ハリー・ポッターの呪われた双子   作:フォンテ

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第8話 ダイアゴン横丁③

 

 次に向かう書店は、さらに奥まった場所にあった。

 

 外観は古く、窓ガラス越しに見える棚はぎっしりと本で埋まっている。扉を開けた瞬間、紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。乾いた匂いだが不快ではない。むしろ落ち着く。

 

 思った以上に広かった。背の高い書棚が何列も並び、天井近くまで本が積み上げられている。脚立を使って上の棚を整理している店員の姿も見えた。

 

 ハリーは、入った瞬間に声を上げそうになって、慌てて口を押さえた。

 

「……全部、本?」

 

「全部だ」

 

 ハグリッドが頷く。

 

 いくつも本が浮いている光景もあって。

 思わず二度見したが、本に犬のように噛みつかれそうになって、杖を振って戦っている店員もいた。

 

「ここはほとんど勉強のためのもん。ホグワーツから指定されるような教科書も、当然全部揃っちょる」

 

 そう言われて改めて見回すと、確かに派手な表紙は少ない。厚く、重そうで、文字が詰まっている本ばかりだ。元々はダドリーに買い与えられ、そのお下がりで読んでいた絵本などは、ここにはなさそうだ。

 

 アイラは、背表紙の文字を追いながら、ハグリッドについていく。『呪文学基礎』『魔法史 第一巻』『初等魔法薬学』。幸いにして、魔法界だろうと字は読める。まだ海外留学よりは難易度が低そうだけど。

 

 でも、どれも今まで一度も触れたことのない分野だった。

 通っていた小学校で習っていた内容より、ずっと難しそうだ。

 

 店員が近づいてきて、買い物リストを見る。

 

「新入生用ですね。こちらですよ」

 

 女性店員に案内された棚には、同じ装丁の本がずらりと並んでいた。

 

「重いから、気をつけてね。まだ2人は1年生だから、安全だけどね」

 

「……レンガみたい」

 

「読むより、持つだけで大変そうだね」

 

 ハリーは持ってみる。アイラもなんとか持ち上げてみる。

 それに、学年が進むごとに、安全ではない本が増える気がしていた。

 

 ハリーは1冊1冊を嬉しそうに次々と重ねていく。小学校の教科書だとここまで喜んでいなかった。これで学んでいくんだと、どこか誇らしげだった。

 

 アイラは、自分が持つことのできる重さを確認しながら、慎重に少しずつ、カウンターまで運ぶ。まるで家事の延長のような動きになっていた。

 

 羽根ペンとか、インクとか、それらも購入した。

 書店を出てからも、そのほか必要なものを買い揃えた。

 

 持ってきた金貨は袋からどんどん減る。

 所有物は自分たちでは持ちきれないほど増える。

 

 ハグリッドの全身は荷物の包みだらけである。2人分はさすがに彼も厳しくなってきたが、ハリーやアイラが気兼ねなく買い物できるように、笑顔を浮かべ続けた。

 

「そろそろ杖……いや、ここならフクロウの店が近いぞ?」

 

「動物? そういえば、1匹までなら飼っていいって」

 

「……ん」

 

 ハリーがそう視線を向けると、アイラはずっと握っていた買い物リストを読み直して頷いた。フクロウ、猫、ヒキガエルという指定であり、どういう選び方なんだろうと思った。

 

「ホグワーツの生徒だけじゃねぇぞ。魔法使いの連中で、フクロウを飼ってるやつは多い。いいか、フクロウ、猫、ヒキガエル、このどれか1匹だぞ?」

 

「その中なら、フクロウがいいや」

 

 ハリーは素直に答える。きっと1番カッコよさそうなペットだと判断している。

 

「アイラはどうだ? フクロウは手紙を届けてくれる。魔法界の猫は賢いし、ヒキガエルもかわええぞ?」

 

「私は……えっと…フクロウを見て決めます」

 

 どれにするか、というより、まず飼うかどうかを悩んでいた。

 リストには、あくまで1匹だけ飼うことができるという書き方がされている。つまり希望者だけだろう。必要になりそうならば、購入も検討するが、きっと高い買い物となるだろうし、それにまだまだ頼りない自分が、1匹の動物の命の責任を持てる自信がなかった。

 

 ハグリッドに案内され、そんなフクロウの店は、鳴き声ですぐに分かった。

 

 扉を開ける前から、羽ばたく音と、小さなさえずりが漏れている。

 

 思ったよりも整理されていた。基本はフクロウだが、入口のすぐ近くには小鳥のための止まり木が並んでいる。

 

「いろいろいるね!」

 

 白い羽、茶色の羽、斑点模様、目の色もさまざまだ。

 その中でも、ハリーは、まっすぐと真っ白なフクロウのところへ向かう。

 

 アイラは足を止める。

 小さな止まり木には、丸い体の小鳥たちが見つめてくる。

 

 その中の1羽が、ふいに飛び立った。

 ふわりと弧を描き、アイラの肩に止まる。

 

「……えっと」

 

 困惑と不安だった。

 もし驚いて首を動かしてしまえば、髪にぶつかって、小鳥が落ちるところだった。

 

 目線を向ければ、小鳥は首を傾げ、つぶらな目でこちらを見ている。

 ハグリッドにどうするか聞こうにも、部屋の奥では、ハリーと何かやり取りをしている。ハリーはすでに飼うフクロウを見つけたようで、ハグリッドがフクロウについて力説している様子だった。

 

「珍しいわね。この子って、人を選ぶの」

 

 近づいてきたのは若い女性店員で、手のひらを向けてくれば、そこに移ってくれる。

 

 ほっ とアイラは安心するように息を吐いた。

 小鳥は、アイラが気になるかのように鳴く。

 

「でも困ったわね。ホグワーツって、基本フクロウなんでしょ?」

 

「そのようですね」

 

 本当は猫とヒキガエルも含むのだが、わざわざ言うことでもないだろう。ここはフクロウをメインとして売っているようだから。

 

「あれがお父さん? に飼ってもらう?」

 

「違いますし、飼える自信もありません」

 

 アイラは、きっぱりとお断りするように伝える。

 

「あら、この子、ほとんど手間のかからないわよ? やんちゃな性格のフクロウじゃあるまいし」

 

「お姉さんのように、もっと幸せにしてくれる人が、いると思いますから」

 

 アイラは、まだ自分が小鳥かのような子どもだ。やっと自分の翼で飛ぼうとしているような子どもだ。自分の手のひらに乗せられるほど小さいとはいえ、確かにこの小鳥も生きている。この子の保護者になる覚悟を、まだ持つことができない。

 

 それを理解したのか、ただ飽きたのか、小鳥は止まり木に戻っていった。

 

「しっかりしてますね」

 

 店員は柔らかく笑う。

 

「本当にしっかりしてたら……飼ってあげられたと思います」

 

 アイラは、ハリーの背中を見た。

 すでに他の店員のところで、お金を支払っている。

 

 真っ白なフクロウが自分から鳥籠に入って、リラックスしている。ハリーはそんな鳥籠をしっかりと両手で持ち上げた。

 

 小鳥はまだこちらを見ている。

 アイラは、目の前の若い女性店員に丁寧に会釈してから、お店の外で待つことにした。自分も、あの子も、もっと離れづらくなってしまう。

 

 店を出て待っていると、ハリーとハグリッドが首を傾げながら、『おまたせ』と言ってくれる。アイラは、気にしないでという風に、なんとなく頷いておいた。

 

「さて……買うものは次で最後だな?」

 

 ハグリッドから、行ってもいいかという視線を向けられる。

 アイラは頷く。

 

「そうだよ! 杖だよ! さてはラストに残しておいたね?」

 

 この空気を変えるかのように、ハリーがハグリッドに言った。

 

「そ、そうだとも!」

 

 そうしてハグリッドが案内したのは、通りの端の、さらに端だ。ここがラストだったのは単純に遠かったこともあるのだろう。ひっそりと店がたたずんでいた。

 

 他よりも暗く、古い。

 看板には、埃をかぶった文字。

 

「オリバンダーの店?」

 

「中は、少し変わっとる。」

 

 扉の前で、ハグリッドは一瞬、立ち止まった。

 そう前置きしてから、2人を真剣に見る。

 

 彼は、もう杖を失ってしまったけれど。

 

「そんで、魔法使いにとって、最も必要なもんだ。相棒に選ばれ、選ぶんだ」

 

 ハリーとアイラは、同時に頷いた。

 杖選びが大事なことなんだと、ハグリッドの様子から感じ取れていた。

 

 扉を開けると、ベルの音が鳴る。

 空気が、明らかに変わった。

 

 埃と木の匂い、静まり返った店内だ。そして壁一面に、天井まで積み上げられた細長い箱。

 

 ハグリッドは扉を開けたまま、2人の主役、そんなハリーとアイラを先に足を踏み入らせる。双子が運命に立ち向かっていくための杖選び、それが1つの運命分岐点となるだろう。

 

 どのような運命を、選んでいくのか。

 通ってきた扉はゆっくりと閉じていった。

 

 まるで、もう後戻りはできないかのようだった。

 ハグリッドは2人の背中を見つめる。

 

「ハリー、アイラ、ようこそだ」

 

 魔法使いとしての人生、ここから本当のスタートなのだ。

 

 

 

 その直後だった。

 カランカランと、再びベルの音が鳴った。

 

 背後で、扉が開かれたらしい。

 

 新たに入ってきた1人の少年の見て、ハグリッドがはっと息を呑む。

 

「嘘……だろ……」

 

 ハグリッドが彼の顔立ちを見た瞬間だった。

 一瞬だけ、時間が止まったように感じられた。

 

 背中がヒヤリと冷たくなり、呼吸が荒くなる。

 

 優等生としての仮面、澄ましたような表情、あの顔がどうしても少年の顔に重なってしまう。

 

「お前さんの……」

 

 記憶にあるその男より若く、まだ子どものようだが。

 

「お前さんの……名前は……」

 

 もしも実の子どもであるならば、似ている理由も頷けてしまう。

 

「うおっ、でか!?」

 

 身体全身で驚いた様子を見せ、少年は素直に感想を言った。

 

 そんな明るい雰囲気は記憶とまるで違う。

 冷たさも、歪みもない。

 

 ハグリッドは、喉を鳴らしてから声を出す。

 まだ警戒は解かないが。

 

「……お前さん、名前は?」

 

 恐る恐る、少年の名を尋ねる。

 

「おっと、これは失礼」

 

 紫がかった黒髪の少年は、姿勢を正す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「俺は、ルーク・モーンヴィークです。どうぞよろしく」

 

 フルネームで名乗った。

 ハグリッドは、自分の勘を振り払うように、一度首を振った。

 

 きっと他人の空似だ。そう思いたい。

 しかし、どうしてもこれが、演技で騙されているのではないかと疑ってしまう。

 

「……俺は、ハグリッドだ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 そしてルークは、彼が腕に抱えた荷物と、2人の姿を見て、状況を理解する。

 

「そちらも入学準備のようですね。となれば、あの子たちは同い年なのか。ずいぶん痩せてるな?」

 

 ハグリッドは警戒したまま、歩き始めた彼の前に立ち塞がろうとしたが。

 

 ルークは、その前にするりと進んでいく。

 悪意は全く感じられず、止めようとする気が起きなかった。

 

 流れ続ける水を相手しているかのようだ。

 

「俺はルーク・モーンヴィーク、同じ新入生として、よろしく」

 

 言葉と同時に、自然な動きで手を差し出した。

 ハリーやアイラが、多少見上げるほどの高めの身長だったけど、とてもフレンドリーな少年だと感じさせる。ダドリーのように威張る様子もない。

 

 そして何より、同じく魔法使いの見習いであり、多少の親近感がわくものだ。

 

「ハリー・ポッター、えっと、よろしく」

 

 まずハリーが、その手を取った。

 硬い手のひらだなと、彼は思う。

 

「私はアイラ・ポッターです。よろしくお願いします」

 

 次に、アイラも握手に応じる。

 まだ子どもなのに強そうだと、彼女は思う。

 

 

 こうして3人目が、双子の運命と関わり始めることとなった。

 

 

 

 

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