かつて最強と呼ばれた剣士、TS転生したら最弱になれたので、もう一度最強を目指します   作:細工王

1 / 2
1 最弱から最強を目指します

 強さとは、この世で最も単純な物差しだ。

 正面からぶつけ合うことで勝者と敗者が発生し、勝者のほうが強いのだという単純な事実のみが残る。

 

 ――ああ、その単純すぎる数式に魅了されたのは、一体いつからだっただろう。

 気がつけば私は、一生を強さに捧げきっていた。

 その結末に不満はない。

 戦いの中ではなく、床の中で眠りにつく終わりは、すなわち私が誰にも負けなかった証だ。

 ただ、一つだけ思ってしまうことがある。

 晩年、私は強くなることができなかった。

 人にはどうしても、強さの限界というものがあるのだ。

 何より、強者がより強くなることは、あまりにも困難が伴う。

 まぁ、要するに、何がいいたいかと言えば――

 

 

 ――弱かった頃のほうが、楽しかったなぁ。

 

 

 ああ、だからもし私に”次”があるとしたら。

 もう一度、弱いところから強くなりたい。

 強くなっている実感を最も得られるのは、弱者が強者に変わる最中だ。

 あの頃の、できないことができるようになる快感を、もう一度味わいたい。

 勝負に勝った時、もっとも興奮するのは自分より格上の相手を倒す時だ。

 あの頃の、本来なら勝てないはずの強者を上から踏みつける感覚を、もう一度味わいたい。

 そんな我儘で不埒な考えを持ちながら、私の生涯は幕を閉じ――

 

 

 気がつけば、私は幼い少女になっていた。

 

 

 四歳くらいの、ちょうど物心がつくかつかないかといったタイミング。

 気がつけば、私の眼の前には大きな姿見があったのだ。

 そこに、前世とは異なる性別の”私”が立っている。

 あどけない顔立ち、美しいプラチナブロンドの長髪。

 そして何より――あまりにも小さく、か弱い手。

 何度か私はその手を開閉し、気がついたら姿見を全力で殴りつけていた。

 

 しかし、姿見にヒビを入れることすら、私には叶わなかったのだ。

 

 ――弱い。

 驚くほど、弱かった。

 その事に気づいた時、姿見に移る私の姿は――

 

 壮絶なまでに妖艶な、幼子とは思えないくらい耽美な笑みを浮かべ、(わら)っていた。

 

 

 +

 

 

 それから四年が経過した。

 私、ノンファ・ローシルトは貴族ローシルト家の長女ということになるらしい。

 上には兄が一人いて、父と母は健在。

 前世が孤児からの立身であったことを考えれば、ずいぶんと恵まれた立場だ。

 その分、貴族の娘というしがらみが付随してくるわけだが。

 

 気がつけばこの四年で、ずいぶんと女性らしい所作を叩き込まれたものだ。

 はっきり言って、それが強さにつながるとは欠片も思ってはいないのだが、気分転換の暇つぶしと考えれば悪いことでもない。

 強くなるには、人生の無駄も相応に楽しまなければならないのだから。

 ただ、残念ながら私は貴族の男性のもとに嫁ぐつもりはない。

 どこかしらで死んだことにしたり、家から出奔する必要があるだろう。

 とはいえ、今はまだその時ではない。

 環境に恵まれているなら、その環境は存分に活用するべきだ。

 衣食住に恵まれているうちに、色々と準備を整えるというのが現在の方針だった。

 

 そんな私の日課は、木剣の素振りだ。

 はっきり言って魔力の成長も十分ではなく、身体を鍛えるにもまだ早い時分。

 こうしていてもあまり成長には繋がらないのだが、無心で剣を振るうというのはやはり楽しい。

 前世の勘を忘れないためにも、前世での自分用に調整していた体の動きを今の体になれさせるという意味でも。

 この鍛錬は有意義なものだ。

 何より、隠れてやっていれば人に見つかることがないというのもいい。

 屋敷には父や母以外にも複数の使用人がいるものの、皆日々の仕事に忙しく、隠れている私を見つける余裕なんてないのである。

 

 ただ、一人だけ、私と同じように暇を持て余している人間がこの屋敷にはいるのだけど。

 

「おい、()()

 

 そんな暇人、もといライト兄様が私を見つけたのか、声をかけてきた。

 ライト・ローシルト。

 ローシルト家の長男、ようするにこの家の後継者である。

 しかし何かと傲慢な方で、周囲を見下しては敵を作っているのが現状。

 こういった貴族はあまり良い貴族にはなれないので、妹ながらに心配である。

 当然私にも、侮蔑の視線を向けていた。

 

「女がそのように剣を振るうなど、はしたない」

「失礼しました。ですがこれは私が好きでしていることです。誰の迷惑にもならないのですから、別に構わないのでは?」

「俺の視界に入るな、と言っている」

 

 ライト兄様は私が剣を振るうのが気に入らないらしい。

 女がどう、と言っているが、武の世界には男も女も関係ないだろうに。

 そもそも魔力による身体強化があれば、男女の性差なんて簡単にひっくり返る。

 私と兄様の差だって、そう大きなものではない。

 が、それでも兄様は私が剣を振るうのが気に入らないという。

 原因は、そもそも剣の腕とかそういうところとは関係のない部分にあった。

 

()()()()()()()()最弱のお前が、努力をしたところでなんの意味もない。無駄なことをしているのを見せられる俺の苛立ちが、お前にわかるか?」

 

 ギフト。

 この時代に生まれて五歳になったとき、私は初めてそれを”鑑定”された。

 なんでも、この世界の神が人々に与えた祝福であり、才能なのだという。

 たとえば剣術のギフトを持つ人間は、剣の腕に優れ。

 魔術のギフトを持つ人間には、魔術師の道が開かれる。

 まぁ、なんとも便利なものだと思う。

 前世の自分が生きていた時代にはそんなものなかったし、想像もしていなかった。

 だから私としても、初めてその存在を知ったときは、便利そうだし使えるものなら使ってみたいと思ったものだが――

 

 残念ながら、私にはギフトが一つもなかった。

 

「ギフトを持たない人間など、聞いたこともない。弱いギフトしか持たない低能ならばいくらでもいるが、全く持たない無能など、お前が初めてだ」

 

 兄様は続ける。

 

「そんなお前が、剣など振るって剣士の真似事か? 馬鹿らしい。才能のないお前にできることなど、たかが知れている。いいかノンファ、お前は最弱にしかなれんのだ」

 

 故に、最弱。

 兄様は私が剣を振るっているとき、常に私のことをそう呼ぶ。

 最弱、全く持ってそのとおりだ。

 無才の私にとって、これほどふさわしい称号はない。

 何より、最弱ということは――

 

「ありがとうございます、兄様」

「……っ、相変わらず気味が悪いな。なぜ俺がお前に最弱というと、お前はいつも礼をいう」

「簡単な話ですよ」

 

 私は、剣を構え直して、それに視線を向ける。

 木剣。

 人を切るにはあまりに向かず。

 人を叩くにはあまりに脆い。

 まさに――最弱の剣。

 ああ、私はそれが――

 

 

「最弱から最強になるのが、強さの上がり幅が尤も大きいのですから」

 

 

 ああ本当に、全く持って。

 これほどまでに嬉しいことは、他にない。

 かつて私は、最強になった。

 少なくとも、私は()()()()()()()()()のだ。

 そのうえで、私の人生がもっとも充実していたのは弱い頃だった。

 上には数多の強敵がいて、自分の強さを実感できたからだ。

 

 そんな経験を、今度はもっと下の方から楽しめる。

 しかも今度はギフトを持たないというハンデまで背負って。

 私が死んでから、すでに千年が経過しているという。

 技術は、どれほど進化しただろう。

 武術は、どこまで磨き上げられているだろう。

 そう考えたとき、私は笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

「……ノンファ、お前は……」

 

 ライト兄様が、何かをいいかけてやめる。

 一体何をいいたかったのだろう。

 構わない、なんでもいいのだ。

 私は常に強さを求めているだけ。

 兄様がそれにどんな感想を抱こうと、私には関係のないことだった。

 

 

 +

 

 

 ノンファ・ローシルトという少女がいる。

 美しい少女だ。

 本来であれば、多くの男性を魅了していただろう。

 しかし、彼女にはギフトがない。

 ギフトは親から子に受け継がれるものというのが定説である現在、ノンファを妻としたい男はあまり多くなかった。

 加えてノンファ自身が、そういった色恋に興味を持たず、隠れて剣を振るっているような少女だ。

 そのことを知っているのはノンファの兄ライトと、母親のコルファだけだったものの。

 雰囲気が他者とは一線を画することを、ノンファと直接相対したものは感じていたことだろう。

 

 そんなノンファに、兄のライトは冷たい視線を向けていた。

 無才でありながら剣を振るう女。

 貴族らしからぬ、異端の少女。

 だから兄はノンファのことを侮蔑しながらも、どこか憧憬の視線を向けていた。

 

 ああ、この”女”は、一体どのように育ち、そして剣を振るうのだろう。

 きっと、兄の言葉で意思を変えるような女ではない。

 むしろそんな兄の罵倒に感謝を述べるような、イカれた女だ。

 だが、彼女の振るう剣は、恐ろしく――壮絶に美しい。

 まるで魅入られているかのようだと、時折ライトは思ってしまう。

 

 ノンファは剣士になるだろう。

 どんな手を使ってでも。

 仮名を踏みにじってでも。

 そんな女だと、ライトは知っていた。

 だが、それでもこうしてその剣を――そして、剣を振るうときの笑みを目で追ってしまうくらいには、ノンファは強烈なのだと。

 今はまだ、ライトだけが知っていた。




タイトルそのまま。

評価、感想、お気に入りいただけますと幸いです。
特に、高評価はとても励みになります。
よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。