.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第三十九話

 

 

 被害は出た。けれど、そこばかりに囚われる必要はない。

 広告をメインにしているギルド――広告を重視している面々は、方針に従い今回も「ボス攻略」を大々的に打ち出していた。

 

 しかもその見出しは――

 『72連撃?!ボスを一撃で屠った“謎の技”とは』……という、かなり尾鰭のついたものだった。

 

 「珍しく、盛り盛りで書かれてるね。」

 

 記事を手にしながら、隣にいるアルゴに視線を向ける。

 

 「あー……たぶんだけど、中層ゾーンの活気の話を私がしたせいかも。活発になる記事があるといいね、みたいな話をしたんだけど―――――。」

 

 「なるほど。ま、たまにはキリトにスポットが当たるのも悪くないよね。」

 

 僕がそういうとアルゴは悪そうな顔を見せる。

 

 「――きっと今ごろ、どこかに逃げ込んでるんでしょうね。」

 

 「エギルのところかな? ここに来るのは足が付きやすいから来てないんだろうけど。」

 

 「案外、アスナのところかもよ? あれから関係が進展しててもおかしくないし。」

 

 アルゴがくすっと笑えば、つられて僕も笑ってしまう。

 

 「そうだね。あれだけ表立ってアクションあったんだから、さすがにキリトも何か思うところがあるはずだし。」

 

 「冷やかしにでも行く?」

 

 「冷やかし――っていうより様子見かな。慣れないことでアタフタしてるのは、想像つくから。」

 

 そう結論づけて、僕達はエギルに連絡を取った。

 案の定、キリトはエギルの店に身を潜めているらしい。そこでディアベルに一声かけ、僕達はギルドホームを出た。

 

 

 

 

 

 エギルの店に顔を出すと、二階の従業員室の隅でキリトが項垂れていた。

 

 「……なんだよぉ、あの記事は。」

 

 机に突っ伏して唸る姿は、まさに逃げ場を失った少年そのものだった。

 

 「あはは……たまには注目されるのもいいでしょ?」

 

 僕が笑いながら言うと、キリトは恨めしそうに顔を上げる。

 

 「宿にまで押しかけてくるんだぞ?おちおち休んでもいられない。」

 

 ぼやく彼に返す言葉を探していると――

 

 「どうしよう!! 大変なことになっちゃったの!!」

 

 慌てふためいた様子で、アスナが駆け込んできた。

 

 「「「?」」」

 

 

 

 

 

 僕達は事情を聞きながら、血盟騎士団のギルドホームへと足を運んでいた。

 

 ――なんでも、今までのことを踏まえながら、今回の件を機にアスナは少しギルドの活動を休止しようとしていたらしい。

 けれど、その話を団長ヒースクリフに持ちかけたところ、「彼女ほどの実力者を事実上引き抜かれるわけにはいかない」ということになり キリトを直接ギルドへと呼び出す形となった。

 

 僕とアルゴはその付き添い。それに久しぶりにヒースクリフにも会いたいと思っていたしね。

 

 「久しぶりだな、カイト君、アルゴ君……そして、キリト君。」

 

 「久しぶり、ヒースクリフ。今回はボス攻略戦で会えなかったから。」

 

 「ああ。まずは労いを言わせてくれ。ボス攻略、本当に感謝の言葉しかない。君たちにはいつも助けられている。」

 

 「そんなことないよ。血盟騎士団にもいつも力を貸してもらってるし。――それに、本題は僕じゃないでしょ?」

 

 「ふむ……そうだな。では、キリト君――。」

 

 ヒースクリフと軽く挨拶を済ませた僕は一歩下がり、アルゴと並んで成り行きを見守る。

 けれど、キリトはあれよあれよとヒースクリフの挑発に乗っかり――。

 

 「勝てばアスナくんを連れて行っても構わない。だが、負ければ血盟騎士団に入ってもらう。」

 

 そんな条件で、いつの間にかデュエルを約束させられてしまった。

 

 (あちゃー……)

 

 僕が内心で額を押さえると、横に立つアルゴも同じ顔をしていた。

 一応、助け船を出してみる。

 

 「キリトは前から、黄昏の騎士団でも誘ってたんだけど?」

 

 「ほう……ならば、私と君でキリト君を賭けて勝負するかね?」

 

 「うーん……魅力的な提案ではあるけど、無理やり入れるのは本意じゃないからねぇ。」

 

 「俺を負ける前提で話すのやめてもらえませんかね。」

 

 ムッとした顔でキリトが割り込んでくる。

 

 「カイト君に立会人をお願いしよう。一躍有名となった“黒の剣士”キリト、そして私の対決だ。それに相応しい立会人が必要だろう。」

 

 本来はシステムで管理しているため立会人なんていらない。けれど……

 

 「ヒースクリフの言いたいことも、わかったよ。引き受ける。」

 

 

 

 そうして血盟騎士団のギルドマスターの部屋を後にした僕達。

 横を歩くキリトは、相変わらず少しむっとした顔をしている。

 

 僕はわざとらしくため息を吐いた。

 

 「はぁ……なんで挑発に乗っちゃうかなぁ?」

 

 呆れ顔の僕に、キリトはバツが悪そうに頬をかきながら答える。

 

 「いや……その、つい。ああ言われると男が廃るっていうか、なんというか――。」

 

 「本音は?」

 

 目を細めて問うと、彼は観念したように口を開いた。

 

 「……ヒースクリフほどの実力者と戦ってみたかった。」

 

 「やっぱりね。バトルジャンキーだなぁ。」

 

 「カイトだって気になるだろ!? あいつ、ボス戦でも一度もイエローゾーンに入ったことないんだぞ!?」

 

 「だからって、ギルド加入を賭けにする必要はなかったと思うけどね。――あーあ、キリトに振られちゃった。」

 

 僕がわざとらしく大声を出し、両手を頭の後ろに組むと、アルゴは喉を鳴らして笑った。

 

 「マー、キー坊も男の子ってことダロ。」

 

 「うるさい!それに、まだ負けると決まったわけじゃないだろ!!」

 

 「勝つ気満々だってさ、副団長サマ。」

 

 僕は肩をすくめながら、アスナに話を振る。

 自分のせいで事が大きくなったと申し訳なさそうにしていたアスナは、困ったように眉を下げていた。

 

 「……ごめんなさい、私のせいでこんなことになって。」

 

 「アーちゃんが謝ることなんて何もないサ。このバトルジャンキーが自制できなかっただけダロ。」

 

 アルゴはそう言って、アスナの頭を優しく撫で始めた。

 そんな光景を、一歩後ろから眺めながら、僕はディアベルに送るメール文を作り始めた。

 

 戦いは今日の午後。

 ヒースクリフがああいう言い方をした以上、これはきっと大々的なイベントにするつもりだろう。

 まるでお祭りのように、飲食店が臨時営業を始めたり、勝敗に賭けをする者が出たりするだろう。

 

 (変なイザコザが起きる前に……場合によっては、黄昏の騎士団で全体を仕切ったほうがいいかもしれない)

 

 そう考え、最後に一文を付け加えて送信ボタンを押す。

 

 僕は立会人として前に出る立場だ。

 観客を盛り上げるための煽り文句でも、少し考えておこうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場に着くと、僕の予想通り――いや、予想以上の人で溢れかえり、大盛り上がりを見せていた。

 しかもそれはプレイヤーだけでなく、NPCまでもが大勢集まっている。

 

 状況を確認するためディアベルに声をかけると、彼は苦笑いしながら説明してくれた。

 

 「エギルに話したら商人協会まで動き出して、完全にお祭り騒ぎになっちまったよ。しかも血盟騎士団の経理担当が、思いのほか商魂たくましくてな……さらに火に油を注いじまった。」

 

 肩をすくめるディアベルと別れると、せっかくだからアルゴと一緒に屋台を見て回ることにした。

 

 「普通のお祭りみたいな屋台たくさんだね。」

 

 「マー、リアルと違って材料や屋台そのものの持ち込みは簡単だからナ。」

 

 「それにしても、半日でよくここまで人を集めたよね。」

 

 「良くも悪くも縦横の繋がりがスムーズになったおかげだロ。」

 

 そんな話をしていると、綿あめを両手で持った小さな影が目に入る。

 

 「あれ、シリカ。久しぶりだね。」

 

 「わぁ!!カイトさん!アルゴさん!お久しぶりです!!」

 

 僕達に気づいたシリカは、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せてくれた。

 

 「シーちゃんもこの祭り騒ぎを聞きつけて来たクチカ?」

 

 「はい!下の階層でも大々的に宣伝されてました!トッププレイヤーのデュエルだって!」

 

 「んー……驚くほど仕事が早い。」

 

 思わず少し渋い顔をしてしまう。

 

 「カイトさんも戦うんですか?」

 

 「僕は立会人だよ。試合には出ない。」

 

 「そうなんですか……カイトさんの戦ってるところ、見たかったな……。」

 

 「それなら今度一緒にダンジョンに行こう。すっかり双剣が板についちゃったけど、ダガーでの戦闘をやめたわけじゃないし、教えれることはまだまだあると思うよ。」

 

 「はいっ!!」

 

 僕の提案に、シリカは嬉しそうに頬を赤らめた。

 そんな僕の背後から「あれ?」と聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

 「カイトにアルゴじゃない。あんたたち、こんなところで油売ってていいの?」

 

 振り向くと、そこにはエプロン姿のリズベットが立っていた。

 

 「リズ、久しぶり。その格好ってことは――。」

 

 「そう! リズベット工房の出張店!! 大好評につき、持ち込んだ武具は全部売り切れましたー!」

 

 イエーイとハイタッチを求めてくる彼女に、僕は苦笑いしながら軽く応じ、アルゴはノリよく合わせ、シリカは少し戸惑いながらも手を出した。

 

 「ところで、この子は?」

 

 「普通は、ハイタッチする前に聞くことじゃないカ? この子はシーちゃん――シリカ。『竜使いのシリカ』って言えば、耳馴染みあるんじゃないカ?」

 

 「あー!ビーストテイマーの!へぇ、こんな可愛い子だったのね。私はリズベット。四十八層リンダースで鍛冶屋をやってるの。よろしく!」

 

 「は、はい。シリカって言います。この子は相棒のピナです!」

 

 紹介されて、小竜のピナも可愛らしく鳴いた。タイプは違うけれど、面倒見の良いリズベットとはきっとすぐ仲良くなれるだろう。

 

 「で、カイトはこんなところで油売ってていいの?」

 

 「僕は立会人だから準備なんてないよ。」

 

 どうやら、いつの間にか僕も試合に出ると勘違いされているようで、少し呆れながら答えた。

 

 そんな折、今度は野太い声が会場に響く。

 

 「おーい、カイトぉ!!」

 

 「……むさくるしいのが来たわね。」

 

 振り返れば、クライン率いる≪風林火山≫のメンバー達がこちらへ歩いてくるところだった。

 

 「リズ、クライン達と知り合いなの?」

 

 「キリトの紹介で武具の手入れに店に来たのよ。ギルドメンバー全員の手入れまとめてやるからいい金づるではあるんだけど――。」

 

 「おい、誰が金づるだ。」

 

 「あら、聞こえてましてのネ――オホホ、お客様。」

 

 「今更取り繕っても遅いだロ。」

 

 アルゴも思わず呆れて突っ込む。

 

 

 

 そんなふうにわちゃわちゃと話しているうちに、いよいよ時間が迫ってきた。

 キバオウ達アインクラッド解放軍が屋台でたこ焼きを売っているのが見え、気になったけれど――いや、この世界に“たこ焼き”なんてあったんだ?!――渋々、観客席からコロシアムの中央へと歩を進める。

 

 僕の位置から見える各通路では、運営をしている仲間達がそれぞれ準備完了のサインを送ってくれていた。

 確認を終えると、宴会用アイテムのマイクをオブジェクト化し、指定のチャンネルに合わせる。

 

 「あー、あー……よし、聞こえるかな!?」

 

 マイクを通した僕の声に、会場全体がどっと沸き立つ。

 耳に響く歓声に頷き、口上を始める。

 

 「僕は立会人だから多くは語らないよ。……でもね、今日これから皆が目にするのは、このアインクラッドにおけるトップ・オブ・トップ――2人の戦いだ!

 間違いなく、この世界で最も壮絶なデュエルになる。それは僕、≪黄昏の騎士団≫団長、”蒼炎のカイト”が保証する!

 だから皆、しっかりと目に焼き付けてほしい。――最前線を駆け抜ける攻略組の姿を!」

 

 言い終えた瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれる。

 そして、キリトとヒースクリフが姿を現すと、熱狂はさらに最高潮へと達した。

 

 ヒースクリフは薄く笑い、こちらへ視線を寄越す。

 

 「いい口上だ。やはり君には素質がある。」

 

 「おだてても何も出ないよ。……お互い悔いのないようにね。」

 

 僕は彼にそう返し、続けてキリトにも目を合わせてから一歩後ろに下がった。

 

 

 

 ヒースクリフがシステムにデュエル申請を送り、一発勝負の形式が選ばれる。カウントダウンが始まり、ゼロの瞬間――キリトが先手を取って踏み込んだ。

 

 俊敏な動きに、ヒースクリフも即座に反応し盾で受け止める。

 ――今日のキリトは調子が良い。二刀の流れが普段よりも滑らかで、集中も途切れていない。

 

 これは勝ったら”愛の力かな”なんてからかってやろうかな。

 そう思えるほど凄まじい速度の剣速にヒースクリフは防戦一方。けれどそれでも防御はヒースクリフの十八番。ここを崩せるかがカギ――と考えているとキリトの速度が更に上がる。

 

 

 観客の熱狂が響く中――盾の隙に、確かな綻びが見えた。

 

 勝機だ。

 僕と同じことを思ったであろうキリトは迷わずソードスキルを発動する。

 

 「――スターバースト・ストリーム!!!」

 

 爆発的な連撃に、ヒースクリフの盾が押し込まれ、防御が徐々に崩れ始めている。

 

 (これは決まった――!)

 

 僕の視線からも、完全に勝利を確信できる入りだった。

 けど――その瞬間。

 

 「……っ!?」

 

 僕の目に、言葉では言い表しにくい“違和感”が映る。

 体勢を崩していたはずヒースクリフ。それにも関わらず盾が――明らかに異常な速度で、最終段を弾き返したのだ。

 

 「なっ――!?」

 

 「えっ……?」

 

 キリトも驚愕を口にしていた。

 そして最終段を弾かれたキリトは体勢を崩し、横合いからカウンターを受けて吹き飛ばされた。

 

 

 デュエルの判定――《Winner:ヒースクリフ》

 

 

 会場が歓声に包まれる中、中央にはなんとも言えない緊張が残っていた。

 キリトは呆然とし、ヒースクリフの表情も一瞬だけ強張っていたからだ。

 

 「私の勝ちだな。明日から血盟騎士団として、よろしく頼む。」

 

 そう言い残し、ヒースクリフは背を向けると足早に会場を後にした。

 

 僕はキリトを抱き起こし、その手を取りながら立たせる。

 まだ混乱の残る彼の背を軽く叩き、正気を取り戻させたあと――視線を出口へ向ける。

 

 もう姿は見えない。でも―――今日感じた違和感は調べる必要があるかもしれない。

 

 

 





わちゃわちゃしたところから疑念を抱き始めるカイト。
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