かつて最強と呼ばれた剣士、TS転生したら最弱になれたので、もう一度最強を目指します   作:細工王

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2 強くなるためなら、なんでもします

 魔力、というものがある。

 この世界において、弱者を強者へと押し上げるもっとも大きな要因。

 魔力を鍛え、それを自在に扱えるものはそれだけで魔力の扱いが拙いものを圧倒できる。

 逆に、魔力の総量に絶対的な差があれば、魔力の扱いに長けるだけでは覆せない差が生まれるのだ。

 どちらにせよ、魔力の総量を増やし、扱い方を身につけることが強くなることの第一歩と言えるだろう。

 その点において今の私は、魔力の扱いに関してはなんの問題もない。

 前世で培った技術は、そう衰えたりはしないのだ。

 とはいえ、身体の違いによる感覚の違いは大きく、この四年はその矯正に費やした。

 前世を思えばあまりにも悠長な四年だが、今の私は貴族の娘。

 それくらいの時間の余裕は、十分にある。

 もしこれが前世と同じ孤児からのスタートだったなら、もう少し方法を変えていただろう。

 これが今の私の、最適な鍛錬法というわけだ。

 

 ただ、量に関しては問題があった。

 四年かけても、まったく成長が見られないのだ。

 才能のなさを、こういうところでも突きつけられている。

 なんともままならないものだ。

 

 こうなったら、ただ成長を待つ以外のアプローチが必要になる。

 幸いにも、私はある程度方法については目処を立てていた。

 

 

 +

 

 

「母様、今日もお加減はよろしくないですか?」

「そうですわねぇ……ごめんなさいね、ノンファ」

「いえ、それよりも母様が早く良くなってほしいです」

 

 私は、最近調子を崩している母様の元を訪れていた。

 母様、私の母親はいかにも貴族のご令嬢といった感じの女性だ。

 楚々としていて、それでいて華があり、美しい。

 若い頃は多くの男性に求婚されていたという。

 それが今は、病人であるためか腕は枯れ枝のようになっていて、かつての美貌は陰っていた。

 なんともお労しいことだ。

 とはいえ、今日の目的は母様の看病でも見舞いでもない。

 今日こそ、母様から”あれ”の所在を聞き出すのだ。

 

「母様、よろしければまたお話を聞かせていただけますか?」

「ふふ……ノンファは本当にそれが好きですわねぇ」

 

 私は母様に、自分の魔力を注ぎ込みながら話をねだる。

 魔力というのは、人の体を頑丈かつ正常に保とうとする性質を持つ。

 特にこういった()()を弾くためには、大量の魔力が必要だ。

 といっても私の魔力総量は雀の涙程度。

 これは魔力を消費することで総量の上昇を促しつつ、母様に話を聞くのに、母様の不調が原因でそれを打ち切られては困るからやっていることだ。

 

 今回の目的は、母様から母様が受けている呪いの原因を聞き出すこと。

 母様は呪われているのだ。

 本人にも自覚はないだろうし、父様や主治医も原因はわかっていないようだけど。

 なお、私がそれを明かすつもりはない。

 仮に明かしても、呪いの発生源をどうにかするには相応の戦力と犠牲が必要になる

 だったら無闇矢鱈に人命を消耗する必要はないだろう。

 なによりこいつは――私の獲物だ。

 

「この屋敷の図書室には、封じられた禁書があると聞きます。恐ろしいです母様、それはどういったものなのですか?」

「あまりそういうことに興味を持ってはいけませんわ、ノンファ。でもそうですわねぇ……」

 

 そして今日、私はようやく目当ての”禁書”に話題を持っていくことができた。

 数日かけて少しずつ話題を誘導し、ようやくここまでたどり着いたのだ。

 ローシルト家には大きな図書室がある。

 かなりの数の所蔵の中に今回の目的である”禁書”は眠っていた。

 普通に探していたら、どれだけ時間があっても足りない書物のなかから禁書を探すのは時間の無駄だ。

 だったらこうして鍛錬を兼ねて母様に魔力を注ぎながら、話を聞くほうが手っ取り早い。

 

「禁書は、恐ろしい蜘蛛の魔物を封じていると言われています。その蜘蛛は、常に弱者をいたぶり、呪い、嘲笑ったと伝わっていますわ」

 

 封印されているものの情報と、禁書の場所。

 それらを話しの中から掬い上げて、私は母様に顔を埋めながら笑みを浮かべていた。

 ああ、待ちきれない……と。

 

 

 +

 

 

 その夜、早速私は行動を起こすことにした。

 理由はいくつかあるが、一つは母様の様態がよくないということ。

 私の貴族の娘という立場は、家が安定しているからこそ価値がある。

 母様が亡くなって、父様が荒れて家が傾くなんてことが起きても困るのだ。

 人の死というのは避けられないものだが、起きると周囲が悲しみ厄介なため避けられる要因による死なら遠ざけるのが無難である。

 

 かくして夜、私は準備を整えて図書室にやってきていた。

 といっても準備なんて、普段鍛錬に使っている木剣を持ち出して、見つからないよう図書室に潜り込む程度なのだけど。

 

 ああ、それにしても楽しみだ。

 これが私にとって、新たな人生における初めての実戦になる。

 死闘になるだろう。

 相手は強敵だ。

 今の私で勝てる見込みなど何一つない。

 最高か?

 そんな相手に勝利してこそ、私は自分を強いと思えるのだ。

 だからこそ、この獲物は譲れない。

 

「ここですね」

 

 母様の情報から、場所を割り出して本棚を見上げる。

 禁書には、二つの術式が隠蔽のため施されているらしい。

 一つは禁書の見た目を普通の本に偽装すること。

 もう一つは、その本に興味を抱かないよう意識を誘導すること。

 これによって、万が一にも子供が好奇心から禁書に触れることを避けている、というわけ。

 私はこれを、意識の誘導をあえて受けることで、禁書の場所を逆探知することにした。

 行きたくない場所に禁書があるということは、行きたくない場所を目指せばいいのだ。

 

「では、やりますか」

 

 そうして、私が禁書に手を触れたとき。

 

()()

 

 不意に、私に一つの悪意が襲いかかった。

 当然、警戒はしている。

 いつでも動ける状況だった。

 しかし――()()()()()()()()

 

 

 結果、気がつけば私が禁書に触れた腕が、宙を待っていた。

 

 

「あっ――」

 

 血の飛沫があたりに飛び散る。

 腕が、二の腕から先が――ない。

 切られた。

 そう認識しながら、私は切られた時の衝撃で後方に吹き飛んだ。

 

『愚か。我を目覚めさせるなど、愚かなり、人間』

 

 そして、気がつけば。

 本棚の上に、蜘蛛がいた。

 おぞましい、巨大な蜘蛛だ。

 全長は私の身長の倍くらいはある。

 それを見上げながら、私はきり飛ばされた腕を掴みつつ、立ち上がった。

 

『痛みに気丈に耐えるのは見事と言えよう、小娘。しかしあまりにも相手が悪すぎたな』

 

 私が悲鳴も漏らさずに立ち上がったことを、純粋に蜘蛛は称賛しているようだった。

 とはいえ、――甘いな。

 こいつは、戦いというものを何もわかっていない。

 

『……何を笑っている?』

「いえ、すこし……滑稽に見えたもので」

『何を――』

 

 私は、言いながら切り飛ばされた腕を――

 

 

 切断された体に、接続する。

 

 

『な――』

 

 同時に、魔力を可能な限り切断面に回し、再生を試みる。

 魔力には自身の身体を正常にしようとする性質があるのだ。

 故に、魔力を用いれば、切り飛ばされた腕は――つながる。

 前世でどれだけこうやって、腕をつなげてきたかわからない。

 というか、()()()()だけ()()()よりは楽だ。

 元になった部位が残っているのだから。

 切断面がきれいだったのも良かった。

 

『なんだ、お前は……! 何をした……!』

「おや、わからないのですか? 封印されていた貴方なら、理解していただけるかと思いましたが」

『知ったことかぁ!』

 

 蜘蛛が、再び動きを見せる。

 先程私は、攻撃に一切対応できなかった。

 しかも今度は腕の接続に魔力のすべてを回している。

 状況は先程よりも悪化しているのだ。

 だというのに――

 

 蜘蛛が攻撃した場所に、私はいなかった。

 

「――”糸”、ですか。蜘蛛であれば自然な攻撃手段ですね」

『な、なぜ――』

 

 蜘蛛が狙った場所の、すぐ横に私はいた。

 攻撃は、一切こちらにあたってはいない。

 私は、蜘蛛が四方八方に放った人の体を簡単に切断できる糸に、手をかける。

 手のひらが裂けるが、構わなかった。

 

「先ほどは躱せなかった一撃を躱せて、疑問ですか? ご安心ください。()()()()()()()よ」

『な、何を言っている――!』

「最初から私がそこにいなかっただけのことです」

 

 私が攻撃を躱せなかったのは、予備動作が一切なかったからだ。

 しかし、今回は違う。

 蜘蛛がそこにいて、会話ができて、何より戦闘経験に乏しく隙が多い。

 誘導し、私に一撃が入らないよう調整するのは、あまりにも容易なことだった。

 

 蜘蛛が戦闘経験に乏しいのは、母様の話から推測できたことだ。

 そして戦闘経験が乏しいということは、同時にあることが予想できる。

 

「蜘蛛さん、貴方は――こうして糸を飛ばす以外の攻撃手段を持っていませんね?」

『は――』

「あとはせいぜい、自分の体を使っての突撃程度でしょうか。それ以外を使う必要が、なかったでしょうし……であれば、貴方の攻撃は私に届きません」

『それ、は……だが、同じことはお前にも言えるはずだ。小娘、お前に我は殺せぬ――』

 

 私は、蜘蛛の言葉を気にせず、放たれた糸へ愛おしそうに頬ずりをする。

 ああ、これだ。

 これが私の求めていたものだ。

 だから私は――

 

「――魔物の生み出す特殊な攻撃方法は、そのすべてが魔力でできています。そもそも、魔物自体が豊富な魔力の塊です。故に――」

 

 

 それを、口に含む。

 

 

 ああ、体内に魔力が入り込んでくる。

 これが、私の狙い。

 蜘蛛を狙った理由。

 

「さ、蜘蛛さん。貴方が私の首を切断するのと、私が貴方の魔力を食い尽くす。どちらが早いか――競争と参りませんか?」

『あ、ああ!』

 

 かくして、

 

『あああああああ!』

 

 私と、蜘蛛。

 死の舞踊が始まった――




味はしませんでした。

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