.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第二十八話

 

 

 横穴から出ると、背後で、ゴゴゴ……と鈍い音が鳴り響いた。

 振り返ると――雪崩によって、入口が完全に塞がれている。

 

 「……閉じた。」

 

 雪壁を見上げて、静かに息を吐く。

 アルゴも腕を組みながら、ぽつりと呟いた。

 

 「入られたら困る場所、だったから正しいよネ。」

 

 そこへキリトとリズが駆け寄ってくる。

 

 「どうだった? 何か見つかったのか?」

 

 「横穴は……行き止まりだった。何もなかったよ。」

 

 軽く首を振り、言葉を選んで答える。

 

 「いや~、期待外れだったネ~。」

 

 アルゴが肩をすくめて冗談っぽく笑う。

 

 リズは少し訝しげな顔をしたけれど、「ふーん……」とだけ頷いた。

 

 「……なら、別の方法を考えないと、だな。」

 

 キリトが腕を組んだ、その瞬間――

 グゥ~~……

 

 間の抜けた音が、静かな空間に響いた。

 

 「……っうっさいわね!!いい加減お腹くらいすくでしょうが!!」

 

 「いや、まだ誰も何も言ってないゾ、リっちゃん。」

 

 見事な音を鳴らしたリズは顔を赤くしながら叫び、アルゴがそれに即ツッコミを入れる。僕とキリトは笑いを堪えきれず肩を震わせた。

 

 「じゃあ、いったん休憩にしよう。このまま放っておくと、空腹デバフかかるしね。」

 

 僕の提案に、キリトとアルゴは素直に頷いたが――。

 

 「私、軽食しかないわよ……?」

 

 リズが困ったように眉を下げる。

 

 「しょうがないナー。リっちゃんは。オイラが作ってやるから、ちょっと待ってナ。」

 

 アルゴはしゃがみ込み、手慣れた動きで携帯コンロと小鍋をオブジェクト化。次々と食材を取り出していく。

 

 「アルゴ……まさか料理スキル持ってるのか?」

 

 キリトが目を丸くして言うので、代わりに僕が笑いながら答える。

 

 「うん、結構高いよ? 今、熟練度8割くらいだっけ?」

 

 「えぇっ!?マジで?!アスナと同じくらいじゃない?!」

 

 リズが驚きの声を上げる。

 

 鍋をかき混ぜながら、アルゴはにやりと笑った。

 

 「別に隠してたワケじゃないゼ? 誰も聞かなかっただけダロ?」

 

 「それ、聞かれたら情報料取るだろ、絶対。」

 

 キリトがげんなりとツッコミを入れる。

 

 やがてスープが煮立ち、湯気と共に漂う温かな香りが空間を包み込んだ。

 

 「キー坊も食うカ? 食材費は出せヨ?」

 

 「食材費って……ま、いいけど。」

 

 呆れ顔のキリトも、結局スプーンを手に取る。

 

 

 

 ――それから数分間は、ただの食事会だった。

 誰もがスープを啜り、頬に赤みを宿しながら、ほんの少しだけ笑顔を見せていた。

 

 「まさか、こんな雪の中で……温かいご飯が食べられるなんてね。」

 

 リズが湯気を浴びながらふっと笑う。

 

 その笑みに釣られるように、空気がやわらかくなっていく。

 寒さも、緊張も、ほんの少しずつ解けていくような雰囲気にふと時間を確認する。

 

 「遅くなったし、今日はここで野宿かな。」

 

 なんだかんだ遅い時間になったのを確認した僕はテントとランプをオブジェクト化しながら言う。

 

 「私、野宿する準備なんてないわよ……?」

 

 リズがおずおずと言い出したのを僕は少しだけ笑いながら寝袋を差し出した。

 

 「心配しないで。備えはあるよ。はい、リズの分。」

 

 「用意周到すぎない?」

 

 リズは寝袋を受け取りながら目を見開いている。そんな彼女にまた笑いが込み上げる。

 

 「僕達はダンジョンに長時間潜ることもあるから。ここ最近の仕様変更にも適用できるように色々備えてるんだ。」

 

 「……ありがと。」 

 

 寝袋を受け取ったリズの横顔を見つめながら、僕はスープをすすり、縦穴の奥――欠けた夜空を見上げた。

 

 「せっかく星がきれいなのに、半分しか見えないなぁ。」

 

 「まぁ、下手したらここが“俺達の墓場”になるかもしれないし。小さい景色でも楽しんどこうぜ?」

 

 キリトが冗談めかして言うと――。

 

 「縁起でもないこと言うなヨ。」

 

 アルゴがすかさずツッコミを入れた。

 その横でリズが肩を落としながら

 

 「連泊で野宿は嫌よ……。」

 

 と呟き――笑い声が、静かな氷洞に広がった。

 ほんの少しの安心。そしてほんの少しの未来への希望。

 

 雪と星に包まれながら――僕達は静かな夜を迎え、眠りについた。

 

 

 

 

 朝――

 誰よりも早く目を覚ました僕は、静かに上体を起こした。

 

 「……ふぁあ。」

 

 欠伸をひとつ。

 昨夜と変わらない縦穴の空を見上げながら、ふと思う。

 

 (キリトのマネごとだけど、ダガーを突き立てて……登ってみるようかな?)

 

 そう考えて足元を動かしたとき――カツン、と硬いものに足が当たった。

 

 「……ん?」

 

 見下ろすと、小さな鉱石が転がっていた。

 

 「こんなところに鉱石?」

 

 僕の声と音に気づいたのか、アルゴ達も起き上がってくる。

 

 「なに?どうしたの……?」

 

 リズが寝ぼけ眼を擦りながら近づいてくる。

 

 「これ、ちょっと見てくれない?」

 

 僕は拾い上げた鉱石をリズに手渡した。

 

 リズは受け取ると、じっくり鑑定し――次の瞬間、ぱっと表情を輝かせた。

 

 「……これ!これよ!!」

 

 「えっ?」

 

 「間違いないわ!この鉱石があれば、キリトの剣、作れる!!」

 

 「……マジか。」

 

 キリトが目を見開く。

 

 「そりゃ良かった。でも……なんでこんな場所に?」

 

 その問いに、僕とアルゴは同時に顔を見合わせ――

 

 「「ドラゴンだ!」」

 

 「は?」

 

 「ここ、おそらく“ドラゴンの巣”だ。水晶を餌にしてるって話だったでしょ?つまり、体内で――。」

 

 「――うんこか。」

 

 キリトの直球に、思わず苦笑が漏れる。

 けど、その笑みはすぐに消えた。

 

 「……キリト!リズを抱えて!!」

 

 「え、なんで――。」

 

 「ドラゴンは夜行性!戻ってくる!!」

 

 僕の叫びと同時に、縦穴の上から轟音が降り注いだ。

 ――ドラゴンが、帰ってきたんだ。

 

 「はぁああああ!?!?」

 

 リズの悲鳴が響く。

 僕はアルゴを、キリトはリズを抱きかかえ、一気に雪を蹴った。

 吹き上がる粉雪が、ドラゴンの視界を遮るのを期待して。

 

 「ふたりとも!昨日の戦闘で一番硬かったのは翼の付け根ダ!そこを狙え!!」

 

 「了解!キリトも、聞こえたね!?」

 

 「聞こえた!やるぞ!!」

 

 テキパキと会話する僕達の横で、リズは悲鳴を上げ続けていた。

 

 「ちょ、ちょっと待って!!落ちる!!絶対に落ちるってば!!」

 

 「大丈夫だ!!」

 

 僕とキリトは人を抱えたまま――

 降りてきたドラゴンの翼の付け根に、それぞれの武器を突き立てた。

 

 ガギィッ!!

 

 鋭い金属音。刃が鱗を割り、ドラゴンが咆哮をあげる。

 そのまま羽ばたきの勢いに乗って、縦穴を一気に上昇。

 

 「くっそ……振り落とされる……!!」

 

 縦穴の出口が見えたその時、ドラゴンが激しく身体をひねった。

 ――僕達は、一斉に宙へと放り出される。

 

 「カイトォォ!!この後どうするんだよぉぉ!!」

 

 キリトの悲鳴が空に響く。

 

 僕は空中で即座にアイテムスロットを開き、パラシュートを取り出した。

 

 「アルゴ!これでキリトたち拾って!!」

 

 「アイヨ!!」

 

 アルゴはすぐに展開し、キリトとリズを確保。

 空中で揺らめくパラシュートに2人は唖然としている。

 

 「おい、SAOにパラシュートなんてあったのかよ!?」

 

 「今はツッコむなって!!」

 

 「お前はどうするんだよ!!」

 

 「僕は――こっち!!」

 

 腰のダガーを逆手に構える。

 舞い散る結晶の破片が、僕の周囲で蒼白に煌めいた。

 

 「特殊個体は……放っておけないからね。」

 

 空中に散った結晶を足場に風を裂き、ドラゴンに接近する。

 

 体が――蒼い炎を纏い始めた。そして、意識の底から自然と引き出される。無意識に言葉が出た。

 

 「――三爪炎痕ッ!!」

 

 瞬間、斬撃の軌跡が、閃光のように走り、ドラゴンを貫いた。

 

 空中には――爪痕の三角が刻まれている。

 

 「……っ!?」

 

 僕の一撃――『三爪炎痕』は、ドラゴンのHPを一瞬でゼロにした。

 ……けれど驚くべきは、その威力じゃない。

 

 (今の……ソードスキルだった!)

 

 間違いない。

 けれど、僕が握っていたのは逆手のダガー二本。

 《SAO》のシステム上、そんなスタイルに正式なソードスキルなんて存在しないはずだ。

 

 僕は思わず、自分の手を見下ろす。

 

 「なんで……?」

 

 理解が追いつかない。

 ずっと“我流”として使ってきたこの逆手二刀流。

 ただの動きに過ぎないはずだった。

 

 けれど今、確かにスキルが発動した。

 しかも――

 

 「……≪The World≫の技が、SAOで……?」

 

 あの斬撃は“蒼炎のカイト”の象徴――『三爪炎痕』に他ならない。正確には≪The World≫でも正式には存在しないイリーガルの技。

 

 (存在するはずがない……のに!)

 

 「カイト!!」

 

 アルゴの叫びで我に返る。

 そうだ、まだ――落下中だ!

 

 「まずい……!」

 

 慌てて体勢を整え、下方に見えた大結晶へダガーを突き立てる。

 

 ギギギギィィン!!

 

 凄まじい火花を散らしながら結晶を削り、勢いを殺し――

 

 ドンッ!!

 

 どうにか地面へと着地した。

 

 「っっっぶなぁぁぁ……!!」

 

 息が乱れる。

 これは戦闘の昂揚感じゃない。ただの落下の恐怖だ。

 

 胸を押さえ、地面に目を伏せ――それから、空を仰ぐ。

 パラシュートで降下してくる仲間達の姿が見えた。再び右腕に視線を落とす。

 

 (今のスキルはいったい……)

 

 《The World》のデータが、さらに深く《SAO》を侵食しはじめているのか?

 それとも――“黄昏の腕輪”がナニか呼び出しているのか?

 

 分からない。まだ考えるには材料が足りない。だから今は――考えるのをやめよう。

 

 駆け寄ってきた仲間の顔を見て、切り替える。

 

 「空中で飛び出して戦うなんて、正気の沙汰じゃないわよ!!」

 

 リズの怒声に、僕は肩をすくめる。

 

 「まあまあ、結果オーライってことで。」

 

 「ったく、あんたってヤツは……!」

 

 呆れながらも、リズの顔に安堵が浮かぶ。その笑みに、僕も自然と笑みを返した。

 

 「あ、そういえば――ドラゴンを倒したから……。」

 

 ウィンドウを開き、インベントリを確認する。

 

 「うわ……こりゃすごい。」

 

 「何がだ?」

 

 キリトが首を傾げたのでインベントリを可視化させた。

 

 「討伐報酬で、さっき拾った鉱石の“良質品”が大量に入ってる。」

 

 「どれどれ……って、本当じゃない!」

 

 リズの瞳が一瞬で輝く。

 

 「この品質なら、キリトの剣――最高の一本が作れるわ!」

 

 「でも、これだけの量、一気に出回れば、相場が崩れるないカ?」

 

 アルゴが現実的な懸念を口にする。

 けれど、リズは頷きながらも、すぐに冷静に言った。

 

 「加工できる鍛冶職は限られてるわ。素材だけあっても扱えないなら、流通は絞られる。だから、相場の心配は少ないと思う。」

 

 「たしかにね……。」

 

 僕は少し考えて、決断を下す。

 

 「鉱石の一部は、売却してギルド資金に回そう。あとはみんなの装備更新。」

 

 「おお、珍しくギルマスらしい発言ダナ?」

 

 「装備作るときはぜひウチをご贔屓に。」

 

 アルゴが笑い、リズも悪そうな顔をしながらニヤリと笑う。

 僕は釣られるように笑いながら返した。

 

 「支援活動の幅が広くなっていってるしね。資金は、いくらあっても足りないよ。」

 

 「ま、そりゃそうダ。――じゃ、そろそろ戻ろうゼ。」

 

 アルゴが転移結晶を手に取る。

 

 「さすがに疲れた……。」

 

 キリトがぼやき、リズは伸びをしながら微笑んだ。

 

 「まぁまぁ、収穫は十分すぎるだったわけだし成果としては完璧でしょ!」

 

 「じゃあ――。」

 

 僕は転移結晶を高く掲げ、口にした。

 

 「転移――アインクラッド・第五十五層《主街区》!」

 

 光が僕達を包み、雪山の風景は――静かに消え去った。

 

 

 

 

 第五十五層の主街区に転移すると、そこには温かな灯りと、喧騒と、人の声が広がっていた。

 

 「いやぁ……やっぱ、街に戻ると安心するな。」

 

 キリトが肩を回しながら呟き

 

 「……ほんとね。安心したら湯船に浸かりたい気持ちになってきたわ。」

 

 リズはぐったりとため息を漏らす。

 

 僕はそんな2人を見ながら、小さく笑った。

 

 「じゃあ今日は、ここで解散にしようか。」

 

 ――本当は、剣の完成まで見届けるつもりだった。

 けれど今は、それよりも確かめなきゃいけないことがある。

 

 「完成したら、ちゃんと見せに行くよ。」

 

 「うん。リズ、ギルドメンバーの武器か防具作る時は、よろしくね。」

 

 そんな会話をしつつ手を振るキリト達の背中を見送り、見えなくなるとスキル欄を開く。

 

 

 そこには――見覚えのない文字が刻まれていた。

 

 エクストラスキル:蒼炎(そうえん)

 

 「……“蒼炎”。」

 

 恐る恐る詳細を開く。

 

 ――装備条件

 ・ダガーを両手に逆手装備

 

 ――ソードスキル一覧

 ・炎舞(えんぶ)

 ・一双燕返し(いっそうつばめがえし)

 ・旋風独楽(せんぷうごま)

 ・疾風双刃(しっぷうそうじん)

 ・月光双刃(げっこうそうじん)

 ・虎輪刃(こりんば)

 ・天下無双飯綱舞い(てんかむそういづなまい)

 ・三爪炎痕(さんそうえんこん)

 

 息を呑む。

 間違いない。これらは《The World》にあった技だ。

 

 (なん……で?)

 

 《SAO》には、本来こんなスキル群は存在しないはず。

 それなのに今、この世界の“正式なスキル”として組み込まれている。

 

 (何かが……僕を、侵食して――きて…)

 

 脳裏をよぎったのは、あの歪んだ笑み。

 

 『カイトぉ……。』

 

 PoHの声が、冷たく響いた気がした。

 

 「……カイト。」

 

 優しい声が、現実へと引き戻す。

 顔を上げると、心配そうに僕を見つめるアルゴがいた。

 

 「独りで抱え込まないで?」

 

 その一言で、胸に張り詰めていたものが少しだけほどける。

 僕はスキル欄を共有表示し、彼女へ差し出した。

 

 「これを…………考えてた。」

 

 それを見たアルゴは目を大きく開きつつも、あくまでも落ち着いた口調で話してくれた。

 

 「……エキストラスキル『蒼炎』。きっとキリトのとは違う、“カイト”のためのスキルだね。」

 

 「うん。スキル名とか《The World》の双剣そのままだし……。」

 

 「腕輪みたいなイリーガルな挙動は? 何か変化あった?」

 

 「……ない。前みたいに茅場も出てこないし、アウラからの反応もない。」

 

 「身体に異常は?」

 

 「それも今のところは。」

 

 アルゴは真剣な眼差しで僕の腕を取り、指先で撫でながら全身を確かめる。

 そして静かに頷いた。

 

 「そっか。なら、これは“正式にSAOが認めたスキル”だと考えていいんじゃないかしら。……少なくとも、腕輪みたいなイリーガルじゃない。」

 

 「……どうして、そう断言できるの?」

 

 「スキル欄に表示されてる。それはこのシステムが“許容”した証拠だよ。」

 

 アルゴは、ふっと柔らかく笑った。

 

 「そしてね。もしこれが、“カイト”(あなた)を模して生まれたものなら――それはきっと、“悪いもの”なんかじゃないよ。」

 

 その言葉は、ゆっくりと、確かに僕の中に落ちていった。

 

 そうだ。確かにこれは異質、異常かもしれない。

 でも、これは僕(蒼炎のカイト)のもの。なら――逃げる理由なんてない。

 

 「ありがとう、アルゴ。……ちゃんと向き合ってみるよ。」

 

 「うん。」

 

 アルゴは安心したように、そっと僕の手を握り直す。

 冷たい夜風の中でも――その手は、確かに温かかった。

 

 




《The World》の技、さらに言えば三爪炎痕を使わせたかった。
取得経緯は今後、話出るかもしれないし、出ないかもしれないし…。
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