ハリー・ポッターの呪われた双子   作:フォンテ

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5話 それぞれの運命へ

 

 ホグワーツ魔法魔術学校で、今年度の新入生たちが女性教師に連れられて歩いていた。魔女とイメージしやすい、そんなとんがり帽子や緑色のローブも含めて、厳格な人だと感じさせる。

 新入生たちは小舟を降りてから、私語もすることはない。

 

 そして、重厚な扉が、音もなく開いた。

 

 大広間に足を踏み入れた瞬間、思わず息を詰める。

 天井いっぱいに広がる夜空は、外よりも鮮明な星々を映し出していた。ゆっくりと流れる雲の向こうで、星が瞬く。魔法で作られた空だと分かっていても、圧倒されるには十分だった。

 

 左右に伸びる長いテーブル。

 赤と金、青と銅、黄色と黒、緑と銀だ。

 

 それぞれの寮を主張し、制服にところどころカラーが付け加えている。すでに着席している上級生たちは、こちらを見ている者もいれば、友人同士でひそひそと話している者もいた。

 

 その正面、ひときわ高い位置に設えられた教師席だ。

 中央には白い髭の老魔法使いが座っている。柔らかな笑みを浮かべてはいるが、全体を見渡す視線は鋭い。名前は知らないが、この場で最も偉い人なのだろうと直感できた。

 

 その隣や周囲には、厳しそうな表情の教師たちが並んでいる。

 

 前を行く新入生たちが立ち止まり、列を整えて待つように指導される。アイラはルークの背中を、斜めのダフネやセオドールを視界に入れながら、指定された位置で足を止めた。

 

「さて、1年生のみなさん」

 

 よく通る声だった。

 ざわめきは瞬時に静まり返る。

 

「これから組み分けを行います。組み分けとは、みなさんがホグワーツで過ごす間、所属する寮を決める儀式です」

 

 淡々とした口調。

 だが、その一言一言には重みがあった。

 

「名前を呼ばれた者は前へ出て、ここにある組み分け帽子を被りなさい。帽子は、みなさんの資質を見極め、最もふさわしい寮を告げます」

 

 女性教師の視線が列全体をなぞる。

 

 『やはり資質なんだろうか』、そうアイラは一瞬視線を落とした。ルークは背中を見せていてわからない。でもダフネもセオドールも、まだ考えている様子を見せる。

 

「なお、組み分けの間も、私語は一切禁止です。静かに、自分の番を待ちなさい」

 

 『私語厳禁』。

 言外に含まれた圧力に、アイラは背筋を正した。

 

 その合図とともに、古びた帽子が大広間の奥に運び込まれている。

 ほつれ、継ぎ目だらけの三角帽子は、まるで長い年月を生きてきた存在のようだった。

 

 縫い目が、ゆっくりと開く。

 歌が始まった。

 

 低く、かすれた声だ。

 だが不思議と、大広間の隅々まで届いた。

 

 ホグワーツの4つの寮、それぞれの気質が何か説明する。

 大まかに、勇気、知性、忠誠、野心。

 どの寮が優れているかではなく、どこに向いているかを語るような調子だった。

 

 アイラは黙って耳を傾けた。

 周囲も誰1人、声を発しない。ダフネの背筋はまっすぐで、セオドールはわずかに肩を落とし、ルークは相変わらずわからない。

 

 歌は続く。

 

 選ばれるのではなく、見出される。

 しかし最後に、帽子はこう結んだ。

 

――だが、決めるのはお前自身でもある。

 

 その一節が、胸に残った。

 

 視線を伏せたまま、アイラは考える。

 グリフィンドール、スリザリン、ハッフルパフ、レイブンクロー。

 どれも正しく、どれも間違いではない。

 

 誰かに合わせるのではない。

 期待に応えるためでもない。

 

 アイラも自分で希望は言いたい。

 目の前にいるルークは言っていた。『1番面白くなりそうな寮を選んでいる』『どこだろうと魔法は学べるし、俺たちが友人であることに変わりはない』

 

 参考にするため上級生たちのテーブルを見る。

 全体的にどういう雰囲気で、自分たちを見てきているのか。

 

 グリフィンドール、同志や仲間を期待している。

 ハッフルパフ、誰でもそこそこ歓迎してくれそう。

 レイブンクロー、観察するような視線を感じる。

 スリザリン、値踏みと警戒が混じって重々しくはある。

 

「……ん」

 

 そうしてアイラは、心の中で決めたことがある。

 選んだなら、あとは希望を伝えるだけだ。

 

 歌が終わると、女性教師が一歩前に出て、こちらを振り向く。

 

「では、始めます」

 

 最初の名前から呼ばれ始める。

 

 帽子を被って、静かな時間があり、そして帽子によって寮が宣言される。その子は緊張しながらも、自分の寮のテーブルに向かえば上級生たちは歓迎する。毎年恒例な行事のようで、堂々と拍手や指笛まで聞こえる。

 

 監督の女性教師は、やれやれと声を出す。

 次の名前が呼ばれ、その子が前に出て帽子をかぶると、上級生たちは静かに黙る。オンオフの切り替えが凄まじく早い。そして、新入生にとって大事な儀式なのだと、身をもって知っているのだろう。

 

 次々と呼ばれ、次々と残された新入生が減っていく。

 

 なんとなく順番の法則はわかってきたが、アイラが知っている名前はまだ呼ばれない。たぶん兄であるハリーとは前後だとは思うが。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー」

 

 列の前方で、1人の少女が小さく息を吸い、前に出た。

 手には分厚い本だ。どうやらさっきまで読んでいたようで、歩きながらも、その背筋は落ち着いている。

 

 組み分け帽子を被る時間は、長くなかった。

 

「グリフィンドール!」

 

 赤と金のテーブルから歓声が上がる。

 少女は驚いたように瞬き、それから少し照れたように席に向かっていく。

 

 その勉強熱心さから、レイブンクローなのではないかと全体的に思われていたため、周りのように、アイラも驚いていた。

 彼女にそういう素質があったのか、それとも彼女自身が望んだのか。

 

 やがて、アイラが知っている名前が呼ばれることとなる。

 

「ダフネ・グリーングラス」

 

 名を呼ばれた瞬間、ダフネは腕組みをやめてから、綺麗な所作で歩き始める。

 

 スリザリンのテーブルには面識のある上級生が多いらしく、全体的に期待の目線が向けられる。逆に、他の寮の生徒からは、すでに諦めムードだ。

 生まれだけで、まるで運命づけられているかのようだ。

 

 この時、彼女にとっては、行かなければならない場所ではなく、求められる場所だと感じた。

 

 組み分け帽子を被ると、彼女は選択を心の中で呟いた。

 

「スリザリン!」

 

 そう宣言され、しっかりと前を向いて、彼女は再び歩き始める。

 

 緑と銀のテーブルで、控えめだが確かな拍手で迎えてくれた。だがそのすべてを受け入れるわけではない。気に入らない風習などは、内から変えればいい。

 

 さらに、知っている名前が呼ばれることとなる。

 

「ドラコ・マルフォイ」

 

 金髪の少年は、自信に満ちた足取りで前に出る。迷いはない。帽子が頭に触れた瞬間には、もう運命は決まっていた。彼自身もそれを望んでいる。

 

「スリザリン!」

 

 再びはっきりとした歓迎の声だ。明らかな期待に、ドラコは満足げに笑いながら、スリザリンのテーブルに向かう。その途中で、ちらりと新入生を見たが、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。

 

 彼が気になっているのはアイラなのか、それともハリーなのか。

 

 そのあとすぐには、知っている名前が呼ばれる。

 

「ルーク・モーンヴィーク」

 

 名前が呼ばれた瞬間、アイラは無意識に彼を見た。

 ルークは振り返ることなく、前に歩いていく。

 

 新入生を監督している女性教師が、明らかに目を細めて彼を視線で追っている。ハグリッドの時と似たような反応だと、アイラは思った。彼は本当の両親を知らないと言っていたが、何かあるのだろう。

 

 だが、彼の歩みは止まらない。

 歴史ある帽子を面白そうに見て、振り返りながら片手で被る。

 

「どこも面白そうだが、スリザリンで!」

 

 帽子が宣言する前に、自らが大声で選んでみせた。

 

 そう言って彼は、芝居がかったポーズを見せる。どこまでもわざとらしく、演技で、そんな世間的なイメージをひっくり返そうとするかの宣言だ。

 

 スリザリンには闇が多く、グリフィンドールには光が多い。

 

「……スリザリン!」

 

 帽子は難しそうな声だが、少年の意志を尊重して頷く。

 

 すでに緑と銀のテーブルでは、少なからず歓迎の拍手で迎え入れられている。値踏みではなく、面白い道化のようなやつだと迎えているようだった。

 

 恐ろしくもあるのが、スリザリンにおいて姓など関係なく、注目を集めていることだ。気難しそうな上級生たちに、バシバシと背中を叩かれながら笑顔で歩いている。

 味方だとわからず、敵だとわからず、そんな中立的な存在でありながら、顔を覚えられている。

 

 たぶんどの寮でもよかったんだろうけど、本当に面白がってて、そしてアイラはとても安心した気持ちになれた。

 

 だが、アイラたちの前にいる女性教師は、唇を噛んでいる様子が見れた。

 

 とはいえ彼女は首を振って、再び名前が呼ばれ始める。

 やがて呼ばれることになったのは、またアイラの知り合いだった。

 

「セオドール・ノット」

 

 彼にとっても、その『家』からして運命は定まっている。ルークがしてみせたようにすれば、他寮の選択も通るのではないかという気持ちもあるが、それはあくまで逃げとなるだろう。

 

 帽子を被り、彼は腕組みして座り、目を閉じた。

 

「スリザリン!」

 

 確かな宣告だった。

 セオドールは小さく息を吐いて、緑のテーブルに向かう。ルークのおかげで、彼までバシバシと背中を叩かれながら歩くこととなり、でも満更でもない表情を見せていた。

 彼の父のような生徒もいるかもしれないが、それだけではないように思えた。

 

 

 再び次々と名前が呼ばれ、残っている新入生は少なくなってきている。

 そして今年度1番の注目株が呼ばれることとなる。

 

「ハリー・ポッター」

 

 空気が変わった。

 大広間全体が、目に見えない波に揺れるようだ。

 

 アイラの前に立っていた兄は、赤毛の友人にあれこれ話して、私語を女性教師に注意されて、肩を震わせながら前に歩いていく。どの寮に選ばれたいかどころではない。

 

 どの寮も、彼を欲しがっているような視線を感じる。

 

 その中には、あのマルフォイまでいた。彼は食い入るように見てきていて、『子分にしてやろうか』とでも思っているかのような笑い方だ。スリザリンと言えば、悪い魔法使いがたくさんいるようなイメージを、すでにハリーも持っていた。強そうとはいえ、自らスリザリンを選び、ルークの正気を疑っているほどだ。

 

 帽子が被せられ、沈黙が長く続いた。

 それはもうとても長い。

 

 なぜならハリーは『スリザリンはイヤだ。スリザリンはイヤだ』と念じるだけだ。

 素質だけで言えば、勇気を見ればグリフィンドール、洞察力で言えばレイブンクロー、強大な魔力の相性で言えばスリザリンだ。

 そして、その中でも明らかにスリザリン適正が高い。最も才能を伸ばせる場所だ。

 

 だからこそ、帽子は悩む。

 まったく今年度の組み分けは、寮選びに好き勝手言う生徒が多いと思っていた。

 

 だが、これは、ハリーの運命の分岐点になるかもしれない。

 勇気とその資質を試す場所に導いた。

 

 時間は数分間、静かな大広間で帽子は高らかに宣言した。

 

「グリフィンドール!」

 

 すぐさま爆発するような歓声だ。

 赤と金のテーブルが立ち上がらんばかりの勢いで迎える。組み分けにかかる時間が長い生徒は、それだけ素質が多くある証拠と噂されているため、上級生たちが踊るように喜ぶ。

 

 スリザリンではなかったことに安心しつつ、ハリーはテーブルに向かう。まるで英雄をゲットしたぞというのは少々肩身が狭いが、同志や仲間として受け入れてくれることはありがたかった。

 

 そして誰かが、『生き残った双子だろ?』と話した。

 そんなウィーズリー家の双子らしき上級生が、顔を見合わせて小さく声を出しかける。『新しい双子かもな』と話を合わせる。

 

 それは広がり、すでにグリフィンドールはそういうムードだ。

 

 ちょっと上機嫌な女性教師が、静粛に、と言うまで黙ることはなかっただろう。

 そして名簿にある名前を淡々と読み上げる。

 

「アイラ・ポッター」

 

 彼女が名を呼ばれた瞬間、胸の奥が静かに締まる。

 全ての視線が集まるのを感じた。

 

 兄を取れた。妹はどうなる。

 おとなしそう。かわいい。

 どれほど時間がかかるか。予測しよう。

 妹は味方か。兄は敵かもしれない。

 

「はい」

 

 新入生の中で珍しく返事をして、アイラは一歩前に出た。

 足取りは遅くも早くもない。心はすでに決まっている。

 

 ふと、教師席の中の1人と目が合う。見た目の怖さもあり、でもその瞳は悲しそうで、自分を通して誰かを見ているようだった。

 

 アイラは教師席に丁寧にお辞儀してから、椅子に座って帽子を被れば、ブカブカで目元まで隠れるほどだった。

 布の感触が額に触れ、外の音が遠のく。

 

 心の中に話しかけてくるような声がした。

 静かで、古く、そして鋭い。

 

 提案のように語り掛けてくる。

 勇気。知性。忠誠。

 つまり素質で言えば、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフの適正なのだと。

 

 自分ではわからない。だからこそ決められない子も多いのだろうと、他人事のように理解できた。

 このまま最も成長できる場所を、選んでもらうことも簡単なのだろう。

 

 だが、もう違う。

 杖を選んだ時のように、自分の意志で選びたい。

 

「さっき言ってましたよね。『スリザリンでは、まことの友を得るだろう』って」

 

 元々決めてはいた。ルークとダフネとセオドールまで先に選ばれたのは、ますますあの緑のテーブルが面白そうだ。組み分け帽子によれば、その寮の素質はないらしくて、厳しい道のりかもしれないけど。

 

「ならば、スリザリン……」

 

 声は低く、悩むように、しかし確かに告げられた。

 

 兄と違って早かった。

 多くの人がもっとかかると思われていたため、本当に一瞬だけ大広間の空気が止まる。

 

 次の瞬間、拍手が響いた。

 それは、たったひとつの音だった。

 

 軽く帽子を指で持ち上げて、鮮やかな緑色の右目でアイラは教師席を見る。

 黒衣の男が、表情を崩さぬまま拍手をしている。

 

 理由は分からない。

 分からないまま、軽く会釈した。

 

 そして拍手は広がった。

 スリザリンのテーブルの全員が、次々と立ち上がっていく。

 

 それは歓迎だ。たとえ組み分け帽子の声が、完全には納得していなかったとしてもだ。

 

 グリフィンドール側では『まあ兄だけで満足さ』と落胆され、レイブンクロー側で『早すぎて才能なし』と判断され、ハッフルパフ側で『あの雰囲気で腹黒なのか』と疑われたとしてもだ。

 

『ようこそ、スリザリンへ』

 そんな事実が、胸の奥に静かに落ちた。

 アイラは組み分け帽子を外して、椅子から立って、改めて教師席に丁寧にお辞儀する。

 

 いざ希望通りになると、彼女の中で一気に緊張を感じ始めた。上級生なお姉様たちに次々と頭を撫でられながら、スリザリンの新入生が集まるテーブルまでたどり着いた。

 

「スリザリンこそ! キミがふさわしい寮さ!」

「まさかここまで縁があるとは」

「あなたも自分で選んだようね」

「それに、今度は早かった」

 

 マルフォイも自慢するように喜び、ルークは面白がり、ダフネは嬉しさを隠しきれてなくて、セオドールは感心する。クラップとゴイルは、まあ早くご飯を食べたそうだ。

 

「改めて、よろしくお願いします」

 

 丁寧に挨拶をしてアイラが席に着いてから、誰にも聞こえないように『やったっ』と声が出てしまう。

 

 

 

 

 その後の組み分けは、流れるように進んでいく。

 

「ロン・ウィーズリー」

 

 緊張で固まった赤毛の少年。

 帽子は短く答えを出している。

 

「グリフィンドール!」

 

 早かった。

 ロンはハリーのところに走っていって、喜びあっている。

 

 

 

 そろそろ今年度の組み分けも終わりそうだ。

 白髭の老魔法使いは、穏やかな笑みを浮かべて新入生たちを見ていた。その視線には、期待と、警戒と、不安が混じっていた。

 

 

 

 

 

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