.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第二十七話

 

 

 第五十層の街襲撃事件――。

 そして、“空腹”や“睡眠不足”によるデバフ、プレイヤー社会の変化など、怒涛の数日が過ぎたある日。

 

 そんな中、キリトから「話を聞いてほしい」と連絡が届いた。

 

 僕はギルドマスターの部屋で、アルゴ、ディアベルと共にこれまでの情報を整理しながら、彼の到着を待っていた。

 

 しばらくして、団員に案内されてキリトが部屋にやってくる。

 

 「こっち座って。」

 

 そう言ってソファへと彼を通し、僕達も腰を下ろした。

 

 「改まって“話したいことがある”だなんて……どうしたの?」

 

 そう尋ねると、キリトはほんの一瞬だけ、バツの悪そうな――いや、どこか恥ずかしそうな顔をした。迷いと、少しの負い目が混じった表情。

 それを振り払うように、意を決して口を開く。

 

 「……カイトが色々話してくれたから……俺も黙ってるのはよくないと思って。」

 

 深呼吸をひとつ置いて――。

 

 「……実は、俺――エクストラスキル《二刀流》を習得したんだ。」

 

 「「「二刀流!?」」」

 

 僕とアルゴ、ディアベルの声が重なった。

 

 初めて耳にするその名称。

 《スキル》に精通しているはずの僕達でさえ、その存在を知らない。

 

 「習得条件は……?」

 

 ディアベルが問いかけると、キリトは苦笑しながら首を振った。

 

 「わからない。……気づいたら、スキル欄に追加されてたんだ。」

 

 「ナルホドナ……つまり“ユニークスキル”ってことダ。」

 

 アルゴが補足するように言う。

 

 「ユニーク……つまり、キリト専用スキルってことだね。」

 

 「ま、現時点でキー坊しか持ってないワケだし、そう言って差し支えないダロ。」

 

 アルゴの言葉に僕も頷く。

 

 「それで、相談って?」

 

 僕が問いかけると、キリトは少しだけ照れながら続けた。

 

 「二刀流の練習に付き合ってほしいのと……できれば、今使ってる剣と同じクラスの武器がもう一本ほしいんだ。」

 

 そう言って、彼は背中から黒い剣を引き抜き、机の上に置いた。

 

 それは――《エリュシデータ》。

 第五十層フロアボスのラストアタックボーナスとして入手した、魔剣級の片手剣。

 

 「なるほど。二刀流を活かすために、同等性能の剣が必要ってわけだね。」

 

 僕も双剣をするときに、できるだけバランスの取れたダガーを揃えたいから、その重要性はよく分かる。

 

 「……カーくんといい、キー坊といい……贅沢だナァ。魔剣級の剣を“もう一本”欲しいだなんテ。」

 

 アルゴが茶化すように笑う。

 

 「練習については、僕の我流で良ければ付き合うよ。……武器のほうは、そうだな……。」

 

 「完全に同じものでなくてもいいんだロ? なら、プレイヤー工房で鍛えてもらえばいいと思うゾ。」

 

 アルゴが肩をすくめながら続ける。

 

 「五十層以降、鍛冶スキルの熟練度カンストした職人も増えてきてる。素材さえ揃えば、魔剣に匹敵する剣だって作れるサ。」

 

 「それなら――。」

 

 僕は思いついた工房の名を挙げた。

 

 「『リズベット工房』を紹介するよ。僕もダガーのメンテで世話になってるし、信頼できるよ。」

 

 「ン、リッちゃんカ。アーちゃんの武器も作ってるし、間違いナイネ。」

 

 アルゴも頷き、僕達はキリトと共に――ギルドに残ると言ったディアベルと別れて、リズベット――リズが工房を構える第四十八層《リンダース》へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 白と赤を基調にした、相変わらずお洒落な外装の《リズベット工房》。

 扉をくぐると、所狭しと並ぶ武器の数々に、キリトがきょろきょろと目を輝かせている。

 

 ただ――肝心の店主の姿が、カウンターにはなかった。

 

 「リズー?」

 

 僕が奥に声をかけると、作業場から元気な声が返ってくる。

 

 「ちょっと待ってー!今仕上げ中だからー!」

 

 「そっか。じゃあ、待たせてもらおっか。」

 

 そう笑って答えると、アルゴとキリトも頷いた。

 並べられた武器を眺めながら待っていると――。

 

 「お客さんいるなら言ってよ!ったくもう……!」

 

 奥から飛び出してきたリズは、作業着姿のまま。

 どうやら僕一人しかいないと思っていたらしく、舌打ち混じりに慌てて奥へ戻っていく。

 

 そして数分後――接客用の服に着替え直して再登場した彼女は、満面の笑顔で言った。

 

 「リズベット工房へようこそ!」

 

 「……さっきのは、無かったことにしたな。」

 

 キリトがぽつりと呟き、リズがジト目で睨む。

 

 「なにぃー? ずいぶん生意気なヤツを連れてきたじゃない、カイト。」

 

 気まずそうに視線を逸らすキリト。僕は苦笑しつつ紹介する。

 

 「はは……(苦笑)。彼はキリト。片手剣を一本、鍛えてほしくて来たんだ。」

 

 「その背中に立派な剣が一本あるじゃない。」

 

 「お、さすがだね。その剣と“同等の武器”を打ってほしいんだ。」

 

 僕がそう説明すると、キリトは背中から黒い剣を引き抜き、カウンターに置いた。

 

 「……おっも!?これ、片手剣の重さじゃないって!っていうか、魔剣級じゃないの!?」

 

 リズが驚きの声を上げ、ステータスを確認して絶句する。

 

 「――なに? モノマネでもするつもりなの?カイトの?」

 

 「違うって!」

 

 キリトが慌てて否定するが、リズはまだ呆れ顔だ。

 

 「まぁ……このレベルの武器を打つには、それ相応の素材が必要になるけど……当然、持ってないんでしょ?」

 

 「攻略組が鉱物なんて持ち歩くわけないダロ。」

 

 アルゴが肩をすくめて返す。

 

 「じゃあ取りに行くしかないわね。……アルゴ、情報出しなさいよ。」

 

 「情報料。」

 

 「キリト払いで。」

 

 「アイヨ。」

 

 「勝手に決めんなよ!?……いや、まぁいいけど……。」

 

 ツッコミを入れつつも承諾するキリトと、アルゴとリズの軽妙なやり取りに、思わず僕は笑ってしまった。

 

 「――五十五層の雪山に、“水晶”を餌にするドラゴンがいるって話があル。」

 

 「それ、この前僕が確認した場所だね!?」

 

 聞き覚えのある場所に声を上げると、アルゴはうんうんと頷く。

 

 「カーくんが山頂付近で拾ってきた鉱石が良い素材だったロ? なら、確実に何かしらある。鉱物目当てで行く価値は十分あるってことダ。」

 

 「なら、そこで決まりね。」

 

 リズがにやりと笑って続ける。

 

 「五十五層なら私も同行するわ。……どうせアンタたち、鉱石の効率的な採取なんて知らないんでしょ?」

 

 「う……。」

 

 キリトは言い返せず、視線を逸らす。僕は一応知識だけはある。

 

 「なら僕も行くよ。アルゴはどうする?」

 

 「ンー、五十五層ならオレっちも行くカナ。リっちゃんが鉱石掘ってる間、確認したいこともあるしナ。」

 

 「了解。じゃあ、4人で向かおうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 4人でパーティを組んだ僕達は、雪山――第五十五層の氷嵐地帯へと足を踏み入れた。

 入った瞬間から、容赦のない吹雪が身体を叩きつけてくる。

 

 「うわっ、さむっ!!」

 

 リズが肩を縮めて声を上げる。その姿に苦笑しながら、僕は軽く彼女の肩を叩いた。

 

 「防寒具、ちゃんと持ってきた?」

 

 「もちろん……!でも、想像以上に寒い!風の勢いがヤバいってば!」

 

 「僕は前に軽装で来て、凍死するかと思ったよ。結局、装備を取り直しに戻る羽目になった……。防寒具、まだ必要なら言って? 結構持ってきてるから。」

 

 先頭を進むキリトが、肩越しに声をかけてくる。

 

 「視界も悪い。……慎重に進もう。足元も滑りやすい。」

 

 「ま、適当に歩いて滑落なんてオチは笑えないシナ。」

 

 アルゴが冗談めかして言うけど、その足取りは一歩一歩、誰よりも慎重だ。

 

 

 ――吹雪を掻き分け進み、ようやく中腹に差し掛かったとき。

 視界がふっと開け、一面に広がる水晶の群生地帯が現れた。

 

 「……わあ、きれい……。」

 

 思わず漏れるリズの感嘆。

 けれど次の瞬間には、すでに彼女は職人の顔に戻り、素材チェックを開始していた。

 

 手際よく水晶を叩き、削り、硬度や反応を調べていく。

 

 「どう?」

 

 僕が覗き込むと、リズは眉をひそめて答えた。

 

 「うーん……悪くはないけど、キリトの剣に合わせるにはちょっと物足りないわね。」

 

 「ちょっと物足りない程度なら……もっと上の方で、いい鉱石が見つかるかもしれないな。」

 

 周囲に目を光らせながら、キリトが問う。

 リズはコクリと頷いた。

 

 「あくまでも可能性だけどね。他の鉱石とかの傾向を考えれば、登れば、“当たり”があるはず。」

 

 「なら、登ろう。――カイト。」

 

 呼びかけられて、僕もすぐに察する。

 

 「……うん。この辺りまで来たら、やっぱり“出る”よね。」

 

 その会話を耳にしたアルゴが、スッとリズの腕を引いた。

 

 「ん? なによ?」

 

 「ホラ、リっちゃんも下がるゾ。」

 

 「え、なんで――って、ちょ、ちょっと……!?」

 

 アルゴはリズを結晶群の陰に押し込むように引っ張った。

 

 次の瞬間――。

 上空から、雷鳴のような轟音が鳴り響いた。

 

 「っ……!」

 

 吹雪を裂いて舞い降りてきたのは、巨大な影。

 

 氷で造られたかのように半透明で、光を反射して煌めく鱗。

 着地と同時に地面を砕く爪は、刃よりも鋭く――見る者の息を呑ませる迫力を持っていた。

 

 氷のドラゴン。

 

 「……今度は、ひとりじゃない。――討伐できるといいけど。」

 

 僕はダガーを構え、氷風を切るように一歩踏み出す。

 

 キリトも剣を抜き、口元に笑みを浮かべた。

 

 「ま、降りてこなきゃ戦えないけどな。」

 

 「ほんとにそれ。……どこぞの“空の王者”じゃないんだから、今度は地上にいてくれて助かるよ。」

 

 僕の冗談に、キリトがクスッと笑う。その笑顔を合図に、僕は声を張った。

 

 「行くよ、キリト!!」

 

 「ああ!!」

 

 吹雪を突き抜け――僕たちは、氷のドラゴンへと斬り込んだ。

 

 

 

 

 戦闘開始からおよそ10分。

 前に僕が一人で挑んだ時と比べ、ドラゴンは滞空時間が短く、地上にいることが多い。

 

 そこに加わるキリトという火力の高い仲間。

 彼の鋭い斬撃が次々とドラゴンに入り、HPバーは確実に削られていく。

 

 「このままいけば……勝てる!」

 

 そう口にした――まさにその時。

 

 ドラゴンが咆哮を上げ、翼を大きく広げて上空へ舞い上がっていってしまう。

 

 「……ああ、もう。またこれ……?」

 

 僕は頭をかきながら空を仰いだ。

 前はこの動きに翻弄された。今回はキリトがいるから工夫してなんとか――。

 

 ゾクッ――。

 

 背筋を冷たい悪寒が走る。

 視線。鋭く、確実に“獲物”を見据える眼光。僕はそれにすぐ気がつくことができた。

 

 「……特殊個体だ!!」

 

 第一層から確認されてきた、異常行動や強化を備えた個体――《特殊個体》。

 バグやAIDA、デバフ対応に意識を奪われ、すっかり念頭から外していたけど……奴らが消えたわけではない。

 

 「狙われてる……!アルゴ達だ!!」

 

 「まずい!!」

 

 僕とキリトは同時に後方を振り返る。

 

 空中で反転したドラゴンが、冷気を喉奥に溜め込み――大口を開いた。

 

 「っ……!!」

 

 「アルゴ!!リズベット!!伏せろッ!!」

 

 叫んだ直後、ドラゴンが口から息吹を吐くと、続けざまに翼を叩きつけ、突風を巻き起こす。

 轟音とともに結晶の地面が砕け――アルゴとリズの身体が宙へと吹き飛ばされる。

 

 「リズベット!!捕まって!!」

 

 アルゴはリズを抱きかかえて庇ったまま、吹雪の中へと舞い上がった。

 

 「キリト!!」

 

 「わかってる!!」

 

 僕とキリトは一斉に地を蹴る。

 砕け散って空中に舞った結晶片を踏み台に、宙へ跳躍――アルゴとリズへと手を伸ばす。

 

 僕はアルゴを、キリトはリズを掴んだ。

 けれど、その直後に気づく。

 

 ――足元がない。

 

 下はぽっかりと穿たれた巨大な縦穴。

 雪と風が巻き込み、暗黒の深層へと続いている。

 

 「「「「うわああああああ……っ!!」」」」

 

 僕達は4人まとめて、白銀の吹雪の奥――暗闇へと落ちていく。

 

 「カイト!!」「キリト!!」

 

 声が交錯し、瞬間的に理解し合う。

 

 落下の勢いの中、壁際へと体勢をずらし――同時に武器を突き立てた。

 

 「っ、く……!!!」

 

 ガリガリガリ……ッ!!

 

 火花と轟音を撒き散らしながら、氷壁を削り減速を試みる。

 スパークの雨が吹雪を照らし――僕達はどうにか、底部へと到達した。

 

 「……なんとか、無事に済んだね。」

 

 ドラゴンは追ってこない。息を整えながら、僕は周囲を見渡す。

 

 落下した先は、氷に閉ざされた大きな洞窟のような空間。

 高く空いた天井からは、僕たちが落ちてきた巨大な縦穴が覗いている。壁面は一面が凍結しており、つるつるの氷の断崖で、登る手段は皆無に見えた。

 

 「これ……どうやって戻るんだろ?」

 

 僕の問いに、キリトも縦穴の天井を見上げ、少しの沈黙の後。

 

 「試してみるか。」

 

 唐突にそう言うと、彼は軽く助走をつけ――そのまま壁を駆け上がった。

 

 「おおぉぉ!?」

 

 リズが驚きの声を上げる。けれど。

 

 「……うーん。」「無理ダナ。」

 

 僕とアルゴは、ほぼ同時に冷静な感想を口にする。

 

 案の定――。

 キリトは途中で勢いを失い、滑り落ちてきた。

 ふかふかの雪に人型のクレーターを作りながら着地する。

 

 「……いけると思ったんだけどなぁ……。」

 

 雪に埋もれたまま、しょんぼりと呟くキリト。

 

 「いや無理でしょ。」「その発想と行動力は嫌いじゃないゾ。」「ま、今回は無謀だったね。」

 

 リズのツッコミ、アルゴの茶化しが続く。

 僕はそんなやり取りを見ながら、キリトのHPを確認した。

 

 落下にしては驚くほど軽微なダメージ。

 

 「即死トラップ……じゃなさそうだね。この高さから落ちてそれだけなら、イベントの一部かもしれない。」

 

 僕の言葉に、アルゴが頷く。

 

 「そうダナ、ギミックっぽいナ。」

 

 軽口が飛び交うその最中――。

 

 

 ふと、視界の端に違和感を覚えた。

 

 ……そこに、“それ”があった。

 壁の一部に――小さなノイズのような揺らぎ。

 

 (あれ……バグだ)

 

 僕は視線を横に向けながら慎重に観察する。

 規模は小さい。……けれど、見過ごすわけにはいかない。

 

 この程度なら、《データドレイン》で簡単に初期化できるはず。 けど――問題はリズの存在だ。

 ”データドレイン”のことを知っているのは、ごく限られた仲間だけ。

 

 ここで力を使えば、リズにまで秘密が露見してしまう。

 

 (どうしよ……?リズを信用してないわけじゃないけど……)

 

 もしこのバグが脱出経路を塞いでいるのだとしたら。

 あるいは、放置すれば拡大して深刻な異常を呼ぶのだとしたら。

 

 迷っていると――。

 

 「……あれ、バグ?」

 

 小声で囁いたのは、いつの間にか隣に来ていたアルゴだった。

 僕は彼女の目を見て、静かに頷く。

 

 「うん、間違いない。……でも、リズがいるから、どうしようかなって……。」

 

 アルゴは小さく息をつき、ポンと僕の腕を軽く叩いた。

 

 「――なら、私に任せて。」

 

 その言葉と同時に、彼女はくるりと踵を返し、キリトとリズの方へ歩いていく。

 

 「キー坊、リっちゃん。カーくんとオイラで向こうを調べてくるから、2人は反対側を見てきてくれナ?」

 

 「え、分担?」

 

 首を傾げるリズに、アルゴは即座に雪上へ適当な線を引いて見せる。

 

 「こういうダンジョンってサ、偏った視点だと見落とすことが多いンだ。オイラたちは“情報屋的”視点、そっちは“素直”な視点で頼むヨ。」

 

 「素直ってなにさ……。」

 

 「まぁいいか。リズ、行こう。」

 

 キリトはアルゴの意図を察したのか、すんなり従って反対側へ歩き出す。

 

 「……? うーん……まぁ、いっか。」

 

 首を傾げつつも、リズもキリトの後に続いた。

 

 (……ありがとう、アルゴ)

 

 心の中でそう呟きながら、僕は目立たないように右手を構える。

 右腕から淡く輝く光が、幾何学模様が宙に展開される。

 

 (――データドレイン!)

 

 光が弾け、ノイズのように揺らいでいた《バグの亀裂》は収束し、やがて完全に消え去った。

 

 データドレインによって《バグの亀裂》は静かに収束し――その奥に、新たな通路が口を開いた。

 横穴だ。

 

 「……これは。」

 

 慎重に覗き込む。

 一見、正常な構造に見える。だが、奥から漂ってくる空気には、明らかな違和感があった。

 

 僕が一歩踏み出そうとしたとき――腕を掴まれる。

 

 「カイト?」

 

 振り返ると、アルゴの真剣な眼差し。

 “まさか一人で行くつもりじゃないよね?”――そう訴える目だった。

 

 「……ごめん。一人で行くつもりはないよ。」

 

 苦笑して応え、周囲へ声を飛ばす。

 

 「キリト、リズ!こっちに通路を見つけた。僕とアルゴで調べるから、2人は反対側を頼む!」

 

 声を受けてキリトが手を挙げ、リズも首を傾げつつ了承する。

 僕はアルゴと共に、その横穴へ足を踏み入れた。

 

 

 

 ――通路の中は、不自然なほど静かだった。

 気温は変わらないはずなのに、空気そのものが“凍って”いるように冷たい。バグの気配はないけど、正常とも言えない……そんな不安定な空間。

 

 僕はアルゴを背に庇いながら進む。

 そして――視界が突然、開けた。

 

 「これは……!」

 

 そこに広がっていたのは、懐かしい光景。

 無秩序に積み上がった建物群。

 空に浮かぶ、重力を無視した異形のオブジェクト。

 地面には壊れたテクスチャと崩れたポリゴン、漂うデータの断片。

 

 「”ネットスラム”……!?」

 

 かつて《The World》の裏側に存在した、管理されないデータの吹き溜まり。

 その風景が、この《SAO》の中で“再現”されていた。

 

 「な、何ここ……。」

 

 アルゴが息を呑んだ。そのとき――静かに、白衣を纏った男が姿を現した。

 

 「ようこそ、カイトくん。アルゴくん。」

 

 「……!!?」

 

 即座にアルゴを背に庇い、その名を呼ぶ。

 

 「茅場……晶彦……!」

 

 彼はただ微笑み、静かに僕たちを見つめていた。

 

 「“どうやってここにいるのか”……とは聞くまいね。君はもう、それを問う段階にないだろう、カイトくん。」

 

 「……。」

 

 「ここはアウラ……彼女がバグや破棄データを隔離するために設けた領域。《ネットスラム》の風景は、彼女がイメージとして掴みやすかったからだろう。」

 

 拳を握る。

 

 (……アウラが、この場所を)

 

 「正直、君たちがこの空間に辿り着いたのは想定外だ。縦穴にあったバグはアウラが一時的に放置していたものだ。山岳地帯はプレイヤー到達率が低く、優先度が後回しになっていたのだろう。」

 

 「……つまり、僕達は偶然ここに迷い込んだってこと?」

 

 茅場は静かに頷く。

 

 「それともう一つ。君ならしばらくここにいても問題はない。だが――。」

 

 その視線がアルゴへと向く。

 

 「アルゴくんは違う。この空間に長く留まれば、“通常プレイヤーデータ”は汚染される。カイトくんは特別だが……君はそうではない。速やかに離脱すべきだ。」

 

 「どういう意味ダ……?」

 

 アルゴが険しい表情を浮かべたけど、それを無視する形で彼女の手を取る。

 

 「……行こう、アルゴ。」

 

 一瞬だけ躊躇するも――僕の目を見て、アルゴは強く頷いた。

 その時、茅場が再び口を開く。

 

 「礼を一つ。……私を楽しませてくれている報酬だ。あの縦穴は即死トラップではない。“脱出口”は存在する。探すといい。」

 

 「……私を楽しませてくれた?」

 

 胸の奥に、違和感が残る言葉。けど今は問いただす余裕はない。

 

 「……どうも。」

 

 「ふふ……礼など不要さ。」

 

 最後にそう呟くと、彼の姿は淡く霞んでいった。

 

 「行こう、アルゴ!」

 

 「……うん!」

 

 彼女の手を強く握り、再び《ネットスラム》の光景を背に走り出した。

 

 

 

 





リズとの会話をテンポよく作れたなぁ、と自画自賛。
少し駆け足な内容にはなりましたが、茅場との邂逅は少しだけ大切なシーンとなります。

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