.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第十一話

 

 

 「……ここは……?」

 

 目を開けると、そこは一面の白。

 上下も境界もない、ただ“空間”としか言いようのない世界だった。

 

 ぼんやりした意識の中で立ち上がり、頭を振る。

 

 (確か……僕は“蒼炎のカイト”と戦って……データドレインを……アルゴが居て……どうしたんだっけ)

 

 そう考えていると――目の前に彼女が現れた。

 

 「久しぶりね、カイト。」

 

 姿を現した彼女は、以前よりも少し大人びた姿だった。銀色の長い髪は金色の光をまとい、表情はどこか寂しげ。

 

 「アウラ?!」

 

 驚きながらも、その姿をまじまじと見つめる。確かに彼女だ。

 

 「……ちょっと変わった?」

 

 「ええ。いつまでもあのときの姿じゃ、格好がつかないでしょう?」

 

 微笑むアウラ。けれど、その笑みにはうっすらと哀しみが滲んでいた。

 頭の中が少しずつクリアになり、僕はさっきのことを口にする。

 

 「”アレ”は君が呼び出したの?」

 

 アウラは静かに首を振った。

 

 「違うわ。――“彼”はAIDAが学習し、生み出した存在よ。」

 

 「……AIDA……!」

 

 その名前に、息を呑む。

 

「茅場晶彦から聞いているわよね? このSAOには≪The World≫の一部が組み込まれている。そしてそこに残っていたAIDAが自己学習を続けた結果……これまでのバグとは比べものにならない“完全な個”を生み出した。」

 

 「“蒼炎のカイト”がそれ……?」

 

 アウラは頷いた。

 

 「ええ。能力、戦闘力、知能、そして――“憎悪”。残っていたAIDAは、人間の負の感情を最も強く学習していた。そして、SAOが始まった瞬間に溢れた恐怖や怒り……その全てを取り込んで、急速に肥大した。」

 

 「……でも、なんで“僕”の姿なの?」

 

 「象徴でもあったからよ。」

 

 「象徴……?」

 

 「碑文使い達と同様に“カイト”という存在がAIDAにとって特別だったの。バグを消す者、異常を取り除く者。

 だからこそ、AIDAが形を得た時――学習の果てに選ばれた姿が“あなた”だった。なにより、貴方がここにいるから、でしょうね。」

 

 R:2のときは僕は居なかったから少し複雑な気持ちだ。 

 今度は右腕に目を落とし、もう一つ尋ねる。

 

 「……この腕輪は?」

 

 アウラはそっと僕の右腕に触れた。

 

 「それは、AIDAやバグに対抗するため、≪The World≫であなたが使っていた腕輪を完全に再現したもの。幸い”コルベニク”の碑文使いは”ここにはいない”。」

 

 「……やっぱり。」

 

 「でも、このSAOでは“完全な使用”はできない。」

 

 「どういうこと?」

 

 「ここは≪The World≫とは違う。カーディナルシステムが支配する世界。だからデータドレインを完全に行えば――負担は、すべてあなたに返ってくる。≪The World≫の侵食とはわけが違うわ。」

 

 (……負担……)

 

 思い返す。さっきフルパワーで放った直後、僕は意識を失った。

 

 「それでなくても、これまでの戦いで浴びたバグやAIDAの残滓が、あなたの身体を蝕んでいる。」

 

 「……。」

 

 胸が痛む。アウラは、そんな僕の手を包み込むように握った。

 

 「だから私は、あなたを“ここ”に呼んだの。少しでも異常データを洗浄し、休ませるために。」

 

 「……でも僕は戻らなきゃ。僕がこの世界にいるのは、異常を追うためじゃない。仲間と一緒に生きるためなんだ。」

 

 その言葉に、アウラはしばし黙り込んだ。やがて、意志を確認するように見つめて――微笑む。

 

 「……なら、“今”を大切に考えて。カイト。」

 

 手をかざすと、黄金の光が僕を包み込む。

 

 「ありがとう、アウラ。」

 

 「ええ……いってらっしゃい。」

 

 視界が白に染まり――

 

 

 

 

 

 「……カイト!!!」

 

 気づけば目の前にアルゴがいた。顔は蒼白、震える手で僕を必死に触れてくる。

 

 「……アルゴ?」

 

 「大丈夫!?生きてる!? どっかおかしいとこは!?」

 

 いつものロールなんてこれっぽちもなく、その目は真っ赤に腫れ、鼻も赤くなっている。彼女がどれだけ心配していたのか、痛いほど伝わってきた。

 

 (……心配かけちゃった)

 

 僕はそっとアルゴの手を握り、謝る。

 

 「大丈夫、大丈夫だから……心配かけてごめん。」

 

 アルゴは言葉を失ったまま、ただ僕に飛びついてきた。驚きつつも、彼女が落ち着くまで僕は優しく頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 暫くしてアルゴが落ち着きを取り戻すと、僕達は無言のまま街へ戻っていった。

 

 街に着くと、すでにクリスマスイベントのボスは討伐されていたらしく、最前線組のプレイヤー達が転移門近くの広場に集まり、戦いの余韻に浸っていた。

 

 (……完全に出遅れたね)

 

 僕は内心でため息をついたが、今はそれよりも“面倒な問題”が迫ってきていた。

 

 「おぉ〜、カイトぉ!遅かったじゃねぇか〜?」

 

 わざとらしい調子で声をかけてきたのはクラインだ。

 

 「……クライン。」

 

 ジト目で睨む僕に、彼はヘラヘラと手を振る。

 

 「いやいや、責めてるわけじゃねぇって! ほら、クリスマスだし?色々あんだろ〜?なぁ?」

 

 肩をドンと叩いてくるクライン。

 ……なんとなく“言いたいこと”はわかるけど。

 ちらりと横を見ると、アルゴはぷいと顔を背け、何も言わずにいる。

 

 (……これ、変に勘ぐられるやつだ)

 

 口を開こうとすると、クラインが更にニヤニヤ顔を寄せてくる。

 

 「いや〜、やっぱクリスマスっつったら“特別な相手”と過ごすもんだよなぁ? わかるわぁ〜!」

 

 「……。」

 

 「おいおい……まさかこれからも?お前……やるじゃねぇか!!」

 

 「違うから!!」

 

 即座に否定するも、クラインは全く聞きやしない。周りのメンバーまで興味津々で僕を見てきて、心の中で叫んだ。

 

 (アルゴ、助けて……!)

 

 だが、当のアルゴはまだ俯いたまま。口をつぐんで何も言わない。

 仕方ない。

 僕は咳払いをして、思いついた話を一気に並べ立てた。

 

 「……僕とアルゴは、さっきまで“耐久力の異常に高いモンスター”と戦ってたんだ。前に遭遇したのと同じタイプのやつ。」

 

 「ん?」

 

 キョトンとするクラインを無視して続ける。

 

 「攻撃力は大したことなかったけど、討伐に時間がかかってさ。……ほぼ一人で戦ったから。」

 

 「ほぼ一人? アルゴは?」

 

 「僕が抑えてる間に、動きとか調査してたんだよ。戦闘中だから十分な時間は取れなかったけど……それでも何か手がかりを掴もうとしてね。」

 

 「なるほどな……。だからアルゴ、そんなに疲れてんのか。」

 

 クラインがアルゴを見ると、彼女はようやく顔を上げ、小さく苦笑してみせた。

 

 「ま、まぁ……そーいうコトサ。少しキツかったケド、“収穫”もゼロじゃなかったカラ……。」

 

 口調が戻ったのを見て、クラインもようやく“妙な誤解”を解いたらしい。

 

 「なぁんだ……そういうことか。いや、そりゃ大変だったろうけどさ……!てっきりカイトが“聖夜”を満喫したのかと……。」

 

 「含みある言い方やめてくれ!!」

 

 僕のツッコミに広場は笑い声に包まれ、クラインの茶化しに、僕は心の底から疲労を覚えた。

 これ以上の追求は面倒くさい、と僕は話題を切り替える。

 

 「で、そっちはどうだったの? イベントボスは?」

 

 僕の問いに、クラインは「おう」と頷きながら答えた。

 

 「ボス自体は……まぁ、強かったけど、なんとか撃破したぜ。」

 

 「“蘇生アイテム”の方は?」

 

 「……それなんだけどよ。」

 

 クラインは腕を組み、少し考え込む素振りを見せた後、口を開いた。

 

 「“蘇生アイテム”、手に入れたのはキリトだ。」

 

 「……キリトが?」

 

 「おう。でもな……アレ、思ってたのと違ったんだよ。」

 

 クラインは渋い顔をしながら説明を続けた。

 

 「アイテムの名前は≪ホーリー・ストーン≫。……使えるのは、HPがゼロになってから“ほんの僅かな時間”だけらしい。」

 

 「……つまり?」

 

 「例えばだ。攻略組の誰かがボス戦で倒れたとして……その瞬間に即座に使えなきゃ意味がねぇ。ほんの数秒遅れただけで、もう蘇生はできねぇんだと。」

 

 「……そっか。」

 

 HPがゼロになった瞬間から、数秒以内に使用しなければならない――そんな状況が現実的に訪れる可能性は、ほとんどない。

 奇跡のように狙い澄ましたタイミングでなければ、機能しないアイテム。

 

 「それで……そのアイテムは?」

 

 「キリトが、≪黄昏の騎士団≫に預けるってさ。」

 

 「え……?」

 

 「アイツ言ってたぜ。“これを最も適切に使えるとしたら、お前らくらいだろう”ってな。」

 

 クラインの言葉に、僕は驚きを隠せなかった。

 ――≪ホーリー・ストーン≫を、僕達に託す。

 

 (……僕達なら、プレイヤーを救う“その瞬間”に対応できるかもって信頼してくれるんだね)

 

 確かに、《黄昏の騎士団》は最前線で戦いながらも、支援や中層の救援活動にも力を注いでいる。

 誰よりも多くの“危機の瞬間”に立ち会う――可能性は高い。

 

 「……わかった。」

 

 僕は静かに頷きながら、キリトの判断に深く感謝した。

 そして改めて――≪ホーリー・ストーン≫という名の“儚い奇跡”の重さを、胸の奥で噛みしめていた。

 

 

 

 

 それからディアベルにボス戦の戦闘報告を受けた後、僕達はその場で解散することになった。

 ほとんどのメンバーは戦いの疲労もあってか、すぐに街へと戻っていく。

 クラインたちは「メシでも行くか!」と騒ぎながら転移門へ向かい、ディアベルも「ギルドメンバーに話してくる」と言って去っていった。

 

 僕はというと、解散後の静まり返った広場に立ち尽くしていた。

 

 (……どうしようかな)

 

 アルゴが“あの戦い”を見てしまった。

 ”蒼炎のカイト”との対峙、そして――データドレインの発動。どれも、SAOの常識を完全に逸脱した出来事だ。

 

 本当は、あの場で「全部話すべきだった」のかもしれない。

 でも……言えなかった。

 

 「……はぁ。」

 

 小さくため息を吐き、そろそろ帰ろうと足を踏み出した――その瞬間。

 

 袖を、ぐいっと引かれた。

 

 「……カイト。」

 

 振り返ると、そこにはアルゴがいた。

 ロールプレイもない。情報屋としての仮面もない。ただの“アルゴ”が、僕の袖を掴んで立っていた。

 

 「……説明してくれる、よね?」

 

 彼女の瞳は真っ直ぐで、僕の言い逃れを許さない。

 

 (……誤魔化すのは、彼女に失礼だよね)

 

 僕は無言で頷き、アルゴをギルドの自室へと向かうことにした。

 

 黄昏の騎士団のギルドホームに戻ると、すでに皆はそれぞれの部屋に戻っているのか、静まり返っていた。ギルドマスターの部屋に彼女を招き入れ、ドアを閉める。

 

 アルゴは椅子に腰を下ろし、黙ったまま僕を見上げていた。

 その視線を受け止めながら、僕は深く息を吸い、言葉を紡ぐ。

 

 「アルゴ……。≪The World≫は知ってるよね?」

 

 「……知ってる。」

 

 僕の言葉を遮るように、アルゴが即答した。

 

 「私もプレイしたことあるから。一般ユーザー程度の知識なら、だけど。」

 

 ――いや。

 彼女は謙遜している。

 僕の逆手二刀流を見て即座に“双剣士”を連想できた時点で、きっと、相当やり込んでいたはずだ。

 

 「アルゴがやってたのは……“R:2”?」

 

 「R:1の終了直前と、R:2をやってた。」

 

 迷いなくそう言う彼女に、僕は小さく頷いた。

 

 「アルゴが見たあれは……《The World》から連なるものなんだ。」

 

 これは、関係者以外には初めて話すことになる。ちゃんと伝えられるだろうか――不安はあった。

 でも、この責任からは逃げられない。

 

 僕はもう一度、大きく息を吸い込んで、覚悟を決めた。

 

 「聞いてほしい。僕が、この世界が、抱えている“真実”を。」

 

 

 





AIDAに関してはハセヲ達との出来事とは少し切り取った形の存在です。オーヴァンに寄生していたのとは更に別の変異体的な。またリマスター版Vol.4は考慮してません。

クラインは重苦しい空気を晴らしてくれる良いやつですよね。
会話パートを考えるのがとてもスムーズになります。

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