いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作:彩白 莱灯

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第3話

 ―― ♠

 

 

 夜が明けた。

 前日のように野宿して、シュウは早くから仕事に行った。コソコソと準備していたのはわかっていた。起こさないよう気を遣っていたようだった。

 

 

 その数時間後、スッキリと目覚めて、まだ傾き気味の眩しい陽の光に目を細める。

 柔軟体操。後の軽い朝食。片付けて、しっかり体動かして、いざ出発。

 向かうはシュウの職場『お化け屋敷』。

 

 

「ご入場される方はこちらからお並びくださーい!」

 

 

 声を張り上げる呼び子。それを目印に、列の最後尾に並んだ。

 まだ朝イチなのに数十人並んでいる。そんなに人気だったのか。

 

 

 ひとりで並んでいる俺は些か浮いているのではないかと落ち着かない……が、誰とも目が合わない。家族連れや男女、同性グループはみな、気分が高揚しているのか内輪で盛り上がっていた。落ち着いた。

 

 

 数分おきにひとグループがアトラクション内に入っていく。

 柄の長いランタンの形をしたライトを一つだけ持たされるらしい。

 並んでいたくせに、いざ入場となったら尻すぼみするのはなんなんだ。早く行ってくれ。

 

 

「お待たせしました。何名様ですか?」

「一人」

「お一人様ですね。お荷物はこちらのカゴにお願いいたします。カゴにはこちらのランタンと同じ数字が書かれていますので、出口で交換してください」

 

 

 重厚そうな見た目の割にとても軽い長柄のランタン。光が揺れ、時々消えるのは演出だろう。突然消えたりするのか? それはそれで楽しみだ。

 

 

 入口のカーテンが開かれて、後ろからは楽しそうに送り出す言葉が投げられる。ここお化け屋敷だよな?

 

 

 目先のランタンの光。そして通路の両サイド上方に小さな灯りがあったりなかったり。

 靴音に水の音がまじる。突き当たらないし脇道もないので、ただただ直進する。いつ、何が起こるのか。

 周辺の気配から、俺の前に入ったグループに追いつかないよう歩みを調整する。

 

 

「……あれ」

 

 

 行き止まりだ。曲がり角はなかったのに。見落としたか。

 ――と、振り向いた。

 

 

「"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

「おお」

 

 

 ドロドロに溶けた肉片をくっ付けた骸骨が走って向かってくる。

 両手を俺の方に突き出し少しでも距離を詰めようと。

 

 

 ハグでもするか? と手を広げてみると、再度後ろから音がした。

 壁がズレて通路になっている。

 

 

 どうしようか。せっかくなら……と考えて、骸骨の方に向き直ると、ひと二人分ほど開けたところで立ち止まっていた。

 

 

「あの……進んでもらっていいですか。キャストはお客さんに触れちゃダメなんで……」

「あ、そうなんすね。了解でーす」

 

 

 トラブル回避を徹底しているようだ。良い事だ。

 片手を振りながら、開かれた通路に入った。少し進んで扉が閉まる音がして、灯りは手持ちのランタンだけになる。

 偽物の火が、欠ける。

 ランタンを後ろ(・・)に伸ばした。

 

 

「見っけ」

「ぬぁ!?」

 

 

 まさに猛獣、のように両手を上げようとしているシュウは、ランタンの先で鼻を突つかれていた。

 暗闇だからいいと思ったんだろう、滅多に見れない白い髪が照らされている。

 透明な角はあるはずなのに、存在感がない。

 ただ髪が白く、紫色の目をしただけの少女のような少年がそこにいる。

 

 

「なーんでわかったのーっ」

「気配」

「僕かくれんぼ得意なのに……」

「俺も暗闇は得意だからな」

「悔しい……」

 

 

 見つけてしまえばもう後は見て回るだけだ。

 頭と両腕を垂らして落ち込んでいる少年を置いて、さっさと進む。

 

 

「ほら、行くぞ」

「うん……」

 

 

 言えば、来る。

 仕事中だろうに。

 お気に入りのおもちゃを失くしてしまった小動物を彷彿させる。

 ……湧いてきたのは決して、悪戯心ではない。

 

 

「明日もここか?」

「たぶん。「またね」って言われた」

「じゃあ、俺たちも「また」、だな」

「……うん!」

 

 

 遊びに関しての頭は早い。

 シュウのあるはずのない小動物の耳がピンと立ち上がる。

 俺を追い抜いて、シュウは手招きする。

 お化け屋敷の雰囲気、知ってるか?

 

 

 

 ―― ♠

 

 

 

「見っけ」

「もう一回!」

 

 

 

 ―― ♠

 

 

 

「見ーっけ」

「むー! 次!」

 

 

 

 ―― ♠

 

 

 

「やあ」

「ぬぁー! 次ィ!」

 

 

 

 ―― ♠

 

 

 

「今度は俺が驚かそうか?」

「やーだー!!!」

 

 

 何度目のチャレンジだっただろう。

 元来負けず嫌いのシュウだ。俺を驚かすまで辞める気はないだろうなぁ。

 見てるわけじゃないから、いくら隠れたって意味がない。

 シュウの濃くて異質な雰囲気はわからないはずがないのに。

 

 

「うへぇ……疲れた」

 

 

 体力バカが珍しくへたり込む。

 確かに、ここ数日朝早くに仕事に出て、俺を驚かしに来て、仕事に戻って、夜ご飯を食べたら爆睡。それを数日続けていた。得意の力仕事とはいえさすがに、か。

 しゃがみこみ、目線を合わせる。

 顔色は悪くない。が、明らかに疲れ切っている。眠りが足りないのかクマができている。

 

 

「明日は?」

「やすみー」

「今日は何が食べたい? 食べたいもん作ってやるよ」

「……おじやー」

「オムライスじゃないのか」

「食べたいけど……寝たい……」

「……そ。わかった。今日はおじやで、近いうちにオムライス作ってやるよ」

「うんー」

 

 

 柔らかい毛を撫でる。

 指に絡んでしまいそうなほどに繊細で、自然と注意を払って丁寧な手つきになってしまう。

 無抵抗に、むしろ堪能している様に為すがままに撫でられている。

 こりゃ相当だな。

 

 

「早上がりさせてもらえないか聞いてこい」

 

 

 

 ―― ♠

 

 

 

 リクエストのおじやを作った。

 がっつくかと思いきや、文字通り疲労困憊だったようだ。

 いつもは茶碗4杯は食っている奴が半分で終え、最低限の処理をしたのちに倒れこんだ。

 声をかけても返ってくるのは寝息。

 疲れた体に、温かく、腹に溜まるものを食べ、寝る。

 

 

 なんて人間のような体たらくだ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 忘れてはならない。

 シュウは、魔王になる。

 見た目がどれほど人間に近くとも、魔物とも人間とも違う異質な存在だとしても。

 魔王になる未来は確定しているのだ。

 

 

 シュウが魔王となるとき、シュウの身体はどうなるのだろう。

 記憶はどうなるのだろう。

 俺のことは……忘れてしまうのだろうか。

 俺たちは、俺が勇者ならば……敵対するのだろうか。

 

 

「っ」

 

 

 焚火が音を立てて崩れた。

 上下の歯が音を鳴らし、頭に響く。実に不快。

 頭を揺らし、思考をリセットする。

 俺は今の俺にできることをやる。

 ……この前の蛇の内臓処理でもするか。

 

 

 焚火を消し、シュウの横に寝っ転がる。

 街灯は在れど遠く、今日は星しか出ておらず暗い。

 懐かしい感覚。

 子どもの頃の、街灯すらない山の中。

 夜行性の凶暴な魔物が得物を探しに這いずり回る中、息を殺し、ただひたすらに日が登るのを待った。

 気付いてからでは遅かった。

 魔物は人間よりも早く、俺はまだ魔法を使えていなかった。対抗手段がない。一つ間違えればゲームオーバー。

 そんな緊張感の中を生き抜いた。

 今では寝てても反応ができる。

 

 

「……シュウ?」

 

 

 寝ていたはずのシュウが、瞼を閉じたまま立ち上がった。

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