「え?恋バナ?」
夏の合宿、夏の暑さと湿気とトレーニングに体を酷使しまくる期間。そんな時に何をとも思うだろう、そんな時だからこそとも思うだろう。
シンプルに私たちは女の子だもんとも思うだろう、ともかくとして今日や明日の日中の過酷さをいっとき忘れる為に寝転びながら友人たちと顔を合わせていた。
「そうそう、恋バナ……それすなわちお泊まりの鉄板」
「まぁ、女学校のトレセンに出会いがあるとは思わないけどね」
「学校だけが私たちのフィールドじゃない!夢の無いこと言わない!」
目の前で繰り広げられるコントをよそに、ハルウララは考えていた。
「恋、かぁ……」
恋バナ──つまるところ恋人や、好きな人いい人について語る。色恋に疎い自分でも流石にその程度は分かる、否……その程度しか分からないと言った方が正確かもしれない。
〝好き〟に種類があるのは分かる、そしてきっと友人に向ける〝好き〟と恋人に向ける〝好き〟は違うのだろうという事も。
でも、そこまでだ。違うんだろうなっということだけしか分からない、〝どういった好き〟が恋人に向ける〝好き〟か自分は分からないし何となく自分には縁遠いシロモノだと思っている。
「ウララはどう?」
「え?私?」
「そうだね、ウララちゃんはこの中じゃ唯一の担当契約者だしトレーナーさんとはナニカあったりしない?」
「うーん……」
ウララのトレーナーかぁっとまた考える。トレーナーの事はもちろん好きだ、大好きとすら言えよう。いつも優しく時に厳しくやっぱりたまに自分に合わせて甘く導いてくれる、暖かくて優しくて尊敬する人。
でも、やっぱりこの〝好き〟は果たして恋なのかなんて自分には分からない。だって自分は今まで恋というのをした事が無いのだから。だから……
「トレーナーは好きだけど、そういうんじゃ無いんじゃないかなぁ……」
恋では無い、と結論付ける事にした。
「じゃあさじゃあさ、トレーナーさんに向かって〝男の人だなぁ〟って思った時とか、〝ドキッとした〟時とかないの?」
けど、その回答に不満なのか、はたまた違う見解を察したのか、友人はズイっと顔を少し寄せて質問してきた。
その質問に律儀にトレーナーとの日々の事を思い出し、『あっ』と声を出してしまった。
「あ〜やっぱりなにかあったんだ」
「いや、コレは別にそういうんじゃなくてー!」
「いいのいいの、ウララだって女の子だもんね。男性に興味があってもお姉さん応援するよ」
「クラスメイトにお姉さんも何もないでしょー!」
もーっと自分をからかう友人たちに可愛く怒りながら、もう一度トレーナーとの思い出を脳内でよく振り返る。
「アレは去年の冬頃の事だったんだけど、トレーナーと一緒に学校の外で走り込みしてたの」
「うんうんそれで?」
「メニュー通りの距離を走って、ゆっくり帰ってたんだけどさ……」
♢
トレーニング終わり、暖房が効いた車内で外を眺め息を整えていると運転中のトレーナーから声をかけられた。
「ウララ、お腹とか空いてたりするか?」
「んー?ちょっとだけ」
「肉まんでも食うか?奢るよ」
「えっ?いいの!食べる食べる!」
「よし!じゃあちょっとだけ寄り道しちゃおう!」
そう言ってハンドルを切り、コンビニに駐車する。
豚まんとパックのにんじんジュース2個ずつ買ったトレーナーさんは1個ずつ私にくれた。
「あれ、トレーナーは車の中で食べないの?」
「ん?あー冬はな、こういうのは外で食べるって決めてんだ」
「へーなんで?」
「何となくこっちの方が美味い気がする、気になんならウララもしてみなよ」
寒空の元熱々の豚まんを1口、ハフハフと熱い蒸気を口から出しながらゆっくり飲み込んだ。じんわりと広がる熱さが地肌の冷たさも相まって心地よく思えた。
「どうだ?」
「確かに何時もより美味しいかも」
「ははは、そうだろ」
そう笑いながらトレーナーはバクっと大きく1口頬張った、先程自分が少し控えめな1口でもハフハフっと熱かったのに大丈夫なのかな……
っと心配したの束の間、アツアツハフハフと忙しなくしながらにんじんジュースをゴクゴクと流し込んでいた。
ウララふふっと笑いながらもう一口豚まんを食べ、ふと自分の豚まんとトレーナーの豚まんを見比べた。
「どうしたウララ?流石におかわりは無いぞ」
「え?あーいや……そう!あんまん!あんまんにしてたらトレーナーと半分こ出来てたなって思って」
「あー確かにな、今度よる時2種類買って半分こするか」
「えっ!いいのー!ヤッター!」
嘘である、ハルウララは自分でも珍しいと思う位咄嗟に嘘を言った。自分の豚まんとトレーナーの豚まん……もっと言えば一口の大きさを見比べていて〝トレーナーも男の人なんだなぁ〟っと思っていた。
普段のハルウララなら別にその事をそう思っていたとそのまま伝えて居たと思われる、けど今日は違った。
そう思いながら、何故かハルウララはドキドキしていた。トレーナーが男性だと思いながらドキドキしていた、その事を伝えるのが何故か恥ずかしく嘘を伝えた。
♢
「トレーナーに対してドキッとしたと思ったらこのくらい、かな?けど多分皆が期待してるのとは違うんじゃないかな」
ハルウララは恋を知らない、だから恋心がどう言った〝好き〟か分からない。
だからこそ友人に言われた条件に当てはまる事柄を伝えて、最後にこう言おうとおもっていた。〝まぁ恋とは違うとは思うけど〟っと。
「…………」
「…………」
「アレ?みんな?」
けど、他の者は違う。少なくとも友人たちには〝恋とはこういうものである〟、〝恋愛の好きはこういったものである〟というものがあった。
「ウララ、ソレはこう……つまるところ好きって事なんじゃないのか?」
「え?トレーナーは好きだよ、でも恋じゃ」
「ウララちゃん」
「ん?」
「ソレ、多分初恋って奴で気付けてないだけだと思うの」
「え?!」
だからこそ、友人たちはソレを恋だと言った。ハルウララには自分が恋を知らないという自覚と共に、友人たちは恋を知っているという信用もあった。
「え!?いや、ちがっ……えぇー!?」
だからこそ〝コレは恋なのだ〟と自覚させられてしまったハルウララは顔を赤らめて頭を抱え、1人の友人はハルウララに先を越された事、もう1人の友人はハルウララの新たな門出に涙を流した。
余談だが、数日ハルウララによそよそしくされたトレーナーはガッツリ落ち込んでいた。