いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作:彩白 莱灯

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1-2 ♠ 死体蒐集家
第1話


「おーなーかーすーいーたーぁー!」

 

 

 地面にへたりこんで泣き言を抜かしている綺麗な顔を殴り飛ばしたい。

 

 

「今作ってるだろ! もうちょっと待ってろ」

「おーなーかーすーいーたーぁー!」

「刻むぞ」

「……」

 

 

 刻まれたところで回復するだろうに、シュウは両手で口を塞ぐ。

 それを見て、俺はようやく手元に集中できる。

 

 

 誰かさんが無計画に馬車に乗ったおかげで、俺たちはせっかくの食材を置いていく羽目になった。

 回収する間もなく国を出て、森の奥深くに降りたって今二日。

 

 

 安全な寝床の確保と水源の確認。周辺環境の把握。それら諸々を終えて、ようやく食材を探し、調理に至る。

 見つけたのは野草とキノコ。少しの木の実。猛毒のヘビ。水源から獲た水を使ってスープを作る。

 この際味なんて気にしてられないから、なんでもかんでも刻んで入れる。胃に入ればなんでも一緒だ。空腹を満たせればいい。蛇だけは内臓を取り出した。

 

 

 小石に包まれた火で鍋を温め、スープが気泡を作り弾く。湯気が夕暮れの空に浮かび、消える。

 

 

「逢魔が時……」

 

 

 シュウ曰く、その時間帯だろう。

 相変わらず両手で口を塞ぎながらしゃがんでおり、何かを見ている。たぶん虫。

 

 

「食べれるぞ」

「はーい!!」

 

 

 まるで虫のように飛び跳ね、星のように眩い笑顔で駆け寄ってくる。

 器によそったスープを渡し、お互いの間に木の実を置いて、何日かぶりの食事に口を付ける。

 

 

「いただきます」

 

 

 一言言ってから口をつけるのがシュウのスタイル。

 整えられた食事は丁寧に食べる。人や魔物は粗雑に食うのに。

 湯気を吹いてから、少しだけ喉を通し、

 

 

「普通!」

「食えりゃいいんだ」

 

 

 失礼とは思わない。そこらへんにあった有り合わせの材料で、手間を極限まで抜いた手抜き飯なんだから。むしろ普通までいけたらすごい方だろう。

 

 

 一言余計ながらも不満は言わず、ただ空腹を満たす訳でもなく味をかみ締めながら食べる様は……なんというか、まあ、いいもので。

 なぜかちょっと悔しさを感じながら味気ないスープを少し飲んだ。

 

 

「次はどこの国に行くの?」

 

 

 口に食べ物を入れたままだが、聞き取れる質問が降ってきた。

 頭の中に地図を浮かべながら、近い国を探す。

 

 

「森をぬけたところに小さい国がある。国って言ってもそこには王はいない。少しだけ調達だけしてすぐ次に行こう」

「どんなとこ?」

「国全体がテーマパーク」

「て?」

「一つの世界観で統一された環境で、まあいろいろ遊べるところ」

「へー! 楽しいの?」

「調べただけだが、まあ楽しいんじゃないか? 俺は興味無い」

「僕は興味ある!」

「金はないぞ」

「むっ」

 

 

 なけなしの路銀で買った食材も置いてきてしまったことはもう過ぎたことでしょうがない。

 残り少ない金でどれほど買えるか。多少の食料が買えればあとは今日みたいに野草で食いつなげるから……。

 

 

 魔物を食うことだけは避けなければならない。悪食なシュウはなんでも食べるが、魔物はシュウを凶暴にさせてしまう。今のところは俺の言葉は聞こえているから良いが、極限まで飢餓に陥って、そこで魔物を食えば……どうなるだろうか。それならまだ適当な人間の方がマシだ。

 

 

 木の実を頬張って頬を膨らませている呑気な奴だが、これが豹変する。俺さえもわからなくなるのだろうか。それならば、俺も食われてしまうのか。

 

 

 ……今の俺では、意図した予知はできない。それができるようになるのかもわからない。少なくとも現段階では俺は勇者としては不安定で、それはつまり不確定ということかもしれない。けれど見えた景色に関しては全て確定した未来というのが本能的にわかる。

 

 

 だから……シュウが魔王になるのは確定だ。

 俺以外に勇者の素質を持った奴がいて、シュウの目の前に現れた時……俺は……――

 

 

「ごちそーさまでした!」

 

 

 パン、と手のひらを合わせ、空腹の紛れた明快な声を轟かせる。

 鍋を温めていた焚き火がここら一帯を照らしていることから、もう周辺に光源はないらしい。

 火で気付かなかったが、もうすっかり夜だ。

 

 

「片付けたらさっさと寝るぞ。朝になったらすぐ出る」

「はぁーい」

 

 

 器と空の鍋を持って川の方へ小走り。片付けは積極的だ。作るのは完全俺任せだが。

 

 

 余計なことを考えた。それを胃に流し込むように、スープを飲み干した。

 木の実は全部食われてた。ぶん殴ろう。

 

 

 

 ――― ♠️

 

 

 

 入場料さえ払えば来るもの拒まずな国。

 見た目子どもなシュウと親子割を使い、難なく入場することができた。

 

 

 ここは『魔物も動物も、人間に友好的。みんな仲良く楽しく遊びましょう!』をテーマにした幻想の国。テーマパークの中に宿や店があるらしい。

 

 

 いかにも子ども受けを狙ったデフォルメされたキャラクターが、大人と同じぐらいの背丈で歩き回っている。

 

 

 素早く動く乗り物、ゆったりリズミカルに回る馬。本来なら手のひらサイズのコーヒーカップに入り込んで、ミルクを混ぜるように回転している。水飛沫が上がっているところはなんだろうか。よくわからない。悲鳴があがったが、誰も気にする様子はない。そういうものなんだろう。

 

 

 きょろきょろと、落ち着きがないのは俺もシュウも同じ。

 だが、俺たちの目的は買い物だ。だから行く先は宿でもアトラクションでもない。

 食品売り場だ!

 

 

「高すぎんだろ……!」

 

 

 テーマパークの物価どうなってんだよ……!

 なんで味噌が5ヒグチなんだよ。直前の国なら1ノグチもしなかったぞ、5倍以上ってなんなんだよ!

 

 

「キョーカー、お肉食べたーい」

「……いくら?」

「ん」

「200g……3ユキチ……!」

 

 

 膝から崩れ落ちそうだ。

 なんだここは……どうしてこんなにも足元見られてるんだ……?

 

 

「買えないの……?」

 

 

 珍しく小さい声をしていた。

 覗き込んでくるシュウはどこか不安気で、元気が取り得のこいつが悲しんでいる。

 罪悪感なんてない。コイツにも、この国の奴らにも。

 だから俺としては別に盗んだって良い。

 だが、どうしてか手が出ない。

 魔物も、人ですら殺してきたこの手が、無機物を盗ることを躊躇している。

 善心? なわけ。

 じゃあどうするか。

 マメのできた掌を強く握る。

 

 

「稼ごう」

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