いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作:彩白 莱灯

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第17話

 随分歳の離れた……と思いつつ、友達に年齢は関係ないような気もしてきた。

 さらに言えばはたしてどちらが歳上なのかという疑念さえ出てくる。

 片や、御年100歳を超える身も心もベテラン熟女であるババァ。

 片や、魅惑の美貌が廃れるより人間の一生の方が短いとされる寿命を持つエルフ、そのミックスである魅狐。

 見た目に騙されてはいけないと思いつつ、立ち振る舞いを考えれば……。

 つーか、ババァはそもそも人間か?

 

 

「ところで」

 

 

 口を開いたのはおそらく同時。

 しかし音声を発したのは奇しくもババァ。

 声帯は元気なようで。

 

 

「『吸血鬼』の代金について」

「あぁ、そのことか」

 

 

 頭の片隅に追いやっていたソレ。

 どうにも影が薄いが、これは俺たちの大事な旅の資金。

 かつ友達寿命とも言える俺たちの関係性を握るもの。

 瓢箪の中に大切にしまい込んだソレは、本来ならば相当価値のあるものだ。

 だが、その値を払ってくれるものが不在である現状、こいつは無一文にも等しい。

 

 

「アタシが肩代わりするよ」

「まじでか」

「その代わり、仕事を引き受けてくれ」

 

 

 またかよ。

 

 

「嫌ならいいんだよ。それ持って、ミコが花から目覚めるまで待ってたらいい。エルフの眠りは長いよ」

「はいよろこんで」

 

 

 待ってたらババァの歳越しちまうだろそれ。

 という言葉を必死に飲み込んで安牌を打った俺を誰か褒めて欲しい。

 

 

 満足か不満かわからない息の漏らし方をして、空気よりも多く煙を吸う。

 誰からであれ、金を貰えるならそれでいいだろう。

 ババァの財産なんぞ知らんが、それだけのものはあるってことだ。

 なんなら『ミコ』を手に入れたのだから、それは2000ユキチ以上の財産というわけで。

 ……もっと高く設定しておいても良かったかなぁとちょっと後悔。

 

 

「ここに行きな」

 

 

 物思いに耽っている間、ババァ……オババは何やら紙に記したようで。

 

 

「ミミズ過ぎて読めん」

「じゃかぁしわ!!」

 

 

 耳元で叫ばれた。

 紙を奪われ、再びペンを走らせる。

 今度はオオミミズみたいになるんじゃないかと思いきや、投げられた紙を掬って見れば大きくはっきり読める。

 ……老眼鏡でもかけたみたいな感想が出たな。

 

 

「『ボッコン』……工芸の国?」

「加工技術に優れた国さ。そこに、アタシの友人がいる。手紙を渡しておくれ」

「飛脚じゃダメなのか?」

「定住してないんだ。だが、もうすぐそこで祭りがある。そのまつりにはほぼ必ず参加してるんだよ」

「『ほぼ』って」

「この歳になると体にガタも来るんだよ」

「いなかったら無駄足じゃねぇか。それこそミコが起きるんじゃねぇか?」

「無駄にはならないさ。そこは、世界で唯一、『吸血鬼』の加工をした奴がいる。そして成分調査なんかもここが一番さね」

「どっちもいけるのか」

「手先が器用なやつが集まってんのさ。頭が回るかどうかは担当次第。そしてそいつが引き受けるかどうかも、運次第」

 

 

 担当。

 ということは、行った上で指名できるのかどうか。

 加工経験があるやつの方がいいに決まっている。

 ならば、仲介を挟むのではなく、直接交渉したい。

 今回の目標は『個人契約』を交わすってことだ。

 

 

『不老』である『吸血鬼』。

 なにがどうして『不老』なのかを知りたい。

『不老』であるということは、人間の体とどう違うのか。

 逆に、『不老ではない』、つまりは『成長している』のはどこでわかるのか。

『成長』というものがわかれば、シュウの変化、とくにあの角《・》についても、何かわかるかもしれない。

 魔物・オーガのようでいてそうではないもの。

 今後どう育っていくのか。

 わかれば……何かできるかもしれない。

 今の俺ができること。

 

 

「選びな」

 

 

 不意にかけられた言葉。

 そちらを見れば、カードの束。

 ただし見覚えのない、また新しいカードだ。

 裏面で、扇状に広げられている。

 

 

 迷う要素もなく。

 ただ直感で、俺に一番近いカードを指差した。

 オババがおもむろにひっくり返すと、嘘のように絵の中も動き出す。

 カードの下部に吊るされた人間が、平らな盆を中央へ落とす。

 その動きはひどくゆっくりで、まるで残像を見ているかのよう。

 盆は細い一本線になったり、はたまた円を描いて輝いたり。

 思わず魅入ってしまうほど、不思議な光景だ。

 

 

「『    』」

 

 

 しゃがれ声で聞き取れなかった。

「え?」と聞き返すと、わざとらしくため息を着く。

 

 

「聞こえなかったかい?」

「ああ」

「学が足りないね」

「うるせぇ今更だ」

「古くから伝わる言葉でね。ま、今度聞かせてやるよ」

「なんでだよ。今でいいだろ」

「ごらん」

 

 

 シワシワで、骨皮筋で、ガタガタな爪をした細長い指先でカードを挟む。

 言われたように見ると、描かれていた光景は無くなっていた。

 そして、何が描かれていたのか、思い出せない。

 

 

「え、なん……?」

「未来っていうのはそういうものさ。『知らないで行った結果』と『知って行った結果』は似て非なるもの。もうこの結果は現れないし、痕跡も残さない」

 

 

 知ってしまったから。

 聞き取れなくとも、それを占ったということは『知った』という判定。

 カードが動くという時点でマジックアイテムなんだと気付けなかった時点で二度目はなかった。

 

 

「ま、いっか」

「そう、気にし過ぎずやんな。自分を見失ったら元も子もない」

「勝手に占ったくせに」

「あぁいう不意打ちでやった方が素の情報なんだよ、ボケカス」

「口悪」

 

 

 似たもの同士め。

 

 

 落ち着いた会話の後、金の用意は次の日と言われた。

 だから今日はオババの家に泊まる。

 奥の部屋で退屈していたシュウにそういえば、そこら辺にあったクッションをこれでもかと天井に投げ上げ、オババに叫ばれていた。

 

 

 一宿の恩として夕飯は俺が作った。

 シュウは相変わらず美味そうに食べ、オババは顔色ひとつ変えずに黙食していた。

 なんか言え。

 

 

 

 ―― ♦︎

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