ハリー・ポッターの呪われた双子 作:フォンテ
ホグワーツに着いて、初めての夕食で、友人たちと食べることができた。
なんとかアイラは用意してくれた1皿を食べ終えた。それでも、同じ女子であるダフネの半分にも満たない食事量だ。その背の高さや体型も、ちゃんと手入れされている髪、その気品や立ち振る舞いも、アイラの中では小さな目標となってきていた。
結局、残りの1皿はルークが軽く食べてくれた。それはもうとても早かった。きっと彼はアイラが食べるスピードに合わせてくれていたのだろう。ダフネやセオドールが先に食べ終えても、まだ彼はじっくり味わうように食べていた。
「……ありがとう、いろいろ」
「何のことかな。さて、そろそろ移動のようだ。各自忘れ物はないか? 残った料理は持ち帰りサービスか?」
アイラがお礼を言ったら、ルークがちょっと早口だったのは、ちょっと照れてるからだろうか。
「あるわけないだろ。クラップ! ゴイル! お前たち乗せられるんじゃないぞ!」
ルークのことを『天才か!』と見ていた2人を、さすがにマルフォイは止めた。
「寮の談話室では、お茶菓子や紅茶は自由、そう聞いている。神聖な寮に、肉の匂いを持ち込むんじゃない」
「「わかった」」
しっかりフォローする辺り、やはり身内には優しい少年である。
夕食後の大広間は、全体的にはまだざわめきを残していた。だがスリザリンの上級生がタイミングを合わせるように席を立つと、このテーブルだけその雰囲気はとても早く切り替わる。
「立てるか」
「ん」
ルークにアイラは問われるが、いつもより、ほどよく食べすぎたとはいえ、身体が喜んでいるかのようだ。トランクもここに来るまでに預かられたので、重い荷物もない。
相棒の杖だけは、ローブの中でしっかりあるか確かめた。何があっても、これだけは忘れてはならない。
上級生たちが先に歩いていき、そして3人の最上級生が1年組のテーブルの前に立った。
「ついてこい」
そう事務的に指示される。
笑い声や食器の触れ合う音は背後に置き去りにされ、新入生全員で足並みをそろえて歩き始める。
1年組の先頭を歩いているのは、緑銀のネクタイを締めた上級生とその補佐の男女2人である。背筋は伸びていて、歩調は一定で、振り返ることはない。そんな背中は、この寮の立ち振る舞いを模範的に示しているかのようだ。
地下へと続く通路は冷え、壁の石が湿り気を帯びている。たいまつの光は白ではなく、緑がかっていた。影が長く伸び、足元を掠める。
アイラは自然と最後尾になってしまう。ルークは歩調を合わせて、自然に隣を歩いていてくれる。背が高いため、視界の端に肩口が入る。
すぐ前にいるダフネやセオドールは、並ぶように歩いている。
1年組の先頭はマルフォイたちが堂々と歩いていて、みんなを引き連れているかのようだ。
曲がり角の先、階段の前で一行は足を止めた。上級生が初めて振り返り、低い声で話し始める。
「ここでまとめて話す。1度しか話さないぞ。覚えておけ」
声は落ち着いており、威圧はないが、余分な感情もない。
「まず、ホグワーツの階段は動く。だがでたらめじゃない。時間帯と魔力の流れで接続が変わる。焦るな。焦るほど遠回りになる」
目の前の光景を見ながら、しっかりと情報としてきちんと頭に入れる。法則性があると言われても、まさしく迷路なようだった。もし明日から1人でこの階段を通って大広間に戻れと言われても、アイラは絶対に迷う自信がある。
同じく最後尾のルークは『遊びで作っただろ』と笑い、ダフネは『変えるべきでは』と呆れ、セオドールは『でたらめに見える』と呟く。
「次に寮の方針だ。結果を重んじる。寮内の問題は寮内で処理する。他寮と揉めるな。だが、1人で抱え込むな。必ず上級生に報告しろ」
その言葉に、命令や脅しは含まれていなかった。だが、前提としての結束が明確に置かれている。個人より集団を優先するのではなく、集団が個人を背負うという形のようだ。
「あの頭でっかちで、自分勝手な正義感で、声が大きいだけ……グリフィンドールとのいざこざは起こりやすい。感情で動くな。必要なら俺たちも出る」
何年もホグワーツで暮らしてきている上級生として、感情があからさまに出ていたが、冷静な態度に戻って淡々と言う。グリフィンドールと言えばハリーがいて、アイラはいつか敵対するだろうかと思うも、なかなか想像できなかった。
「また、寮監はスネイプ教授だ。我がスリザリン出身で、魔法薬学を担当している。厳しいが無駄を嫌う。守ってはくれるが、甘やかしはしない。覚えておけ」
そう言われても、大広間にいたどの教師が、その寮監とはわからない。挨拶のために顔を見せないのも上級生が語る通りなことなんだろう。1年生の授業にもある魔法薬学で、やっと誰なのか判明しそうだ。
「以上だ。質問はないな」
誰も声を上げない。
上級生はそれで話を切り上げ、再び歩き出した。
慣れている様子で階段を下り、さらに地下深くへ進んでいく。いまだ意味不明な階段さえなんとかなれば、通路は一本道らしい。それでも、明日になったら1人で大広間に戻れる自信はなかった。
水音が微かに聞こえ、空気が一段と冷える。地下湖に面した場所に、スリザリン寮の入口はあるようだ。合言葉が低く告げられ、扉が音もなく開く。説明がなかったが、合言葉を覚えておかなければ、入ることはできないのだろう。アイラはしっかりと頭の中で書き留めた。
「ここが談話室」
そんな共用空間は広く、落ち着いた緑色の色調で統一されている。壁には誰かの偉人のような肖像画が並び、視線を動かすたびに、描かれた人物と目が合うような錯覚を覚えた。
見るからに高級だ。
ソファが多く、それを挟むようなテーブルがあり、冬のためには暖炉まである。すでに上級生たちがグループごとに談笑していて、アイラたちが入ってくると、『ようこそ』という視線を送ってくる。クラップとゴイルは、すでにテーブルにあるお茶菓子や紅茶に興奮しているようだ。
「もう少し待て」
「といっても、最後ですよ」
マルフォイが2人を止めて、上級生はマルフォイに敬語で接している。学年ではなく、家の格として、そう接しているように思えた。
たぶんアイラは、そういう意味ではスリザリンで1番下の立場になるだろう。まあ、意識して威張るよりは、そっちのほうが気楽だ。だんだんと性格がわかってきたルークも似たような考えだと思える。
「ここから先は区画が分かれる。右が男子、左が女子だ。新入生は、それぞれ案内に従え」
その言葉に応じるように、彼の補佐をしているうちの1人、女子が集合場所かのように立っている。1年組はここで分かれることになるらしい。
男子と女子、通っていた小学校でもそういう分け方はあったが。
「行きましょう」
「……はい」
最後尾にいたダフネは、アイラにそう言う。
気持ちはわかるが、これは仕方ないことだ。
アイラは一度、ルークの方を見てしまう。彼はすでにセオドールと男子組のところに向かっていて『また明日』と言っているように手のひらを向けてきた。それを真似して『また明日』ってする。
ダフネは『……え、もしかして付き合ってる?』と思いながら、アイラと隣り合って女子寮に向かう。
女子の廊下は共用空間よりもさらに静かだ。扉が等間隔に並んで、それぞれに名前が刻まれている。足音が響くたび、広さと静けさが際立つ。
「全員個室よ。スリザリン生はパーソナルスペースを持ちたがるわ。他の寮じゃ、こうはいかないわね」
女子の上級生からは、説明というよりは、事実の提示だった。
そしてスリザリンに選ばれたことを誇るといい、とも取れた。
アイラは想像する。友人であるダフネはともかく、まだ名前も知らない他の女子たち全員と、ベッドを並べて一緒に眠る光景だ。アイラが眠っていた時に隣にいたのは、ハリーだけか、ペチュニアだけか。
思わず、軽く首を振ってしまった。
肌身離さず持っている杖など、持ってきている私物や金銭の管理を、他人の共同部屋では想像したくもなかった。もしダドリーのような女子でもいれば、ぶんどられてしまうだろう。
「あいつね。偉そうに仕切ってたけど、結構ビビりなのよ。他にも男子の弱み、いろいろ握ってるから。何かあれば私たち上級生に言いなさいね」
『これは女子だけの内緒ね』って、人差し指を唇に当てる仕草で教えてくれた。
このスリザリンだと『家』の格を重視することは実感してきた。でも、助けを求めれば、助けてくれる人たちはいるらしい。
「さっ、明日は6時に談話室で集合、慣れるまでは交代で階段を教えてあげる。女子だけの特権よ」
ダフネもアイラも、他の女子たちも、すっかりお姉様の虜にされてしまった。
それほどまでにあの階段は、意味不明である。
こうして1年組女子たちは、それぞれの部屋を見つけ、次々と自分の部屋に入っていく。アイラも、自分の名前が刻まれた扉の前で足を止める。隣ではダフネも立ち止まった。どうやら隣の部屋のようで、縁のようなものを感じる。
「もし何かあれば、ノックして呼びなさい。起きていたら対応してあげるわ」
「ありがとうございます。あの、私も……呼んでください」
アイラはきっと自分にできることは少ないけれど、ダフネが困っていたら助けたい気持ちはある。ルークが言っていたように、『友人価格なら無料』だろうから。
「……なら、起きれなかったら、起こしてちょうだい。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
アイラは目を輝かせて、礼儀正しく頭を下げる。頼れる友人から、頼み事をされて嬉しかった。
目を見開いたダフネは、さっと振り返って、部屋の扉を開けて入っていった。
アイラもまた1人で部屋に入る。
おそるおそるではあった。
「わぁ……」
そこには静かな空間が広がっている。天井は高く、壁紙や絨毯は深い緑色で統一されている。家具はどれも上質で、使い込まれていない光沢を帯びていた。
視線を巡らせると、すでに荷物が運び込まれているのがわかる。駅で預けたカートの中身は、なんと整理されて部屋に収められていた。棚には教科書一式がきれいに並び、まだまだ空きスペースがある。
そして、足元にはトランクが置かれていた。
まずはそれを開けて、そこに入れていた教科書を1冊ずつ確認する。魔法史、変身術、呪文学、魔法薬学、天文学だ。すべて揃っている。それだけで、胸の奥が少し緩んだ。
ダーズリー家にいた時には、どれも少しずつ読み進めている。行くまでの汽車だと、ルークと話し込んだことで結局読まなかった。でも彼との会話は、とても大事なことでいっぱいだった。
トランクの中には他にも、ロンドンで買った私服、金貨袋がちゃんとある。枚数までしっかり数えて、1枚も失われていない。再びホッとする。
トランクと私服一式も、適する場所に収めた。とはいえ、まだまだ部屋が広すぎる。どの家具も立派で、どれも自分には分不相応に見えた。上質な素材に触れる度に場違いな感覚が指先に残る。
他の寮はどうなんだろうか。
高級ベッドなんて、なぜか雨を避けるかのような屋根まで付いている。なんでついているんだろう。
そしてローブの袖から、相棒の杖を出して両手で持つ。
ここがお部屋だと見せるよりは、相棒に付いててほしかった。
少ない荷物の片付けを終えて、部屋の中央に立った。静かすぎる空間には、自分の呼吸音だけが響く。やはり落ち着かない。視線の置き場に困り、やがてベッドから毛布を1枚を持ち上げた。
「よいしょ……」
大人用毛布なのではないかと思う大きさだ。
それと教科書を1冊持って、アイラは部屋の隅に向かう。そこで壁に背を預けて座り込むことにする。
毛布を肩からかぶり、膝を抱える。
座っている絨毯だってふわふわで暖かい。
教科書の文字を追いながら、今日のできごとを静かに頭の中で整理していく。
自分は選んだ。歓迎された。
その結果として、この場所にいる。
ルーク、ダフネ、セオドールも一緒の寮だ。マルフォイや上級生たち、頼れる人がたくさんいる。
そう思うとすごく嬉しくなる。この部屋には杖と自分だけだからなのか、我ながら気持ち悪いくらいにニヤニヤしてしまう。
明日から本格的に魔法を学ぶ日々が始まるだろう。
評価されるらしくて、せめて減点は避けたい。それに、この左目の呪いを乗り越えて、いつか世界を旅できるくらいには、強くなりたい。
友人と一緒にがんばっていける。
スリザリンで本当によかった。
地下湖の向こうから、微かな水音が聞こえる。寮全体が眠りに向かう気配の中で、アイラの意識もゆっくりと沈んでいった。