.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第十四話

 

 

 「うーん……。」

 

 僕は手元の装備欄を開き、思わず声を漏らす。

 

 “蒼炎のカイト”との戦闘で使っていた二本のダガーは、あの時粉々に砕け散り、今はもう手元にない。

 けれど第五十層攻略を目前に控えた今、新しい武器の調達は避けて通れない。

 

 「今から探すにしても、良いものが見つかるかどうか……。」

 

 「珍しく弱気な発言ね?」

 

 隣を歩くアルゴが、腕を組みながらくすっと笑う。

 

 「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。」

 

 僕は苦笑しつつ、再び装備欄を確認する。

 手持ちの予備ダガーはいくつかある。けれどどれも凡庸な品で、とても第五十層のボス戦に持ち込めるレベルではなかった。

 

 「本当は二本揃えて使いたいんだけど……贅沢は言ってられない。ただ、一本でも、まともなやつが必要だ。」

 

 「で、もし間に合わなかったら?」

 

 「……その時は、ボス攻略戦には出ないよ。今のままじゃ足を引っ張るだけだから。」

 

 口に出してみると、改めて胸に重みがのしかかる。

 僕は年越しや新年会で浮かれている場合じゃなかったのかもしれない。今の装備のままでは、仲間と並んで戦えない。

 

 「まぁまぁ、焦りすぎないの。慌てたって武器がポンッと出てくるわけじゃないでしょ?」

 

 「それは……そうなんだけどね。」

 

 アルゴはフッと笑い、僕の肩を軽く叩いた。

 

 「ともあれ、調べてみなきゃ始まらないわよ。はい、まだ”誰も手をつけてない場所がある可能性”はいくつかピックアップしておいたよ。」

 

 「本当に?」

 

 「せっかく情報屋やってるんだもの。カイトのために一肌脱ぎますとも。」

 

 彼女はニヤリと笑いながら、候補地のリストを提示した。

 

 第一候補地:死者の遺跡(第三十五層)

 過去に攻略された迷宮区の奥。隠しエリアの噂があるが――すでに先行者が調べ尽くし、目ぼしいものは残っていなかった。

 

 第二候補地:朽ちた神殿(第四十二層)

 低確率でレア武器が落ちると有名なエリア。しかし敵の出現率が異常に高く、ソロで挑むにはリスクが大きすぎる。戦闘を避けつつ探索したが、成果はゼロ。

 

 第三候補地:沈黙の深淵(第四十八層)

 攻略組ですらまだ本格的に踏み込んでいないエリア。難易度は高いが、その分“未発見の武器”が眠っている可能性がある。

 

 三番目にして本命となりそうな場所を覗き込むとアルゴへ振り向く。

 

 「アルゴ、僕はここを潜ることにするよ。敵が強すぎるようなら無理はしない。すぐ撤退する。」

 

 「……わかった。階層が上だから、私は街で他のダンジョンを洗い直しておく。もし何か掴めたらすぐ知らせるから。」

 

 「ありがとう、アルゴ。」

 

 軽く頷き合い、僕は彼女と別れて《沈黙の深淵》の奥へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 雪のような白い霧が漂う、冷たい石造りの回廊。

 

 「はぁ……やっぱり簡単には手に入らないか。」

 

 拾ったアイテムを確認しながら、落胆のため息を漏らした。

 

 《沈黙の深淵》を慎重に進み、敵を倒していく。幸いにしてソロでも十分に攻略できる難易度、かつ、それなりに強力な装備はドロップしていた。

 けど――どれも、僕が求めているダガーではない。

 

 「んー……これはディアベルかキリトかな。」

 

 片手剣を手に取りながら、彼らが使えそうなものを選別する。

 

 「あ、両手爪……これはアルゴにあげよう。」

 

 彼女は戦闘メインではないが、いざというときに扱う武器は両手爪。

 仲間の装備が見つかっていく。そう考えると、少しは探索の成果を得られた気がして、胸の重みがほんのわずかに和らいだ。

 とはいえだ。

 

 「一本でいいんだけどなぁ……。」

 

 出てほしいのは事実。

 そんな風に苦笑しつつも、更に奥へ進んだその時――。

 

 「……?」

 

 最深部の広間に足を踏み入れた僕は、思わず目を疑った。

 

 「プチ……グソ……?」

 

 そこにいたのは――《The World》で散々見かけた育成モンスター、あの【プチグソ】に瓜二つの存在だった。

 

 「え、なんで……!?」

 

 混乱する僕の視界に、不意にクエストウィンドウが展開される。

 

 《クエスト受注:プチグソレース - 深淵の者たち》

 

 「正式に……受注された……?」

 

 驚きに目を見開く。

 今までの“バグモンスター”とは違う。これはSAOシステム上の正式なクエストだ。

 

 けれど――なぜ、≪The World≫にいたプチグソがここに?

 偶然?それとも、このSAOが“あの世界”を内包している証なのか……。

 

 僕は慎重にプチグソへ歩み寄り、クエスト詳細を開いた。

 

 《クエスト:プチグソレース - 深淵の者たち》

 内容:沈黙の深淵の最深部を制覇するため、あなたはプチグソと競争しなければならない。

 ルール:

 ・スタート地点からゴール地点までプチグソと競争すること。

 ・走者によるソードスキルの使用は禁止。

 ・レース中に出現する障害物を回避しながら走ること。

 報酬:【???】

 

 「…………いやいやいや。」

 

 目を疑い、即座に突っ込む。

 

 「僕自身が走るの!? どういうこと?!」

 

 確かにプチグソレースはあった。けれど《The World》では“プチグソに乗って走らせる”のが常識だ。

 自分で走るなんて聞いたことがない。

 

 「……とりあえず、やるしかないか。」

 

 文句を言っても始まらない。

 少なくとも“レース”なら、死のリスクは低いはず。覚悟を決めて受諾ボタンを押すと――目の前のプチグソが元気よく跳ねた。

 

 直後、ウィンドウに無慈悲なカウントが走る。

 

 《レース開始まで:3……2……1……》

 

 「えっ!? 準備時間短くないっ!?」

 

 僕の抗議を完全に無視して、レースは――勢いよくスタートした。

 

 合図よりワンテンポ遅れて全力で走り出す。けれど――

 

 「……速ッ!?!?」

 

 プチグソは爆発的なダッシュを見せ、あっという間に視界の彼方へ消え去っていった。

 

 「いやいや、全然勝てる気しないんだけどっ?!」

 

 必死に走るも、差は広がる一方。

 しかもコースには容赦なく障害物が配置されていた。

 

 木の根が絡みついた道。崩れかけた橋。跳躍しなければ進めない段差。

 

 「障害物っていうか……嫌がらせだろこれ!!?」

 

 思わず大声で突っ込む。

 けどプチグソはそんなもの軽々と飛び越え、楽しそうに(?)コースを駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 「……これ、どうやって勝つの……?」

 

 結局、僕がゴールにたどり着いた時には、プチグソはすでに余裕たっぷりの顔(に見える)で待っていた。

 クエストウィンドウには無情にも《失敗》の文字。

 

 「なんなんだ……これ……。」

 

 幸い、クエストは何度でも再挑戦可能らしい。

 

 

 

 ――とまぁ、そんなこんなで何度も挑戦した僕はゼェゼェと肩で息をしていた。

 

 「……何回やっても、勝てない。」

 

 プチグソのスピードは常軌を逸していて、ただ足で競ってもまるで歯が立たない。

 障害物を利用して差を詰めようとしても、先に行かれてはどうしようもない。

 

 「単純な”足の速さ”じゃ勝負にならないし……かといって妨害する余裕もない……。」

 

 額から流れる汗を拭いながら、ふと考える。

 ――誰かに助言を求めるべきじゃないか、と。

 

 「……アルゴに聞いてみよ。」

 

 すぐにメッセージウィンドウを開き、連絡を送る。

 

 《To アルゴ》

 『助けて。今、“プチグソ”と競争してる。』

 

 送信すると、数秒もしないうちに返事が返ってきた。

 

 《From アルゴ》

 『ハ?!プチグソ?!――チョット待ってロ!!クラの字が近くに居たから連れてそっちに行く!!』

 

 「クラの字……って、クライン?」

 

 首を傾げつつ、アルゴが何かしらの策を持ってきてくれることを期待しよう。

 

 

 

 しばらくすると――

 ドタバタと複数の足音が聞こえ、アルゴを先頭に数人が姿を現した。

 

 「おいおい、”プチグソ”がいるって本当かよ!?」

 

 現れたのは、クラインと彼のギルド≪風林火山≫の面々だった。

 そして、彼らの視線の先――広間で跳ねているプチグソを見て、クラインの口が大きく開いた。

 

 「……マジでいるじゃねぇか!?」

 

 「ほ、ほんとだ!」「嘘だろ……!」「これが”The World:R1”の……?」

 

 ≪風林火山≫のメンバーも同じように驚愕し、ざわめく。

 

 「知ってるんだね。」

 

 問うと、クラインは胸を張って頷いた。

 

 「当たり前だろ!俺たちは≪R:2≫からのギルドだぜ?前作の≪R:1≫も資料漁って調べてんのは当然だ!」

 

 「……なるほど。」

 

 年越しの時にクラインが僕と似たような年齢だと話していたから、プレイしていてもおかしくないと思っていたけど、今のギルドが≪R:2≫からのメンバーとは思わなくて少し驚く。

 けれどそれなら、強力な助っ人足りえるかもしれない。

 

 「……ぜひ攻略のアイディアを下さい……!」

 

 ヘロヘロの僕は、すがるような勢いで彼らに頼み込んだ。

 

 

 僕のお願いに皆は快諾してくれると、様々なアイディアを出しつつ、実際にコースを歩いていくことに。

 すると――

 

 「ン? これ……。」

 

 アルゴが何かに気づいた様子で、コースから少し外れた地面に手をかざす。

 

 「……罠カナ?」

 

 「罠?」

 

 駆け寄って覗き込むと、そこには地面にうっすらと刻まれた“魔法陣”のような紋様。恐る恐る踏んでみると、コース上にスロー効果を示すようなデバフのエフェクトが発生した。

 

 「これで相手の足を鈍らせられる……。つまり――。」

 

 「絶対、一人じゃクリアできないタイプのクエストじゃん!!」

 

 思わず地面をバンッと叩く僕。クラインは背中をポンと叩き、笑いながら皆に指示を飛ばした。

 

 「つまりは、外から妨害しながらプチグソを止める仕組みだな!よし、コース脇をもっと探せ!全部見つけ出せ!」

 

 ……悔しいけど、今日はクラインがすごく頼もしく見える。いや、実際ギルドを率いて最前線を切り拓いてきたんだから当然なんだけど……なんか、悔しい。

 

 それから皆の協力で、いくつもの妨害装置を発見することができた。

 各自が強力そうな仕掛けの前に待機し、僕は再びスタート位置に立つ。

 

 「カーくん!皆の準備、できたゾ!」

 

 アルゴの声に頷き、深呼吸。

 

 「……ありがとう!行くよ!」

 

 クエスト開始。

 プチグソが飛び出した瞬間、罠が次々と発動し、爆発や光の閃光が走る。

 その度にプチグソは大きく減速し、初めて互角の勝負に持ち込むことができた。

 

 「カイト! もう少しだ!!」

 

 クラインの叫びが響く。

 終盤、僕とプチグソはほぼ横並び。

 

 しかし――最後の直線。

 プチグソが突然、さらにスピードを上げる。

 

 「ま・じ・か・よぉ!!!」

 

 必死に足を動かすが、差は広がっていく――そう思ったその時。

 

 「オラァァァァァァァ!!!!」

 

 ――ドンッ!!

 

 「えっ!?」

 

 クラインがコースに乱入し、渾身の体当たりでプチグソを弾き飛ばそうとした。

 

 「ぐええええええええええ!!!!!」

 

 ただ、クラインはギャグ漫画のように吹っ飛び、壁へ。けれどプチグソは足を止め、その隙が僕に与えられた。

 

 「カイト!!!」

 

 アルゴの声に背中を押され、僕は最後の力を振り絞ってゴールへ――

 

 

 《レースクリア!!》

 《クエストクリア報酬:ダガー【虎王】》

 

 「はぁっ……はぁ……勝った……!? やったぁぁぁぁ!!!」

 

 思わず両手を突き上げて叫ぶ。

 けどすぐに、壁に埋まったまま呻いているクラインを思い出して視線を向けた。

 

 「おおーい!! 誰か俺をたすけろー!!」

 

 見事に人型の跡を残して壁にめり込んでいる姿に、僕達は思わず口を大きく開けて笑った。

 

 クラインを引き剥がした後、改めて報酬を確認する。

 そこにあったのは、見事な一本のダガー。

 

 「おぉ~、ダガーじゃねぇか!カイト、よかったな!」

 

 武器のステータスは以前の物を凌駕し、申し分ない性能。

 満足しながらオブジェクト化した瞬間――僕は思わず息を呑む。

 

 「あ……これ……。」

 

 それは、《The World》に存在した双剣――【虎王】の片割れと瓜二つの姿だった。

 

 「まぁ~、プチグソなんて出てきたくらいだしな。報酬もそっち系だわな。」

 

 壁のダメージで呻きながらも、クラインが覗き込んで言う。

 

 「……う、うん。そうだね……。」

 

 口ではそう答えたけど、頭の中では疑問が渦巻いていた。

 プチグソだけじゃない。報酬までもが《The World》から流れてきている。

 

 これは偶然なのか? それとも――必然なのか。

 

 考えが絡み始めたその時。

 

 「カイト。」

 

 袖をそっと掴み、アルゴが心配そうに見上げてきた。

 その瞳に気づき、僕は慌てて首を振り、無理やり思考を断ち切る。

 

 「……ごめん。大丈夫。」

 

 そう言って、笑みを返した。不安を押し込みながら。

 

 

 

 





武器獲得回でした。
The World要素を入れたくて、プチグソレースとか面白そうだな、と思いついた回です。

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