「シュウ、行くぞ」
「もういいの?」
「ああ。次は買い出し」
「はーい。じゃーねオババ。死んだら顔見に来るから教えてねっ」
「なンまいなクソガキャぁ!! みかん持ってさっさと出てけゃあ!!」
「ありがとー! ばいばーい!」
騒がしさを他所に、振り返らずに暖簾を潜った。
「キョウカ、どしたの?」
「あ?」
「めっちゃ駆け足じゃん。顔も怖いよ?」
無意識に足は早くなっていた。
立ち止まって、息が上がっていることに気付く。
身体も火照っている。
「……なんでもない」
「そ? じゃあゆっくり見てまわろーよ。みかん食べる?」
「あとで食べる」
「じゃあよけとこーっと」
気を遣う時、シュウはまず先に食べ物関連の話をする。
普段は気にしていないくせに。
自分の好きな物事を避けてでも心配してくれている。
そのお陰で、冷静さが戻ってくる。
「買い物したら風呂行くか」
「いいねぇ。まだ行ってないところ行かなきゃ」
「みかんは冷やしておこう」
「最高!」
珍しいものを物色し、長居は無用だから適当に退散。
部屋に荷物を置いて、みかんは冷蔵庫に入れて、湯浴みを堪能した。
その日はあまり眠れなかった。
この先のことを1晩考えた。
「シュウ」
今日はまた旅の続きの日。
部屋の中のものを整え、荷物を整理し終えたところ。
あとは自分たちの体だけとなったところ。
元より手ぶらほどに荷物を持たないから、暇そうにごろごろしていたシュウ。
声をかけても仰向けのまま俺を見る。
頭の付近に腰をおろし、胡座をかいた。
「次の国のことについて話しておきたい」
「ふむ?」
何を感じ取ったのか、軽やかに跳ね上がり、向き合って胡座をかく。
いつの間にか食べていた飴で頬が膨れている。
「ちょっと遠いんだが、オババの紹介してくれた奴に会いに行く」
「遠いのは別にいいよ。どんなところ?」
「前回のテーマパークの国……みたいだが、もっと年齢層が上の国」
「ふーん……? 楽しいところ?」
「人によっては。シュウは楽しくないかもしれん」
「そっかぁ」
「でも飲み屋が多いし、味にうるさいやつも多いだろうから、飯は美味いと思う」
「そこが一番大事だよ! それなら早く行こう!」
また跳ね上がるように立ち上がる。
美味い飯と聞けばそうなることは予想済みだった。
対照的に俺はゆっくりと立ち上がる。
「この国を出る前に買いたいものがあるんだ」
「また? 何買うの?」
「行けばわかる。一緒に見てくれよ」
「えー珍しいこと言うなー」
怪しまれるかと思ったが、むしろ反対の反応をされた。
満更でもないご機嫌なシュウを折って、受付に鍵を返却。
建物を出て、事前に調べておいた通りに出た。
若い人間が多い。
ガラス張りには土産物や名産物が並んでいる。
この国の名前や、よくわからない名言も書かれてる。
その中で一つ目の目的地。
「え」
「なんだよ。意外か?」
「んー、ちょっと。今なんか付けてたっけ?」
「なんも」
「どういう心境の変化……?」
「まあ、いいから」
店の前で立ち尽くすシュウを手招きして入店。
調べた通りあまり人はいない。
客一人と店員一人。
「いらっしゃい」と声をかけて、それまで。
「シュウ、選んで」
「え、僕が選ぶの?」
「俺のとシュウのも」
「……僕別に欲しくないよ……?」
「俺が買いたいから」
怪しむ目線をあえて《・・・》逸らさない。
すると諦めたのか、渋々商品を眺める。
「……これ、色違い」
「いいじゃん」
装飾品をゲット。
即会計。
次は二件先の店。
「あー、まあ、うん」
「ここは別に不思議じゃないだろ?」
「うん、珍しいことには変わらないけど」
「ま、たまにはな。また選んでくれよ」
「自分で好きなの選びなよー。僕入りたくない」
「じゃあお互いに選ぼうぜ。シュウもたまにはこういうのいってみろよ」
「……うーん」
納得のいかない顔だが、見てないフリをした。
気が乗らないまま、けれどしっかり吟味して、シュウは俺に向けた物を見繕う。
俺も俺でシュウに合いそうなソレら《・・・》を探し、たまに好みを聞いて、服を購入。
「なんなのさー」
二点目にして痺れを切らしている。
最後まで持ってくれ。
「最後」
「あ、いいね」
「だろ?」
好感触だった。
実はだいぶ年季が入っていたらしく、三箇所目にして一番乗り気で入店。
「シュウってサイズどれくらい?」
「これぴったりだった」
「俺より小さいな」
「大きくなりたいなー」
それぞれで気に入った靴を購入し、退店。
最低限の物は買えた。
荷物を持って国を出たところで、シュウは声を低くして問いかける。
「んで、なんなの? これが次の国になんの関係があるの?」
ムスッと顔でいかにも不機嫌を装っている。
なんの圧もない。
黙っていた方がいい……のだが、どことなく良心が痛む。
何故か頭が痒くなくなった。
「えー……怒るなよ?」
「怒る」
「じゃあ言わない」
「じゃあ動かない」
「じゃあ飯抜き」
「やだぁ!」
チョロい。
「わかったよ怒らない! 怒らないから教えて!」
言質をとったことで、喉が空気を取り込みやすくなった。
ふと空を見上げれば暗雲が立ち込めている。
今にも雨が降りそうだ。
国を出てしまったので、早く雨をしのげるところに移動しなければ。
「次の国は、遊郭の国」
「ゆーかく」
「女がいっぱいいる」
「その国を潰していいってこと?」
「お前も女になる」
「殺すよ」
女装アイテムは買い揃えた。
シュウは絶対似合うと思う。