野薔薇「……死ねぇぇぇ!!」
試着室の中から響き渡った野薔薇の絶叫と、鈍い打撃音。
連が頬を押さえながら、カーテンを突き破らんばかりの勢いで外へとはじき出された、その時だった。
真希「……おい。おまえら、こんなところで何やってんだ?」
地獄の底から響くような、低く、冷徹な声。
連が顔を上げると、そこには大量の買い物袋を両手に下げた禪院真希が、般若のような形相で立っていた。
野薔薇「ま、真希さん!?」
連「真希……! 違うんだ、これは事故で……!」
連が必死に弁明しようとするが、試着室から顔を出した野薔薇の姿が追い打ちをかける。
野薔薇は服が乱れたまま、顔をリンゴのように真っ赤にしていた。
真希「…………」
真希の眼鏡の奥の瞳が、スッと細くなる。彼女が手に持っていた買い物袋を静かに床に置く音が、連には処刑の合図に聞こえた。
真希「連。おまえ、こんなところで何やってんだ?」
連「いや、だから違うって! 狭いとこでバランス崩して、ちょっとぶつかっただけで――」
真希「ぶつかったわけか。……ほう、面白い言い訳だな」
真希の手が、いつの間にか背負っていた呪具の袋に伸びる。
真希「野薔薇。そいつ、何かしたのか?」
野薔薇「……真希さん……! うう、連のやつ、本当にひどくて……!」
連(こいつ、便乗して被害を盛ってやがる……!)
連は冷や汗が止まらない。五条悟に「最強」の一角と認められた連だが、今この瞬間の真希から放たれる圧(プレッシャー)は、特級呪霊のそれよりも遥かに恐ろしかった。
真希「連……表へ出ろ。呪術師としてじゃねえ、一人の『教育者』として、叩き直してやる」
連「待て、真希! ここデパートだぞ! 公開処刑は勘弁――」
連の叫びも虚しく、彼は真希に首根っこを掴まれ、ズルズルと非常階段の方へと引きずられていった。
その後、デパートの屋上から凄まじい破壊音と連の悲鳴が聞こえてきたのは、言うまでもない。
一方、一人残された野薔薇は、鏡に映る自分の顔の赤さを確認して、「……まあ、これであのバッグも買わせられるわね」と、ちゃっかり次の「慰謝料」を計算して不敵に微笑むのだった。
数時間後、デパート近くのオープンカフェ。
連は頬に大きな絆創膏を貼り、氷袋を頭に乗せた状態で、ぐったりと椅子に沈み込んでいた。目の前には、勝ち誇った顔で山盛りのパンケーキを頬張る野薔薇と、腕組みをして呆れたように彼を見下ろす真希がいる。
連「……やりすぎだろ、真希」
真希「フン、あれで死なないんだから、やっぱりお前は化け物だよ」
真希は鼻を鳴らし、連が支払ったアイスコーヒーを啜る。
真希「で? 結局、野薔薇。コイツに何されたんだ?」
野薔薇は一瞬、パンケーキを運ぶ手を止めた。試着室での「感触」が脳裏をよぎり、また顔が火照りだす。
野薔薇「……別に、なんでもないですよ。ただ、ちょっと連先輩がドジ踏んで、私の『尊厳』に触れただけ」
真希「尊厳ねぇ……。ま、連、お前はもうちょいデリカシーってのを学べ。五条みたいなチャラい最強になられたら、こっちの身が持たん」
真希の言葉に、連は力なく頷くしかなかった。
するとそこへ、連のスマホが震えた。画面を見ると、嫌な予感しかしない名前が表示されている。
連「……あ、五条さんだ」
野薔薇「げっ、あの目隠しバカ。また面倒事じゃないでしょうね」
スピーカーに切り替えて電話に出ると、案の定、緊張感のない明るい声が響いた。
五条『よぉ連! ショッピングデートはどうだい? 青春してるねぇ!』
連「……見てたのか? もしかして」
五条『まさか! 六眼はプライベートまで覗かないよ。ただ、君の呪力の揺らぎがさっき一瞬、デパートの屋上で爆発したのが見えたからね。真希にでもボコられた?』
「……当たりだよ」と連が溜息をつくと、五条の声が少しだけトーンを変えた。
五条『まあ、元気そうで何より。実はさ、任務帰りなんだけど……伊地知さんが美味しいお土産買ってきてくれたんだ。高専の食堂に集合ね。悠仁たちも呼んであるから』
「お土産!」と野薔薇の目が輝く。
「……チッ、飯なら行くか」と真希も腰を上げた。
連は痛む体を引きずりながら立ち上がる。
「最強」と認められ、期待され、そして理不尽に振り回される毎日。
それでも、隣で「次はあのショップね!」と元気に笑う野薔薇や、文句を言いながらも荷物の一部を持ってくれる真希の姿を見て、連は小さく笑った。
連「……まあ、こういう日常も悪くないか」
夕暮れ時の街。三人の影が長く伸びる中、連の受難と騒がしい高専生活は、これからも続いていくのだった。
デパートを出た三人は、伊地知の運転する車に揺られ、山奥にある東京都立呪術高等専門学校へと向かっていた。
車内には、遊び疲れて眠りについた野薔薇の小さな寝息だけが響いている。連は窓の外、赤紫に染まっていく空を眺めながら、ズキズキと痛む頬の傷を指先でなぞった。
真希「……連。さっきは、その。悪かったな、少しやりすぎた」
隣に座る真希が、前を向いたまま小さく呟いた。彼女も少し冷静になったのか、先ほどまでの刺々しさは消えている。
連「いや、いいよ。俺も注意が足りなかったし……野薔薇には悪いことしたと思ってる」
真希「……お前、ああいうハプニング、意外と多いよな。五条が認める実力はあっても、中身は普通の高校生ってことか」
真希は口角をわずかに上げると、膝の上に置いた連の買い物袋(野薔薇に買わされた大量の荷物)を見つめた。
真希「けど、野薔薇もああ見えてお前のこと、頼りにしてるんだぜ。少年院の時だって、お前がいたからあいつは折れずに済んだんだ」
連は意外そうな顔をして真希を見た。
連「そうなのか?」
真希「ああ。アイツはプライド高いから絶対口には出さないけどな」
車が高専の長い石段の下に到着すると、野薔薇が「……ふわぁ、着いた?」と目をこすりながら起き上がった。
真希「ほら、起きろ野薔薇。連、お前はこいつの荷物、寮まで運んでやれよ」
連「えっ、俺が全部?」
野薔薇「当然でしょ! 私の『精神的苦痛』への慰謝料、まだ完済してないんだから!」
野薔薇はいつもの調子に戻り、連の背中に次々と紙袋を押し付けていく。
三人が校門をくぐると、奥から「おかえりー!」という能天気な声と、ドタドタという足音が聞こえてきた。
虎杖「あ! 連先輩、釘崎! 真希さんも! おかえり!」
伏黒「遅かったんですね。五条先生が食堂で待ちくたびれて、お土産の饅頭を勝手に食べようとして大変でしたよ」
虎杖悠仁が満面の笑みで駆け寄り、その後ろから伏黒恵が呆れたような顔をして続く。
騒がしくも温かい、見慣れた景色。
連「よお、悠仁、伏黒。……先生は?」
虎杖「あ、先生なら『待ちきれないから僕が毒見してあげるよ!』って言って、伊地知さんに怒られてたよ」
その光景を想像して、連は思わず吹き出した。
最強と言われる男がいて、それを支える仲間がいる。
デパートでの騒動や真希からの制裁でボロボロにはなったが、この場所に戻ってくると、不思議と「次はもっと強くならなきゃな」という前向きな気持ちが湧いてくる。
野薔薇「さあ! 早く行きましょう! 饅頭が全部あの目隠しに食われる前に!」
野薔薇が連の腕をぐいと引っ張り、食堂へと走り出す。
連は重い荷物を抱えながら、仲間の輪の中へと吸い込まれていった。
彼が「もう一人の最強」として、この日常を守るために戦う覚悟を決めるのは、もう少し先の話である。
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