私は怒ってるぞ?主らにな。」

 眼帯で隠した眼に見透かされる嫌な感触。

「ひぃっ……」

「だがな、どうやら反省は既にしたようだし……ここで怒ったって仕方が無い。証拠が無いからな……少し昔話でもしてやろうか?」

「昔話?」

「これは先代から聞いた話だがな……」

 そう言うとコルセアさんは目を瞑って話し始めた。

 

 その昔、まだ私達が造られるよりも前のこと。

 悪戯好きの悪い子供が居たという。その子供は仲の良い子供達を集めて軍から食料を盗み出したり、憲兵の車の燃料タンクに砂糖を入れてみたりしていた。イタズラは段々とエスカレートしていき、いつの間にか格納庫に火を放つまでに至っていたという。

「それで……?」

「その子供はな……捕まってDOLLSにされたんだよ」

「嘘だ〜」

「本当さね。その子供の親には火災事故で死んだと説明してな」

 真剣に話すコルセアさんの目がまるで本当であるかのように見えてきた。

「手始めに軍隊の掟を叩き込むんだ。そこらの悪ガキどころじゃなかったからな」

 中略。"人間由来"の海賊の全部を聞いてしまった私は怖くなってしまった。

「……そういうわけで先代は……ありゃ?怖がらせすぎたか」

「怖いよKelly……」

 コルセアさん(?)の前に膝立ちの姿勢で立ちはだかる。

「Ruthは私が守る」

「人の話聞いてた?君たちは取って食ったりしないよ……君たちは、ね」

 

 それから暫く。気を張るのに疲れてしまって瞼が下りてくる。

「眠いなら眠ってても良いぞ」

「まだ眠くなんか……ふぁぁ……」

「すぅ……すぅ……」

 右を見れば既にRuthは寝ていた。

「ほら、眠るんだ」

 コルセアさん(?)に手招きされるがまま、狭い筏の上で肩を寄せ合う。

「おやすみ……なさい……」

「……」

 コルセアさんが何か言っていたけれど聞き取る前に意識が落ちた。

 

 

「大丈夫?怪我はない?」

「……あれ……ここは……?」

 気が付いたら空の上に居た。でも隣にRuthは居らず、背中にARMSも無い。

「二式大艇!ケリーも意識ありよ!」

 後頭部には柔らかいクッションが当たっていて私は片手で担がれているみたい。二式大艇?

「Ruthは……?」

「こちらアードバーク、Kelly、聞こえる?」

「聞こえる」

 無線機を押し当てられている。お陰でARMSが無くても聞こえる。

「Ruthはとりあえず無事よ」

「良かった……」

 

 その後、私を担いでいた飛行速度の低い九七式飛行艇さん(クッションの正体)と交代でにアードバークお姉さんが迎えに来てくれた。

「帰ったらお仕置きかしらね」

「……はーい」

「特に代理人はカンカンに怒ってるから気をつけてね」

「うぐっ……」

「今回ばかりは私は怒る側に回るわよ。猛省して頂戴」

「……ごめんなさい」

「ちゃんと謝れて偉いわ。代理人にも皆にもちゃんと謝るのよ」

 右手で頭を撫でられる。思ったよりも温かくて……本物のお姉さんみたい……。

 

 

 執務室に、途中で合流したRuth共々連行されると無表情の代理人が待っていた。

「おかえり、Kelly、Ruth」

「え、代理人……」

「無断出撃の件で怒ってるのか、そう聞きたいのかい?それは勿論怒ってるよ?皆に探して回ってもらったからね。わざわざ任務を振り替えて探してもらったんだ、皆に一緒に謝りに行ってもらうよ」

 アードバークお姉さんが私の返事を遮った。

「代理人、私の燃料だけで幾らになった?」

「Kelly、Ruth、君たちにかかる全ての費用の……1年分かな」

「ごめんなさい……ごめんなさい!」

 言わなくちゃ……言わなくちゃ……。

「あのね代理人……」

「ん?」

「コルセアさんのARMSに細工したのは私なの」

「……そうか。彼女を連れてきてくれ」

 代理人はアードバークお姉さんに指示を出すと溜息を吐いた。

「了解しました。Ruthを借りても?」

「それは……」

「君に拒否権は無い。連れていけ」

 Ruthは黙っていた。半身でありながら、考え方が違う。まるで諦観しているようで。ああ、連れて行かれる!待って!

「Ruth!」

「Kelly、君の相手は私だ」

 

 Ruthとアードバークお姉さんが退出した執務室。代理人と一対一で向き合う。顔が何故か熱くなる。そんな状況ではないのに。

 

「じゃあ……教えてくれ」

 頷いて肯定する。

「構ってほしかったのか?」

 うんとも違うとも言えない。

「違うか……君の遺書は読んだよ。だから君が細工したのも知っている」

「代理人……」

「私は君を恋愛対象としては見れない」

「そっか……」

 泣かない、と決めていた。助け出されてから。堪える。堪えないと。痛くもないのに堪えられない。

「実は……手のかかる妹のように見ていた」

 へ?

「Ruthは気がついていたんじゃないか?」

 言われてみれば……一歩引いていて……そうなのかも……。

 動揺するそんな私をよそにノックの音が響く。

「アードバークです、Ruthと彼女を連れてきました」

「入ってくれ」

 入ってきたのはまずRuth。そしてアードバークお姉さん、最後に……コルセアさん?

「また会ったね」

 目の前にいるズボンを履いたコルセアさんは私の知っているコルセアさんではない。しかし、会ったことはある。

「彼女が第一発見者だ」

「じゃあ改めて自己紹介しておこうか?」

「頼む」

 代理人の言う通り、目の前にいるコルセアさんは私達を最初に見つけてくれた恩人。しかし、いつもの作戦で見るコルセアさんではない。中二病設定の欠片もない……。

「第8492飛行隊所属……あー……代理人君、これって言って良かったっけ?」

 コルセアさんが代理人の方をちらっと見ると全力で顔を横に振るのを見てちょっと悪戯好きな顔をしながらこう続けた。

「これで君たちも秘密を共有する家族になった。よろしくね」

 微笑みながら手を差し出してくるコルセアさんを少し本能的に怖いと思った。

「握手すらしてくれないのか、残念だ」

 彼女は肩をすくめながら続ける。

「本業は庭師だ、ほら、分かるだろう?」

 どこからともなくヘッジトリマーを取り出してすぐに何処かへとしまう彼女。

「おっと、次の依頼の時間だ。これで失礼するよ代理人君。家族水入らずの時間を楽しんでくれ」

 スタスタと出ていった彼女を私達は見つめていた。家族水入らず?

 

 

 それから暫くして。色々あって私たちの関係性は少し変わった。私も変わった。万物は流転する(パンタレイ)という言葉の通りいろいろ変わってしまう。

「構ってよ、お兄ちゃん」

「Ruthも構って」

「仕事があるからもう少し待って」

「あらあら……貴方、私が進めておくから遊んできても良いですよ?」

「ん……すまんな」

「いえ、そんな……♡」

「またいちゃついてる……」

「いちゃついてる……」

 代理人の義妹という新たなポジションにいつの間にか慣れてしまった。勿論、いつかはアードバークお姉さんの座を奪えるかもしれない。けれど……今はこの席でオトナとは何か勉強していようと思う。それにしても代理人、私達が義妹とはいえ人前で妻とキスなんてする……?

 




蒼色の猫のような瞳
:F4Uシリーズは"緋色の猫のような瞳"をしているのが特徴です。そして彼女は碧眼をしていた。妙でございますね。歴代のコルセア達(F2G やF4G など)は緋色の眼をしていたような……。そう言えば、救出後にKelly達がこんな事を廊下で言っていたような。録音記録を再生してみますね。
「Kelly、これ見て」
「碧眼の庭師のようなコルセアに注意?」
「なになに……第84飛行隊の第9大隊2中隊長……あ」
「やあ我らが天使たち、私を呼んだかい?」
「碧眼で」
「ヘッジトリマーを持ってる」
「ズボンを履いた」
「コルセアさん……」
「きゃぁぁー!」
(2人が走って逃げる音と追いかける足音)
「あ、あれ……?この間も会ったんだけどな……おーい」
(録音終了)
 情報源は秘密、ですわウフフ……。

初飛行年
:F4Uの試作機はP-38の試作機よりも後に初飛行しています……でも、このコルセアはP-38とは違って先代の死に目になぜか間に合っているんです。不思議ですね。
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