アシュア短編集_遺書   作:イエローケーキ兵器設計局

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 ずっと好きよ、貴方。

 もう150回は書いて貴方に読んでもらうことなく捨てたんじゃないかしらね。でも、これからも何度だって書くわ。もし墜ちたとしても貴方にまた会いたいから。

作戦内容:ゴミ出し及び井戸端会議


3.F-111の遺言

 日の差し込む執務室。

「F-111、準備完了であります!」

「F8U、Tu-128と共に現場に向かい、鹵獲者を妨害、必要であれば排除せよ」

「はっ!」

「T-4が"庭師"の回収に向かう」

「代理人……んっ」

 少し長めに行ってらっしゃいのちゅー……。

「ぷはぁ……行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます♪」

 

 格納庫で燃料の供給を受け、兵装を取り付ける。GSh-6-23 23mm機関砲と弾薬……中距離用のR-77を2本、近距離用のR-73も2本、対地ロケットS-13の5発ロケットポッドを2基。

「アードバークさん、お疲れ様です」

「クルセイダーさんもお疲れ様」

 F8Uクルセイダーさんは……初任務の日付的には先輩に当たる彼女だけれど何故か後輩のはずの私を慕ってくれる……。

「準備完了、出撃可能だ」

 このウルフカットのロシア人はライカ少佐。フィドラーの異名を持っている。彼女の経歴は長くなる(注:大人の事情)ので割愛するけど、とりあえずTu-128の正規DOLLSで私と同じ元人間。人造人間だとか言う噂を聞いたことがあるけれどDOLLSである時点で人造人間だから気にしてもしょうがない。

 背後に気配を感じたのでゆっくりと振り返るとT-4が縮こまっていた。

「ほら、行くよ」

「怖い〜!辞めてください〜フィドラー先生〜!」

 この怖がっている少女がT-4"ソトカ"。赤色十月同盟学連の秘密の設計局(スホーイ設計局)で設計された目隠し高速飛行を得意とするDOLLS……なのだけれどそれは超高空の話。一定速度を超えると目隠し飛行をしないといけないから今回みたいに警戒しながら高速飛行する任務は本来なら不可能……本来の設計なら。だけれど今の彼女は違い、低高度高速侵入が出来るようにコフィンシステムを応用したゴーグルを装着している。じゃあ何を怖がっているのかというと……。

「全力飛行はしたことがないんですって!」

「だから今からしようじゃないか!」

 精鋭揃いの部隊の中で唯一、彼女は経験が浅く、試作機のまま連れてこられた不運なDOLLSで、一度も全力で飛行したことが無いままここに来てしまった。下手を打ってバラバラになったら笑えないから本人は全力では飛びたくないというわけで……。

 

「管制塔よりアードバーク、何か言い残すことはあるか?」

「伝言を頼める?」

「個別で録音しよう」

「愛してるわ……代理人」

「……録音できた。よし、クルセイダー、何か言い残すか?」

Ave agentis, morituri te salutant(死にゆくものより代理人に敬意を示します).」

「……了解した」

「フィドラーは?」

「レナ、夕飯はアンナと食べてくれ」

「……伝えておこう」

「ソトカ」

「死にたくないよぉ!」

「誰も死なせはしない、そうだろう?ソトカ」

 

 離陸して誰も居ない市街地の石畳スレスレを飛行する。

「クルセイダー、私に続け」

「了解」

 

 ポツリと後ろにいたフィドラーが呟くように指示を出す。

「ソトカ、作戦変更、高度26000まで上昇だ。アードバーク、地上と上空の2面から捜索するぞ」

「フィドラーさんは着いてきて下さるんですよね?」

「私が必要か?」

「えぇっ!?」

 

 クルセイダーと地表スレスレを飛行していると無線機からソトカの悲痛な声が聞こえる。

「届かない……!あと1000!あと1000mが遠い……!」

「ほら、全力だ、全力を出して私を追い抜け」

 どうやらフィドラーは悠々と飛んでいるようだ。

「もっと速く!もっと高く!」

「あー……フィドラーよりアードバーク、どうやら奴さんヴァルキリーを連れてきたらしい」

「なっ……早すぎる!」

 どうやら"庭師"を狙っている学連組が位置を特定してしまったらしい。ん?これは……。

「……聞こえるか?救難信号だ。差し詰め……アードバーク、星屑連邦学連のビーコンだろう」

「フィドラーより全機、喜べ、要救助者が増えた。我らが妹様が救助要請だ」

 妹様……妹……あっ……!

「あの子達……勝手に……!」

 双子の妹達(KellyとRuth)が目的地付近で要救助……何か匂う。

「ソトカ!ミサイルだ!狙われているぞ!」

「えっ……あっ……」

「ブレイク!ブレイク!」

 無線機越しに大きな爆発音と大きな物が崩壊する音が響く。

「……ア、アードバークさん!ソトカです!フィドラーさんがミサイルに被弾しました!」

「……被害状況は?」

「データを送ります!」

 データリンクでは信号は消えていない……。

「(消火器が作動する音)……こちらフィドラー、本機は作戦を継続可能。ソトカの護衛を続けるが、ヴァルキリーは長距離対空ミサイルを携行している模様、注意されたし」

 ソトカからデータリンクで2枚写真が送られてくる。一枚目にはミサイルの爆発によって左翼の1/3が無くなったフィドラーのARMSと千切れ飛んだ外板が、そしてもう一枚には出血する肩を押さえたフィドラーが写っていた。写真データには説明が添えられていて、フィドラーがソトカを庇って被弾したという。

「……見えた、ソトカ、一人で行けるか?」

「フィドラーさん?」

「低空をアードバークとクルセイダーに従って這って進め。私はヴァルキリーを殺る」

 静かな声に僅かに滲んだ殺意。フィドラーは様々な顔を持っていた。一つは母親、一つは科学者、一つは……殺しを愉しまざるを得なかった殺人鬼。今の彼女の顔は……。

 

「ソトカ、アードバークさんに合流します」

「ソトカ、私達がさっきから進んでは引いてを繰り返している理由わかる?」

「瀬踏み……でしょうか?」

「それがわかるなら話が早いわね」

 あのヴァルキリーのせいで進めない。こうしている内に敵勢力が揃いつつある。これは大変不味い。

「こちらフィドラー。ヴァルキリーを捕捉、攻撃中」

「アードバークさん、クルセイダーさん、私が突っ込みます」

「アードバークさん、援護を!」

 ずっと黙っていたクルセイダーが口を開いた。唐突に援護を、と言われても……ええい!女は度胸!

「お手本を見せるから着いて来なさい!」

 更に高度を下げて海面スレスレの高度5mを音速の2倍で飛ぶ。エアインテークに海水が入ると後が大変なことになるからもう少し高度を上げて……いや、このままで。

「ソトカ!対艦ミサイルは準備できてる?」

「いつでもロックオンできます!」

「よし、クルセイダー、対空ミサイルは問題無い?」

「行けますよ〜」

「……敵艦が見えたら輸送船以外は攻撃してしまいなさい!攻撃始め!」

 

「シーダート撃墜!」

「対空艀を撃沈!」

 ロケットと中距離対空ミサイルを撃ち切って生き残った航空戦力が居ないか確認していると不意に視界の隅を何か線状の光の点が煙を曳いて通った。反射的に左にヨーをかける。

「ちっ……!」

 知っている声。そう言えばあまりにも煩いのでミサイル警報装置やレーダー警戒装置を切っていたことを思い出した。

「……ここを守っていたのは貴女なのね、"栄光(F-104J)"」

「あんたに何が……!何が分かるって言うのよ!」

「何もわからないわ」

 少し前……いや、かなり前に模擬空戦を行った記憶がある。それこそ私がこの部隊に来るよりも前……。彼女はレーダーを切っての奇襲を得意としていた。絶対に当たる距離でロケットと機銃を撃つ、それが彼女の十八番。まあ外してしまったわけだけど。

「怒ってる?」

「五月蝿い!」

「ふーん」

 ちょっと煽てただけで暴れまわる彼女には相当手を焼いた。もっと自分のARMSの特性を理解していれば勝てるのに。

「ちょっとお茶でもしていこうかしら」

「帰れ!死ね!失せろ!」

 おー、おー、酷い言われよう。涙が出てきそうだわ。

「あの日も今日も貴女の負けかしら」

「この……!」

 一気に上昇して、雲に隠れ、どこからか速度不足気味の一撃離脱の要領で白刃戦に持ち込んでくるのも前から。そして……。

「遅いわね」

 受け流されて白刃武器をよく取り落とすところも前から。

「今なら降参しても見逃してあげる」

「誰が降参するものですか!」

「周りを見てみたら?」

 クルセイダーとソトカが私の周りを飛んでいた。形勢的には有利。時間的には不利。

「……私の負けよ、アードバーク」

「そう」

 F-104J(栄光)が私の前に減速しながら降りてくる。

「大人しく帰るわ……貴女を落としてから!」

 おっと、これはクルビット。そんな技をいつ習ったのやら。

「アードバークさ……!」

「そんな事でやられると思った?」

「あっつ!あっつ!あついぃぃぃ!」

 そんな彼女もしっかりと密着するように私の後ろに着いてしまったのが運の尽き。燃料噴射からのアフターバーナーによるトーチングに翼を焼かれてまともに飛べなくなった。

「火炎放射器を持った機体と屁には気を付けなさいね」

 

 煙を吐きながら徐々に高度を落としていくF-104Jを尻目に輸送船に着艦して臨検する。クルセイダーとソトカには対空警戒を続けてもらう。

「失礼するわ」

 耐水扉を蹴り開け、ARMSに予め載せていた23mm機関砲を振り翳し、制圧しながら司令室を目指すも残っていた人員曰く捕虜は既に沈んだ艀に乗っていたらしく……要はうっかり"庭師"ごと沈めてしまった事がわかった。

「……どうしようかしら」

 そう呟いた時、無線連絡が入った。

「フィドラーより、アードバーク。庭師から連絡があった。P-38Fの救命ボートが見えたのでそちらに向かう。現場指揮官は後で覚悟しておけ、だそうだ」

 理不尽な、とは思いつつそう言われてしまってはしょうがない。

 

 帰還した私を待っていたのは"庭師の"叱責ではなく、代理人の挨拶だった。まだ帰っていないということか。

「おかえり、アードバーク」

「その……KellyとRuthが……」

「……聞いたか」

 自分でも冷たさと温かさの二面性に驚かされる。

「2人は庭師に保護された。庭師は修理が終わったらしい。Ruthの迎えに行けるか?Kellyは九七式飛行艇が回収した」

 

 再度空に上がると、かなりゆったりと飛ぶ見慣れた機影が浮かんでいた。

「よう、私ごと沈めさせた現場指揮官」

「……申し訳ありません」

「大変だったんだぞなあ、Ruth」

 庭師に抱えられ、バツが悪そうにするRuth。

「アードバーク、Kellyを頼むぞ、それでチャラだ」

「了解」

 

 

 ……後は語るまでも無いはずよね?代理人。貴方に妹が増えても私の愛情は変わったりしないの。

 

「ずっと好きよ、貴方」




庭師
:星屑連邦学連に所属するF4Uの特異個体。その異常性から整備会に引き取られ、代理人の指揮下に入った。対DOLLSに特化したDOLLSであり、脱走兵の捜索と連れ戻し及び反逆兵の始末を担当していたが今は諸事情(鹵獲・調査・研究・応用)により学連群から身柄を狙われている。
 8492飛行隊の隊長ではあるが流石に第二世代、第三世代ジェット戦闘機が表舞台に出てきつつある時代にレシプロ機というのは本人としても思うところがあるらしく、引退したいとは思っている(が、降りれば周囲が狙われる為降りるに降りれなくなっている)。

F-111
:星屑連邦学連のDOLLSでありながら赤色十月同盟学連のGSh-6-23,R-77,S-13を積むなど不審な点が目立つ中爆撃機型DOLLS。
 赤色十月同盟学連領出身の元人間(本名不詳)であり、代理人と出逢ったのは雪の降るある夜のことであった。一人でもDOLLSが欲しい学連によってDOLLSになった後、星屑連邦学連に亡命したが混在した適性は変えられなかった。かつてはツンデレだったものの今はデレている。

Tu-128
:赤色十月同盟学連の重戦闘機型DOLLS。元人間であり、本名は"ライカ"。爆撃機をベースに作られた戦闘機でありながら高い機動性と高い抗堪性を両立している。しかし、非常に高価(修理,量産が困難)であり、乗り手を選ぶ機体特性を持つ為、彼女を投入するという事は非常事態を指すということでもある。

F8U
:星屑連邦学連の軽戦闘機型DOLLS。星屑連邦学連製の兵装を積載する。F-111に対して純粋な敬意を抱いているが、その理由が分かるのはまた別の話。

T-4
:赤色十月同盟学連の重爆撃機型DOLLS。爆撃機ではあるが爆弾ではなく対地ミサイルを積載する。なお今作戦では対地ミサイルの代わりに対艦ミサイルを積載していた。



B-70
:星屑連邦学連の重爆撃機型DOLLS。"庭師"出現の報を受け、確保、抵抗する場合は破壊する為に派遣された。長距離対空ミサイル(AIM-54)によってT-4を庇ったTu-128に一撃を与える。

対空フェリー,対空艀
既に庭師のもとに辿り着いて(鹵獲,尋問して)おり、F8U,F-111,T-4を迎撃するが撃沈される。庭師は再度(合計3時間)泳いで今度はP-38Fの救命ボートに辿り着く

ライカ少佐(とその部下)について(R-18作品ですが4,6話で登場しています)
https://syosetu.org/novel/369543/4.html


次回:廃兵院に行くセンチュリオンの書き置き……の夢オチ
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