これからが本番って感じですね。
「* * *」の部分は視点変更になってます。
開発者・茅場晶彦が告げたこの世界の“真実”を簡潔にまとめるなら――
曰く、ログアウトできないのは不具合ではなく仕様である。
曰く、ログアウトする唯一の方法は、アインクラッド百層を攻略し、ラスボスを倒すこと。
曰く、HPは命に直結し、ゼロになればプレイヤー自身も死ぬ。
茅場は最後に「健闘を祈る」という言葉を残すと共に姿を消し、景色もBGMも通常へ戻っていく。
それを皮切りに、広場は人々の声で爆発した。泣き叫ぶ者、怒鳴り散らす者、呆然と立ち尽くす者。まさに阿鼻叫喚だった。
冷静を装いつつも僕の内心も荒れ狂っている。でも――覚悟はすぐに決まった。だから大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
視線を巡らせれば、感情を爆発させるプレイヤーの中で、静かに広場を去っていく者達がいる。
おそらくβテスター、あるいは生粋のゲーマー。きっと彼らは理解しているんだ。
――レベル制MMORPGのこのゲームは、レベルが上がればその分生存率が上がることに繋がる。逆に言うとリソースの奪い合いに負ければ生存率を下げることになる。もちろん街から出ないのであればそれには該当しないけど。
けれど、きっと外部からの救出は望めない。
茅場の言葉が虚言なら、僕達はとっくにログアウトしているはずだ。
つまり全プレイヤーは人質――そして僕達からこの檻を破る術は存在しない。仮に外からハッキングで干渉できるとしても、それは超AIである“彼女”を解体できるほどの力を持つ者に限られる。
『ヘルバ』――彼女なら或いは。
だけど彼女がわざわざ出てきてくれるだろうか。≪The World≫を気に入り、僕達と関わったのは偶然に近い。彼女は彼女の正義がある。見知らぬ人々のために表に出てくる姿は想像できない。
……そこまで考えたとき、胸を刺すような不安に飲み込まれそうになった。
僕は『オルカ』や『バルムンク』のようにゲームが上手いわけじゃない。≪腕輪≫も、共に戦った“仲間”もいない。そんな僕が、この世界で何をできるというんだろう。
色々な思考がせっかく決めた覚悟を後ろ向きな考えにしてしまった。
けれど、ふと≪The World≫始めたての時も似た感じだった、なんて思い出して笑う。
忘れていた。僕は別に≪腕輪≫があったからヤスヒコを助けたいと思ったわけじゃない。良いと思えることを、僕にできることを一生懸命にやっていただけだ。
だから――ここでもそうしよう。そうする事でしか、前に進めないから。
できること――そう考えた末に僕が最初に選んだ行動は、フレンドの安否確認だった。この世界で唯一もっている連絡先、最初にできた友人のことが気になって仕方なかった。
メッセージを飛ばす。状況が状況だけに返事は望めないかもしれない……そう思っていたけど、意外にもすぐ返ってきた。
《西通りの奥、路地裏》
僕は急ぎ足で指定された場所へ向かう。そこには背丈は変わっていたけれど、見知った全身を隠すような恰好の女性が居て、それがアルゴだと思った。
「アルゴ、返事くれてありがとう。」
警戒心を抱かせないよう、あえて距離をとって声をかける。さっき広場で見ていた感じ、この世界は圧倒的に男性が多い。顔も知らない異性にいきなり近づかれるのは恐怖になるはずだ。だからこそ、慎重に。
「……驚くほど、冷静なんだナ。」
フードの下から僕をじっと見つめたアルゴは、やがて低い声で言った。
「そうかな? これでも結構、不安なんだけど。」
努めて穏やかに微笑むと、彼女の表情がわずかに揺れる。
「アルゴが落ち着いていてよかったよ。それで……アルゴは、これからどうする?」
僕の問いに、アルゴの体が小さく跳ねた。顔を顰めたその反応は当然だ。ここでの“これから”は、生き死にを分ける重大な選択だから。軽々しく答えられるはずがない。
僕は一呼吸を置くと、もう一度声を発する。
「もし、アルゴが何かを決めることができたら教えてほしいな。その時は必ず力になるよ。」
「なにを……。」
突き放すでもなく、急かすでもなく。思いがけない言葉だったのか、アルゴは呆然とした顔をしていた。
「怖いのは当たり前なんだ。だから焦らないでいいんだ。――僕は先に行くけど。必ず力になるから。」
安否は確かめられた。広場に残っているプレイヤーに比べれば、彼女はずっと冷静で、精神も安定している。
もちろん一緒に行動してほしい気持ちはある。けど今それを言えば、選択を強いることになる気がした。だから僕は短く「またね」と言い残し、背を向ける。
「ま、待って!」
背中にかかった声は、ロールプレイ混じりではない、素の声だった。振り返ると、彼女は目を見開き、慌てたように口を押さえている。――素を出してしまったことに動揺しているのかな。
「……なに?」
「か、カーくんは……どうするんダ?」
ロールを取り戻そうとする声色に、まだ不安げな影が残っている。僕は迷わず答えた。
「僕は、僕にできることを、良いと思えることをやっていくよ。」
そうすることでしか、前に進めないからね。
そういった僕にアルゴは不可解そうに眉をひそめた。それもそうだ。“生きるため”ではなく、“良いと思えることをやる”――そんな言葉を、この極限状況で口にするなんて、普通はあり得ないだろう。
だけど、僕は続ける。
「……あの時、助けてもらった。それを、今度は僕が誰かにしてあげたい。それだけだよ。」
* * *
『カーくん』――カイトの言葉は、あまりにも眩しかった。
言い終えた彼は少し照れくさそうに頬をかいていたけれど、そこに嘘は一切ない。
迷いも打算もなく、ただ真っ直ぐな善意。
このゲームでの付き合いしかない私なのに。私はその善意がどうか報われてほしいと、心から思った。
だから、思わずロールなんて忘れて、私は口にしていた。
「私も……それの手伝いをしてもいい?」
斯くして私達は約束通りコンビを組む。
アルゴが仲間になった!!
繋がりを作る力がカイトの最たる力だと思うんですよね。
カイトの比較対象が