ハリー・ポッターの呪われた双子   作:フォンテ

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11話 魔法薬学②

 

 アイラやダフネは片付けを進め始めていた。

 黒板に書かれていたことは、いわゆる宿題であるが、早く2人で今日の反省を話し合って、レポートにまとめたいほどだ。

 

「合格者に縋ることは禁ずる。ハリー・ポッター、かの英雄の兄にも言っておかねばならんな。優等生な妹を頼ろうなどと思わないように」

 

 ハリーは、変身術といい、魔法薬学といい、妹との比較を感じる日になっていた。

 そんな不満を抱えながらも作業を続ける。ただでさえ予習や予備知識が足りないのもあり、ロンも同じく初心者であり、ねちねちと注意されていた。

 

 どうしても彼は、『アイラは、スリザリンの優秀なやつを頼ってるくせに』、と内心では思ってしまっていた。

 そんな考えをスネイプにバレていることが、ますます彼が目をつけられていく理由にもなる。

 

 そんなハリーとスネイプの犬猿の仲を知ることもない。

 及第点をもらえたことにアイラはひとまず安心しながら、片付けを一旦終えたところで。

 

「……えっ、そういえば私たちが最速?」

「……あっ、そうですよね」

 

 ダフネやアイラは、隣の作業台の様子を見る。

 

「ほら、俺の勘も捨てたものではなかっただろ? もっと冷ましてからだって」

「なぜ上手くいったか…考えないと……」

 

 ルークとセオドールの鍋も、少し遅れて完成していたようだった

 アイラとダフネが様子を見にいけば、色は淡く、しかも澄んでいる。粘り気のある薬液は半透明で、濁りがほとんどない。

 

 同じ材料だったのに、結果がまるで違っていた。

 

「なぜ、教科書通りに行わなかった?」

 

 再び向かってくるスネイプの声だった。

 低く、冷たい。

 

 アイラたちに向けられていたものとも、ハリーが向けられていたものとも、明らかに質が違う感覚だった。

 ルークはいつも通りだが、セオドールの背筋は目に見えて強張っている。

 

「重大な失敗をしていた可能性もあった。それは考えていたか?」

 

「友人の勘と…自分の経験から……正しいと思いました」

 

 セオドールは震えを抑えた声で、真っ直ぐに答える。

 教科書内容には予習段階で疑問があった。家庭で学んだ経験に基づいて、ところどころの修正を決めて、感覚的な部分はルークに任せた。だから、班としての連帯責任である。

 

 ルークは、結果的に上手くいった成果をむしろ誇っているかのようだ。自分の勘と、セオドールの知識と経験の合作である。

 

「ふむ……」

 

 だがスネイプの表情は厳しいままだ。

 

 セオドールは、ぐっと拳を握った。

 それでもルークは気にした様子を見せていなくて。

 

「結果は、1年にしては見事と言えよう。ノット班には、2点ずつ加点とする」

 

 つまり教室で2番目の完成にして、しかも純粋に褒めたたえた。

 いくらグリフィンドールよりスリザリンをひいきすると言っても、魔法薬学のことには手を抜かない教師である。

 

 それはもう教室は騒然となっていた。

 スネイプは、『集中しろ』と注意する。

 

「お前たちも、片付けをして、次回授業までの課題内容を続けろ。わかったな」

 

「はい!」

「わかりました」

 

 セオドールは明るい声で頷いて、ルークも素直に頷く。近くにいたアイラやダフネも、合わせるように会釈しておいた。

 

「……生きた心地しなかった」

 

 セオドールが小さく息を吐いた。

 

 授業時間はまだまだ余っている。アイラとダフネは、友人ということを抜きにしても、このチャンスを必ず大切にしようという気持ちだった。

 自分たちの作業台からノートを持ってきて、取材を始めるかのようだ。

 

「変更点は書き残してやったぞ。セオドールに、どうしてもってな」

「それが大事に決まってるでしょ」

「ぇと…火加減は『感覚で』……加熱時間は『感覚で』……」

「…僕が思い出そう…言語化してみせる……」

 

 こうして4人は、互いのノートを見比べながら意見交換を始めた。

 教科書通りでは上手くいかなかった点と、あとはルークの勘の部分の言語化だ。

 

 とはいえルークも説明下手というわけではなく、今回の薬液の様子から、最適だと思う混ぜ方や火加減を言葉にした。どうやら故郷では、彼も魔法薬学のようなことは経験があるらしい。

 

 しかし教科書に出てくるような表現をしていないのは、きっと読んでいないからだろう。彼もセオドールの基礎があってこそ、余裕をもって応用ができたわけだ。

 

 そして何でもかんでも、教科書に書かれていないことをすればいいわけでもない。

 それのよる異変は、音より先に匂いでわかった。

 

 焦げたような、金属と腐ったものが混ざったような臭気が、教室の空気を裂いた。

 

 アイラたちもノートから顔を上げて、反射的にそちらを見た。

 

 それは、グリフィンドール生の班の鍋からだった。

 ここから遠くからしか様子が見えないが。

 

「あれだな。火が強すぎる。セオドール、どこまでの被害になると思う?」

「この材料ならそこまで」

「ちょ、誰か止めなさいよ!」

「……ぇ?」

 

 ルークはいつでも動けるような体勢で、セオドールは冷静に教えて、ダフネは焦りながらアイラを守るように抱えた。

 

 煙の色が、急激に変わった。

 濁っていた薬液が、濁りを通り越して、泡立ちながら膨れ上がる。

 

「ちっ……」

 

 それに気づいたスネイプが杖を向け、古びた鍋を弾き飛ばす。

 

 大きな音が鳴る。

 教室の壁には叩きつけられた鍋からは、まるで噴火するかのように薬液がどんどん噴き出ていた。作業台の付近にいたグリフィンドール生は守られたことになる。

 

 しかし、弾き飛ばす前には、液体が跳ねていたらしく、かき混ぜていた少年の腕にはかかっていたようだ。

 少年は声を上げるより早く、後ろに倒れ込む。

 

「痛いっ……!」

 

 床に背中をぶつけたのもあるが、腕の皮膚がみるみる腫れ上がる。

 赤く、ぶつぶつとしたものが、腕全体に浮かび上がっていく。

 

 まさしく、おできである。

 おできを治す薬の工程でどんな失敗をしたのかわからないが、おできを作る薬になってしまったようだ。

 

 教室がざわめいた。

 

「黙れ」

 

 一言で、空気が凍る。

 スネイプが歩み寄り、足元にいる少年を見下ろす。

 

 もはやグリフィンドール生かどうかなど関係ない。

 魔法薬学において、事故など何よりも許されないことだ。本来は治すべき薬は、毒にもなりうるからだ。

 

「事前に教科書を読まないどころか、わざわざ黒板に書いてやった手順すら守れないとはな。ロングボトム」

 

 ネビルは震えながら見上げた。

 スネイプの表情に、完全に怯えてしまっている。

 

「言え。どこが間違っていた?」

 

「……ごめん…なさい……」

 

 だが、言えない。

 

「馬鹿者」

 

 そしてスネイプの視線が、すっと横に流れる。

 別の場所で止まった。

 

「では、ハリー・ポッターに聞こう」

 

 名を呼ばれた瞬間、ハリーがびくりと肩を跳ねさせる。

 

「今の失敗について、どう思う?」

 

 その問いは、理不尽だった。

 ハリーはネビルの隣ですらない。

 

「え……えっと……」

 

 最前列の席からはハーマイオニーが、自分の予想を言おうと、素早く手を挙げている。

 だが、そちらをスネイプは見ることもしない。その作業や知識量も含めて、優秀ではあるだろうが、わざわざ助け船を出させる必要もない。

 

 これは、全体に向けての注意喚起である。

 これはまだ1年の授業だから、多少のやけどと、おできができるだけで済んだだけだ。

 

「答えろ」

「……わかりません」

 

 ハリーは隣のロンを見るも、彼も首を振るしかない。

 そんな態度が、『せめて黒板を見ればいいものを』とスネイプを苛立たせる。

 

「火を止めて、適温まで冷やし、ヤマアラシの針を入れる、だ」

 

 スネイプは杖を振って、黒板に刻みつけるように、その工程を書き直した。引っかくような音に、思わず生徒たちは耳を塞いでしまう。

 

 その被害は、前の席にいるアイラも巻き込まれてしまっている。

 

 どうしてもハリーに彼の面影を見て感情的になってしまっていた、そんなスネイプは舌打ちする。

 

「さて兄のポッター、付近で事故が起きているのに、ぼうっと突っ立っていた理由は何だ? ロングボトムの事故、兄ポッターの不注意、合わせてグリフィンドールから10点減点」

 

 この授業だけで、ハーマイオニーが変身術の授業で稼いだポイントを、すべて帳消しにされたようなものだ。

 対してスリザリンは、1度も減点もされていないし、少し加点すらされている。

 

「そんな!?」

 

 ハリーは驚く。

 それでも、グリフィンドールの誰も異議を唱えなかった。

 

 スネイプは杖を振るい、無言呪文によって、アイラやダフネの作業台にあった鍋から、その薬液を宙に浮かせる。それをネビルの腕に、完璧に塗布してみせた。

 

 効果がわかるのは、一瞬だった。

 おできは、音を立てながら引いていった。

 

 同じ材料であろうと、毒にもなれば、薬にもなる。

 

「知識のない馬鹿者は、せめて教科書通りにできるようにしておくことだ」

 

 それは個人にだけではない。

 教室全体に向けて、低く告げる。

 

「だが、教科書通りにやれば、最善とは限らんがな?」

 

 それはスリザリン生にも伝えているようだった。

 

「作業を続けろ。ロングボトム班、最初からやり直せ。できるまでやってもらう」

 

 泣きべそをかいていることなど、この授業においては関係はない。もしも続ける気がないのなら。

 

「それとも、もうホグワーツから去るかね?」

 

 初回授業から、その厳しさを伝えてくるかのようだった。

 

「まだ授業時間は残っている。しかしこの焦げた匂いの中でレポートをまとめる必要もない」

 

 そう言って、スネイプは教卓まで移動した。

 合格ラインまで達している者たちは、ちょうど教室の最前列にいる。

 

「すでに合格した4名、それとマルフォイ班、グレンジャー班は、片付けが終わり次第に教室外で自由時間としたまえ」

 

 それは強制かのような命令だった。

 アイラは他の生徒が心配になる。もしダフネの手伝いがなければ、作業はまだまだ終わっていなかっただろう。

 でも『早く行きたまえ』とスネイプに催促され、荷物を持ってルークたちと教室から出るしかなかった。

 

 マルフォイもクラップやゴイルに手伝わせて片付け終え、ポッター兄に何か挑発しようとしたが、彼はすでにネチネチと注意が再開されている。

 鼻を鳴らして、もう腹を空かせている2人に軽食を与えるべく、アイラたちを追って談話室に向かった。

 

 1人で薬を完成させ、素早く片付け終えたハーマイオニーも、帰り際に見事な薬液を見てから、ブツブツと考えながらも出ていった。

 

 教室を出て歩く廊下はまだ授業中らしく、とても静かだ。そして空気がとても美味しく感じるかのようだった。

 アイラやダフネやセオドールが小さく息を吐いた。

 

「怖い授業ね」

 

「そうですね、でも」

 

「理由が、ちゃんとある」

 

「……レポートは真面目に書くとしよう」

 

 ルークの言う通り、魔法薬学に関して、一切の甘えを許してくれない人物だと感じていた。純血家系で呪文より先に学ぶとされている学問であり、魔法界の科学が詰まったような理論体系である。

 

 1コマ目の変身術、2コマ目の魔法薬学という科目は、どちらもただの暗記ではない。どちらも厳格な授業だった。

 そして、1つ1つの知識をただ覚えていくのではない。常に考えさせられる、そんな学びだった。

 

 初回授業の時点で、それを思い知らされていた。

 

 

 

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