アシュア短編集_遺書   作:イエローケーキ兵器設計局

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 作戦目標:母の救出


5.チーフテンの遺書 & "Castle in the mist"

 お母さんの所在地は"橋姫"さんと"庭師"さんの航空隊2名が率いる偵察隊によって見当はつけられている。しかし、共生種の抵抗が厳しく、気がつけばもう行方不明になってから15年、所在地がわかっても1年は経っていた。この森の危険な所は侵入した者を惑わせ落とす所だけではない。一度捕えた者を精神汚染によって"帰れなくする"点にある。

「仮に救出できても正気に帰るかわからない」

「……うん……父さん、わかってる」

「それでも、と言うんだろう?」

「……うん」

「強い子になったな」

 お父さんは私の頭を一撫でして、同伴してくれる先輩達に話しかけに行った。周囲に"代理人"と呼ばれている父さんは学連や整備会の警戒網に穴を空けないように少しずつ捜索網を広げ、1年前にようやくお母さんを見つけ出した。

 しかし、お母さんの抵抗は強く……まるでこちらも悪夢にうなされているようだった。普通の歴戦の先輩達が返り討ちに遭い、ある者は敗走の末に行方不明、またある者は命からがら合流地点に帰還するも廃人寸前に……。それでも……それでも、私はお母さんを助けたい。だからDOLLSになる事を選んだ。私の名前は"プリマス"こと、"チーフテン"。酋長になる事を選んだ、"百人隊長"の娘。

 

 隊長はお母さんの戦友であり、ライバルでもあった一人、T-55先輩。

「あー……えーと……よろしく!お願いします……」

「よろしくお願い致します!」

 隊長は明るさのなかに少し怯えを持っていた。途中は威勢が有って勇ましかったけれど急に失速する挨拶、まるでそう……なかに2人居るような……。

「チーフテン……なるほど……Object120、よろしく」

「ど、どうも……」

 Object120、通称"タラン(体当たり)"さんは長身の……うん、狙撃兵で植生に溶け込むカモフラージュネットを被っていた。

 

 現時点で投入できる戦力はこれだけだとお父さんは言う。他のDOLLS達はこの突出部を支えるために側面を押し返している。それはつまりここが折れると逆に崩壊してしまう。

「お母さん、私は貴女に守られる立場から、貴女を助け、守る立場になりました」

「チーフテン、後ろから着いてきて」

「あ、はい!」

 後ろを振り返るとタランさんは既に見えなくなっていた。

 

 隊長について微速前進を続ける。途中で飛び出してきた遊猟種は手早く倒し、歩みを進める。隊長が手を挙げた。足を止める。

「しー……こっちだ」

 耳を澄ませば偵察隊の刺した発信器のシグナルが聞こえた。

「……!伏せろ!」

 隊長に頭を押し下げられ、頭上を超高速の何かが通過したのを感じた。

「……見えたか?センチュリオンのAPDSだ」

 タランさんの無線でお母さんの恐ろしさを思い知った。自分の娘であっても引き金を引ける、それが……DOLLS。私にその覚悟はあるだろうか……。

「T-55、自動装填装置を壊された、本車は停止する」

「了解、無事を祈る」

 もしかして……さっきのはタランさんが被弾したから、わかったのだろうか?

 

 さらに進む。

「気配を感じる……そこ!」

 前方5mに居た隊長が発砲すると藪と木々の向こうで爆発と火柱が上がったのが見えた。

「やった……うっ!」

 刹那、マズルフラッシュ(発砲炎)サボット(発射筒)、そして弾芯が隊長に刺さるのが見えてしまった。

「チーフ……下がれ……急がな……撃たれ……る」

 言い終わるかのタイミングで次弾が隊長を突き刺し、貫いた。

「隊長!」

 T-55隊長は遂に振り向くことなく前のめりになってしまった。ツタが地面から伸びてきて絡んだARMSが独りでに動く。鹵獲現象だ……。

「プリマス、次はお前だ」

 直接は見えなかったけれどそう言われた気がして後退しようと思い、戻ろうとすると……ツタが絡んで動かない。

「どうして……!」

 限界まで吹かしたエンジンは白煙を噴いて止まり、気配は少しずつにじり寄ってくる。モーターが動かないから手動で砲塔を向ける。間に合わない……喰われる……!

「その娘を離せ!」

「ぐふっ……!」

 藪と背後で合わせて2回、発砲音がして、APDSが私に食い込むと同時に藪の向こうでとても鋭い大きな衝突音が聞こえた。訓練で蹴られた時よりも、弱装薬の訓練弾で撃たれた時よりもとても大きな痛みがお腹を満たす。意識が朦朧とする。遂に私も……。

「……ぬな……マス……」

 

 気が付くとテントの下、ベッドの上だった。隣にはタランさんが点滴を打たれながら寝ていた。

「あれ……私は……」

「起きたかい?プリマス」

「あっ……お父さん……お父さん、私……」

「プリマス、まだ生きているだろう?」

「隊長を……守れなかった……」

「……」

「私……私……」

「……君はタランを守ったじゃないか」

「……」

 助けを求め、タランさんを見るも彼女は眠ったままで助け舟はくれない。

「タランから聞いたよ、気を失ったプリマス、つまり君を彼女は連れて帰っていた。全速力で後退していた時、君が背中を叩いて教えてくれ、センチュリオンによる奇襲を防いでくれた、とね」

「お母さんは……」

「……偵察隊が引きつけてくれている、そして彼女達からプレゼントだよ」

「プレゼント?」

 お父さんが差し出した封筒には"橋姫及び庭師より元人間の勇敢なDOLLSへ"と記されていた。

「見てご覧」

「は、はぁ……」

 内容は簡潔に纏めるとARMS"チーフテン Mk.11"の使用許可だった。

「……でもARMSはここには無いはず」

「プリマス、特殊部隊は彼女達2人だけじゃないんだ」

 その言葉を皮切りにジェットエンジンの音が遠くから聞こえるように感じ始めた。そしてその音は近づきつつある。

「例えば、VM-T規格外貨物輸送機……普段は輸送班の彼女だって特別編成……そろそろ行こうか」

 お父さんは私を一人で抱えて車椅子に乗せた。あの細い身体のどこにそんな力があったのだろう。

 テントの外に出ると急上昇……それこそ垂直上昇するDOLLSと巨大なARMSが見えた。彼女はある程度昇るとそのまま宙返りしてARMSの上に載せていたコンテナをパージした。

「あ。」

「受け取りに行こう」

 パラシュートが開き、減速したコンテナはテントのほど近く、50m圏内……まあ目の前か……にロケットブースターを起動しながら降りた。

「さぁ……回復したらお母さんを助けに行こう」

 

 

 3時間後。夕日の差し込むテント。タランさんは起きて準備を始めていた。

「Object120改め、SU-152、準備完了」

 お父さんと握手した彼女はお父さんからバイザーを受け取り、装着した。

「前線の指揮権限をタラン、君に移譲する。T-55、センチュリオン、そして行方不明になっている全てのDOLLSを捜索し、救出してくれ」

「ダー」

 ダー……はえぇと……"了解"、か。

「プリマス」

「はい!」

「お母さんを助けに行こう」

 

 新型のARMSに乗り換え、日の沈む頃には前線に到着した。

「チーフテン、ARMSの砲塔装甲には特殊な装甲が装着されている。センチュリオンのAPDS程度なら防げるはずだ」

 

 交戦した場所よりも奥に進む。突然、霧に包まれた城が見えた。それは自分達の知らない、情報に無かった古城だった。霧に包まれ、まるで……そう、封印されているかのよう。

 

「チーフテン、見ろ」

 石で組まれた壁にはパチパチと燃え続ける松明が掛けられていた。

「これは……松明……人が居るようには見えないのに……」

「そうだ、誰も知らない古城だ。何が居るかわからない」

 

 

(続く)

 




我等が最高の血の繋がらない弟で叔父であった相棒に捧ぐ
さようなら、愛しの相棒よ……
(今話を執筆した時点ではまだ辛うじて生きていたがおそらくもう次話が上がる頃にはもう……)

手を尽くしてくれた方々に最大限の感謝を
ありがとう、さようなら
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