ハリー・ポッターの呪われた双子 作:フォンテ
ダイアゴン横丁という魔法界から離れる。
ハグリッドに送ってもらって、『家』に戻ってくる。
すでに暗くなってきている夜だ。
ダーズリー家の車は戻っていて、灯りもついていた。
「しまった。大切な仕事を頼まれちょった」
ハグリッドは、何かを思い出したように、早くホグワーツに戻らないといけないらしい。
そういえば銀行ではトロッコに揺られて余裕がなかったが、どこかの金庫に寄っていた気がする。たぶんそれはとても大事なもので、確実に届けなければならいのだろう。
運んでくれた荷物を玄関に積んでくれてから、何度も悩む。
「いいよ、ハグリッド。またホグワーツで会えるんでしょ?」
「だけんど……いや、そうだな」
ハリーに、そしてアイラと、しばしの別れを告げて、彼は去っていった。
この『家』は2人にとって安全だとされている。
本当ならば、もうホグワーツに連れていってもいいんではないだろうか。だが彼が尊敬するダンブルドアからそういう指示を受けていない。きっと彼にも何か考えがあり、過保護になるほど、2人に干渉しすぎることはよくないと思っていた。
ハリーとアイラは深呼吸をする。
玄関を開けたら、空気がとても重い。
よく知っている静けさと、整えられすぎた居間の匂いだった。
とりあえず杖やローブの入ったトランクだけを持って、中の様子をうかがう。2人とも、これだけは取られてなるものかという思いだった。
『ただいま』もなく、当然『おかえり』もない。
そんな歪さが感じられる義理の親子であった。
「戻りました」
アイラがそう事務的に声を出す。
いつも小学校から帰ってくる時も、それだけだ。
ハリーは勝手に入って、勝手に戻ろうとしていたため、心臓がバクバクと音を立てる。
キッチンやリビングのある部屋から、ペチュニアがやってくる。昨晩よりは顔色がよく、ただ眉間に皺が寄っていて、明らかに不機嫌な様子だ。
彼女は腕を組んだまま、2人と新品のトランクを見比べる。
いつものような怒鳴り声はない。口元は固く結ばれている。
どこか安心した様子を見せていた。
それが魔法関連の危険物を持ってこなかったことなのか、もしくはハリーやアイラが戻ってきたことなのか。
「ふん! 荷物は全部、自分たちで管理するのよ」
短く、きっぱりと言われる。
バーノンも様子を見にきて、ハリーやアイラを押しのけて、玄関の扉を開けた。彼が見たところ、危険物は見当たらない。ホーホーと鳴く白いフクロウも、見た目はただの籠に入ったフクロウだ。
こういう時に襲来してきそうなダドリーは、意外にも来なかった。もう自分の部屋で寝ているのだろうか。
「……まだまだあったのね。家の中であれこれ好き勝手に使うのは禁止よ」
「どんだけ買ってきたんだ、え? フクロウまでいやがるぞ?」
そして、バーノンは低く咳払いをした。
まるで思わず出てしまう言葉を、一度のみ込むかのようだった。
「これを置いていいのは、庭の一部と……あー、階段下の物置きだけだ。それ以上は認めんぞ」
本音は、『家』の中に入れることすらしたくないのだろう。
それだけ許してくれるのなら、まだマシだとアイラは判断した。
「わかりました」
「で、でも、あんな狭いところじゃ…ヘドウィグも……」
ハリーは言い淀んだ。
アイラがなぜフクロウを買わなかったのか、やっと理解してきた。
買ってきた荷物は多い。
これでも必要最小限だったが、それが2人分。
雨に濡れてもいい物を庭に置いたとしてもだ。
それ以外の荷物だけで、ほとんど2人が寝るスペースがなくなるほどには、物置きがパンパンとなるだろう。ハリーは、自分のペットであるフクロウを、このダーズリー家で飼うことまでは想像できていなかった。気に入ったから買っただけなのである。
「……ハリー、使っていいよ」
「え?」
アイラの発言の意図がわからず、ハリーは彼女の無表情な顔を見る。
「教科書だけは置かせて。あとは私が廊下で……庭で寝ればいいから」
廊下を許可されていなかったことを思い出し、そう訂正した。
「そ、そんなの!」
「あと1ヶ月だけのこと。今はもう、ローブを毛布代わりにできる」
雪が降る冬でもない。多少は肌寒いが、耐えれないほどでもない。真冬の水仕事より何倍もマシだった。
アイラの中では決定事項のようで、ペチュニアやバーノンの前で、礼儀正しく頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしますが、あと1ヶ月だけ、よろしくお願いします」
そんな言葉に、ペチュニアの瞳が明らかに揺れた。
まるでもう1ヶ月後には、この『家』から完全に離れてしまうような言葉だった。
妹から受け継いだ緑の片目が、まっすぐ見上げてくる。
ホグワーツは、妹だけが行った場所で、姉である自分が望んでも行けなかった場所だ。
そして魔法界は、妹を奪って、死んだ場所でもある。
本当は、何としてでも引き止めたいけれど。
ハグリッドに言われたように、それは彼女の自由を奪い続けることとなる。
「……アイラは」
何か、言葉を探すような間があった。
「私の寝室になら、アイラは物を置いていいことにするわ。絨毯の上で眠ってもいい。昼間に教科書を読んだっていい」
でも毎朝は必ず朝食を作るのよ、と日常の役割は付け足した。
アイラにとってはもう当然のことで、むしろ何もしないで居候ということは申し訳なくなる。
「えっと…なら……私ではなくて……」
フクロウのことを考えても、ハリーと生活スペースを優先させるべきだと思った。
「ふん、ハリーは今まで通り、そこで生活しなさい。万が一にフクロウが暴れ出したら、たまったものじゃないわ」
ハリーは即座に首を振った。
「いいよ。むしろ、僕はあそこが大歓迎さ」
それ以上の感情はないという調子だった。
むしろ安心したようにも見える。
「おばさんと同じ部屋なんて、ヘドウィグも落ち着かないし」
「あなたね……」
ハリーにどこか余裕ができていた。
でもペチュニアは特に言い返さなかった。ただ、アイラに視線を戻す。
「それでいいわね、アイラ」
アイラは一瞬迷い、それから静かに頷いた。
「……はい、ありがとうございます」
その夜のうちに、アイラやハリーは物を運ぶ。濡れてもいいものは庭に置くし、教科書や杖やローブは、各々の部屋に持ち込む。
1日の疲れが溜まっているが、踏ん張るように、アイラは荷物を抱えて階段を上がり下がりする。
「まったく、どんくさいんだから」
そう言って、ペチュニアが手伝ってくれるようにもなった。
そのおかげで作業はだいぶ早く進んだ。
こうして部屋の隅に、最低限の荷物をまとめられた。
清潔で、きちんと整えられた部屋だ。物置きとは違う空気がある。
限界を迎え、少女は倒れ込むように、絨毯の上で横になった。
杖だけは両手で持って、ゆっくりと目を閉じる。
離さないということを、体が覚えているようだった。
ハリーが隣にいない部屋で、初めて眠る。
同じ家の中だけど、2人は別々の場所に暮らし始めている。
本当に、今日はいろいろあった。まだ頭の整理が追いついていない。楽しみだけど疲れた。
やがて。
すー すー と穏やかな寝息を立て始める。
そんな少女に、大きすぎる毛布がかけられた。