.hack// Vol.SAO   作:imuka

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第四十話

 

 

 翌日。僕はアルゴに、2人だけで話がしたいとギルドマスターの部屋に来てもらった。

 

 内容が内容なだけあり、大ぴらにはできない。余計な不安や不信感を生む可能性もある。それでも昨日のデュエル結果の違和感は無視できなかった。

 だから僕は――この”世界”でも最も信頼できる相棒を頼る。

 

 「アルゴ、急にごめんね。」

 

 「ううん、大丈夫。――2人だけでって、何かあった?」

 

 彼女が首をかしげる。僕は深呼吸して口を開いた。

 

 「……アルゴは昨日のデュエル、どう感じた?」

 

 「? やっぱりヒースクリフの防御はヤバい、って思ったくらいだけど……。」

 

 少し離れた位置の観客席からでは違和感を感じづらかったのかもしれない。

 僕だって、あのすぐその場で立ち会っていなければ気づかなかった可能性も高い。だから、あの瞬間に僕が感じたことを、包み隠さず伝える。

 

 

 キリトが放った最後のソードスキル――【スターバースト・ストリーム】。

 僕、そしておそらくキリトも「決まった」と確信していた。

 けど最終段。防御が間に合うはずのない体勢のまま、ヒースクリフは――あのキリトの剣速に追いつき、防いでみせた。

 崩れかけた体勢から放たれた、常識外れの防御。

 あれは剣技でも反射神経でもない。……まるで“別の力”が働いていたように、僕には見えた。

 

 「それに……ヒースクリフの言動や行動は、前から少し引っかかってたんだ。うまく言葉にはできないんだけど――。」

 

 僕が言葉を濁すと、アルゴは真剣な表情で頷いた。

 

 「なるほどね。――イリーガルな力ならカイトは専門だから、私達とは違って何かを知覚できる可能性はあるかもね。

 ――わかった、ヒースクリフの身辺調査ってことだよね。」

 

 「うん。ただ、慎重にね。……前に別件で調べたことがあったんだけど、血盟騎士団を結成する前の彼の情報は、誰に聞いても出てこなかった。」

 

 「……きな臭くなってるじゃない。」

 

 最悪の想定が一瞬頭に浮かんだけれど―――言わないほうがいいだろう。まだ正直ゼロではない、というレベルの憶測だ。

 

 「僕はキリトが血盟騎士団に入ったのを口実に団員たちから情報を集めてみる。内部なら、何か掴めるかもしれない。」

 

 「わかったわ。私は一般プレイヤーや昔の交友関係を洗ってみる。……デュエルで話題になった直後だし、経歴調査って理由なら怪しまれないだろうし。」

 

 「ありがとう、アルゴ。何かあったらすぐに連絡して。すぐ駆けつけるから。」

 

 「ふふ、私のハイドスキルならそう簡単には見つからないけど……でも、ありがとう。気をつけるね。」

 

 そう言って笑ったアルゴと頷き合い、僕達は部屋を後にした。

 

 ――まずは、血盟騎士団に顔を出してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 血盟騎士団のギルド前に着くと、ちょうどキリトが研修に出かけるところだった。

 黒一色だった装いが、真っ白な装備に変わっている。

 

 「白も似合うじゃん。『黒の剣士』から『白の剣士』に転職かな?」

 

 笑いながら、からかうように言うと、キリトは眉間にしわを寄せ、不満げに返す。

 

 「うるせー……。違和感バリバリだろ。」

 

 不貞腐れる弟みたいな態度を取る彼につい頭を撫で、宥めると、研修を担当するゴドフリーに目で挨拶を送って、彼らを見送った。

 ただ、その隣に立つクラディールの視線には、どこか厭らしい棘を感じずにはいられなかった。

 

 ――嫌な予感が、胸をかすめる。

 

 ギルド内に入ると、意外にもあっさりと見学を許され、僕は暇そうにしていた団員へ声をかけていった。

 活動方針から団員たちの練度、経歴、考え方、そして最後に――団長・ヒースクリフについて。

 あくまで「ギルドを知りたい」という体で、できるだけ自然に話題を繋ぐ。

 

 けど――やはりというべきか。

 ヒースクリフの情報は、団員ですら詳しくは知らないようだった。

 

 「俺達でもボス攻略以外で団長を見ることはほとんどないからな。」

 

 「そうなんだ? レベル上げとかにも顔出さない感じ?」

 

 「ああ。一度だけ参加したのを見たけど、それっきりだな。……ギルドがまだ小さかった頃はやってたらしいけど。」

 

 曖昧な情報ばかり。やはり核心には触れられそうにない。

 

 

 そんな会話を聞き終えた僕は、ついでにアスナの様子を見に行くことにした。

 彼女の私室に着き、扉をノックして声をかける。

 

 「どうぞ。」

 

 「や、アスナ。」

 

 「カイトさん!」

 

 顔を出した僕を見るなり、アスナは緊張を解いた表情を浮かべる。けどすぐに、不安そうな表情が見える。

 

 「どうかした?」

 

 問いかけると、彼女は胸の内を打ち明けてくれた。

 

 今回のキリトの研修について。

 ――ゴドフリーなら問題ないが、クラディールには不安を覚える、と。

 最近、彼の言動には少し過激な様子が見られ、ましてやキリトとのデュエルで敗北してからは、その傾向が強まっていると。

 

 「……なるほどねー。」

 

 アスナは両手を胸の前で重ね、不安げに視線を落としていた。

 

 「うーん……まぁ多少の不意打ちくらいなら、キリトが負ける要素はないと思うけど……。心配なら僕が見に行ってこようか。」

 

 「いいの?」

 

 「うん。……ま、僕もキリトが慣れない人とちゃんとパーティー組めてるか心配だしね。」

 

 軽く冗談めかして言い、アスナを安心させようと微笑む。

 

 「報酬は――そうだな。血盟騎士団のことをできるだけ詳しく教えてほしい。これからキリトが身を置く場所だから。今までみたいに表面じゃなくて、できる範囲でいいから。」

 

 「――? そんなことでいいの?カイトさんになら、いくらでも話すわよ。」

 

 不思議そうに首をかしげる彼女に、僕はしっかりと頷いた。

 

 アスナの部屋を出るとキリトのフレンド情報を辿る。追跡すればそれほど遠くない場所にいる。

 ――不意にクラディールの顔が脳裏に浮かんだ。胸の奥で嫌な予感がざわめき、僕は足を速めた。

 

 

 

 

 

 嫌な胸騒ぎは、どうもよく当たる。

 

 視界に飛び込んできたのは――剣で串刺しにされポリゴンに砕けるゴドフリーの姿。

 そして、その剣を手にし、愉しそうに次の標的へと刃を向けるクラディール。

 狙われているのは――麻痺で動けなくなっているキリト。

 

 頭に血が上るのを感じながら双剣を抜き放ち、キリトに迫ったその剣を寸前で叩き折る。

 続けざまに体術スキルで蹴り飛ばし、クラディールの身体を壁に叩きつけた。

 

 「カ、カイト!!」

 

 僕の登場に驚いたのか、キリトが顔だけを上げて声を張り上げる。

 

 「無事でよかった、キリト。…………つまり君は、ラフィン・コフィンの残党?」

 

 睨みを効かせながら問いかけると、クラディールは唇を歪めて笑った。

 

「入れてもらったんだよ……最近な……! この麻痺術も教えてもらったッ!!」

 

 狂気に満ちた目で新たな剣を握り直し、再び襲いかかってくる。

 その大ぶりを受け流し、地面に叩きつけさせると――僕は再び“破壊”の一閃を叩き込む。

 

 二本目の剣が粉々に砕け散る。

 

 「……抵抗はやめるんだ。君と僕じゃ、いくらやっても勝てないって分かるだろ。」

 

 明確な実力差を見せつけられたクラディールは、悔しそうに奥歯を噛み締める。

 それでも諦めず、なおも睨み返してくる。僕は警戒を下げないまま、彼を捕縛するために一歩踏み出そうとした、その時。

 

 「キリトくん!!!」

 

 後方からアスナの叫び声。僕の意識が一瞬だけ後ろに引かれてしまう。

 

 「甘ちゃんがよぉぉ!!」

 

 クラディールが叫び、懐からピックを取り出して投擲してくる。

 

 「カイト!!」「カイトさん!!」

 

 キリトとアスナの声が重なる。

 

 ピックの先端にぎらりと光るのはたぶん麻痺毒。至近距離、回避は不可能。

 勝利を確信したであろうクラディールが歪んだ笑みを浮かべている。

 

 けど――残念だったね。

 

 ピックが僕の腕に突き立つ。

 次の瞬間、彼の表情は歓喜から驚愕へと変わった。

 

 「な、なんで……!? なんで麻痺が効かねぇッ!?」

 

 「君がそれを理由を知る必要はないよ。悪いけど……僕には毒も、麻痺も、状態異常は通じない。」

 

 知覚することはない腕輪のある右腕で、僕はクラディールの顔面に拳を叩き込んだ。

 

 

 

 拳を受けて転がった彼を確認すると、眼の前で起きた事と敗北が認められなかったのか、クラディールは目を開けたまま気絶している。

 他に襲撃がないことを周囲を見渡して――アスナがキリトに泣きながら謝罪の言葉を繰り返し、さらに「もう迷惑をかけたくないから関わるのをやめる」と口走っていた。

 ――2人の関係に口を挟むのは、僕の役目じゃない。

 そう考えていた矢先……うん、僕は何も見なかったことにしよう。(キリトがアスナに口づけを交わしていた。)

 

 ――クラディールを捕縛する。

 

 僕は2人が落ち着くまでできるだけ空気になるように努めながら、周囲を警戒しつつクラディールが目を覚ましても暴れないよう、麻痺毒を少量ずつ与えて動きを封じる。

 

 やがて落ち着きを取り戻した2人は、僕の存在を思い出してあたふたしていたけれど、そんな2人が愛おしく思えてしまい、つい頭を撫でてしまう。

 

 「今日はもう帰りなさい。――ギルドへの報告は僕がしておくから。君達も疲れただろう?」

 

 副団長としての責任感から渋るアスナを、優しく言葉を重ねて宥め、2人とも転移結晶で帰還させる。

 2人が街へと戻ったことを確認するとクラディールを引きずりながら血盟騎士団のギルドへと向かった。街に戻ると僕を待っていたアルゴに――というかプレイヤーを引きずっている僕の姿は色んな人の目に奇怪に写っていたみたい――驚かれながらも説明しながら血盟騎士団の元へと向かう。

 

 当然のことながら、団員達にもそんな僕の登場に警戒心を隠さなかった。

 けど、あまりに“良すぎる”タイミングで現れたヒースクリフが、静かに経緯を聞き取ってくれた。

 

 「正直、アスナもキリトもボスの件や、今回の件で精神的負担が大きい。2人にはしばらく休養を取らせてほしい。」

 

 僕の言葉に、ヒースクリフは一切の逡巡もなく頷いた。

 

 「君には苦労をかけた。クラディールはこちらで預からせてもらおう。」

 

 「処遇は任せるよ。――ただ、処刑だけは絶対にしないでほしい。」

 

 「もちろんだ。同じ外道に堕ちるつもりはない。」

 

 「キリトとアスナへの連絡は僕からしておく。できるだけ休ませてあげて。」

 

 「承知した。」

 

 短いやり取りの後、僕とアルゴはギルドを後にした。

 

 「……波乱の一日だったわね。」

 

 アルゴが小さく息を吐く。

 

 「そうだね。しかも調べなきゃいけないことまで増えた。」

 

 「クラディールに麻痺毒を教えた相手、か。」

 

 「うん。少なくともPoHじゃない。あの時、封じられたのを見たんだから。……となると、戦闘から逃げた奴か、そもそも参加していなかった別のメンバーがいるってことになる。」

 

 「表沙汰になっていないところを見ると、水面下で何かが進んでいるのかもしれないわね。」

 

 「……厄介だね。とりあえずはクラディールの取り調べに期待しよう。」

 

 重苦しい沈黙を抱えながら、僕たちは黄昏の騎士団のホームへ帰路についた。

 

 

 

 




そういえば漸くここに来てカイトに状態異常が効かない設定がでてきますね。

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