ハリー・ポッターの呪われた双子   作:フォンテ

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第10話 あと1ヶ月

 

 ダイアゴン横丁という魔法界から離れる。

 ハグリッドに送ってもらって、『家』に戻ってくる。

 

 すでに暗くなってきている夜だ。

 ダーズリー家の車は戻っていて、灯りもついていた。

 

「しまった。大切な仕事を頼まれちょった」

 

 ハグリッドは、何かを思い出したように、早くホグワーツに戻らないといけないらしい。

 そういえば銀行ではトロッコに揺られて余裕がなかったが、どこかの金庫に寄っていた気がする。たぶんそれはとても大事なもので、確実に届けなければならいのだろう。

 

 運んでくれた荷物を玄関に積んでくれてから、何度も悩む。

 

「いいよ、ハグリッド。またホグワーツで会えるんでしょ?」

 

「だけんど……いや、そうだな」

 

 ハリーに、そしてアイラと、しばしの別れを告げて、彼は去っていった。

 

 この『家』は2人にとって安全だとされている。

 本当ならば、もうホグワーツに連れていってもいいんではないだろうか。だが彼が尊敬するダンブルドアからそういう指示を受けていない。きっと彼にも何か考えがあり、過保護になるほど、2人に干渉しすぎることはよくないと思っていた。

 

 ハリーとアイラは深呼吸をする。

 玄関を開けたら、空気がとても重い。

 

 よく知っている静けさと、整えられすぎた居間の匂いだった。

 

 とりあえず杖やローブの入ったトランクだけを持って、中の様子をうかがう。2人とも、これだけは取られてなるものかという思いだった。

 

 『ただいま』もなく、当然『おかえり』もない。

 そんな歪さが感じられる義理の親子であった。

 

「戻りました」

 

 アイラがそう事務的に声を出す。

 いつも小学校から帰ってくる時も、それだけだ。

 

 ハリーは勝手に入って、勝手に戻ろうとしていたため、心臓がバクバクと音を立てる。

 

 キッチンやリビングのある部屋から、ペチュニアがやってくる。昨晩よりは顔色がよく、ただ眉間に皺が寄っていて、明らかに不機嫌な様子だ。

 

 彼女は腕を組んだまま、2人と新品のトランクを見比べる。

 いつものような怒鳴り声はない。口元は固く結ばれている。

 

 どこか安心した様子を見せていた。

 それが魔法関連の危険物を持ってこなかったことなのか、もしくはハリーやアイラが戻ってきたことなのか。

 

「ふん! 荷物は全部、自分たちで管理するのよ」

 

 短く、きっぱりと言われる。

 バーノンも様子を見にきて、ハリーやアイラを押しのけて、玄関の扉を開けた。彼が見たところ、危険物は見当たらない。ホーホーと鳴く白いフクロウも、見た目はただの籠に入ったフクロウだ。

 

 こういう時に襲来してきそうなダドリーは、意外にも来なかった。もう自分の部屋で寝ているのだろうか。

 

「……まだまだあったのね。家の中であれこれ好き勝手に使うのは禁止よ」

 

「どんだけ買ってきたんだ、え? フクロウまでいやがるぞ?」

 

 そして、バーノンは低く咳払いをした。

 まるで思わず出てしまう言葉を、一度のみ込むかのようだった。

 

「これを置いていいのは、庭の一部と……あー、階段下の物置きだけだ。それ以上は認めんぞ」

 

 本音は、『家』の中に入れることすらしたくないのだろう。

 それだけ許してくれるのなら、まだマシだとアイラは判断した。

 

「わかりました」

「で、でも、あんな狭いところじゃ…ヘドウィグも……」

 

 ハリーは言い淀んだ。

 アイラがなぜフクロウを買わなかったのか、やっと理解してきた。

 

 買ってきた荷物は多い。

 これでも必要最小限だったが、それが2人分。

 

 雨に濡れてもいい物を庭に置いたとしてもだ。

 それ以外の荷物だけで、ほとんど2人が寝るスペースがなくなるほどには、物置きがパンパンとなるだろう。ハリーは、自分のペットであるフクロウを、このダーズリー家で飼うことまでは想像できていなかった。気に入ったから買っただけなのである。

 

「……ハリー、使っていいよ」

 

「え?」

 

 アイラの発言の意図がわからず、ハリーは彼女の無表情な顔を見る。

 

「教科書だけは置かせて。あとは私が廊下で……庭で寝ればいいから」

 

 廊下を許可されていなかったことを思い出し、そう訂正した。

 

「そ、そんなの!」

「あと1ヶ月だけのこと。今はもう、ローブを毛布代わりにできる」

 

 雪が降る冬でもない。多少は肌寒いが、耐えれないほどでもない。真冬の水仕事より何倍もマシだった。

 

 アイラの中では決定事項のようで、ペチュニアやバーノンの前で、礼儀正しく頭を下げた。

 

「ご迷惑をおかけしますが、あと1ヶ月だけ、よろしくお願いします」

 

 そんな言葉に、ペチュニアの瞳が明らかに揺れた。

 まるでもう1ヶ月後には、この『家』から完全に離れてしまうような言葉だった。

 

 妹から受け継いだ緑の片目が、まっすぐ見上げてくる。

 

 ホグワーツは、妹だけが行った場所で、姉である自分が望んでも行けなかった場所だ。

 そして魔法界は、妹を奪って、死んだ場所でもある。

 

 本当は、何としてでも引き止めたいけれど。

 ハグリッドに言われたように、それは彼女の自由を奪い続けることとなる。

 

「……アイラは」

 

 何か、言葉を探すような間があった。

 

「私の寝室になら、アイラは物を置いていいことにするわ。絨毯の上で眠ってもいい。昼間に教科書を読んだっていい」

 

 でも毎朝は必ず朝食を作るのよ、と日常の役割は付け足した。

 アイラにとってはもう当然のことで、むしろ何もしないで居候ということは申し訳なくなる。

 

「えっと…なら……私ではなくて……」

 

 フクロウのことを考えても、ハリーと生活スペースを優先させるべきだと思った。

 

「ふん、ハリーは今まで通り、そこで生活しなさい。万が一にフクロウが暴れ出したら、たまったものじゃないわ」

 

 ハリーは即座に首を振った。

 

「いいよ。むしろ、僕はあそこが大歓迎さ」

 

 それ以上の感情はないという調子だった。

 むしろ安心したようにも見える。

 

「おばさんと同じ部屋なんて、ヘドウィグも落ち着かないし」

 

「あなたね……」

 

 ハリーにどこか余裕ができていた。

 でもペチュニアは特に言い返さなかった。ただ、アイラに視線を戻す。

 

「それでいいわね、アイラ」

 

 アイラは一瞬迷い、それから静かに頷いた。

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 その夜のうちに、アイラやハリーは物を運ぶ。濡れてもいいものは庭に置くし、教科書や杖やローブは、各々の部屋に持ち込む。

 

 1日の疲れが溜まっているが、踏ん張るように、アイラは荷物を抱えて階段を上がり下がりする。

 

「まったく、どんくさいんだから」

 

 そう言って、ペチュニアが手伝ってくれるようにもなった。

 そのおかげで作業はだいぶ早く進んだ。

 

 こうして部屋の隅に、最低限の荷物をまとめられた。

 清潔で、きちんと整えられた部屋だ。物置きとは違う空気がある。

 

 限界を迎え、少女は倒れ込むように、絨毯の上で横になった。

 

 杖だけは両手で持って、ゆっくりと目を閉じる。

 離さないということを、体が覚えているようだった。

 

 ハリーが隣にいない部屋で、初めて眠る。

 同じ家の中だけど、2人は別々の場所に暮らし始めている。

 

 本当に、今日はいろいろあった。まだ頭の整理が追いついていない。楽しみだけど疲れた。

 

 

 やがて。

 

 

 すー すー と穏やかな寝息を立て始める。

 そんな少女に、大きすぎる毛布がかけられた。

 

 

 

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