.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第十七話にも閲覧いただきありがとうございます。
今回は番外編的な感じになります。



第十七話

 

 

 黄昏の騎士団のギルドホーム、談話室。

 珍しく女子だけが集まっていたその空間で、アイテム納品に来ていたサチがふと、ぽつりと呟いた。

 

 「……黄昏の騎士団って、今日のバレンタインデー、何かやったりするの?」

 

 「んェ?」

 

 唐突な話題に、ついロールプレイを忘れた素の返事が出ちまった。

 慌てて咳払いをひとつ、わたしは体裁を整える。

 

 「バレンタイン……? 確かにもうすぐけどヨ……ウチは特に何も決めてないナ? なァ、みんな?」

 

 話を振ると、周囲のメンバーが「うんうん」と頷いてくる。

 そりゃそうだ。うちはイベント事は「カイトが言い出した時だけ動く」が基本方針だから。

 

 「そうなんだ?……アスナさんのとこは?」

 

 サチの視線が移ると、アスナは少し困ったような笑顔を返した。

 

 「うーん……血盟騎士団は、男所帯だし、そういう空気じゃないのよね。」

 

 まぁ、アーちゃんのところはガチガチに固いもんねぇ……。

 

 「じゃあ、サっちゃんは何かするのカ?」

 

 軽く聞いてみると、サチは小さくうなずいた。

 

 「うん。本当は、日頃のお礼をこめてみんなにサプライズするつもりだったんだけど……結局バレちゃって。結果的に、ちょっとした“プレゼント交換会”になっちゃったの。」

 

 「へぇ〜、いいじゃナイカ。なんか楽しそうで。」

 

 「それでね、黄昏の騎士団も何かやるのかなって思って。クリスマスも年末年始も、ちゃんとイベントやってたし。」

 

 「う〜ん……。」

 

 わたしは少し考えながら、周囲を見回した。

 

 「……誰か、何か考えてた人いるカ?」

 

 すると、2人ほど――わずかに反応したメンバーが。

 

 (……黒だナ、アレは。)

 

 ふふん。まぁ黄昏の騎士団は、男女問わず優秀なメンツが揃ってるからナ。誰かにチョコを渡したいってヤツがいても不思議じゃない。

 

 「……よし。せっかくだし、ナニカやってみるカ?」

 

 言ってから自分でも驚いた。

 わたし、そんなノリよく“バレンタイン企画”なんて言い出すタイプだったっけ。

 けれど――

 

 「やろう! わたしも手伝う!」「バレンタインかぁ……いいね、なんかワクワクする!」

 ……思いのほか、反応は良好だった。

 

 (……みんな、案外そういうの、楽しみにしてたんだ。)

 

 みんな女の子ってことだろう。わたしは頬をかすかに緩めながら、小さく息をついた。

 男どもが出払ってるチャンスなんて、そうそう巡ってくるもんじゃない。だからこそ――チャンスは今しかない。

 そうと決まれば、即行動、ということで、黄昏の騎士団の女子メンバー+アスナ+サチで、急遽バレンタインチョコ作りがスタートすることになった。

 

 

 

 

 名目はあくまで“日頃の感謝”。

 なんだかんだで、ウチの男性陣は女性プレイヤーに対する気配りが行き届いてるし、困ったときには頼りになる。

 だったら、こうして少しでも“返す”のも悪くないだろう。

 

 SAO内の料理はシステムスキル依存。

 リアルでの腕前が反映されないのは、正直ちょっと悔しい。

 

 (ある意味アレンジが効かないのは不便なんだけど……)

 

 まぁ、それでも料理スキルは一通り習得してあるし、問題ない。わたしはテンポよくチョコの下処理を進めていく。

 すると横から、ぱっと声が飛んできた。

 

 「アルゴさんって、料理スキル結構あるんですね!?」

 

 振り向けば、最近ギルドに入ったメンバーのひとりが目を輝かせてこっちを見ていた。

 

 「ン?まぁネ。」

 

 別に隠してたわけじゃないけど、わざわざ言うことでもない。

 情報屋で、このキャラ付けだ。どうせ「意外」って顔をされるのは見えていた。

 

 案の定――周囲の視線が、なんだか妙に“あたたかい”。

 

 「……アルゴさんも、普通に女の子なんですねぇ。」

 

 「……は?」

 

 首を傾げるわたしに、何人かがニヤニヤしながら視線を逸らした。

 

 「なんだヨ、その言い方は?」

 

 「い、いえいえ!なんでもないでーす!アスナさん、これってこんな感じでいいんですか〜?」

 

 露骨すぎる話題逸らし!こっちは真面目に作ってるっつーの!!

 

 ぶーたれ気分のまま、わたしは手際よくチョコを仕上げていく。ギルドのみんなへの分、そして――カイトの分も。

 

 (……カイトには特別をあげたい。)

 

 けれど、だからと言って想いを伝えるとか、そんなつもりはない。相棒として、仲間としての特別。

 

 「……そろそろ焼き上がるナ。」

 

 そう呟きながら、オーブンウィンドウを閉じ、カウンターに並ぶカップの数を数える。

 

 (……喜んでもらえると嬉しい、な。)

 

 胸の奥でざわりと揺れる。“普通に女の子”な自分を、少しだけ意識してしまったバレンタイン――。

 わたしはラッピングをしながら、少しだけ昂る気持ちを抑えながら彼を想う。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでチョコ作りは順調に進み、頃合いを見計らったかのように男連中がギルドへ戻ってきた。

 

 「ただいまー!調査隊も街で合流して全員揃ったぞー!」

 

 玄関から賑やかな声とともに姿を見せたのは、カイトを先頭にディアベル、ギルドの面々、そして外部協力のキリト、キバオウ、クライン――≪風林火山≫の連中まで。どうやら今日は最前線探索で合流して、臨時パーティーを組んでいたらしい。

 

 続々と戻ってきた調査班は報告準備を始めていたが――それよりも先に、今日という日を祝うべきだろう。

 

 だから女子チームで顔を見合わせ、息を合わせて――

 

 「「「ハッピーバレンタイン!!」」」

 

 一斉にチョコの包みを差し出す。

 一瞬、場が静まり返る。

 

 「…………。」

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間――

 

 「っしゃああああ!!チョコもらったぞおおお!!」「マジか!?本物か!?ありがとうありがとおお!!」

 

 場は一気に歓喜の渦。

 あまりにも素直に喜ぶものだから、こっちは逆に照れくさくなってしまう。……まぁ、悪い気はしないけど。

 

 アスナとサチが中心になって多めに用意したおかげで、クラインたち風林火山、キリト、キバオウの分までちゃんとカバーできていた。みんなが日頃の感謝を込めてチョコを渡していく中――やっぱり、というか当然のように、カイトの周りには人だかりができていた。

 

「カイトさん、いつもありがとう!」「おかげで今日まで頑張れてるんです、本当に!」「これ、みんなからの気持ちです!」

 

 差し出されるチョコに、カイトは少し照れながらも一人ひとり丁寧に言葉を返していく。

 

 「ありがとう。……皆が頑張ってくれるから、僕も頑張れるんだ。本当に、ありがとう。」

 

 その笑顔に、胸がきゅっと締めつけられた。……なに、それ。なんかずるい。

 

 

 

 ――と、そこまでは良かった。

 

 「そういえばさ。」

 

 カイトが何気なく口を開いた。

 

 「さっき男同士でバレンタインの話してたんだよ。今日はバレンタインデーだから“貰えたら嬉しいよね”って。」

 

 「……は?」

 

 なんとも悪気のない顔で、爆弾を落としてくる。その瞬間、空気がピシリと凍りついた。

 

 「カイトさん!?そういうのは黙っててくださいよ!?」「期待してたのバレたじゃねぇかあああ!!」「格好つかねぇだろがあああ!!」

 

 各所から悲鳴とツッコミが飛び交う中、当の本人はまるで悪びれもせず――

 

 「えー? でも、こうしてもらえたんだから、“気持ちが通じた”ってことじゃない?」

 

 屈託のない笑みで言い放った。

 ……全く。本当にこの人は、素でこういうことを言うんだから。

 

 わたしはそっと目を伏せ、カイトに渡す最後のひとつを、意識しながら強く握りしめる。

 そうして、誰かが食べ始めたりとガヤガヤと皆が盛り上がる中、それを少し離れた場所から楽しそうに眺めていたカイトが、ふいに輪を抜け出した。

 

 きっとその景色を満足したんじゃない。それがずっと続くように頑張ろうとしてるに決まってる。

 

 まだサプライズはあるんだよ。

 

 わたしはすぐにその背を追いかけた。

 

 向かった先は、ギルドマスターの部屋。扉の前に立つカイトは、追ってきたわたしに気づいていたのか、静かに振り返って微笑んだ。

 

 「……入る?」

 

 促されるままに部屋へ足を踏み入れると、カイトはギルドマスターの椅子に腰を下ろし、いくつかのウィンドウ操作をしていた。

 

 「バレンタインは……アルゴの提案?」

 

 「発端はサチ。月夜の黒猫団はプレゼント交換するんだって。」

 

 「そっか。サチが……。」

 

 手を止めたカイトは、ふっと表情を和らげる。

 かつて恐怖に縛られていた少女が、今では仲間に囲まれて笑えるようになった――その事実を、彼はまるで自分のことのように喜んでいた。

 

 ……まったく。

 どれだけ人ができてるんだか、この人は。

 

 「ま、たまにはこういう息抜きもいいよね。ずっと張り詰めてたら、心が破裂しちゃうから。」

 

 (……その言葉、まるっとブーメランだよ、カイト。)

 

 そう胸の中で突っ込みながら、わたしは一歩踏み出した。そして――両手で包みを差し出す。

 

 「はい。カイト。……ハッピーバレンタイン。」

 

 それは他の誰にも渡さなかった、“相棒だけの特別”。

 カイトの瞳が驚きに大きく見開かれる。

 

 「……いいの?」

 

 「もちろん。“相棒”にだけの、特別。」

 

 わたしがそう言うと、カイトはゆっくりと包みを受け取り――

 

 「……うん。ありがとう。……すごく嬉しいよ。」

 

 ――これまで見たことのない、柔らかく温かな笑みを浮かべた。

 

 その笑顔に、胸が強くかき乱される。心臓が痛いくらいに跳ねて、今すぐ抱きしめてしまいそうで。

 

 けれど、必死に抑え込みながら、わたしは努めて軽く言葉を返す。

 

 「……どういたしまして。」

 

 心の奥に甘く苦い感情を抱えながら、わたしは静かに息をついた。

 

 

 

 

 





クリスマスをやったならバレンタインもやるでしょ!のノリで書いた物語です。
平和な感じは書いていて和みますね。

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