Artificial deterrent ~ Effective concept arms ~   作:Mr.凸凹

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~ prologue ~ 『衛宮 士郎編 02』

 

 

 

 

 

 夜の帳をネオンの明かりが切り裂いている。

 新都(ここ)は夜分遅くとも人通りが絶える事は先ずない。

 普段ならこんな時間に出歩いていても見た目が成人な俺は問題ないのだが、今日はレニー同伴で歩いているからか奇異の視線が彼方此方から集中している。

 尤も中には熱い視線を送ってきている人達もちらほら見受けられる。

 何故熱い視線を向けられているかというと、コペンハーゲンは別段ホストクラブという訳ではなく普通の居酒屋なのだが、ネコさん曰く俺目当ての女性客が増えて売り上げが鰻上りだそうだ。

 流石に店内でのお触りは厳禁だと暗黙の了解が行き渡っているので就業中はないが、出待ちされて逆ナンパや逆援助交際を迫られたりされている。

 大抵が一夜限りの関係で後腐れないアルバイトと割り切って相手をしている。

 レニーは俺が頼まれたら断れない性格なのを理解してくれているので多少は眼を瞑ってくれているが、余り羽目を外しすぎるとご機嫌を取るのに苦労するんだよな。

 まあ、今日はレニー同伴(コブ付き)なので声を掛けてくる猛者はいないだろう。

 今日は勤勉な学生には少しばかり刺激の強い誘惑に晒される羽目にならなくて安堵のため息を吐いた。

 

「何よ、シロウ……こんな可愛い子が同伴しているのにため息を吐くなんて失礼ね」

「悪い、悪い……別にレニーといるのが嫌な訳じゃないさ。今日は何時もの臨時アルバイトをしなくていいと安心したんだよ」

 

 俺が苦笑しながら頭を撫でていると、レニーは疑いの眼差しを向けてきた。

 

「……本当に安心してるの? 綺麗なお姉さんと遊べなくて、残念に思ってるんじゃないの?」

「俺はレニーといる方が楽しいよ」

「……べっ、別にそんな事言われても嬉しくなんかないんだからね!」

 

 ツンデレ乙。

 相変わらず可愛い反応を返してくれる我が愛しい使い魔殿。

 思わず微笑ましい空気に頬を緩ませていると見知った人影に声を掛けられた。

 

「あれ? 士郎? こんな歓楽街で会うなんて奇遇ね。学生の身分でこんな時間に出歩くなんていけないわよ」

「凛こそ今日は体調を崩して学園を休んでいたのに、出歩いていいのか? しかも、そんな小さな子を連れ回して……って、なるほど使い魔(ゴーストライナー)か」

 

 師匠(マスター)に扱かれて常に反射的に解析する癖がついているので、遠坂の連れている子を一目見て納得した。

 

「相変わらず眼だけはいいわね。一発で見破ちゃうか……そっちも使い魔(レニー)を同伴しているって事は、相変わらず半人前の癖に首を突っ込んでいるみたいね」

「何分性分なものだからな……そっちは冬木の管理者(セカンド・オーナー)としての見回りだよな?」

 

 俺は一応確認を取った。

 何しろ凛の連れの少女の片手には有りと有ゆる食べ物が入っている袋がぶら下がっていたからだ。

 それを美味しそうに平らげていっている。

 結構なスピードで食べていっているのにしっかりと咀嚼している様だ。

 しかも、もう一方の手には見た目ジュースっぽいが歷としたアルコールである缶チューハイが握られたいた。

 それをぱかぱかと次から次へと丸で水の様に飲み干していっている。

 

「まあね……近々大きな聖杯戦争(イベント)があるからその下見も兼ねてね」

 

 凛は微妙に眼を逸らしながら答えた。

 心なしか頬が朱に染まっている様に見える。

 

「ふ~ん……何か俺に手伝える事があったら言ってくれよな。微力ながら力を貸すよ」

「ありがとう。必要になったら声を掛けるわ……じゃあ、そろそろお暇するわね……行くわよ、ライダー」

「うん? もういいの、凛ちゃん? 駄目だよ、もっとしっかりとアピールしないと……あたぁ!!?」

「余計な事言わなくていいの! さあ、きりきりと歩く!」

 

 何や俺と凛を交互に見て含み笑いしていた少女を小突いて、凛は足早に立ち去っていった。

 

「…………」

「……って、どうしたんだ、レニー? ずっと黙り込んでいて?」

 

 何時もなら凛と遭遇している際は喧嘩腰に話しかけているのに、今日は黙って俺の左手を両手で力強く握りながら凛の使い魔(ゴーストライナー)を睨み付ける様に見つめていた。

 

「別に何でもないって言いたい所だけど……はぁ~シロウ。貴方、凛の手の痣に気がついていた?」

 

 レニーは頭を振って迷いを断ち切る様に訊ねてきた。

 

「ああ……俺のとよく似たモノだったよな」

 

 レニーが手を離してくれたので左手を目の前に掲げながら確認をする。

 

「それは凛の言っていた聖杯戦争(イベント)の参加資格みたいなものなの……」

「これが……って、待てよ。もしかして聖杯戦争(イベント)って、今起こっている事件って関係あるのか?」

「多分無関係じゃないわね……そうなると今のシロウじゃ苦戦は必至でしょうね。令呪(参加資格)は持っていてもサーヴァント(参加条件)が揃ってないもの」

 

 レニーは真剣な眼差しで俺を見詰めている。

 

「つまりあの使い魔(ゴーストライナー)が、そのサーヴァント(参加条件)って事だよな」

「ええそうよ……って、言ってもわたしもロイからの受け売りであんまり詳しくないけどね。ロイの話だと十年前の聖杯戦争(イベント)シロウの義父さん(キリツグ)が参加してたとか何とか……」

「十年前……」

 

 俺は切嗣(オヤジ)に初めて会った日の事を思い出さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 月明かりが照らし出す新都の公園。

 闇夜に蝕まれてより一層怨念が強まった気配が感じられる。

 ここに来るのは色々な意味で複雑な心境になるが仕方ない。

 

「何だか夜とは言え、寂しい公園ね。それに何この怨念に満ちた空気……丸で『固有結界(リアリティ・マーブル)』みたい」

 

 レニーが腕で身体を抱きしめながら身震いをしている。

 

「シロウ、何でここに来たの?」

「俺の生き様(願い)を再確認するためかな……ここは十年前に大火で焼き尽くされて、俺が生き残った(生まれ変わった)場所なんだ」

 

 俺はこの空気を肌で感じながら、切嗣(オヤジ)に助けられてその生き様(願い)に焦がれて引き継いだ正義の味方としての在り方に思いを馳せる。

 切嗣(オヤジ)は全てを救う事は出来ないと言っていた。

 その意見には師匠(マスター)も同意見で、両手で抱えられる重さは決まっていると言っていた。

 だからこそ本当に大切なものを見極める眼を持てと何度も諭された。

 そして守れるだけの力を身に付けろと言われ続けてきた。

 また正義には絶対はなく人の数だけ正義はあると、よく師匠(マスター)には口を酸っぱくして言い聞かされてきた。

 確かに仲間を守るために戦った英雄も、敵側から見たら殺戮者かもしれない。

 全てを救うという事は甘い戯言なのかもしれない。

 だが俺は根本的な元凶以外の敵側の一人の人間でさえも到底切り捨てる事は出来ない。

 

 俺が思考の渦に巻き込まれていると、不意にレニーが手を握って上目遣いで心配そうに見詰めてきた。

 その表情を見ていると肩の力が抜けるような気がした。

 

「シロウ……無理しないでね。一人で抱えられなくてもわたしがいるからね。その肩の荷を少しは分けてちょうだい」

「ああ……そうだよな。俺はひとりじゃない。レニーや師匠(マスター)達がいるんだよな」

 

 何だろう、この感情は……借り物にすぎない正義の味方(理想)しかない筈の俺にもまだこんな暖かく感じられるものがあったんだ。

 

「よし! 早速帰って土蔵(工房)の書物を片っ端から解読していくか!」

「そうね。何事も知識がないと始まらないものね」

 

 俺の笑顔に呼応する様にレニーの表情も明るくなった。

 

 二人で仲良く手を繋ぎながら屋敷のある深山町まで駆け出していった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 書物に掛けられていた封印(トラップ)を一つ一つ解析して解除していき読み解いていくと聖杯戦争について大方理解する事が出来た。

 まあ、切嗣(オヤジ)封印(トラップ)はまだ可愛げのあるものだったが、何気に混ざっていた師匠(マスター)の著書の封印(トラップ)は一つ間違えると大惨事になるレベルのものばかりだった。

 そんなこんなで苦戦していたので読み解く頃には何時もの起床時間となっていた。

 

「げぇっ!!? もっ、もう、こんな時間か……さすがに学園を休む訳にはいかないよな」

 

 今日も藤ねぇが朝食を食べにやってくるのに仮病なんか出来ないしな。

 仕方ない。徹夜だが気を引き締めていこう。

 

「さてと……俺は朝食を作りに行ってくるけど、レニーは休んでいてくれよ」

「ふわぁ~……だっ、駄目よ!! シロウを一人に出来ないわ! 況してや学園には遠坂家(凛と桜)だけじゃなくて間桐家(慎二)も居るじゃないの! 油断は禁物よ!!」

 

 勢いに任せて怒鳴るように言い放ったレニー。

 うん。最初の欠伸が可愛くて全然威厳が感じられないな。

 

「分かったよ、レニー……取り敢えずしっかりと朝食を取って生命力(魔力)を蓄えていこう」

「そうね……それまで少し休むわ」

 

 俺は白い猫の姿になったレニーを抱き抱えて母屋に向かっていった。

 

 

 

 

 

 今日は朝から生徒会の手伝いがなく何時もより遅い時間に校門を通過すると違和感に襲われた。

 

 これはっ!!? 結界!!? しかも、新都に仕掛けられている物とは別種の物の様だ。

 

「『解析(トレース)開始(オン)』」

 

 正しい呼吸に切り替えて小源(オド)を練り上げて校庭を含む学園全体に意識を拡散する。

 

 これは蟲かっ!!?

 龍脈に沿って多数の蟲が彼方此方に魔法陣を形成していた。

 

 蟲って事は間桐の魔術か。

 慎二の奴、何を考えているんだ!

 

 更に解析を進めていくとこの結界は中の人間から生命力(魔力)を吸い取る物の様だ。

 

 直ぐに解除していきたいがもう直ぐホームルームの時間だ。

 放課後に凛と桜と協力して解除していこう。

 

 その前に教室に行って慎二に問い質さないいけないな。

 

 俺は込み上げる怒りを押し殺しながら教室に向かっていった。

 だが教室に着いて慎二を待っていたが、予鈴がなっても慎二は現れなかった。

 

 イライラとしながら時計を睨みつけていると、本鈴と同時に何時もの様に廊下から地響きが如き足音を響かせて藤ねぇが駆け込んできた。

 

「セ~フ……間に合ったわ。さあ、出席を取るわよ」

「藤ね……藤村先生、慎二の奴がいないけど……」

 

 俺は慎二の席を指さしながら訊ねた。

 

「ああ、間桐くんね。右腕の怪我が悪化して暫くお休みするそうよ……他にお休みの子はいなさそうね。まあ、一応出席はきちんと取りますか」

 

 藤ねぇが出席をとっている間、高速思考を使用して慎二の取った行動の真意を図る。

 十中八九、サーヴァントの強化が目的だろう。

 しかも、慎二自身は間桐家(工房)に篭って安全対策を万全にしているんだろう。

 

 思わず歯軋りしながら手を力強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 昼休み。

 示し合わせた訳でもなく凛と桜と屋上で昼食を取る事になった。

 レニーは白猫の姿で俺の膝の上に鎮座している。

 何気に桜が用意した弁当は重箱サイズの物だった。

 霊体化を解いたライダーが次から次へと手を伸ばして舌鼓を打っている。

 そして持ち込んだ酒類でプチ宴会の雰囲気を醸し出していた。

 そんなライダーを尻目に会議の様に話し合いをしていく。

 

「気が付いたわよね、士郎?」

「ああ……結界の張り主にも検討がついたよ」

「流石ですね、先輩。わたしは結界自体姉さんより気づくのが遅かったぐらいです」

「……で、やっぱり間桐の結界? なんとなく蟲が這い回っている様な気がするのよね」

 

 凛は仏頂面をしながらも眼に怒りを湛えている。

 

「まず間違いないだろうな……」

「……って、事は慎二の馬鹿の仕業か。今日はアイツ、学園を休んでいるのよね?」

 

 凛は怒りを湛えた眼で俺を睨み付ける様に訊ねてきた。

 

「ああ、そうだ……気持ちは分かるが俺を睨んでも仕方ないだろう」

 

 俺は肩を竦めながら答えた。

 

「ごめんなさい……八つ当たりだったわね」

 

 凛はバツが悪そうにしながらも、しっかりと頭を下げて謝ってきた。

 

「別に気にしてないさ……それで結界の解除を分担してやっていかないか?」

「はぁ~……相変わらず御人好しね。士郎の責任じゃないし、関係ないじゃないの」

 

 凛は呆れる様にため息を吐きながらこちらを見ている。

 

「姉さん。そんな言い方しなくても……」

 

 桜は嗜める様に凛に詰め寄っている。

 

「残念ながら無関係じゃないんだよ」

 

 俺は左手を掲げて令呪を凛と桜に示すように見せた。

 

「なっ!!? 士郎も選ばれたのっ!!?」

 

 凛は驚愕の表情で眼を見開いている。

 桜も口を押さえて驚きの表情を浮かべている。

 ライダーは然りげ無く横目でこちらを窺いながら臨戦態勢を取っている。

 レニーは人型になり俺を庇う様に凛達の間に佇んでいる。

 

「だけどまだ令呪(参加資格)は持っていてもサーヴァント(参加条件)は未召喚だ。今朝方魔道書を紐解いて聖杯戦争の事を粗方理解したところさ」

 

 俺は両手を上げながら争う気はないとアピールをした。

 

「いいわ……何れは敵同士だけど、今は協力しましょう。良いわね、ライダー」

 

 凛は少し考えた後、協力を約束してくれた。

 

「了解……凛ちゃん(マスター)の意向に従うよ」

 

 ライダーは臨戦態勢を解いてプチ宴会を再開させた。

 

「ほっ……よかったです。先輩と敵対する事になったら悲しんですもんね」

 

 桜は安堵のため息を吐いてから笑顔を浮かべた。

 

 そして弁当を食べながらお互いの解除範囲を決めて、最後は何故か握手をした。

 何気に凛だけでなく桜やライダーまで嬉しそうに握手をしていった。

 凛と桜は頬を僅かに染めて足早に去っていった。

 

「何がそんなに嬉しいのかな?」

 

 俺は疑問に思いながら手を握ったり開いたりしている。

 

「全く女性経験は豊富なのに……自分に向けられている好意には鈍いのね」

 

 レニーはジト目で俺を一瞥してから白猫の姿になり、日向ぼっこしながら眼を瞑ってしまった。

 

 

 

 

 

 放課後。

 人気の少なくなった学園内を結界を解除するために奔走する。

 結界を解除しようとすると防衛機能が働くのか、魔法陣から蟲達が湧き出る様に召喚された。

 

「虫けら如きが()()()のシロウに気安く触れるんじゃないわよ!」

 

 レニーが蟲を蹴散らしている間に結界を構成している魔法陣を解析していく。

 直ぐに構成を把握して解除する。

 魔法陣が消えると蟲達も丸で霞の様に霧散していった。

 

「これで殆ど解除出来たな……後は基盤になっている物だけか」

 

 もう一度意識を広げて結界を解析する。

 

「キャァアァ~!!?」

 

 結界の基盤となっている場所から悲鳴が響き渡った。

 慌てて駆け出していくと白い髑髏の仮面を被った黒尽くめの右腕が異様に長いサーヴァントがライダーと対峙していた。

 凛は力なく横たわった血まみれの桜を抱きしめていた。

 

「【増援が来たか……このままではこちらが不利だな。撤退するぞ、マスター】」

 

 黒尽くめのサーヴァントは虚空に消える様に立ち去っていった。

 その際、ちらりと俺を横目で視界に入れていた様な気がした。

 

 意識を拡大して行方を解析しようとしたが上手くいかなかった。

 

「大丈夫か、凛!!?」

「わっ、わたしは大丈夫よ……でも桜がわたしを庇ってっ!!」

 

 凛が涙目で桜を抱きしめている。

 

「落ち着いて、凛ちゃん(マスター)! まだ息があるよ!」

 

 ライダーの言葉に凛の眼に力が戻った。

 

「死なせない……絶対に死なせるもんですか!」

 

 凛は宝石を取り出して桜の胸元に翳した。

 

「『―――――Die magische offen―――――Diese Person Wunde heilen!』」 

 

 宝石が眩く光って徐々に桜の顔に生気が戻っていった。

 

「よし! 取り敢えず傷は癒えたわ……でもまだ予断を許さない状態だわ。ライダー! 急いで桜を屋敷まで運び込んで!」

「了解、凛ちゃん(マスター)……来い。タングリスニ、タングニョースト」

 

 ライダーが腰に付けていた角笛を吹き鳴らすと雷鳴が走って空間を引き裂くように二頭のヤギに牽かれた戦車が現れた。

 

「ごめんね、士郎……桜の回復に万全を期すために屋敷に戻るわ」

「ああ、気をつけて……」

「ありがとう。貴方も早くサーヴァントを召喚しなさいよ……出して、ライダー」

 

 気丈にも見える微笑みを浮かべながら凛はライダーに出発を促した。

 

「ちょっと待って、凛ちゃん……このままじゃ走る際の雷の音で目立っちゃうから、消音の結界を張ってくれるかな」

「そうね……『――――Das Schliesen.Vogelkafig,Echo』」

 

 戦車から聞こえる音が消え去った。

 直後、稲妻のレールを走る様に戦車が空へと駆け出していった。

 

「桜、大丈夫かな?」

「安心しなさい、シロウ……ああ見えても凛は腕の立つ魔術師よ。それに取って置きの宝石を使っていた様だし心配ないわよ」

 

 俺はレニーの意見に賛同する様に頷いた。

 だが直ぐに怒りが込み上げてきた。

 

「……なあ、あのサーヴァントはやっぱり慎二に召喚されたやつだよな?」

「多分間違えないでしょうね……」

 

 レニーは苦虫を噛み潰した様な表情で答えてきた。

 

 覚えてろよ、慎二!

 お前は絶対に許さないからな!

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 月が星空の天涯を登りきった時刻。

 藤ねぇが帰宅して暫くしてサーヴァント召喚のために土蔵(工房)に入って準備していた時に、()()は無音で襲撃を掛けてきた。

 切嗣(オヤジ)が仕掛けていた結界の鳴子は反応していなかったが、この襲撃は予想済みだった。

 

「レニー、悪いけど時間稼ぎを頼む」

「はい、ご主人様(マスター)の仰せのままに……行くわよ、間桐のサーヴァント(アサシン)。貴方には覚めない悪夢を見せてあげる」

 

 レニーはスカート裾を持って会釈した後、凍る様な笑みを浮かべて襲撃者を迎撃に掛かる。

 

「【舐めるなよ、使い魔(ファミリア)風情がっ!!】」

「さあ、ワルツを踊りましょう?」

 

 レニーはアサシンを往なしながら土蔵(工房)から離れて庭へと舞台を移していった。

 

 さあ、折角レニーが時間を稼いでくれているんだ、失敗は許されない。

 だが不思議と不安はなかった。

 既にある魔法陣に自身の血を垂らしていく。

 まあ、触媒はある意味必要ないよな。

 師匠(マスター)虐め(修行)お陰で俺の固有結界(精神)には古今東西の剣が埋蔵されている。

 呪文もある意味正しくなくていい。

 要は彼の騎士に相応しい黄金の剣を投影同然に思い浮かべながら繋がりを強く意識すればいい。

 

「『I am the bone of my sword.――――告げる。古の地より聖杯の寄る辺に従い我が呼び声に答えよ。この意、この理に従うのなら、我に従え! なれば汝の剣に我が命運を託そう、剣の英霊よ!』」

 

 魔法陣が強く光を放って一瞬輝くと俺の胸が熱く蠢いた。

 

 成功だ! 何度か脳裏に浮かんだ(夢に見た)彼女が目の前に佇んでいた。

 

「サーヴァント、セイバー……召喚に応じ、馳せ参じた。問おう、汝が我がマスターか?」

「ああ、よろしくセイバー……俺がマスターの衛宮 士郎だ」

 

 俺は握手を求めて利き手を差し出した。

 

「っ!!? えっ、衛宮!! ……まっ、まさか!!? いえ、ここは間違えなく……!」

 

 セイバーは驚愕の表情を浮かべて固まっている。

 

「セイバー? どうしたんだ?」

「はっ!!? すっ、すいませんマスター……我が名はアルトリア・ペンドラゴン。ブリテンの騎士王です」

 

 セイバーはにっこりと微笑みながら手を握り返してくれた。

 

「セイバー……早速で悪いけど、今アサシンの襲撃を受けている。俺の使い魔(ファミリア)が迎撃しているから協力してくれ」

「了解しました、マスター……貴方の命令に従いましょう」

「それとセイバー……マスターはやめてくれ。普通に名前で呼んで欲しい。それと敬語禁止!」

 

 俺がじっと眼を見ながら頼むとセイバーは再びにっこりと微笑んでくれた。

 

「はい。ではシロウと呼ばせてもらいましょう」

「改めてよろしく、セイバー」

「はい、シロウ」

 

 俺とセイバーは微笑みあって土蔵(工房)から飛び出していった。

 庭は一面雪に閉ざされた世界が広がっていた。

 

「なっ!!? こっ、これはっ!!?」

「驚いている暇ないぞ、セイバー……標的はアレだ」

 

 俺の指さす先でレニーが油断なくアサシンをいなしていた。

 アサシンが投擲する投擲剣(ダーク)を危なげなく生み出した氷で逸らしたり弾いたりしている。

 

「【くっ!!? たかが使い魔(ファミリア)風情に遅れを取るとはっ!!?】」

「まだ分からないの? この雪原は私の世界()。わたしの思い通りにならないモノなんてありえないわ」

 

 レニーは慢心を起こすことなくアサシンを追い詰めていく。

 そこに俺とセイバーが一瞬の隙を見逃さず斬りかかった。

 アサシンは体を捩って避けて致命傷を免れた。

 

「【なっ!!? 既にセイバーのサーヴァントが召喚されてしまったか!】」

 

 アサシンは傷口を押さえながらこちらの隙を伺いつつ、逃げる算段を付けている様だ。

 

「レニー……後、どのくらい展開していられる?」

「流石にそろそろ限界よ、シロウ……後でたっぷりと精気(ミルク)を要求するわね♪」

 

 場に似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべるレニー。

 

「お手柔らかにお願いします……いいぞ。解除してくれ、レニー」

「了解、ご主人様(マスター)……」

 

 レニーは息を吐く様に固有結界(リアリティ・マーブル)を解いた。

 アサシンは一瞬俺を睨む様に見詰めてから虚空に溶ける様に消えていった。

 

「逃がして良かったのですか、シロウ?」

「窮鼠猫を噛むってね。倒すなら万全の対策をしないといけないさ……うん? この気配は……」

「シロウ! 外に別のサーヴァントの気配がっ! 迎撃してきます!」

「待て、セイバー! 必要ない!」

 

 今にも飛び出しそうなセイバーを抱きしめる様に押し留めた。

 

「あっ、あの……シロウ? 分かりましたから離してくれると……その……」

 

 セイバーは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。

 レニーの冷ややかな視線が背中に突き刺さってている。

 

「ああ……悪い、セイバー。女の子を許可なく抱きしめちゃ駄目だよな」

 

 俺は逃げる様にセイバーから離れた。

 

「あっ……」

 

 何故かセイバーは残念そうに俺をちらちらと盗み見る様に見てきている。

 レニーの視線が絶対零度を纏って俺を射抜いている。

 

「さてと……表のお客さんを招き入れようかな」

 

 俺は居た堪れなくなって逃げ出す様に門を潜っていった。

 そこには予想通りの人影が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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