アシュア短編集_遺書   作:イエローケーキ兵器設計局

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 もし、お母さんを救うのに生贄が必要だとすれば……私は自分の身を投げ出せる。どうかお父さん、お母さん、お元気で。


6.霧の城

 古城は時が止まっていた。屹然と立つ、折れた角を持つ石像。そして……。

 

「チーフテン、周囲を警戒。共生種とセンチュリオンはどこにいるかわからない」

 

 深い霧が私達の居る城を包む。

 

「……チーフテン、誰か来る」

 レーザーによる目標指示器で示された方向を凝視すると確かに誰かがいる。

「私だ、プリマス、タラン」

 ……なぜここにお父さんが?でもそこに明確に立ってい……。

「チーフテン、偽物だ」

「え?でも」

「代理人が私たちより早く来れると思うか?」

「あっ……」

「おーい」

 お父さん?が呼んでいる……けれど、行かない。

「おーい?プリマス?タラン?」

「撃て、チーフテン」

 撃たないか、撃つべきか……。無線は……うーん……通じない。

「サボットで良い!撃て!」

 発砲音と共にお父さんだった何かは煙のように霧散した。

「はぁ……はぁ……」

「……良くやった」

 

 城はARMSを装着していても回れる位広く、広くて隅々まで見て回ろうとするときっと一週間は掛かる……時は夕暮れから止まっているようにしか見えないけれど。

 

 城には様々な仕掛けが備わっていた。独りでに動くエレベーター、水流によって動くピストン、そして……。

「トロッコ……」

「迂回路を見つけた、行くよ」

 

 石製のとても大きな門と、それによって閉ざされた中庭に出た。門はあまりにも重く、動きそうにない。

「あれを見て」

「地球儀?」

 中庭を造る建物の屋上、石でできた地球儀のような物が対になって設置されていた。

「降りて行きます……か」

「そうだな」

 

 はしごを登り、壁の上、回廊を歩く。地球儀に反射鏡を回して光を当てると光り、回り始める。

「合っているようだな」

「もう片方も……」

 

 対になった地球儀が回るも、門は開かない。

「あれ?」

「違うか……」

 その時だった。

「私の可愛い娘に何か用かな?迷い込んだお嬢さん方」

 背後から声がして振り返ると顔の青白い黒尽くめで長身の女性が浮いていた。

「……センチュリオンを返してもらいに来た」

「ほう?我が娘に用があるというのか。残念だが本人の意向で面会謝絶でね」

「そうか……なら力づくで返してもらう」

 152mm砲を女性に向け構えるタランさん。

「ほう、私を撃つか」

「お前を殺して彼女を連れて帰る」

「よろしい、撃たれよ」

 タランさんが撃とうとする。撃とうとするが撃たない、撃てない。

「撃たないか、賢い娘は好きだぞ……フン!」

 地鳴りがして、門が開き始めた。

「私の城は楽しかったか?そうだろうな、さぞかし楽しかっただろう。さて……器の準備をしなくては……」

 いかにも門から帰れ、と言わんばかりに手をシッ、シッ、とする女性。

「帰らぬのか?まあよい、考えよ時間はまだある」

 女性はローブで自分を巻くようにはためかせて消えた。

 門から風が私とタランさんの髪を梳いて抜ける。

「……本当に帰るのか?」

「いえ、道を探します」

「そうか……手伝おう」

 

 門を抜けると巨大な石橋が地面の渓谷を越えて向こう岸と繋がっていた。こんな大きな石橋も渓谷もあったかな……。

 

「ほう、帰るか」

 またあの女性だ。

「ならば手伝おう、往ね!」

 見えざる力……衝撃波?によってARMSもろとも石橋から渓谷に落とされた。

 

 

「うぅ……」

「起きたか?」

「ここは……」

「わからんが……滝の下……のようだな」

 上から日と水の流れが差し込む滝の内側、巨大な地底湖の上に鎖で吊るされた檻……の上。ARMSは誰かにパージさせられたみたい。しっかり観察してみるとこの檻はおそらく水牢に使われていたものなのだろう、血の跡、僅かに歪んだ格子が過去の一部を静かに語っている。

 タランさんにずっと思っていた、疑問に思ったことをふと、ぶつけてみる。

「……そのバイザー、どう見えるんです?」

「……ほう?」

「目をそらさないでください」

 顔を逸らして、逃げようとするタランさん……怪しい。

「ほら、行くぞ」

「待ってください」

 揺れる足場で腕を掴み引き留める。バイザーで目が覆われていて詳しい表情は分からない。

「……はぁ……代理人に……他のDOLLS、特にチーフテンには秘密にするように言われていたのだがな」

 タランさんがバイザーを外すと、昨日とは違うお父さんと同じ色の眼が姿を現した。そして斜め上の回答をする。

「私は……いや、私も、だな……代理人の娘なんだ」

 は?お母さん以外との間の婚外子ということ?

「あ、いや、婚外子とか、代理人と他の人間との子とかじゃないから安心して……父のことを知ったのはつい最近のことなんだ」

「……じゃあなんだと言うんですか?」

「試験管ベビーなんだよ……代理人の遺伝子を使った」

 試験管ベビー。噂や単語は聞いたことがある。実態は知らない。

「代理母も卵子を提供した人間も誰かはわからない、けれど遺伝子学上の父親は代理人なんだ」

 ……それ以上は聞きたくないし、このDOLLSを突き落としたい衝動が出てきた。

「養子と実子、お父さんにしては嫌な組み合わせ」

「……代理人は私のことを知らないよ……学連が勝手にやったことだから……」

「……む?」

「学連は指揮能力を持つDOLLSを作ろうとした。最初は代理人の遺伝子を使わず、ただARMS側で対処しようとした。結果、指揮官の居ない指揮戦車ができた」

「……」

「……まあ、ARMSに組み込まれた指揮能力を活かせるDOLLSも居るには居る。けれど私は……」

「お父さんの血を使って作られたんだ。じゃあ……お姉さん?それとも妹?」

 見た目から察するに私が妹だろう。

「好きに呼ぶと良いよ……いがみ合うのも良くないし……」

「じゃあお姉さんだ。よろしくねタランお姉ちゃん」

 

 さっきまでの敵意を完全に忘れ、吊るされた檻と檻を苦労して飛び移り、鎖に掴まったり、時には泳いだり……地面に着いた時は安心して少し泣いてしまった。水門を操作して……。

「チーフテン、センチュリオンさんと代理人をどう思ってる?」

「どうって……お母さん、お父さんとして愛してる」

「……そうか」

 神妙な顔をして頷くタランお姉ちゃん。タラン姉、くらいが親しみがあって良いのかもしれない。

 なんとか城まで戻ってきた。地下道は日の差し込まない洞穴同然で、タラン姉が見つけた松明のお陰で通ることができた。

「おやおやこれはこれは……センチュリオンさんのARMSじゃないか」

 地下道を抜けた先にお母さんのARMSが安置されていた。激戦を潜り抜けたARMSだったことが削れた装甲板や折れた主砲から伺い知れる。

「駄目だ、エンジンすらかからない。チーフテン、やってみて」

「よっこいしょ……お母さん……」

 エンジンがタラン姉が動かそうとした時とは違って調子の良い音を立ててかかる。

「やったな!チーフテン!」

「2人で歩くには遠すぎるものね、ほら、掴まって」

 武装制御機能を確認すると知らない白刃武器しか攻撃方法は残っていなかった。

「これは……大剣?」

 青白い稲妻を帯びた大剣が装備されていて、鞘はない。

 

 エレベーターを見つけたので昇ると、大きな石棺が左右の壁一面に立ち並ぶ広間に出た。広間の奥には……!

「お母さん!?」

「センチュリオン……さん!?」

 寝かせられたお母さんが居た。その奥にはあの忌々しい女が……。

「ほう、あれでも死ななかったのか……やはり今までの生贄とは違う……ああ……私の可愛い器よ……あの禍々しい忌み子を殺せ」

 女が……寝ているお母さんに指示を出す……がお母さんは動かない。

「……殺せぬと申すか。では……まだ早いが……贄ども、殺れ、妾は器を説得する」

 一斉に石棺が開き、床に黒い人型と陸上系、航空系のARMSを装備した人型が現れる。

「タラン姉……」

「一度退却!使えるARMSを探すぞ!」

 バック走でもと来た道を戻る。途中飛んでくる砲弾や銃弾は折れた砲身と装甲板で防ぐ。

「白刃!来る!」

「おっと……はぁぁ!どっせい!今!」

 体当たりしてきた戦車型をバックからの旋回で受け流し、タラン姉に大剣で戦ってもらう。

「戻るぞ!」

 飛び乗ってきたタラン姉を受け止め、更に下がる。

 

 エレベーターに戻って来た道を引き返す。降下してきた航空型は松明を投げつけて撃退した。

 

「……あったな、ARMS」

「ええ……」

 さっきまで無かったはずの道を見つけ少し歩くとタラン姉と私のARMSが安置されていた。そばにはさっき見た黒い人型達。その手には工具……修理していたのだろうか。

「あー……済まないが借りても良いか?」

「タラン姉!?」

 

 私達を見て怖がったり敵意を抱いたりすることなくむしろ堂々と胸を張る人型達に私は驚きつつお母さんのARMSから降りて自分のARMSに戻る(大剣は私のARMSの白刃武器と交換した)。

「行こう、タラン姉……!」

「お母さんを助けて帰ろう!」

 

 広間に戻ると黒い人型は石棺の前で待機していた。その奥には相変わらずお母さんとあの宙に浮く女。

「一度帰ってまた来るとは……卑怯ではないか?」

「Слова «трус» в русском словаре нет!」

「えっ……なんて?」

 あまりにも唐突なロシア語に思わず聞いてしまった。

「ロシア語の辞書に"卑怯者"という言葉は存在しない、だよ」

 その言葉の直後には152mm砲が火を吹いていた。しかし、徹甲弾は女が操るDOLLSに防がれる。

「ちっ……卑怯者!」

 女が叫んだ。構わず私も120mm砲を撃つ。

「止めんか!」

「誰が止めるか、クソが」

「べーっ!だ!」

「こんのぉ……!お黙り!」

 堰を切ったようになだれ込んでくる黒いDOLLS達を120mm砲と152mm砲で迎撃していく。飛んでくる砲弾は私のARMSのスティルブリュー装甲で受け止め、後ろには一発たりとも通さない。体当たり……は重量で受け止めよう。

 最初は無数に居た黒い人型も、いつの間にか殆ど居なくなっていた。

「もう終わり?」

「……もう良い、貴様らを始末し妾は器と一体になる」

 女は石でできた玉座に座り、足を組んだ。そして……。

「……!何か来る!」

 何かの波動らしき物を放った。その波動はゆっくりではあったが広間を伝播し、人型を石像に変えてしまった。

「不味い不味い!後退後退!」

「もうこれ以上下がれない!」

「終わりよ」

 その時だった。お母さんのARMSから移設した大剣が光を放ち、波動から私達を守ってくれた。

「……っ!あの小娘、光の大剣を隠し持っていたのか!」

 これは……使える!

「タラン姉!突撃するよ!」

「すぅ……Ураааааааа!」

「お母さんの為に!」

「止めろ!来るな!止めろーー!」

「突撃ー!」

 私達は一塊の徹甲弾となって"女王"に向かって突進した。広い広い広間を突き進み、女王の胸に大剣を突き立てた。

「うぐっ……!」

「終わるのはお前だ、女王」

「ぐっ……おのれぇ……」

「お母さんを返して!」

「消えろ……消えろ……消え……ろ……」

 女王ががっくり、と頭を垂れる。疲労がどっと押し寄せてくる。意識が……消え……る……。




 まぶ……し……い……ここは……。

参考にした(が構造を再現できそうにない為、モチーフにした程度)作品:"ICO"及び"ICO 霧の城"

補足説明(前回の時点で書き忘れていたことも含め)
 古城は接近するまで屈折によってただの巨木の森にしか見えない霧に包まれており、接近すると初めて現れる。従って、付近を飛行するにはかなり高度な技術(地形追従等)が必要であり、付近では無線の通信が不可能(強力なジャミングが行われている)。チーフテンとタランの接近段階では渓谷の出現はしていなかったが、門を開いたことにより"女王"によって渓谷が生成され、滝に光が差すようになった。

センチュリオンのARMS
:鹵獲されたセンチュリオンが装備していたARMS。試験機であり、折れてはいたものの、L7 105mm砲を積んでいた為Mk.10型と推測される。"女王"によって城に封印されていたが15年の時を経てセンチュリオンの"娘"であるチーフテンが起動に成功し、"女王の生贄"との戦闘に使用されるが……主砲が使えず手数で押し込まれ放棄する事に。

チーフテンMk.11
:白薔薇の最新鋭第二世代主力戦車の1人。同級生にビッカースMBT(軽装甲,高機動)やオリファント(センチュリオンの改修型)等が居るがその中でも防御力重視の主力戦車である。史実ではエンジン出力の問題から駄作扱いされがちだがCityでは重戦車としての立ち回りが出来る中戦車としての立ち位置を得た(捏造)。
 元人間であり、人間であった頃は養母であるセンチュリオンから"プリマス"と呼ばれていた。筆者の予定では熱線映像装置を活かしてタラン姉を支援するシーンが描かれる予定だったが、尺と体力(と展開)の都合から泣く泣くカットされた。
武装:120mmオードナンスBLTk.L11ライフル砲,7.62mmL8A1機関銃

Object120(SU-152)
:赤色十月同盟学連の試作152mm対戦車自走砲(自動装填)。チーフテンMk.11よりも前に生まれ、試験に臨んでいたが152mmライフル砲装備の対戦車自走砲である彼女は125mm滑腔砲の実用化により不要とされ、廃棄処分の憂き目に遭うところであった。しかし代理人に偶然にも拾われ、彼の下で運用されることになった。
 代理人は知らないが代理人の遺伝的な実子であり、チーフテンMk.11と同じような立場にある。
武装:152mmM-69ライフル砲
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