あと二話となります。最後までお付き合いください。
ヒースクリフと僕を先頭に、扇状の陣形でボス部屋へ突入する。
重たい扉が背後でゆっくり閉まり、同時に部屋のあちこちで灯りがひとつずつ点り始めた。
最後の灯りがともった瞬間、空気が凍り付くような静寂が訪れる。
僕は神経を張り詰め、視線を巡らせた――そのとき。
頭上から何かが動く音が聞こえた。
「上だ!!!」
反射的に叫ぶ。
視線を上げた先には――四つの赤い眼窩を光らせる頭蓋骨、骨でできたムカデのような胴体、無数の触腕と触脚、そして巨大な鎌を二本も携えた異形がいた。
ギチギチと骨が擦れる音が響く。
頭上で蠢くその存在にHPバーが表示され――名前が浮かび上がる。
「スカル……リーパーッ!」
名が表示されるや否や、スカルリーパーは音を置き去りにして落下してきた。
「固まるな!!散開!!」
ヒースクリフの声で全員がハッと動く――けど、2人が逃げ遅れた。
「――っ!」
次の瞬間、大鎌が地面を裂く。
咄嗟に飛ばされた2人と受け止めようとした手がすり抜ける。2人のHPバーは空になり、ポリゴンとなって砕け散った。
「い、一撃……!?」
攻略組の精鋭が、一撃。
息を呑む暇もなく、スカルリーパーはムカデのように身体をしならせ、獲物を求めて疾走する。
「くっ!」
迫り来る鎌に飛び出して迎え撃つ。
受け止めたはずの一撃に、身体ごと弾き飛ばされ宙に舞った。
さらに二撃目が振りかぶられる――
「舐めるなぁ!!!」
反射的に、鎌を横に弾き飛ばす。
その反動を利用して踏み込み、顔面に双剣を叩き込んだ。
でもスカルリーパーは怯むどころか、僕の着地点めがけて鎌を振り下ろす。
「っ!」
ヒースクリフが盾で割り込み、鎌を受け止めた。
「ありがとう!」
礼を言う間もなく、スカルリーパーは身体をねじり、途中にいたプレイヤーを一撃で葬るとそのまま突進してくる。
今度はキリトが二刀流で迎え撃ち、どうにか大鎌を受け止める。けれどその重い一撃はすぐにキリトの命に届きそうになり――アスナが細剣で割り込り大鎌を弾く。
「この4人でやるのは……五十層を思い出すね。」
僕は冷静に呟く。
「ああ。ならば、あの時と同じように勝とうじゃないか。」
ヒースクリフが盾を構え直す。
「キリト、アスナ!片方の鎌は抑えられるね?ヒースクリフ、初撃はお願い。僕が弾く!」
「ああ!」「ええ!」「承知した。」
3人の声が重なった瞬間、僕は叫ぶ。
「僕達で大鎌を止める!全員、側面から攻めろ!!」
「走りと尻尾にも攻撃判定がある!注意しロ!!」
アルゴの補足が飛ぶ。
「ディアベル、指揮お願い!」
そう告げて、僕達はただ目の前の鎌を捌くことだけに意識を集中させた。
防ぐ。走る。弾く。斬る。
――いったい、何度繰り返しただろう。
どれだけ仲間が倒れたのか、今は考える余裕もない。
ただ、ひたすらに双剣で、スカルリーパーの大鎌を捌き続ける。
耳に届くのは、隣のヒースクリフの盾が鳴る重い音と、キリトとアスナが刃で弾く甲高い音だけ。
タイミングよく、キリト達の弾きと僕の弾きが重なって、スカルリーパーが大きく仰け反る。その隙に見えたスカルリーパーのHPバー。――最後の一本。
背筋がぞわりと寒くなる。
――来る。
確信と同時に、スカルリーパーの全身がパキパキと音を立て始める。大鎌がさらに伸び、禍々しい光を帯びた。
「っ!」
次の瞬間、スカルリーパーは高く跳躍し、ヒースクリフへ急降下。
「くっ!」
盾で受けたヒースクリフの表情が険しくなる。
防ぎきれず、彼のHPは一撃で半分まで削られた。
「させるか!!」
僕は蒼炎のソードスキルで大鎌を弾き飛ばす。
弾かれたスカルリーパーは壁を駆け、再び飛びかかってきた。
「クッソたれ!!」
キバオウの悪態通り、スカルリーパーは先程まで走っていた地面を無視して壁伝いに縦横無尽に動きを始める。 そうして先程より伸びた大鎌に対応できなかったプレイヤーがまた一人ポリゴンと化した。
「これ以上好きにはさせないッ!」
僕は走るスカルリーパーを追い、蒼炎を纏った刃を叩き込む。
できるだけ自分にタゲを集める――長いSAO生活で、特殊個体のヘイト取りなら僕が一番上手なのだから。
目と勘だけを頼りに大鎌を避け続けていると、不意に前面に温もりを感じた。
「カイト。呼吸を合わせて。避けるの優先、一撃ずつ確実に入れていこう。」
頭一つ小さい彼女――アルゴは、スルリと僕の前に立つと動きが重なる。
驚きつつも、彼女の導きに合わせて呼吸を整えた。
アルゴは、まるでスカルリーパーの動きが見えているかのように、最適な回避方向へ僕を導く。彼女がいる場所が安全地帯だと、直感が告げていた。
何故――いや今は考えている場合じゃない。
導かれるままに、僕は避け、斬り、また避ける。
視界の端でスカルリーパーのHPバーが大きく削られた――きっと、キリトの二刀流スキルが決まったんだ。
(よし、なら僕とアルゴで釘付けにし続ける!)
胸の奥に熱い闘志が宿る。ここで押し切る――。
「――全員、突撃ッ!!」
僕の意識を読んだかのように、ディアベルの号令が響いた。
正確には意識の端で聞こえた気がした。正直、そこまで意識がゾーンへと入っていた。
アルゴとの動きが重なり、まるで意識まで溶け合うような――そんな感覚に陥りそうになったその瞬間、スカルリーパーのHPは削りきられポリゴンと化した。
重ねた感覚が次第に戻っていく。アルゴは僕の前で同じように顔を見合わせる。
漸く周囲のざわめきが耳に届いた。
「……何人、やられた……?」
ボス攻略完了。いつもなら上がる歓声はなく、クラインのかすれた声だけが、広い部屋に落ちた。
「14人だ。」
全体指揮をしていたディアベルが、押し殺したような声で答える。
その数字に、場が凍り付く。
「……あと、二十五層もあるんだぞ……。マジかよ……。」
誰かの呟きが、絶望をさらに濃くする。勝利の後とは思えない、重い沈黙が広がった。
そんな中、僕はアルゴの目に一瞬の違和感を覚えた。
先ほどまで戦場を見通していた彼女の瞳――今は、どこか別の光を帯びている。
「アルゴ……もしかして――。」
問いかけかけた瞬間、頭の奥で“別の何か”が閃いた。
ボス戦の記憶が一気に脳裏を駆け巡り、ひとつの決定的な違和感が浮かび上がる。そうして視線はあるプレイヤーに。
「カイト……?」
心配そうに覗き込むアルゴを置き去りに、僕は駆け出した。
狙うは――ヒースクリフ。
たとえ僕の認識が間違っていても、この一撃で命を奪うことはない。それでも、僕の中ではもはや“確信”になっていた。
「――一双燕返し!」
蒼炎をまとった双剣がヒースクリフへと走る。同時に、反対側からキリトの二刀が閃いた。
そして――僕達の刃は彼には届かなかった。
『破壊不能オブジェクト』
頭上に表示されたその文字列が、何よりの答えだった。
それはユイと同じく、システムによって保護された存在――。全身に電流が走るような感覚と共に、僕の中でひとつの物語のように繋がる。
「――なぜ分かったのか。参考までに聞かせてもらえないかな?」
ヒースクリフは、驚くほど冷静な声でそう問いかけてきた。
周囲のプレイヤーは、目の前で起きたことをまだ理解できず、ざわめきすら忘れて固まっている。
「……デュエルのときのアンタ、最後があまりにも速すぎた。」
キリトが吐き捨てるように言うと、ヒースクリフはわずかに息を吐き、認めるように目を閉じた。
「あれは失策だった。キリト君の反応速度に翻弄され、思わずオーバーアシストを使ってしまった……。カイト君も、それがきっかけかね?」
「確かに違和感を覚えた理由のひとつだよ。……でも、それだけじゃない。」
一歩前に出る。
「あれをきっかけに貴方の過去を洗ったんだ。アスナと出会う前の情報が――あまりにも不自然に、何も出てこなかった。」
「なるほど。さすがはSAO随一の情報屋だ。」
ヒースクリフは淡く笑った。
「それでも、仮にそうだと分かっていても……貴方が攻略に協力している限り、僕は追及するつもりはなかった。」
「では、なぜ今になって行動に移った?」
「今……見てしまったから。貴方の“顔”を。一プレイヤーじゃない――まるで神にでもなったような、そんな顔を。」
僕の言葉に、ヒースクリフは再び微笑む。
「本来ならもっと早く気づくべきだったんだろうな。」
キリトが前に出る。
「ゲーマーなら分かるだろ。――『他人のやってるRPGを傍から眺めるほど退屈なことはない』ってな。そうだろ――茅場晶彦。」
その名が告げられた瞬間、部屋中に動揺が走った。
「嘘……ですよね!?団長……!」
血盟騎士団のメンバーが悲痛な声を上げる。
しかしヒースクリフ――いや茅場晶彦は答えず、静かに盾を構えた。
「認めよう。私こそが茅場晶彦だ。本来は攻略が九十五層に到達するまで明かすつもりだったが……仕方がない。」
重い言葉が床に落ちる。
「付け加えておこう。私こそ、君たちが最上階で相対すべき最終ボスでもある。」
「……最強プレイヤーが一転してラスボスかよ。」
キリトが苦々しく吐き捨てると、茅場は満足そうに笑う。
「いい演出だろう? だが、まさかこんなに早く見破られるとはな。」
「……貴方は僕に接触しすぎた。ずっと“ヒースクリフ”に貴方の既視感を感じてたんだ。」
僕がそう言うと、茅場は愉快そうに目を細める。
「なるほど。ガワだけでは誤魔化せなかったか……さすがは“蒼炎のカイト”。」
その言葉と同時に、茅場は何かの操作を行った。
次の瞬間――僕とキリト以外の全員が、一斉に崩れ落ちる。
「アスナ!」
キリトが慌てて彼女を抱きとめる。茅場は周囲全体を見渡した後、僕を見た。
「……やはり、君を止めることはできないか。」
「何をした!」
「安心しろ。キリト君以外のプレイヤーを、麻痺状態にしただけだ。」
「俺以外……!?」
キリトの視線が僕に向かう。
「……黄昏の腕輪を持つ君は、すべての状態異常を無効化するらしいな。」
「アウラが言ってた。――これは“The World”での完全再現なんだって。だとするなら――。」
「なるほど、納得だ。おそらく私の管理者権限でも、君を排除することはできない。だが――それでこそ面白い。不確定因子がある方が、よりリアルだ。」
そう言った瞬間、彼の体表から黒い靄が噴き出す。
「AIDA……!!感染してるのか、茅場晶彦!!」
思わず叫んで睨むと、茅場は平然と答えた。
「“The World”を組み込み、私自身がテストでこの世界に入った時に感染したのだろう。」
ゾッとする。――この人はずっと前からAIDAに感染していたのか。
「……だからアウラをこの世界に拘束できた? AIDAの入知恵?」
「概ね正しい。AIDAに触れることで、カーディナルシステムをさらに進化させられたのだ。」
言葉を交わす間にも、茅場の体はAIDAに侵食されるように黒く染まっていく。
「君達2人に、私の正体を看破した報酬を与えるつもりだったが……どうやらそれも無理のようだ。」
「AIDAに飲まれてる今の貴方は、もう正常じゃない!――何があっても、ここで止める!!」
僕の声は、自然と叫びになっていた。
双剣を抜き、蒼炎を纏わせる。隣でキリトも二刀流を構えた。
「キリト、協力してくれるよね。」
「当たり前だ!!こんなこと……ここで終わらせる!!」
視線を交わすと同時に、床を蹴った。
茅場は――初めて感情を露わにした。
その顔には歓喜すら宿り、狂気じみた笑みを浮かべていた。
「さあ、始めよう!!ここが物語の終わりになるのか、それとも続くのか……君達の力、見せてみろ!!」
僕とキリトの二刀が同時に迫る――その瞬間。
茅場の両肩から、黒い靄が渦を巻き、新たに二本の腕が生えた。
「腕四本・・・!本来無い身体を操れるのかよッ?」
キリトが叫ぶが、僕は即座に否定する。
「あれは茅場自身じゃない!AIDAだ!茅場の意思と別に動いてくる!!――黒腕は僕がやる!キリトは茅場本人をお願い!!」
言い終えると同時に、縦横無尽に動き出した腕を弾きながら、僕は露骨にデータドレインを展開して見せる。
データドレインの光を察知したのか、黒腕は一斉にこちらへ向きを変えた。
「来いッ!!」
二本の腕が襲いかかり、僕の目の前でさらに枝分かれして数を増す。
「くっ……!」
避けきれず、僕は横に転がって体勢を立て直し、そのまま狭い範囲で走り回る。
動きすぎれば、倒れている仲間に被害が及ぶ。
小さく、素早く、鋭く動きながら、茅場とキリトの戦いの横を斬り抜ける。
茅場の肩口に双剣を叩き込むが、AIDAの腕はびくともしない。舌打ちし、振り下ろされる無数の腕をバックステップで避ける。
「カイト、大丈夫か!?」
「心配しないで!!でもまあ――キリトが茅場を早く倒してくれたら助かるかな!!」
「私を前にして軽口とは……まだ余裕があるようだな。」
茅場が愉快そうに言い、剣を振りかぶる。
僕はAIDAの腕を弾き飛ばしながら、キリトが避けるタイミングを作る。
「俺達はずっと一緒にボスを攻略してきたんだ!!これが余裕かどうかなんて――あんたならわかってるだろ、茅場晶彦!!」
AIDAの群れを避けるように、僕達は茅場から距離を取る。
茅場は一瞬だけ表情を緩め――次の瞬間、背中からドス黒いAIDAを大量に放出した。
「危ない!!」
キリトが飲み込まれる――そう判断した僕は咄嗟に彼を突き飛ばした。
次の瞬間、黒が視界を覆い尽くす。
視界が塗りつぶされたその瞬間。声が聞こえてきた。
”――あの時、夢で見た世界。”
”ここではないどこかへ、触れたい。”
視界が晴れ、僕は改めて茅場を見た。今のきっと―――。
「カイト!!」
僕は一度、思考を辞めて、心配そうに声を上げたキリトにピースサインで応えた。
これくらいのAIDAじゃ、もう僕をどうこうできない。僕の心には火が灯っている。堕ちることなんてない。
視線を再び茅場へ戻すと、彼は自分の肩を抱くように震え、片膝を付き、荒く息を吐いていた。
きっと、立っているのもやっとだ。――だから、ここで終わらせる。
僕は右腕を彼に向ける。データドレインで決着を。
そう決意を向けたけれど、それに反応するように、茅場の中のAIDAが新たな腕を次々と生み出して襲い掛かってきた。
「ッ!」
先程とは比べ物にならない数。
その猛攻に、僕とキリトは同じ危機感を感じて
「カイトは三歩後ろ! キリトは右に二歩!!」
だからこそ、突然飛んできた声に、僕とキリトは咄嗟に従った。
次の瞬間、振り下ろされるはずだった腕は、僕らの目の前を虚しく切り裂いた。
「安全地帯……?」
振り向くと、アルゴが顔だけこちらへ向けていた。その瞳は――蒼く輝いている。
「アルゴ……やっぱり君は……。」
「ユニークスキル【未来視】が……アルゴ君に宿っていたか。」
僕が驚いていると、茅場がAIDAを押さえつけると立ち上がり、いつもの無表情へと変わる。
「未来視……?」
「どれだけリアルに近づけても、ここは電子の世界だ。すべては電気信号――そして動作には必ず“事前情報”がある。ユニークスキル【未来視】は、それを可視化するスキルだ。」
茅場はそう説明し、再び剣を構えた。その眼にはもう語ることはないと物語っている。
「――最後の攻防になる。来い!」
今までとは別の圧を彼から感じつつも、僕達は同時に駆けた。
アルゴの指示に合わせ、飛んでくる無数の腕を紙一重で躱し、茅場の間合いへ飛び込む。
近距離とまでなると複数の腕は邪魔になると判断してか、分散していたAIDAの腕は再び二本に統一され、四本腕の茅場と、双剣、二刀流の僕達で攻防を始める。
四本腕の茅場と、双剣・二刀流の僕達。剣戟の火花が立て続けに散る。
キリトとは何度も連携を重ねてきた。この距離感、この呼吸――もう言葉はいらない。
けれど茅場も、AIDAの腕を駆使して完全な防御を展開。僕達の猛攻をモノともせず、拮抗してくる。
――突破口が要る。
僕は一瞬だけキリトに目配せした。
彼はそれだけで意図を理解してくれてうなずいてくれた。
ソードスキルによる強行突破。本来であればソードスキルによる攻撃が、突破口になるのが定石。だけど、これは開発者である茅場にはすべて見切られる可能性が高い。
けれど、だとしても、これしかない。茅場の盾を捲り、この拮抗を崩すにはそれしかない。
だから、二刀流のソードスキルと僕の合せ技で彼の知らない技に昇華してこの鉄壁を破る。
僕は最初から茅場が構えられること前提で声を上げた。
「3……2……1!」
ゼロの瞬間、キリトが二刀流最上位スキル【ジ・イクリプス】を発動。
閃光のような二十七連撃が茅場へ襲いかかる。
僕も双剣で、二十七連撃に合わせて蒼炎のソードスキルを選択していく。
炎舞――旋風独楽――一双燕返し――疾風双刃――虎輪刃!!
二刀流のソードスキルを完璧に知っている茅場だけれど、僕の連撃分への対処が次第に遅れ始めて――鉄壁に綻びが見えた。
その一瞬を見逃すわけにはいかない。
「――三爪炎痕ッ!!!」
爪痕が、茅場の盾を大きく持ち上げる。――その隙をキリトが逃すはずがない。
「おおおおおッ!!!」
キリトの最後の一閃が振り下ろされ――その一撃が茅場に深く叩き込まれた。HPバーが一気にゼロへと落ち――茅場はなぜか薄く笑った。
――勝った。
そう思った瞬間、表示されたHPバーが乱れ、バグったようにノイズが走る。
「ッ……!!」
嫌な予感に突き動かされ、僕は咄嗟にキリトを庇う。
次の瞬間、茅場の体からAIDAが噴き出し、彼自身を飲み込んでいく。
「ぐ……がッ!!私は負けたのだ!!終了シークエンスを……ッ!? なぜ……!!」
茅場の絶叫が響く。
勝利の安堵が一瞬で吹き飛び、絶望の色が広がった。
「無茶苦茶だ……まともじゃない。終わりだ……。」
誰かの呟きが、部屋全体を冷たくした。
――終わりになんてさせない。
僕は絶望を晴らすために声を張る。
「大丈夫、大丈夫だよ!!絶対に!!心配しないで。ここからは――僕の役割だ!!」
僕は一人ひとりの顔を眺めて行く。きっとこれが最後だから。
キリト、クライン、エギル、ディアベル、キバオウ、アスナ――月夜の黒猫団、血盟騎士団、風林火山、ソロプレイヤーたち、そしてアルゴ。
一人ひとりの顔が目に焼きつく。
皆の顔を見ると本当にいろいろなことを思い出す。嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと、たくさんの経験をここでしてきて共有してきた。
だから次は――現実世界で会おうね。
「カイト!!」
アルゴの声が響く。僕は微笑む。
心配しないで。相棒。
双剣の柄を重ね、形を弓へと変える。
AIDAの奔流が僕へと飛んでくるのを無視して僕はそのままデータドレインを構えた。
腕輪が輝き、弓と一体化するように幾何学模様が展開される。
「――終わりにしよう。夢から覚めて、皆で帰るんだ!!」
光が茅場を貫く。世界から音が消え、空気さえ凍りついたように感じる――最大出力のデータドレイン。
これで――――
「ッ……!」
突然の激痛が全身を貫き、膝をついた。
まだデータドレインは完了していない。このまま中断すれば――――
「カイト君!!ダメだ!!君の痛覚を制御するペインアブソーバーが異常反応を起こしている!!HPを失わなくとも、死ぬぞ!!」
茅場が僕に叫んでいるのが聞こえた。恐らくAIDAの最後の抵抗。僕は歯を食いしばる。
「そこまでシステムに……侵食しているなら…尚更……ここでドレインしないと……!!!」
痛みで視界が歪む。でも負けるわけにはいかない。皆で帰る、そう決めたんだから。
「うあああああああ!!!データドレイン!!!!!いっっっけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
光が爆ぜ、世界が白に染まった。
次回、最終回。