.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第三十四話も閲覧ありがとうございます。

幕間的なお話になります。


第三十四話

 

 

 仮想空間の深淵――。

 外部から侵入した“穴”の奥で、無数のモニターを前に、ひとり静かに座していた。

 

 その画面の一つには、再構築を終えたカイトの姿が映し出されている。

 

 「ふぅ……。」

 

 珍しく、小さなため息が漏れた。

 

 「まさか、自分で自分を書き換えるなんてね……。あの瞬間は、さすがに肝が冷えたわ。」

 

 いつもなら皮肉まじりに言うところを、ほんの少し安堵が混じる。

 

 ひとまずの事態は収束。

 しばらくは、彼の身も安全だろう。

 そう思いながら、指先でいくつかのデータウィンドウを滑らせ、カイトの行動ログを追っていく。

 

 「……突発的な行動が、増えていたわね。」

 

 モニターの端に映るのは、仲間と共に過ごす彼の姿。

 その傍らに寄り添うのは、アルゴ。

 

 「やっぱり……AIDAの影響かしら?」

 

 碑文使いたち――かつてAIDAに侵され、なお生還した者達が語っていた。

 《感染は、その程度では済まない》と。

 

 だが、それでも。

 

 「……まぁ、あの子なら、ね。」

 

 根拠なんてどこにもない。

 けれどカイトだからこそ、“その程度で済む”と。

 自分でも呆れるほど無茶な理屈を――何故か信じていた。

 

 「……でも、さすがに心配になるわね。」

 

 画面に映る、無邪気にアルゴの髪を撫でるカイト。

 その映像に目を細めて、ひとりごちる。

 

 「溜め込まないで素直に動くのはいいこと。……だけど、距離感、バグってない?」

 

 呆れを滲ませた声色の奥に、柔らかな響きがあったことは否定できない。

 

 アルゴとの関係に、口を挟む気はない。

 彼女がカイトの支えになっているのは、データ化して見るまでもなく明らか。

 そして、カイト自身が彼女を大切に想っていることも。

 

 「……その感情が何なのかまでは、わからないけれど。」

 

 感情値のデータだけでは測れないもの――“絆”。

 その存在に、観測者である自分がほんの少しだけ羨望を覚えていることに気づき、苦笑を漏らす。

 

 モニターから目を離し、誰に聞かせるでもなく、静かに呟いた。

 

 「一年以上も、ずっと一緒にいれば――ああもなるものかしら。」

 

 そして、不意に懐かしい名前を口にする。

 

 「でも……このままだと、今の立場も全部取られちゃいそうよ。――晶良。」

 

 誰に届くこともない、観測者としての独白。

 

 再びモニターへ視線を戻し、口元をわずかに緩める。

 

 「……まぁ、でも悪くないわね。こういうのも。」

 

 モニターに映る、カイトとアルゴの並ぶ姿。

 それを見つめながら、静かに思考を巡らせる。

 

 (仮に、あの子が“恋”なんて感情を抱いているとするなら……)

 

 指先でデータウィンドウを閉じ、ふっと微笑む。

 

 (いいことね)

 

 ――カイト。

 “倉持海斗”という青年を、私は誰よりも“外側”から見てきた。

 ネットワーククライシスの後も、定期的に連絡を取り合い、彼の歩みを陰から見て、時には支えてきた。

 

 (……それでも、“まともな恋愛”なんてしてこなかったわね)

 

 成熟しすぎた精神性。

 同年代とは釣り合わず、むしろ“老成した青年”として見られることが多かった。

 だからこそ――あの情報屋の存在は、本当に彼にとって良い刺激になっている。

 

 晶良(ブラックローズ)のような存在とは違い、アルゴは真正面からアプローチしている。

 もちろん、他にもカイトに好意を寄せる者はいる。

 けれど――

 

 「あの鈍感さじゃ、気づいていないでしょうね。」

 

 それでも、この極限状況――命を賭けた“吊り橋効果”は、確実に彼に変化をもたらしている。

 

 (……とても良いことだわ)

 

 AIDAの影響や精神汚染といった負の要素もある。

 だが、その中で芽生えた心の動きは――決して否定すべきものではない。

 

 「……ま、私は恋なんて知らないけれど。」

 

 モニターを見つめながら、淡々と呟く。

 

 「それでも――“幸せ”は知っているわ。」

 

 かつて、全てを捨てて“自由”を選んだ。

 それでもなお、確かに、“幸せ”と呼べるものがなかったわけではなかった。

 

 だからこそ――心から願う。

 

 「幸せな日々を、ボス。」

 

 誰にも届かない、観測者から勇者へのエール。

 

 (……とはいえ)

 

 笑みはやがて、苦笑へと変わる。

 

 (いきなり全部の立場を取られるのは、さすがに可哀想よね)

 

 仮にカイトがアルゴに恋愛感情を抱いたとしても、晶良を蔑ろにすることはない。

 そんなこと、よく分かっている。

 

 (……まぁ、それでも、ね)

 

 指先で軽くモニターをなぞりながら、心の中で続ける。

 

 (動きの鈍いあの子も悪いんだけど)

 

 長い間、カイトを想い続けてきた晶良。

 その気持ちを知っているからこそ、密かにあることを決める。

 

 「カイトが現実に帰ったら――一番最初に晶良に連絡してあげましょう。」

 

 それが、せめてもの“配慮”。

 

 (長く想い続けて、いきなりは……さすがに可哀想だものね)

 

 呟く声には冷たさと温かさが同居していた。

 

 ふと、自分の胸に手を当て、小さく笑う。

 

 (……ここが、私がカイトに変えられた部分ね)

 

 あの頃の自分なら、他人の恋愛事情に気を遣うことすらなかった。

 けれど今は――

 

 「本当に、無意識で怖いことをするわ……私たちのボスは。」

 

 誰に言うでもなく、ただ静かにそう呟いた。

 

 

 

 





ヘルバの独白でした。10割妄想の内容です。
きっとカイトはいろいろな人に影響を与えてるんじゃないかなぁ、という。
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