会話パート多め。こんなふうだったら良いな、お話になります。
クリスマスの騒動から少しだけ時間が流れ、SAOで二度目の年越しが近づいていた。
「流石に年越しくらいは、ギルドや攻略の作業を止めようよ」そう僕が提案したのを攻略組の皆も賛同してくれて、この日はそれぞれが自由に過ごすことになった。
《黄昏の騎士団》では「せっかくだから日本人らしく年越しをしよう」と、ギルドメンバーだけでなく外部協力者も招き、盛大な宴が開かれていた。
転移門広場の近くではカウントダウンイベントが始まり、お酒を持ち込んだ一団――クラインやエギルを中心に、既にすっかり出来上がった雰囲気の集まりが騒ぎ立てている。
「よーし!飲むぞぉぉぉぉぉ!!」
「実際にはアルコールなんて入ってないのに元気なやつだな……。」
「だからいいんだろ!? 気分だけで、いくらでも飲める最高の酒だぁ!」
「おい落ち着けって!」
そんな騒ぎを遠巻きに見ていた僕は、クラインに「端にいないでこっちに来いよ!」と強引に引っ張られていく。
気分だけで完全に酔っぱらいモードのクラインに、わざとらしくため息をついてみせる。
「んだよぉ、スカした感じでつれねぇなぁ……。」
「逆にクラインのテンションについていけないよ……。いくら仮想世界でも、未成年にお酒勧めちゃダメなんだからね?」
軽口を叩きながらもお酌を受ける僕を、クラインがじろじろ見つめる。
「……未成年?」
「ん?僕? 僕は今24歳だよ」
――――。
一瞬で場が静まり返った。
クラインとエギル、さらには周囲にいた仲間たちが、一斉に僕を凝視する。
次の瞬間――
「その童顔で成人してんの!?」
クラインの絶叫が宴の場に響き渡った。
「いやいやいやいや、ウソだろ!?絶対未成年にしか見えねぇって!」「なんなら俺の方が年下って言われても納得するレベルなんだが!?」「ちょっと待て……24!?ないないない……え、マジで?」「三つ上……上なんだ……。」
ああ、自覚はしてる。童顔なのはずっとそうだった。けど、こうも一斉に言われると流石に癪だ。眉間にシワが寄るのがわかる。
「どうせ童顔ですよ……。っていうか成人してるって思ってないのに酒注いでたんだ? 悪いやつだなぁ、クラインは。」
やけっぱちのように盃をあおり、グビグビと飲み干す。
――ここなら、いくら勢いよく飲んでも体に悪影響はない。そういう意味では、仮想世界って便利だよね。
そんな僕の飲みっぷりに感化されたのか、クラインはさらに酒を煽っては声を張り上げた。
「お!いい飲みっぷりだな。おらぁぁぁ!俺達も景気よくいくぜぇぇぇ!!」
典型的な“酒に呑まれるダメな大人”そのものだ。明らかに未成年であるアスナやキリトに見せるのは、とてもよろしくない光景。
流石にまずいと思ったのか、《風林火山》のメンバーたちが慌てて宥めに入る。
「クラインさん、シラフですよね!?システム上、酔えないって知ってますよね!?」
「バッカヤロォ!酒ってのはなぁ、雰囲気で酔うもんなんだよ!!」
「めんどくせぇギルドマスターだなぁぁぁ!!」
そんな絡み酒が続く中、クラインがまた僕へ絡んできた。
「おいおい、カイトぉ……お前、俺の酒が飲めねぇのかぁ!?」
「飲んでるよー?」
さっき注がれた酒を掲げて見せる。
「チッ……つまんねぇなぁ!もっとこう、顔赤くなったり陽気になったりしねぇのかよ!!」
「実際にアルコールを摂取しているわけじゃないからね。」
「くっそぉぉぉ!こんな仮想世界、バグってんじゃねぇのかぁぁぁ!!」
「バグってんのはお前だ!!!」
エギルが鋭くツッコミを入れ、周囲が大笑いに包まれる。
そうしてわちゃわちゃしているとクラインの視線がふと僕と隣にいるアルゴへ順番に向いた。
“あの一件”以来、アルゴは僕に気を使っているのか、近くにいることが増えていた。今も隣に座って、静かに盃を弄んでいる。
そして、雰囲気に任せたクラインが、何を思ったのか――ぽつりと呟いた。
「……いい嫁さん、もらいやがってよ。」
一瞬で場が凍りついた。
「……は?」
僕は眉をひそめる。
「カイトの隣にずっと寄り添ってるアルゴ、まるで夫婦みてぇじゃねぇか?」
「…………。」
その瞬間、隣のアルゴの顔が一気に真っ赤に染まった。
「……っ!?」
言葉を失ったまま俯くアルゴ。普段のロールも消え、ただ黙り込んでいる。
「ちょ、クライン、それは流石にライン越えだよ。アルゴにも悪いでしょ!」
僕は慌てて咎めるように指を突きつける。けど、肝心のアルゴは反応しない。――いや、沈黙がむしろ答えのようにすら感じられた。
(……えっ。アルゴ、こういうの意識するタイプなの!? 茶化して流すと思ってたのに……!)
周囲もその反応にざわつき始める。
「おお……?」「マジかよ!?」
エギルはグラスを傾けながら「おいおい、これは……」とニヤリと笑い、クラインも「やべぇ……本当にそういう空気か?」と目を丸くする。
「カイト……この話、詳しく聞かせてもらおうか?」
「聞くな!!!クライン、お前のせいだからな!!!」
年明けのカウントダウンを目前に、僕の叫び声が広場に響き渡る――。
* * *
クラインの騒動が一段落し、カイトはため息をつきながら“酔っ払い”たちから距離を取った。
その様子を、少し離れた場所で眺めていたのは――キリトとアスナだった。
「……ねぇ、キリトくん。」
「ん?」
「カイトさんって……24歳なんだってね?」
アスナの問いに、キリトは横目でカイトを見た。
そこにいるのは、いつものように皆を気遣い、面倒を見ている“お兄さん”のような姿。
だが――
改めてそう思うと、不思議な違和感が湧き上がる。
童顔。飄々とした態度。そして時折見せる、どこか“少年っぽい”言葉の選び方。
年齢を聞く前は、自分と同じくらいか、せいぜい少し上だと思っていたのに。
「……信じられないよね。」
「……ああ。」
2人は顔を見合わせて、同時にため息を漏らした。
「でも……。」
アスナはカイトの背を見ながら、小さく呟く。
「カイトさんが、みんなから頼られる理由は……なんとなくわかる気がするの。」
「……ああ。」
それは年齢の問題じゃない。
生き方そのものが、他のプレイヤーたちと違うのだ。
ほとんどの者がこのデスゲームに翻弄され、ただ生き延びるだけで精一杯な中――
カイトは支え、導き、時に誰よりも前に立って戦いながら、それでも“支配者”になろうとはしなかった。
それはきっと、彼が昔から積み重ねてきたもの。
背負う重さを当たり前のように抱え込み、それでも笑って仲間の中に立ち続ける。
だからこそ――彼はまるで“英雄”のようでありながら、輪の中に溶け込んでいられる。
アスナはそんな姿に、不思議な違和感と同時に、強い憧れを覚えていた。
「……キリトくん。」
「ん?」
「やっぱり、私たちって……まだ子供なのかな。」
その言葉に、キリトは少し驚いた顔をした後、苦笑した。
「……そうかもな。」
自分たちは大人ぶっているつもりでも、こうしてカイトを見ていると――経験の差を痛感する。彼は軽口を叩き、冗談を言いながら……誰よりも大人で、重いものを背負っているのだ。
「……まあ、カイトみたいな“大人”ばっかりじゃ、世の中つまらないけどな。」
「……ふふ、それもそうね。」
2人はくすっと笑い合い、夜空を仰ぐ。
どこまでも広がる、星に覆われたアインクラッドの空。
やがて、広場に響くカウントダウン。
「10! 9! 8!」「酒が足りねぇぇぇ!!」「6! 5! 4!」「お前はもう飲みすぎだって!!」「3! 2! 1!」
「「「――あけまして、おめでとう!!!」」」
喧騒と笑い声の中、二度目の年明けを迎える。
戦いは――何ひとつ終わってはいない。
それでもこうして、仲間たちと笑い合いながら迎えられる新しい年があることに、誰もが安堵を覚えていた。
* * *
年が明け、律儀にメッセージを飛ばしたり、その場の仲間たちに新年の挨拶を回り始めたカイト。
その姿を見ながら、ディアベルは得意げに杯を掲げた。
「――聞いてくれ。」
声に反応して、エギル、クライン、キバオウ、そして黄昏の騎士団のメンバーたちが自然と輪になって集まる。
「俺はな……カイトってやつに、人生を変えられたんだ。」
「また始まったよ……。」「サブマスター、お酒入るといつもコレだよな。」
黄昏の騎士団のメンバーが苦笑し、クラインも「この流れ何度目だよ」と呆れた顔をする。
それでも誰も止めようとはしない。
なぜなら――カイトという男が、語られるだけの価値を持っていることを、ここにいる全員が理解していたからだ。
「カイトがいなかったら、俺はろくでもないリーダーのままだった。」
「いや、最初からちょっとロクでもなかったけどな。」
「おい、エギル!」
軽口が飛ぶ。それでもディアベルは真剣な眼差しを崩さなかった。
「俺は……最初のボス戦でズルした上にヘマをやらかして、死にかけた。あの時、カイトが助けてくれたんだ。――それだけじゃない。」
彼の目が少し遠くを見つめる。
「あいつは、俺を責めなかった。むしろ“リーダーでいていい”って言ってくれたんだ。」
リーダーという立場は、最前線に立つ以上の責任を背負う。仲間の命、作戦の成否、ギルドの運営――その全てを。
精神的な重圧に押し潰され、簡単に折れてしまう者も少なくない。
「もしあの時、あいつの言葉がなかったら……俺はリーダーを辞めてたかもしれない。」
「……まあ、カイトは、他人を持ち上げる、というか人を褒めるのが上手い、というが、そういうの全般得意だもんな。」
エギルが深く頷いた。
「上から押しつけてくるんじゃなくて、自然と“同じ目線”で話してくれる。」
「それでいて、気づいたら言葉に引っ張られてるんだよな。」
クラインが苦笑しつつ口を開く。
「“人たらし”にもほどがあるぜ。」
一瞬、輪の中に小さな笑いが広がる。
だが次の言葉は、誰も否定できない真実だった。
「……俺が思うにさ。カイトって、攻略組の“精神的支柱”みたいなもんなんじゃねぇか?」
クラインが腕を組みながら言う。
「アイツがいるだけで、何だか安心するんだよ。“こいつがいれば大丈夫”ってな。」
「それはあるな。」
ディアベルもすぐに頷いた。
「実際、攻略組のギルドが増えて、ボス攻略で連携が取れるようになったのも……カイトが根回しを頑張ってくれてたからだ。」
「本人は“やれることやっただけ”とか言うけどな。」
「そうそう。でも、そうできるのは間違いなくアイツの力なんだよ。」
その言葉に、周囲の仲間たちも静かに同意して頷いた。
カイトが築いてきた“信頼”と“空気”が、この場にいる全員の心に確かに根づいていることを――誰もが理解していた。
「言うなれば……“影の司令塔”ってとこか?」
「いや、アイツは影に隠れるには目立ちすぎるだろ。」
「それもそうだな。」
苦笑が広がる輪の中で、クラインがふと思い出したように声を上げた。
「つーかさ……カイトの“信頼度”って異常じゃね?」
「どういう意味だ?」
「普通、リーダー格って派閥ができるだろ?でも、カイトはどのギルドからも信頼されてんだよ。」
「……言われてみれば確かに。」
≪黄昏の騎士団≫は最前線攻略だけじゃなく、情報収集や初心者支援にも深く関わっている。
そのため、攻略組はもちろん、中層のプレイヤーや生産職にまで信頼されていた。
「普通あれだけのことやってたら、どっかのギルドが“アイツは信用できねぇ”って言い出しそうなもんだけどな。」
「なのに、カイトには敵対派閥がほぼ存在しねぇ。」
「たまに“何か隠してる”とか噂するヤツもいるけど……そもそも、カイト自身が誰よりリスク背負ってるから文句言えねぇんだよ。」
「……なんだよ、ただの聖人じゃねぇか。」
「俺もそう思う。」「同感だな。」「ワイもや。」
それぞれが頷き、場は妙な熱気に包まれる。そして、ディアベルがグラスを掲げた。
「――結局、何が言いたいかっていうとだ。カイトには、俺達全員がとんでもなく世話になってるってことだ。」
「だな!」「ちげぇねぇ!」「ワイもや!」
「じゃあ、この場で感謝の乾杯といこうぜ!」
「いいねぇ!」
「カイト、ありがとなぁ!!!」
――そのタイミングで、当のカイトが何も知らずに近づいてきた。
「ん? なんか盛り上がってる?」
「カイト!!!お前は最高だぁぁぁ!!!」
「……へ?」
突然の大合唱に、カイトは目を丸くする。
「お、お酒飲みすぎたんじゃないの?」
「いや、頭は正常だ!!!」
「……んー、まぁ、ありがとう?」
困惑しつつも一応礼を言うカイト。だが次の瞬間――
「カイトォ!俺達の誇りだぁ!」「ワイらの大黒柱やでぇ!」「英雄!リーダァァァ!」
クラインに肩を組まれ、エギルに背中を叩かれ、キバオウに抱きつかれ……。カイトは、謎の“カイト讃歌”を浴びる羽目になるのだった。
* * *
突然の称賛と、クラインやディアベル、エギルたちの陽気な絡みに困惑しつつも、僕は一通りお礼を返してから、そっとその輪を抜け出した。
賑やかな広場の喧騒が遠ざかっていく。
少し離れたベンチに腰を下ろすと、耳に届くのは雪を踏みしめる足音や、夜風が木々を揺らす微かな音だけになった。
転移門のそばでは 笑い声、歌声、誰かが無理やりあげた乾杯の音が響いている。
その全てが、心の奥に温かく染み込んでくる。
(……あっという間に、一年か)
この世界に閉じ込められて、過ごした一年と少し。あっという間だったこの一年を振り返ると慌ただしかった。
デマや噂の対応。
度重なるボスとの死闘。
バグモンスターとの戦い。
そして――「蒼炎のカイト」との決戦。
――それでも。
今この瞬間、あそこにいる皆は笑っている。
星明かりに照らされた仮想の夜空の下で、互いに肩を組み、冗談を言い合って笑っている。
その光景を見ていると、不思議と胸の奥に小さな温もりが灯る。
「……ここまでやってきて、良かった。」
思わず口にしたその言葉は、雪を吸い込んだ夜空へ溶けていった。
僕達が歩んできた道に、迷いや痛みがなかったわけじゃない。でも、黄昏の騎士団を結成して、皆と支え合い、ここまで来られたのなら――そのすべてが、無駄ではなかったと信じられる。
「……ふふっ。」
自然と口元に笑みが浮かぶ。
そんな時。
「カイト?」
耳に届いたのは、この世界で一番聞き慣れた声。振り向けば、アルゴが立っていた。
ロールプレイの調子でも、情報屋の顔でもない。そこにいたのは、“相棒”としての彼女。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと一息つこうと思って。」
肩を竦めると、アルゴは隣に腰を下ろした。
「……考え事?」
「まあね。」
素直に頷くと、彼女は少し眉を寄せた。
「……また何か隠してない?」
「違うよ。」
苦笑しつつ、僕は宴会場を指差す。
「ただ……ああして皆が笑ってるのを見て、頑張ってきて良かったなって、そう思っただけ。」
「……。」
アルゴは一瞬だけ視線を落とし、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「……そっか。――うん。そうね。」
それだけを言い、彼女は僕の隣で黙って星空を見上げた。
冷たい風が頬を撫でる。
無数の星が、天上の城アインクラッドを照らしていた。
「……次の年越しは、“現実世界”で。みんなで迎えられたらいいね。」
そう呟くアルゴの声が、夜空に優しく響いた。
各々がカイトについて語るパートでした。
きっと彼の人誑し能力ならこの世界でも中心に居るんじゃないかな。
プログレッシブについても考慮されてない物語構成になってます。