いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作:彩白 莱灯

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第7話

 夜風が横切る。

 蝋燭の火が揺れて、影が歪んだ。

 

 

「聖女の精製作業が始まりんした」

 

 

 端的に。

 単純に。

 明解に。

 ただその一言が、俺と風の動きを止めた。

 

 

「前回の聖女は失敗でありんしたと言われて、今回は躍起になっているそうでありんす」

「失敗、というのは」

「失踪したからでありんす。その身をもって世界に尽くすのが聖女であると言うのに、色恋に腑抜けて、世界を捨てたと」

 

 

 本で読んだのとほぼ同じ。

 エルフからの言葉であるからか、随分刺々しい言い方をする。

 だがこれは朗報だ。

 シュウが聖女を食べたと、シュウの中に聖女がいることがまだバレてはいない。

 姿を消したはずの聖女がシュウの中にいるとわかればタダじゃすまないだろう。

 タダですまないどころか、ただでさえ次期魔王なんだ。

 出る杭は打たれる、どころか抉られてしまうかもしれない。

 

 

「具体的に、どう動いてるんだ」

「まず、聖女がどう生み出されるのかはご存知で?」

 

 

 え。

 

 

「普通に、産まれてきた奴を育ててるんじゃないのか?」

 

 

 そう言うと。

 魅狐はひどく悲しそうで、そして嘲笑うかのように煽り、見つめてきた。

 正誤なんて聞かずともわかった。

 だが、どうしてそんな顔になるのかは、聞かないと分からない。

 

 

「勇者の特徴はご存知で?」

「……予知能力がある」

「そいんす。人並外れた能力がありんせんと、魔王には太刀打ちできんせん。そのため、聖女も人並外れた力を持っているのでありんす。でありんすがそれは、今までならば素質のあるものにに外部から強引に手を加えたものでありんした」

 

 

 どれだけすごい力を持っていても、食われてしまえばひとたまりもないんだろう。

 魔王討伐しても、魔王未満だったシュウに食われた。

 それはつまり、戦闘能力ではないと仮定してみてもいいだろう。

 そして、魔法を使う。

 傷ついた勇者を治そうとしていたのだから。

 

 

「膨大な魔力、とか?」

 

 

シュウの腕がちぎれてもすぐに再生した。

それは聖女の魔力による再生と、俺は思っていた。

不意の答え合わせ。

だが、ミコは首を横に振る。

 

 

「近からず、と言ったところでありんすね」

「回りくどいな」

「もちろん、クイズをしているつもりも、謎かけをしているつもりもございんせん。ただ、これがわかれば、主さんなら理解してくださると思っているのでありんす」

 

 

 中央のカードに手を伸ばした。

 まるで、どこになんのカードがあるのかわかっているように迷いがない。

 捲られたカードに書いてあるのは、『生命』。

 

 

「『並外れた生命力』。それが聖女の特徴でありんす」

「……瀕死状態でも持ちこたえる、と」

「心の臓が止まっても、形さえ残っていれば再度動きんす。魔力が多いからこそ、死ぬに死にんせん」

「そんなの……狙って生み出せる……ものなわけ」

「やっているんでありんす、エルフたちは」

 

 

 

 ――『聖女精製所』と呼ばれる場所がありんす。

 

 

 

「聖女、精製所」

「魔力の扱いに長けるエルフたちだからこそ出来るのでありんす。今までは、魔力量が優れているものに特別な訓練を課し、意図的に生命エネルギーを魔力に変換できるすべを身につけさせんした。そして自己犠牲を厭わねえ教育もされており、それはまさに『聖女生成所』と言われる所以でありんした。でありんすが今回は違いんす。生き物から魔力を抽出し、不純物を取り除いたものだけを集め、結晶化させて、形作りんす。聖女は魔力そのもの。だから魔法は使い放題だし、死なねえ。『聖女精製所』と名前を変えんした。魔王に対抗するための、エルフの悪知恵でありんす」

「生き物から、っていうのは」

「魔物も、人間もでありんす。今、世界中で魔法使いが集められてやす。最低限の魔法使い以外は、交代でエルフの国に集まってやす」

 

 

 最初の国で言っていた。

 戦える魔法使いがいないと。

 王に仕えている魔法使いはそう強い奴らではなかった。

 その場にいた魔法使いを殺していても、代わりの、それこそ非番の魔法使いとかもいたはずだ。

 なのに、いなかった。

 国にいなかったんだ。

 

 

「生かしておけば魔力がまた溜まりんす。その頃にまた呼び、魔力を吸いんす。タダ働きの蜂のよいんしょう。エルフは自分たち以外を、知能を持った生き物だと認めてやせん」

 

 

 どんどん明るみになる、タチの悪い種族。

 自衛のための情報収集が、世界の裏を知るというとんでもない重さを招いてしまった。

 

 

「今まで以上に魔力を集め、より純度の高い魔力結晶を作るつもりでありんす。遊郭からも、今までは投げ捨てられていた子たちも招集されて行きんした。彼女たちは元々、身よりもありんせんも同然。エルフの国で飼い殺しとなりんしょう」

「それは、アンタが手引きしてたんじゃないのか?」

「そうでありんす。ここは男も女も集まる国。女は孤独に生き、けれど温かさを求めんす。そして、女ってなぁ聖女を創る上で都合がようござりんす」

「女、だから?」

「あい。勇者は男である確率が高いゆえ、それに合わせて『聖女』としているのでありんす」

 

 

 おいおいおい。

 色恋に腑抜けてとか言ってる奴らの考えかよ。

 

 

「つまり、男と女を引き合わせてる?」

「そうでありんす」

「前聖女にキレるのはお門違いだろ。むしろ狙ってんじゃねぇか」

「聖女に勇者が惚れるのは良いのでありんす」

 

 

 

 ―― そうすれば、勇者が頑張ってくれんしょう?

 

 

 

「……男女の仲を取り持って、世界を救わせよう、てか」

 

 

 つまりなんだ。

 男の支配欲と庇護欲を駆り立てるのが聖女の仕事。

 聖女のために頑張ってカッコつけて世界を救わせる。

 それがエルフの狙いで、聖女に与えた『使命』。

 自分たちは安全地帯で動きもせず、ただ自分たちの世界を守るために生き物を使って『聖女』を作る。

 

 

「例え聖女が死んだとしても、聖女も魔力を豊富に持ってやす。その場は豊かな土壌となりんしょう。それも、エルフの狙いなのでありんす」

 

 

 だから、失踪した聖女に対してキレているわけだ。

 手に入るはずだった財産が霧のように消えた。

 何にもしてないやつが、偉そうに。

 

 

「今度作られる『聖女』はより愛国心の強いものとなりんしょう。周りも顧みず、ただ勇者に魔王を殺させるためだけの。自分の身が滅びようと、この世界を守るのだと大義を抱いて。どんな行動をしてくるかわかりんせん」

「……人間でもエルフでも獣人でもないなら、俺達にはわかりもしない思考回路だろうよ」

 

 

 ああ、なんか、疲れた。

 世の中にはすげーことを考える奴らもいたもんだ。

 聖女に関しての記述が少ないのは、世界を裏で牛耳っているエルフの仕業か。

 

 

 きっと、この事実は公表されない。

 公表されても批判の的にはならないだろう。

 なぜなら、勇者に選ばれるのは一人だけだから。

 その一人にならなければ、魔力を持つものは提供、協力するだけだから。

 喜んでするだろう。

 提供したものを称えるだろう。

 そしてきっと言うんだ。

「勇者、死ね(しっかりやれよ)!」と。

 

 

 勇者に選択肢はない。

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