ハリー・ポッターの呪われた双子   作:フォンテ

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第7話 ダイアゴン横丁②

 

 

 両親が残した金貨のいくつかを持ち出し、2人はそれが入った袋を抱えて、再びトロッコに揺らされて戻ってきた。息を整えて、本当はどこかで座って休みたいが、しっかりと金貨袋を抱え直した。

 

「容易に外で見せびらかしてはいけないぞ」

 

 そうハグリッドから教えられる。

 

「ダドリーみたいなやつに取られるもんね」

 

 ハリーは過去の記憶と合わせて、その忠告をしっかりと学んだ。マリアも、自分が触ることを許されなかった手紙のように、しっかり隠して管理しておくべきものだと学んだ。

 

 最初は、2人はどうやって金貨袋を隠して歩こうかと悩んだ。

 細腕ではずっしりと重く、服の中くらいしか隠すところがない。

 

「あのさ、ハグリッドが持っててくれない?」

 

 それはハリーが初めて大人を信頼して、初めて依頼したことだった。ハグリッドは『任せちょれ』と真剣な表情で頷く。ハリーをガシガシと撫でまわしてから、金貨袋を外套の中に入れ込んだ。

 

「その…私もお願いします……」

 

 それを見て、アイラも金貨袋を預かってもらうよう依頼した。きっとまだハリーほどは、ハグリッドを心の底からは信じきれていない。ペチュニアたち以外の大人と関わってきた経験が少ないからだ。だが、今は頼るしかない。

 

 再び『任せちょれ』と、真剣な表情でハグリッドは頷いた。アイラも撫でようとするが、肩がビクっと震えた様子に、大きな手を引っ込めた。気にするなという風に、笑いかける。

 

「おっし、買い出しにいくぞ」

 

「ん! 早く行こう!」

 

 これで、気兼ねなく買い物ができる。

 ハリーは騒がしく走りながら、銀行を出ていってから振り返り、ハグリッドやアイラを急かす。ゴブリンに睨まれていることをアイラは気にしてしまうが、ハグリッドが安心させるように大きく頷く。

 

 再びダイアゴン横丁の街並みが視界に入る。

 石畳はずっと続いていて、両脇に店が立ち並ぶ。動く看板、色とりどりの瓶、勝手に跳ねるように動く魔法道具まである。人々の活気もすごい。

 

 ハリーの視線は、右へ左へと忙しない。

 

「……すごい」

 

 抑えきれない声音だった。

 

「全部、見ていいんだよね?」

 

 確認するように言うその言葉には、期待が多く含まれていた。あえてハグリッドでなく、自分に問いかけてきたのは、きっとアイラにも同じ期待を共有しているからだろう。ここまで無邪気に笑う姿を、初めて見たように思える。

 

 アイラも、ちょっぴり口元を緩めた。

 

「止める人はいないと思う」

 

「だよね!」

 

 ハリーは心の底から笑った。

 自由に見ていいんだ、自由に買っていいんだ、って魂が震えるかのように喜んでいる。

 

 住んでいた家では決して許されなかった。毎年ダドリーだけが、まともなプレゼントを貰う姿を眺めているだけだった。

 

 ハリーは、ダドリーの意地悪でプレゼントされるのは、ティッシュペーパーとかだった。

 アイラには、ダドリーが苦手な野菜を押しつけていた。

 

 欲しがらず、触れず、興味を示さないふりをしてきた。ハリーは、そんな日々の反動が今になって一気に噴き出しているようだった。

 

 アイラもまた、何か便利な道具を買えたのなら、料理や掃除が楽になるかもしれないと思っていた。ふよふよ浮いてて、とてつもなく大きい箒だって飾ってある。

 

 ハグリッドは、そんな2人の様子を一歩引いた位置から見守る。

 

 彼は思い出したように、コートの内ポケットから1枚の羊皮紙を取り出した。くしゃくしゃに折り畳まれて、雨にも濡れているが、しっかり字は読める、そんな買い物リストだ。

 

「さて」

 

 低い声で言ってから、しゃがみ込むようにして2人の視線の高さに合わせる。

 

「これが、ホグワーツの入学準備だ」

 

 指でつまむようにして、2人に見せる。

 そんな羊皮紙には、様々な単語が並んでいる。教科書、ローブ、魔道具、羽根ペン、インク。そして最後に、杖だ。

 

 アイラは1つずつ、目で追って、しっかりと記憶して、ゆっくりと頷く。

 

「これが全部、必要なの?」

 

「おうとも。学校で必要だ」

 

「……多いですね」

 

 アイラは料理のメニューを組み立てるように、何から買えばいいのか、癖で考え込む。 それに、この広すぎる街並みの、どこで買っていけばいいかもわからない。値段だって、お金の使い方だって、経験したことがない。

 

「心配はいらん。店の場所はだいたい分かっとる。俺が案内してやる」

 

 ハグリッドは笑いながら、そう言って通りのあちこちを指さす。

 

「あっちがローブ屋、その先が書店だ。魔道具はまとめて買える店がある。俺からすりゃあ、動物の店が特にオススメだが、後回しするか」

 

 そして、ドンと胸を叩いて音を立てる。

 

「買ったもんは、全部俺が持つ。遠慮はいらん」

 

「え、でも……」

 

 アイラが反射的に言いかける。

 ハグリッドは、分厚い腕を軽く振ってみせる。

 

「これくらいでへばるほど、やわじゃねぇ」

 

 実際に、彼自身の荷物も持っているし、外套には様々な袋が取り付けられている。でも、その巨体はまだまだ余裕がありそうだ。

 

 アイラは、ちっぽけな手のひらと、どうしても見比べてしまった。

 

「まずはローブか? 行くぞ?」

 

 よっこいせとハグリッドは立ち上がって、通りの奥に向かって歩き出す。

 

 2人は、その背中を追う。

 歩きながら、ハリーは相変わらずキョロキョロと視線を動かしていた。少しでもたくさんの物を、ありのままに見ようとしていた。

 アイラは、軽く何が売っているかだけを把握しつつ、値札の数字などを観察する。どういうものが高くて、どういうものが安いのか、少しでも早くお金の使い方を学ぼうとしていた。

 

 やがて、背の高い店構えが見えてきた。

 古風な看板には、金色の文字で店名が刻まれている。ここがローブ専門店らしい。

 

 中に入ると、空気が一変した。

 布地の匂い、静かな照明、壁一面に並ぶ黒いローブだ。

 

 店員が、すぐに気づいて近づいてくる。

 

「いらっしゃいませ」

 

 穏やかな声だった。

 

「新入生、ですね」

 

「おう、そうだ」

 

 ハグリッドが答える。

 

「2人分頼むぞ」

 

 採寸は手早かった。

 腕を広げ、立ち位置を指示され、柔らかな巻き尺が体をなぞる。

 

 ハリーは、じっとしているのが苦手なのか、何度も姿勢を変えそうになる。

 

「動かないで」

 

「ご、ごめん」

 

 店員の注意に、慌てて背筋を伸ばす。

 

 アイラは指示通りに静止していた。

 ローブに刺繍を入れるらしく、名前を呼ばれたときも、小さく、しかしはっきりと返事をする。

 

「アイラ・ポッターです」

 

 その声は、この場所に溶け込むように落ち着いていた。

 

 そして、これから魔法を使うらしく、店主は杖を優雅に振るう。

 

 ローブは波打つように浮かび、細かく大きさを変えていき、針は名前を書いていく。そんな光景を、ハリーもアイラも真剣に見つめた。

 

 なんて魔法はすごいんだ、すごく便利そうですね、と。

 

「おほほ、これでどうかしら?」

 

 杖をちょいと振るえば、目の前に仕立て上がったローブが浮かんでいる。恐る恐る袖を通せば、優しく体を包み込む感覚だ。

 

 それは今まで着てきた古着とは、まったく違う。

 ロンドンで買った服よりも、もっと着心地抜群だ。

 

「……制服、なんだな」

 

 ハリーが、だいぶダボダボな裾を引っ張りながら言う。

 

「学校に行くって感じがするね」

 

 アイラも、同じ感想を抱いていた。

 

「だいぶ大きめに作ったけれどね。あなたたち1年生は、身長がすぐ伸びるのよ」

 

 そう言いながら、ローブのサイズに基づいて、他の制服用品は全て用意しきっていた。ハリーはズボンで、アイラはスカートだ。兄と妹で、別だった。

 

 アイラはスカートを履いたことなどないが、それを店主は知らない。今更、私もズボンがいい、なんて言えない。選んでくれたものとして素直に買うことにする。愉快な店主の仕事は完璧だろう。

 

 スカートがどういうものなのか、試すのも悪くないように思えた。前髪を伸ばしてて、目を隠してて、オッドアイで、痩せ細っていて、かわいくなくて

 

 そんな自分には似合わないだろうけど。

 でも、制服を着た姿を、なんだか想像してしまっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 2人がローブを脱いで渡せば、今度は制服一式を手作業で畳んで、紙袋に入れていってくれる。それは、まるで愛情を込めるかのようだった。

 

「また来年、ここに来なさいな。新しくするにしろ、大きくし立て直すにしろね。安くするわよ?」

 

 とても優しくしてくれた。

 他人の子どもなのに、どうしてだろう、とアイラは首を傾げた。

 

 お金の払い方まで丁寧に教えてくれて、アイラとハリーは初めての買い物を経験した。ハグリッドも否定していないから、たぶん騙されてはいないはず。

 

 そうして店を出ると、ハグリッドの包みが2つ増えた。しかし、相変わらず平然としている。

 

「次は、あー、そうだ、書店が近いぞ?」

 

 その声に、ハリーは勢いよく頷いた。

 

「本って、魔法の?」

 

「もちろんだ」

 

 期待に満ちた返事に、ハリーの足取りが自然と速くなる。

 

 アイラは、その背中を一歩遅れて追いながら、通りの先を見据えた。

 まだ買い物は半分も終わっていない。

 

 それでも、この街で過ごす時間が、確実に自分たちのものになりつつあることだけは、はっきりと分かっていた。

 

 

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