.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第九話

 

 

 SAOで迎える、二度目のクリスマス。

 一年前のこの時期は、デスゲームが開始されてから、まだ数ヶ月しか経っていなかった。

 

 「クリスマス」という言葉を聞くだけで胸を締めつけられ、現実を思い出して絶望に沈む――そんな時期だった。祝う者は誰もいない。ただ生き延びることに必死だった。

 

 けど――今は違う。

 最前線の攻略は安定し、プレイヤーたちの生活も“順応”と呼べる形に移り変わっていた。現実とは違うけれど、ここにも確かに“日常”が芽吹いている。

 

 街の広場には、イルミネーションを模した光のオブジェクトが瞬き、鍛冶屋はサンタやトナカイ仕様の装飾を施した武器を並べ、生産職たちは雪のエフェクトを撒く小物を売り歩いている。

 ――死と隣り合わせの世界であっても、イベントを祝おうとしていた。

 

 

 そんな折、≪黄昏の騎士団≫に一報が舞い込む。

 

 「クリスマスイベントのボスを倒すと――“蘇生アイテム”が手に入るらしイ。」

 

 その一言に、僕の眉が静かに寄る。

 

 「……蘇生?」

 

 声に出した瞬間、室内の空気が張りつめる。

 

 プレイヤーが死ぬ時、ナーヴギアが脳を焼き、現実の命をも断ち切る。それがデスゲーム開始として宣言された内容だった。

 そのデスゲームに、蘇生など存在するはずがない、はずだ。にもかかわらず、それが“報酬”として提示されているというのは……。

 

 「情報の信頼性は?」

 

 僕が低く問うと、アルゴが即座に答えた。

 

 「限りなくウソ、と言いたいところだケドネ。複数のルートから同じ話が出てきてル。――でっち上げにしては話が早く回りすぎてるヨ。」

 

 「でも、今まではそんなアイテム、噂程度ですぐになくなっていただろ?」

 

 ディアベルが腕を組み、唸る。

 

 「そうダナ。だから、こうして報告ダ。」

 

 沈黙が落ちた。

 僕はしばし考え込み、やがて決意を込めて口を開いた。

 

 「会議を開こう。全員……招集だ。」

 

 「……は?」

 

 ディアベルが目を丸くして僕を見る。

 

 「招集しよう。ギルドメンバー全員、それに外部協力者も、呼べる限りの情報屋もだ。」

 

 「ちょ、ちょっと待て。カイト、本気か?」

 

 「“蘇生”なんだ。」

 

 声が震えないように、強く言葉を押し出す。

 

 「今までのことを考えれば、アルゴのいう通り嘘の可能性は高い。……でも、もし、本物なら――クリスマスイベント、なんて軽い話しじゃなくなるよ。」

 

 視線を落とし、拳を握りしめる。

 

 「“死んだ仲間を取り戻せる”方法が手に入るなんて……。」

 

 喉がひりついた。誰も、軽々しく意見は上がらない。

 アルゴが目を伏せ、ぽつりと呟く。

 

 「……念を押すケド、嘘の可能性は高いゾ?」

 

 「だからこそ、慎重に行く。」

 

 僕は皆を見渡す。

 

 「情報を固めて、可能性を洗い出して、徹底的に計画を組み上げる。」

 

 ディアベルが力強く頷いた。

 

 「そうだな。“生きるか死ぬか”のゲーム。蘇生の可能性があるなら俺だってすがりたい。」

 

 こうして――

 僕達は、最も危険で、同時に最も希望に満ちたクリスマスイベントの攻略へと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。僕の呼びかけによって、≪黄昏の騎士団≫のメンバー、外部協力者、そしてアルゴが声をかけた情報屋達が、ギルドの大ホールに続々と集まってきた。

 

 最前線で剣を振るう者。

 情報を集める者。

 素材を生み、加工し、仲間を支える者。

 

 立場は違えど、全員がこの“死のゲーム”に真正面から挑んできている面々だ。その数、50人を優に超える。

 

 ――ギルドに所属していない人員をたった一つのギルドが動かせること事態、異例。

 それだけ、この集会にかかる意味が重い。

 

 僕は胸の奥にその責任を感じながら、できる限り穏やかに微笑んで口を開く。

 

 「みんな、忙しい中集まってくれてありがとう。」

 

 声を合図に、ざわついていた空気が徐々に収束していく。視線が自然とこちらに集まり、静寂が訪れる。

 

 「今回こうして集まってもらったのは――ある情報の確認と、それに対する僕達の方針を共有するためです。」

 

 すでに噂を耳にした者もいたのだろう。数人が小さく息を呑んだ。核心を告げる。

 

 「……“クリスマスイベントのボスを倒せば、蘇生アイテムが手に入る”――そういう情報が、複数ルートから確認されています。」

 

 その瞬間、会場が大きくざわめいた。

 

 「……蘇生だって……?」「嘘だろ、そんな……!」「ありえねぇ……!」

 

 当然だと思う。

 “蘇生”――それは、この世界では絶対に存在しないはずの救済。

 

 死ねば終わり。

 その絶対のルールこそが、僕達を命がけにしてきた。

 

 「……もしこれが本当なら、僕達はこれまでに失った仲間を……救えるかもしれない。」

 

 声に希望をにじませながらも、すぐに続ける。

 

 「けど、もし誤情報や誰かの思惑が絡んでいるならなら、これを巡って命を落とすプレイヤーが出てくる可能性がある。」

 

 その一言で、場の空気は一気に引き締まった。

 

 「だからこそ、焦らず、確実に真偽を見極めて、慎重にボスに臨むべきだと考えてる。」

 

 僕の言葉が一区切りしたところで、アルゴが手を挙げる。

 

 「カーくん。……他ギルドの動きについても話しておいた方がいいカナ?」

 

 「……お願い。」

 

 入れ替わるようにアルゴが前に出て、資料ウィンドウを広げる。

 

 「ここ数日で、≪ALS≫と≪DKB≫の動きが急に活発になってる。特に中核メンバーが情報を嗅ぎ回ってて、“先にボスの出現場所を特定しよう”って動きが見えるネ。」

 

 「つまり、先に討伐して報酬を独占しようとしている……そういうことか。」

 

 ディアベルが渋い顔をする。

 

 「可能性は高いネ。他にもソロプレイヤーが単独で動いてる報告が出てる。みんな焦り始めてるヨ。」

 

 「……無謀すぎる。」

 

 小さく呟いたのはキリトだった。

 

 「まだ、真偽すら不明なのに?」

 

 僕の問いに、アルゴが肯く。

 

 「“蘇生アイテム”だって、過去誰も実際に入手したことはないのに……今だって“噂”に過ぎない。――にもかかわらず、皆が“自分が先に”と動こうとしている。考えていた通りよくない流れだね。」

 

 場の空気がさらに重く沈む。

 “希望”に縋りたい気持ち。けど、その希望が罠だった時、命を落とすのは自分かもしれない。

 

 僕が率いている以上、ここでは無謀なことはさせない。

 

 「僕達の優先は”情報の確定”、で、どうかな?」

 

 視線を巡らせ、一人ひとりの目を見て言葉を続ける。

 

 「確定した情報を元に、準備を整えた上でボスに挑む。……これまでの黄昏の騎士団はそうやってきたはずだよね。」

 

 空気が少しだけ軽くなる。

 浮ついていた目に理性が戻り、疑念を抱いていた顔に信頼が戻る。

 

 ――ここにいる全員が、命を背負っている。だからこそ、信じ合って進まなければならない。

 

 「情報の元手を辿るのはもう難しいだろうから、ボスの出現場所、条件、どんなボスなのかを探ろう。」

 

 できる限り落ち着いた声で、全体に語りかける。

 

 「今わかっているのは――イベントボスが“どこかに出現して、それが蘇生アイテムを落とす”ということだけ。

 それがどのエリアにいるのか、どんな条件で現れるのか、討伐に必要な戦力はどれほどか……すべてが未知のままだ。」

 

 会場に静かな緊張が走るのを感じながら、さらに言葉を重ねる。

 

 「だからこそ、情報班はイベントに関わるあらゆる断片を拾ってほしい。……情報屋の皆も、協力してくれると助かる。」

 

 無言のまま、数人の情報屋が頷いた。その仕草だけで場が引き締まっていく。

 

 「戦闘班は、可能性の高そうなエリアを候補に挙げて探索する。焦らず、一歩ずつ確実に。……それが、この“死と隣り合わせの世界”を生き抜くための唯一の方法だ。」

 

 「ようはいつも通りってことでしょう? 団長。」

 

 ギルドメンバーの一人の言葉に僕は微笑みながら頷く。そうして周囲を見渡せば、皆も同意したようにうなずいていた。

 その反応を見て、胸の奥から感謝が溢れ、思わず深く頭を下げる。

 

 《黄昏の騎士団》を中心とした“クリスマスイベント調査”が始動だ。

 

 

 * * *

 

 

 ――会議終了後。

 情報を集める者、調査に向かう者、装備を整える者。誰もが即座に動き出し、それぞれの役割に没頭していく。

 

 その中心に立ち、自然に流れを作り出しているのは――カイトだった。

 

 「リスティ、頼んだエリアの調査が終わったら、アルゴに報告をしてね。」

 「エギル、戦闘班の補給状況はどう? 在庫が足りないなら早めに知らせて。」

 「キリト、候補エリアをまとめておいた。後でルート確認、付き合ってくれる?」

 

 命令を押しつけるわけではない。

 同じ目線で、同じ重さを背負って、仲間に声をかけていく。――それがカイトのやり方であり、彼の強さだった。

 

 少し離れた場所から、その姿を見ている自分がいた。胸の奥に広がるのは、静かな誇らしさ。

 

 (……やっぱりすごい奴だよな)

 

 “カリスマ性”“求心力”。言葉にすれば簡単だ。だがそれを自然に、しかも無意識のうちに体現できる人間が、どれだけいるだろう。

 

 一緒に戦ってきたからこそわかる。だからこそ、俺は――

 

 「……まったく、カイトってやつは……人を惹きつけるのが上手いよな。」

 

 小さな呟き。誰にも届かないはずだった。

 

 「え? なにか言った?」

 

 「うわっ!? 聞こえてたのかよ!」

 

 振り返ったカイトが、苦笑混じりにこちらを見ていた。

 不意を突かれてバツが悪くなりかけたが、俺は視線を逸らさず、正面から言葉を放つ。

 

 「……最後までお前を支える。だから俺達を――遠慮なく、使い倒せ。」

 

 それは“サブマスター”としての義務ではなく、“仲間”としての心からの言葉。

 

 カイトは一瞬だけ目を見開き、そしてすぐに、静かに微笑んだ。

 

 「……ありがとう、ディアベル。ただ”使う”なんて思ってないからね。」

 

 苦笑するカイトのその声に、偽りは一切なかった。

 

 (この男の隣で戦えること。それが、今の俺にとって最大の誇りだ)

 

 胸の奥で確信を噛みしめる。

 ギルドという大きな輪は、改めてひとつにまとまっている。

 

 次なる戦い――希望になるかもしれない“クリスマスの夜”に俺も全力で臨もう。

 

 

 * * *

 

 

 カイトとディアベルのやりとりを見送った私は、わざとからかうように彼へと歩み寄った。

 

 「なんだか、カーくん。今日の会議……ギルド発足以来、一番“ギルドマスター”らしかったんじゃないカ?」

 

 調査への最終確認をしているカイトに、私は肩をすくめながら軽く冗談めかして言ってみせる。

 

 「そうかもね。」

 

 カイトは小さく苦笑した。

 その表情には、隠しきれない疲れがにじんでいた。けれど同時に、ほんのわずかだが確かな充実感のようなものも浮かんでいる。

 

 ――でも。

 

 その横顔を見つめながら、私は胸の奥に溜まった重たいものを無理やり押し込んだ。

 

 ……本当に、これでいいのだろうか。

 

 カイトの“空白の時間”は、あれからも減ることはなかった。むしろ、以前よりはっきりと目に見えるようになっている。

 

 それに――。

 彼がギルドの談話室で“誰かの近く”で眠るようになったのも、つい最近のことだ。

 

 個室のベッドではなく、誰かがいる空間で。

 人の気配を感じながら眠る――まるで“ひとりになるのが怖い”みたいに。

 

 その姿を見るたび、胸が締めつけられる。

 

 そして、それが無自覚なんかじゃないことも分かっていた。彼自身もきっと気づいている。

 ただ、それを口に出さないだけだ。

 

 ……ほんと、無茶ばっかりしてる。

 

 カイトは人のために動いて、人のために悩んで、結局「自分のこと」は後回しにしがち。

 

 そんな彼だからこそ――。

 ギルドマスターになると言ったとき、私は本当は反対だった。

 

 だけど。もう、引き返せない。

 

 カイトは“進む”と決めた。前へ、未来へ。だったら私は、止めることなんてできない。

 

 (……それを止めるのは、私の役割じゃないよね)

 

 小さく呟いた言葉は、誰にも届かず風に溶けた。

 

 彼が走り続けるなら、私はその背中を追いかける。間違いそうになったら隣から声をかける。転びそうになったら、その手を取る。

 

 そして、限界が来て眠れなくなった時には――そっと隣で寄り添って、安心できる場所を用意する。

 

 ――そう。止めるんじゃない。支えるんだ。“相棒”として。

 

 私はひとつ、深く息をついた。

 

 「さて、と……仕事仕事っと。」

 

 まだ温かさを残す談話室を後にして、私は静かに歩き出す。

 

 この世界で生きる全員のために。そして何より――彼のために。

 

 

 * * *

 

 

 結局、僕達はクリスマス・イブを迎えても、「蘇生アイテム」に関する確定的な情報を得ることはできなかった。

 情報屋達は各層を駆け回り、黄昏の騎士団のメンバーも最前線から中層に至るまで奔走した。けれど、証明できるだけの“確たる手がかり”は、最後まで掴めなかった。

 わかったことは≪迷いの森≫がボス出現の最有力候補、ということ。

 

 それでも――あるギルドはなおもその存在を信じ、またあるギルドは、希望に縋るプレイヤーたちを“利用”しようとしていた。

 

 情報が広まるにつれて、プレイヤー達の間には確実に“何か”が膨らみ始める。

 

 「……噂は本当さ。」「嘘だったら? だれかが俺達を陥れようと……」「でも、もし本物なら、誰かが手に入れれば、失った命が……!」

 

 “希望”と“混乱”。

 相反する感情が同時に広がり、やがてプレイヤー同士の言い争い、さらには軽い暴力沙汰にまで発展し始めた。

 

 騎士団の拠点でも、避難してきたプレイヤーの話から、いくつものトラブルを聞いた。

 

 

 ――だから僕は、決断を下す。

 

 ギルドの大ホールに再び仲間達が集う。

 黄昏の騎士団のメンバー、外部協力者、そして支援に回ってくれていた情報屋達。

 その視線を一身に受けながら、僕は会議の場で静かに言葉を発した。

 

 「……僕達は、“蘇生アイテム”を狙わない(・・・・)。」

 

 その一言で、会場がざわめく。

 一部のメンバーは目を見開き、互いに顔を見合わせた。

 

 「……マジかよ。」「おいおい、ここまで動いて、それは……。」「カイト、それで本当にいいのかよ。」

 

 不満や戸惑いの声が上がる中、僕は一歩前に出て、はっきりと続ける。

 

 「僕達は――その“蘇生アイテム”の存在を証明できなかった。あるかもしれない。でも、ないかもしれない。どちらも確かじゃない。」

 

 場が静まり、皆が僕の言葉に耳を傾ける。

 

 「だから、黄昏の騎士団は“希望”に踊らされることを選ばない。でも――。」

 

 僕は人差し指を立て、会場を見渡した。

 

 「“希望”に踊ることで、他人を踏み台にしたり、誰かを傷つけたりする行為を、僕達は絶対に見過ごさない。そして、誰かが無茶をしようとしてるなら助ける。そして、もしイベントボスが出るのなら――討伐に協力する。」

 

 そして、もうひとつ。

 

 「この世界でも、誰かが“クリスマス”を祝おうとしている。楽しもうと、大切な人と静かに過ごしたいって、そう思ってるプレイヤーだってきっといる。僕は、その人達の“クリスマス”を壊すようなことは、絶対にしたくない。」

 

 その瞬間、空気が変わった。張り詰めていた緊張が、わずかに緩む。

 

 「……そうだな。」「デスゲームだって、全部を忘れる必要はないよな。」「せめてこの日くらいは、皆で笑いたい……か。」

 

 仲間達が、次々と静かに頷き始める。

 よし。黄昏の騎士団の方針は決まりだ。“蘇生アイテム”を奪い合うのではなく――討伐支援、プレイヤー同士の衝突の抑止。そして何より、プレイヤー達が“クリスマス”を過ごす平穏な空間を守ること。

 

 

 それが、僕達のできる最大限の良いことだろうから。

 

 





月夜の黒猫団が崩壊していないので話が変化しました。
キリトも一協力者としてクリスマスには参加します。
慎重になるカイト。それを支えるディアベル。心配するアルゴ。
個人的にはカイトは物事に対して頑張り続けることができるタイプだと思ってます。
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