激痛に視界がかすみながらも、僕は茅場を見た。
そこに立っていたのは、AIDAから解放された茅場晶彦。
だけど、その表情はどこか寂しげで暗い。
「どうやら……データドレインで、私の管理者権限も剥奪された。」
茅場のその言葉にその場は騒然とする。つまり――僕が懸念していたことが、最後の最後で……
歯を食いしばり、拳を握る。
くそっ……なんで最後で……そう思考がよぎりつつ、僕は立つのが限界で――
『ログアウトの心配はないわ、カイト。』
懐かしい声が、僕を支えてくれた。
「ヘルバ……っ!」
あの頃と同じ、あのアバター。そんな彼女の登場に思わず声を上げると、痛みが全身を駆け抜けた。
『ペインアブソーバーの余韻があるのだから、大声はおやめなさい。――初めまして、茅場晶彦。』
「……ネットスラムの女王が出てくるとはな。――さきほどの言葉、どういう意味だ?」
『言葉どおりよ。カイトのデータドレインで、あなたの権限は確かに破壊された。でもデータドレインの本来の力は“破壊”じゃない、”初期化”、“取り込み”。
今カイトが使用している腕輪はアウラが作り、私が改造したもの。気づいていたかしら? 私はずっとカイトをモニターしていたのよ。』
「な……!」
『一部の役人どもは、そこから強制ログアウトを実行しろと騒いでいたわ。でも、正規手順を踏まずに無理やりログアウトさせれば、人体にどんな影響が出るかわからない。
だから私は直接手を出さず、アウラを介してカイトを支援してたのよ。』
ヘルバの言葉に、皆が息を呑む音がする。
『そして今、カイトがデータドレインであなたの権限を吸収した。私はその権限を復元し、正規のログアウト手続きを開始した。
もう心配いらないわ、カイト。全員、順次ログアウトされる。手順はもう二割ほど進んでいるはず。そろそろアナウンスが流れるわ。それと――アウラのサルベージも完了。貴方が取り込んだAIについても復元含めて任せてもらって構わない。』
「……そっか。ありがとう、ヘルバ。」
『どういたしまして、ボス。――でも現実に帰ったら覚悟なさいね? オルカもブラックローズも、みんな心配してたんだから。』
苦笑すると、麻痺から復帰したアルゴがヘルバの代わりに僕の肩を支えてくれる。
「ネットスラムの女王、ヘルバよ。」
『何かしら。』
「シークエンス0404は――。」
『言ったはずよ。“正規の手続きをする”ってね。』
「……感謝する。」
その言葉の直後、重々しいシステム音が響き、アナウンスが流れ始めた。
『アインクラッド標準時 十一月七日 十四時五十五分 ゲームはクリアされました――繰り返します――』
僕達の身体が淡い光に包まれていく。
『カイト、現実世界で待ってるわ。』
ヘルバの声を最後に、彼女の姿は消えた。麻痺から解放された仲間達が、歓喜の声を上げる。
僕はアルゴの手を借りながら、未だその場に佇む茅場の元へ歩み寄った。
「……ゲームクリアおめでとう、カイト君。」
茅場の姿が徐々に現実世界の彼へと変わっていく。
「貴方は……本当に“別世界”を夢見ていたんですね。」
「ああ。そしてその可能性を、君達を通して確信できた。」
「やってきたことは許されないし、許すつもりもない。でも――この世界は、素敵だった。」
「……それはなによりだ。」
茅場は微笑み、光となって消えていった。
それを皮切りに皆が僕の周りに集まってくる。
「カイト!!」「カイトさん!!」
喜びだったり、笑顔だったり、驚きだったり、涙を流しながら抱きついてくる仲間達。きっと皆は僕の言葉を待ってるよね。
だから――痛みを押し殺して、右手を高く掲げた。
「――皆!!現実世界で必ず会おうぜ!!!」
その言葉をきっかけに、世界が光に包まれた。
――ゲームクリアおめでとう、カイト。そして、ありがとう。私の勇者様。
最後にアウラの優しい声を聞きながら、僕は意識を手放した。
目を開けると、そこは見慣れない天井だった。
――いや、病室だ。
ぼんやりとした視界を動かすと、どうやら個室らしい。
鈍い体に鞭を打つように首を動かすと、ベッド脇の計器類や点滴が目に入った。
と同時に、白衣の医師らしき人物が入ってきて僕の意識を確認する。
喉はひどく乾ききっていて、声を出そうとしてもかすれた音しか出ない。
それでも、なんとか頷いて返事をした。
医師は淡々と説明する。
――約2年の長期昏睡状態。筋力を始めとしたさまざまな機能が低下している。当面はリハビリが必要になると告げられ、全身の倦怠感に改めて現実を実感した。
一通りの検査と問診を終えると、医師は「少し休みなさい」と言い残し部屋を出て行った。
静まり返った病室にひとつ息を吐いた瞬間――
「海斗!!!!!」
扉が勢いよく開き、女性が飛び込んできた。
晶良だ。
病室に似つかわしくないほどの速度で駆け寄ってくる彼女の瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。
僕は鈍い身体を押して、かすれた声を絞り出す。
「……ただいま。」
「おかえりなさい!!」
その言葉と同時に、晶良の目から涙が零れ落ちた。
プロローグを含め、全46話にお付き合いいただきありがとうございました。
本お話は、かなり前、自分が二次創作活動を始めた位に思いついた内容で、かなり長いこと温めてました。楽しんで頂けたなら幸いです。
私個人としては.hackシリーズではカイトが一番の最推しでして、そんな彼が活躍する作品に出会いたい、とネットの海を放浪していましたがあまり数には出会えず、ならば書くしか無い!と筆を取って、放ったらかしにしていました。
最近?最近は公式Webで公開された新約小説も大変楽しく読み、こうなれば温めていた内容を消化しよう!と重い腰が上がり、今回の連続投稿する運びになりました。
フェアリィダンス編をやるかは、正直未定です。
ある程度は内容は浮かんでいるのですが細部の設定が決まっていませんので。
しかしやる場合は、カイト以外の.hackのキャラクターも登場させようかな、なんて考えていたりしています。機会があればお楽しみ。
補足になりますが
カイトが”蒼炎”を取得した理由ですが
元々カイトのために専用スキルを開発していたアウラが、カイトとアルゴが訪れたネットスラム再現エリアに開発途中のモノを置いてあり、それを茅場晶彦がサルベージ。ブラッシュアップを行いさり気なくカイトに与えた、という形になります。
長々となりましたが、改めてここまで読んでいただきありがとうございます。
すっかり未完結の作品の多い私ですが、今回完結に至れて良かったとおもっております。
機会があれば、また別作品でもお手に取っていただけると幸いです。