早い昼食を食べた僕は、昨日と同じように晶良とヘルバに見送られながら、バルムンクたちとの約束より少し早く、ALOへとログインした。
「お父さん!」
僕を待っていたユイを抱きとめ、彼女を抱いたまま、昨日ヘルバたちと話したことを情報共有しようと口を開くとユイは首を振った。
「お父さん、情報はヘルバさんを通して私にも共有されています。―――ただ、ごめんなさい。お母さん―――アウラの行方は私には把握できていません」
「ううん、謝る必要なんてないよ。彼女の判断でここに入ったんだ。それはきっと、僕たちと同じ目的のはず。なら僕たちが進んだ先に、アウラも居るはずだよ」
「はい!そうですね」
笑顔になったユイを下ろすと、ユイはプライベートピクシーの姿へと変わり、僕の肩へと乗った。
「バルムンクさん達が来るまでは何をするんですか?」
「主には魔法の練習と、分類と傾向を知ろうと思ってね。実はミストラルに少しだけ早くログインしてもらえるようにお願いしたんだ」
そう話しながらチェックアウトして僕は宿から出る。まだミストラルは来てないみたいだから、ひとまずは自主練かな。
「お父さんは、魔法をまだ全然習熟できていないので初級魔法から試していきましょう。昨日と同じ用に私が読み上げるので続いてください」
フィールドに出ると、ユイがそう先導してくれる。
彼女が読み上げる単語を、僕は続いて読み上げ、出現したモンスター相手に打ち込んでいく。
「やっぱり得意分野である火属性は、攻撃力が結構あるね」
「はい!すべての種族が全魔法を使えるようになるようですが、習熟速度、威力等に種族差が出るみたいです」
「バフの中に、武器に属性攻撃を付与する、とかの魔法もあるのかな?」
「あります。あと、最初から属性付与されている武器もあるみたいです」
本当に魔法が前面に出てるゲームなんだ。そんなことを考えていると、ユイが急に、彼方の方を見た。その瞳には驚きが見える。
「ユイ?」
「・・・パパがログイン、しました」
「キリトが?!!」
「はい。パパとママのユーザー情報は記録してあります。間違いありません」
キリト。無事に現実世界に還れたんだね。でも―――そうか。きっと君も見たんだね、アスナの画像を。
「ユイ。キリトのところへ行けるね?」
僕がそう言うと、ユイは目をパチパチと瞬きして、再び驚いた表情をしたけれど、直ぐに考えるように目を瞑る。僕の考えが正しければ、僕のローカルからキリトのローカルへ移動することは彼女の能力なら容易のはずだ。
「はい。ユーザー情報からパパの現在地、ネットワーク経路を辿れました。パパの元へといくことは可能です」
「なら、キリトの手伝いに行ってほしい。僕にはミストラルやバルムンクの手助けがあるけど、きっとキリトは独りだ。なら、この世界を歩く案内役が必要。だから、彼の元へ行ってあげて、そして”世界樹で待ってる”って伝えて。できるよね?」
ユイの頬に触れると、彼女は表情を引き締めた。
「はい!!わかりました!!必ずパパを連れてきます!!」
ユイはクルンと回ると、光の粒子になり、凄い勢いで飛んでいった。
再会を楽しみにしてるよ、キリト。
なんて考えていた僕は、一人フィールドに取り残される。ま、ユイが居なくても魔法使えるようにちゃんと呪文覚えて、習熟度も上げないとね。
僕は、またポップされたモンスターに向き合い、魔法を構えた。
そうしている内にミストラルがログインしてきて、どんな魔法があるのか、実演を含めながら、特性を確認していると、約束の時間10分前。バルムンクがログインしてきて、出発することになった。
「準備はもういいか?」
「うん、バッチリだよ。魔法も色々見せてもらったし、プレイヤー相手にもそれなりに戦えるようになったと思う」
「では出発しよう。洞窟内は飛行禁止だ。飛んでショートカットからはできないからな」
バルムンクの言葉に、僕が肯くと、彼は気になるように僕の両肩を見た。
「ユイはどうした?」
「ユイなら、SAOでの仲間のログインを検知して、そっちに行ってもらったよ。僕にはバルムンクとミストラルがいるけど、きっと向こうは一人だろうから」
プライベートピクシーであるユイが独断で行動できることに、バルムンクは驚いていたようだったけど、納得するように肯くと、僕の肩を軽く叩く。
「お前の期待を裏切らないように頑張るとするよ」
そう言って彼はまんざらでもなさそうに笑い、先頭を歩き始めた。ミストラルもイェーイと言った感じで僕の肩を叩いて、バルムンクに続く。そんな行動に、笑い、僕もそれに続いた。
洞窟に居そうなモンスター群―――スライム系やコウモリ系、はたまたゴーレム系などを、次々と薙ぎ払って、僕たちはずんずんと突き進む。
あいも変わらず、ゲームプレイが上手いバルムンク。それを見て感心しながらも、2年間、まるまる仮想世界に居たプライドに火がついて、僕も負けじとモンスターを倒していく。後ろでミストラルが「することないや~^^;」ていうのが聞こえつつも、半ば意地になって戦い続けた。
そんな急行特急みたいな突貫で、あっという間に出口が見えた時。後ろから、疲労が混ざった怒声に近い声が聞こえてきた。
「待てや!!!―――いや、ま、まて・・・いや、待ってください・・・お願いだから・・・」
僕たちが振り返ると、そこには12名程度のプレイヤーが居た。それを見てバルムンクは何故か大きなため息を吐いた。
「まさか尾行してきた奴らに待ってほしいと懇願されるとはな」
尾行・・・?感じていた視線は彼らだったのかな?バルムンクは気づいていたんだ。
「で、いったいなんの用だ?」
「”蒼天のバルムンク”!!なんの用とは愚問だな!!ここですることは決まっているだろう!!メイジ隊!!」
隊長格の一人が指を鳴らすと、数人が魔法を唱えようと構えた。ただ、疲労があるせいか、少し息が合っていない。もう一息待っても良かったんじゃないかな。
僕たち3人の行動は直ぐに決まり、息ぴったりに同じ行動を取る。
僕は、詠唱の短い下位魔法を、バルムンクは速度の早い魔法、ミストラルは上位魔法にも関わらず、凄い速度で詠唱する。彼らが魔法を唱えきる前に、僕たちが放った魔法が彼らに当たり、詠唱が中断された。
うまいこと、前衛のタンクがそれを防ぎ、ダメージは軽微みたいだ。
「チッ!この化物めッ!!」
先制を取ったつもりが、カウンターを貰ったことに舌打ちする隊長格に、僕は少しだけふざけてバルムンクに言う。
「化物だってよ(笑)」
「今ので化物と言われるのは俺じゃなくてミストラルだろう」
「え~(´・ω・`)女性に対して言う言葉じゃないぞ~」
「だが、タンクが居るのが厄介だな」
「出口、すぐそこだしここで戦う必要ないんじゃない?」
僕たちは片手間に魔法の詠唱を妨害しながら、後ろを確認すると、出口にゾロゾロとプレイヤー達が出てくる。しかも見事にタンク主体編成。通行止めってわけだ。
「逃げれると思っていたか!!ここで襲撃しているのは一本道だからだ!!」
「いや、追いつくの遅れただけでしょ」
僕がそう突っ込むと、出口に居るプレイヤーが「通り過ぎるじゃないかとヒヤヒヤしたよ」と言っているのが聞こえ、隊長格の怒号が飛ぶ。
「うるさーい!!流石の”蒼天のバルムンク”とその仲間でも、これだけの物量!!いつまで耐久できるかなぁ?!」
何ていうか、面白い人なんだね。あの人。
つい笑ってしまった僕だけど、現状はあまり笑えない状況になった。出口側からも魔法が唱えられ始め、僕たちの手数は足りなくなる。
必中魔法以外を避けながら、バルムンクに目線を送る。ああ、というか必中魔法面倒くさいね。少し、試してみようか。
僕は飛んできた魔法に合わせて、初級魔法を唱える。そして眼の前に来た魔法と、詠唱を完了のタイミングを合わせて、魔法と魔法をぶつけた。ぶつかりあった魔法は2つの魔法は消滅する。
ん、よし。思ってた通りだ。
「んなぁ・・・?!」
その場に居た全員が、驚いたように息を呑んだ音が聞こえた。そんな中、隊長格だけが良い反応を見せてくれる。本当に面白い人だなぁ。
「ミストラル、僕に回復とバフかけ続けて。バルムンクはミストラルの詠唱保護」
短く2人に指示を出して、僕は尾行してきたプレイヤー達に一気に接近する。
魔法相殺に驚いていたせいで反応が遅い。そこの綻びを狙う。双剣で前衛のタンクを薙ぎる。流石のタンクビルド、硬いね。削ったHPは、その後ろに居たメイジ隊が回復させ、僕の攻撃は徒労となった。メイジ隊を排除しないと戦況は変えれないな。
二歩ステップして、下がると飛んできた魔法をさっきと同じ要領で相殺。ただ眼の前で詠唱をしたからか、タンク隊が盾を緩めた。
「馬鹿野郎!!体勢を変えるな!!」
隊長格がそう叫んだけれど、もう遅いよ。僕はほんの少しのできた隙間を斬り抜けた。ちゃんとタンク隊に攻撃を与えることも忘れずに。
「バルムンク!!タンク隊任せた!!」
僕は叫びながら、さらに加速。メイジ隊を狙う。
前衛が居ない状況に慌てるメイジ隊を庇うように、隊長格が武器を抜刀する。身の丈ほどの両刃大剣。SAOには無かったタイプの武器。でもそれはプレイヤー装備になかっただけ。
「どりゃぁぁぁぁ!!!」
両手を使い、その大剣を振り上げ、一気に振りかぶってくる。僕は横に一歩ずれて避け、避けた先の地面は大きく土煙を上げた。すごい威力だね。当たれば致命傷。そう当たれば、ね。
「俺の一撃を避けるとはな・・・!やるな」
「君も良い一撃だと思うよ」
僕たちは互いに笑う。まるで好敵手を見つけた、そんな雰囲気。でも、ごめんね。ゆっくり相手はしてあげれないんだ。
”疾風双刃”をイメージした動きで、三連撃をお見舞いする。
「まだまだぁ!!」
怯みながらも耐えた彼を、今度は蹴り上げ、そのまま”天下無双飯綱舞い”を食らわせた。
攻撃をモロに受けた彼は、HPがゼロになり、そのまま炎に包まれる―――かと思ったら、時代劇の悪者みたいな、わざとらしい動きを見せて、漸く炎に包まれ、リメインライトだけが残る。最後まで面白い人だね。
僕は笑いながら、その顔をそのままメイジ隊に向ける。メイジ隊は顔が引き攣っていた。
その後は、タンク隊を撃破したバルムンクと合流して、出口を塞いだプレイヤーたちを相手取ろうしたけど、絶体的有利な状況をひっくり返された彼らは両手を上げて投降。”デスペナルティを貰いたくない”とのことで、アイテムなどで襲撃の賠償をして貰って手を打つことになった。
「しかしカイト、よく魔法が相殺できると、思いついたな」
ミストラルが、本人は見たことがないアイテム―――あまりにもニッチすぎるアイテムで、流通に乗らないレベルの微妙なアイテムだと、渡した相手はそう良いながら、本当にこれでいいのかと複雑そうな顔をしていた―――を貰って喜んでいるのを横に、バルムンクが話しかけてきた。
「なんとなくできる気がして、ね」
「いきなり実践で試すことはないだろ」
やれやれと言った顔で言う彼に、僕は笑って誤魔化す。
「まぁいい。邪魔が入ったが、この洞窟を抜けて少し飛んだ先が、世界樹のある央都『アルン』だ。詳しい調査は明日にするがそれでいいな?」
「うん。もちろん」
「あ、明日は娘がログインするからよろしくね~(^^)」
「”深鈴”ちゃん?」
「そー。調べ物するなら頭の柔らかい子がいるでしょー?明日は学校も休みだしね(*´ω`*)」
「わかったよ。―――久しぶりに会うね」
「リアルでも会いたがってたから、今度会ってあげて(^^)」
「もちろん。この仕事が終わったら僕から皆に顔を出しにいくつもりだったから」
そんな話をしながら僕たちは洞窟を出て、飛ぶ。
ユイはキリトと合流できたかな。―――あの子は賢いから心配はしてないけど、キリトの心情は心配だ。ユイが飛んでいった方角を見ながら、僕は”仲間”に想いを馳せた。
* * *
女神様の協力のお願いは、思いの外ハードな内容で、ほぼ一日中、あっちこっちに飛び回り、彼女が言う”ナニか”を回収するものだった。
そのナニかは私の目にはノイズに見えていたが、アウラはそれについて語ることはなく、ただ彼女ではそれを集めることができない、私の”眼”が効率的に集めることができるということで私が選ばれた、ということらしい。
幸いというべきか、ここALOはSAOのコピーサーバーということらしく、所持金はSAOの時のままだったため、装備の一新、宿などの宿泊には困らなかった。ただALOはPK推奨ということもあって、他プレイヤーにバレないように私はコソコソと活動をするハメにはなったけれど。
空が飛べて魔法があって・・・こんな状況じゃなければ、それなりに楽しめる世界だろうに、私ときたら
「外周に散っていたのは、恐らく今ので最後だわ。央都『アルン』へ向かいましょう」
「結局、コレはなんなのサ?」
私はノイズのようなものを手に取り―――触れると消えるけど、どこに格納されているのだろう―――改めてコレについて聞くがアウラは何も言わない。
「終わった後に、話すわ」
変わらない返事。ま、仕方ないってことで納得しておきますか。きっと私を選んだのは、”こういうの”を飲み込める相手っていう理由でもあるだろうし。
カイトも央都『アルン』に向かっているらしい。色々思うこともあるけど、今は彼に再会できることを楽しみにすることで、考えは一時保留としましょう。
いつも閲覧、感想、評価、ありがとうございます。
コメディな感じ多めな話になりました。ずっと重い話だと疲れちゃいますからね。
ソードスキルのないALOでは、映える近接戦はもちろんなこと、武器を振るう練度に個人差が大きく出る印象ですので、2年間SAOに居たカイトにとっては、彼らは赤子をひねるようなもの、をイメージして一方的な描写にしました。
バルムンクは言わずもがな。ゲーム廃人なので。
魔法相殺は、原作のキリトが魔法を切ったことから着想を得て、執筆しました。
少し今更の反応ですが、.hack新作が出ますね。
新作発表の映像を見た時は思わずガッツポーズしてしまいました。この調子で.hackが盛り上がってくれれば嬉しいな、と思いつつ、リメイク・・・とまでは贅沢言わないので、せめて現行機で.hack//が遊べるようにならないかぁ、なんて思っていたり(切実)さすがにもう手元にPS2が無い(笑)GUみたいに出しておくれ・・・(泣)
新作を楽しみに執筆し続けようと思います。