家入硝子の医務室兼執務室には、独特の静寂と、彼女が愛用する煙草の残り香、そして消毒液の匂いが混ざり合っていた。
模擬戦での無理な領域展開の中断。その代償は、連の体内に「行き場を失った超高熱」を逆流させた。普通の術師なら内臓が焼き切れて死んでいるはずだが、連の鍛え抜かれた肉体と反転術式のオート稼働が、辛うじて彼を現世に繋ぎ止めていた。
「……たく。アンタ、自分の力の規模を分かってんの?」
硝子が気だるげに、だが手際よく連の背中に特殊な呪符を貼り、反転術式の出力を調整していく。連の肌からは、未だに陽炎のような熱気が立ち上っていた。
連「……すみません、硝子先生。つい、みんなの成長が嬉しくて、その先が見たくなっちゃって」
硝子「『その先』を見せる前に、相手が消し飛んじゃ意味ないでしょ。五条も五条よ。アンタを煽るようなことして。……はい、深呼吸」
硝子のひんやりとした指先が連の胸元に触れる。その冷たさが、熱に浮かされた連の意識を心地よく現実へと引き戻した。
連「……先生。俺、この世界に来て、あいつらと出会えて、本当によかったと思ってます。……修行空間での5年間は、このためにあったんだなって」
硝子は一瞬、作業する手を止めた。それから、少しだけ呆れたような、けれど慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
硝子「……青春ねぇ。アンタのその『星』、熱すぎるのよ。……ほら、もういいわ。内臓の熱も引いた。みんなのところに戻りなさい。アンタがいなくて、向こうも落ち着かないみたいだから」
【放課後:自動販売機前の夕暮れ】
医務室を出て、夕日に染まる校庭を歩く。隣には、少しだけ休憩がてら外に出た硝子が、白衣のポケットに手を突っ込んで歩いている。自動販売機の前のベンチには、案の定、模擬戦を終えた「2年生」と「1年生」たちが揃っていた。
虎杖「あ! 連先輩、お帰り!」
虎杖が真っ先に気づき、大きく手を振る。その横には、泥だらけになりながらも、どこかスッキリした顔の伏黒と野薔薇がいた。
真希「……おせぇよ、連。硝子さんに絞られてたのか?」
パンダ「ハハハ! 特級が泣きべそかいて帰ってきたぞ!」
棘「おかか!」
連は苦笑いしながら、硝子と共にベンチの輪に加わった。連の手には、硝子に「礼だ」と言って買い与えられた缶コーヒーが握られている。
連「……みんな、さっきはごめん。少し本気を出しすぎた。領域の件、本当に悪かった」
連が頭を下げると、真希が鼻で笑った。
真希「謝るんじゃねぇよ。アンタが領域を出そうとした瞬間、空気が変わった。……あれを感じられただけでも、収穫だ」
伏黒「……正直、死ぬかと思いました。でも、先輩のあの『銀色の光(反転術式)』、あれはどういう原理なんですか?」
伏黒が身を乗り出して尋ねる。教育熱心な連は、自販機で買った冷たいお茶を伏黒に手渡し、丁寧に説明を始めた。
連「あれは反転術式の応用だよ。本来は『負(呪力)』と『負』を掛け合わせて『正(癒やし)』を作る。でも俺の場合、その正のエネルギーを自分の細胞に直接流し込んで、強制的に活性化させてるんだ。……まあ、普通の人間がやると細胞が焼き切れるから、お前たちは真似しちゃダメだぞ」
野薔薇「はぁ……。結局、アンタが化け物ってことじゃない。……でも、さっきの龍(龍座)、格好良かったわ。あれに乗って原宿行けたら、渋滞知らずよね」
連「野薔薇……。龍座はタクシーじゃないんだぞ」
笑い声が夕暮れの高専に響く。ふと横を見ると、硝子が煙草を咥え(火はつけない約束だ)、穏やかな目で生徒たちを眺めていた。
硝子「……五条が言ってたわよ。連、アンタが来てから、この学校の『死亡率』が劇的に下がってるって。……アンタの熱は、人を焼くためじゃなく、温めるためにあるのかもね」
連は硝子の言葉に驚き、それから照れ臭そうに鼻を擦った。
連「……そうだといいんですけどね。……あ、そうだ。みんな! 今日は修行明けの俺の奢りだ。この前行ったステーキ屋、また行かないか? 今度は1年生も全員で!」
虎杖「マジっすか!? 連先輩、一生ついていきます!!」
パンダ「おー、連大明神の降臨だ! 祝杯だ、祝杯!」
棘「しゃけ!!」
真希「……ふん。奢りなら断る理由もねぇな。……おい連、今日は『貸し』の分で、一番高いコースにするからな」
連「……財布が死ぬ。まあ、いいけどさ」
賑やかに歩き出す少年少女たち。
連は、彼らの後ろ姿を見守りながら、影の中でルプスを走らせた。予約のためではない。彼らの幸せな時間が、何者にも邪魔されないよう、高専周辺の結界を眷属たちに二重に守護させるためだ。
転生して5年。
孤独な暗闇の中で星を鍛え続けた男は、今、自分を囲む数多の「光」の中で、何よりも温かな熱を感じていた。
連「(ナリア……見てるか? 俺、この世界で生きてるよ。……この場所を、俺は絶対に守り抜く)」
夕闇に溶けていく彼らの笑い声。
連の足元には、かつての冷たい影ではなく、仲間たちと同じ、温かな夕日の影が伸びていた。
次にやって欲しい作品は?
-
暗殺教室
-
ワンピース
-
僕のヒーローアカデミア
-
ハイスクールD×D
-
その他(コメントで書いて下さい)