連「――というわけで、俺は今からフランスに行ってくる」
数日後。高専のラウンジで荷物をまとめる連の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
野薔薇「はぁぁ!? 何よそれ、聞いてないわよ! 私の新作コレクションの付き添いはどうなるのよ!」
野薔薇がテーブルを叩いて立ち上がる。
真希「海外任務か……。五条の推薦なら、ただの任務じゃねえな。連、お前、何を掴んでくるつもりだ?」
真希は鋭い視線で連を見据える。
連「……五条さんに言われたんだ。『星焔の創世宮』はまだ完成してないって。俺の領域は、まだ宇宙の『静止画』に過ぎない。宇宙が膨張し続けるように、無限に広がる力を手にしなきゃ、あの縫い目の男(偽夏油)には勝てない」
連は、真希と野薔薇の目を真っ直ぐに見返した。
連「二人には心配かけた。……だから、次は俺が二人を守る番だ。最強の名に恥じない力を、手に入れてくる」
真希「……フン、勝手にしろ。その代わり、帰ってきたら倍返しだぞ。稽古も、メシもな」
真希は照れ隠しに顔を背ける。
野薔薇「当たり前よ! パリ限定のコスメ、100個くらい買ってこなかったら呪ってやるんだから!」
野薔薇はいつもの調子で怒鳴ったが、その瞳には微かに寂しさが混じっていた。
その夜。出発を明日に控えた連は、月明かりの下で一人、反転術式による肉体の調整を行っていた。
すると、背後から音もなく人影が現れる。
伏黒「……連先輩、起きていたんですか」
伏黒恵だった。その後ろには、虎杖悠仁もいる。
連「悠仁、伏黒。どうしたんだ、こんな時間に」
虎杖「連先輩。……俺、あの時、先輩が戦ってる間何もできなかった」
虎杖が拳を握りしめる。
虎杖「次は、俺も隣で戦わせてください。先輩一人に『最強』を背負わせたくない」
伏黒「……俺もだ。あんたの領域を見た時、俺は自分の未熟さを知った。追いつくからな、連先輩」
伏黒の静かな決意。
連は、自分の後ろを歩く後輩たちの成長を感じ、胸が熱くなるのを感じた。
連「ああ。……帰ってきたら、全員で一発かましてやろうぜ」
翌朝。成田空港へ向かう車の中で、五条が運転席(伊地知)の隣でふんぞり返っていた。
五条「いいかい連。フランスには、僕の昔の知り合いで『ミゲル』ってのがいる。彼らの部族に伝わる特殊な呪具や、呪力の練り方を学んでくるんだ。……今の君に足りないのは、洗練された『エゴ』だよ」
連「……自分を愛するエゴ、ですか」
五条「そう。君の『創世宮』は、今のままだと慈悲深すぎるんだ。敵も味方も関係なく飲み込む、絶対的な『自分勝手』さが必要なんだよ」
五条はサングラスを少しずらし、連にニヤリと笑いかけた。
五条「期待してるよ、もう一人の最強。君が帰ってくる頃には、僕がいなくても大丈夫な世界になってるかもしれないしね」
その不吉な予言めいた言葉を胸に、連は機上の人となった。
雲を抜け、成田の空に上がる飛行機。
その機窓から見える星々は、まるで連の術式を祝福するように、昼間だというのに一瞬だけ強く輝いた気がした。
一方その頃、日本の暗い深淵では。
偽夏油「……星の落とし子(連)が日本を離れたか。好都合だ。これで『渋谷』の舞台整う」
偽夏油が、額の傷をなぞりながら冷たく微笑んでいた。
物語の舞台は、一時的に世界へと広がり、そして全ての因縁が交差する「渋谷事変」へと収束していく。
五条悟の紹介でフランスへと飛んだ連を待っていたのは、かつて五条と対峙した呪術師・ミゲルだった。
ミゲル「サトルから聞いてるヨ。君の術式、スケールが大きすぎて器が追いついてないネ」
ミゲルが連に差し出したのは、かつて五条を足止めした呪具『黒縄』の残滓だった。
ミゲル「この縄には空間を乱し、術式を狂わせる特性がある。君の『星焔の創世宮』は完成された宇宙だが、完成されているからこそ限界がある。……宇宙は常に膨張(インフレーション)しなきゃいけない」
ミゲルの指導のもと、連は黒縄の「空間干渉」の理論を自身の術式に組み込む訓練を開始した。
自分の領域そのものを「固定された空間」ではなく、「絶えず外側へ押し広げる力」へと変質させる。それは肉体と精神に凄まじい負荷をかけるが、反転術式による自己再生がそれを可能にさせた。
数ヶ月の修業の果て。連の術式は進化した。
連「……これなら、あの縫い目の男の『帳』ごと握りつぶせる」
連の周囲に浮かぶ星々は、以前よりも不規則に、しかし爆発的な密度で明滅していた。
連「ただいま。……って、誰もいないのか?」
連が女子寮近くの共有スペースの扉を開けると、そこには送っておいたパリ土産の山を前にした、真希と野薔薇の姿があった。
野薔薇「あ、連先輩 やっと帰ってきたわね!」
野薔薇は連が送ったパリ限定の、背中が大きく開いたシルクのキャミソールワンピースを試着している最中だった。薄手の生地が彼女の柔らかな曲線を際立たせている。隣にいる真希も、トレーニング用のタンクトップ姿で、連が贈った新しい呪具の感触を確かめていた。
真希「おい、いきなり入ってくんな。……まあ、土産のセンスだけは合格だ」
連「でしょ? 苦労して選んだ甲斐があったよ」
連が二人の方へ歩み寄ろうとした、その時。
フランスでの「空間干渉」の修行による副作用が襲った。脳内の三半規管が、一瞬だけ現実の座標を失う。
連「……あ、れ? 床が……」
野薔薇「ちょっと連先輩!? 顔色が変よ、大丈夫――」
心配して野薔薇が距離を詰め、真希も咄嗟に連の肩を支えようと手を伸ばす。
連はぐらつきながらもなんとか体勢を立て直したが、その動きで野薔薇と真希に少しぶつかってしまった。
真希「うわっ…!?」
野薔薇「きゃっ!」
一瞬の静寂の後、三人の間に気まずい空気が流れる。
連「ご、ごめん! まだ修行の副作用が抜けきれてなくて…」
連は慌てて謝罪した。
野薔薇は少し顔を赤くしてプイッと横を向き、真希は「ったく、早く慣れろよな」とため息をついた。
その後、共有スペースの床にどっかりと座り込んでいる連を発見した虎杖悠仁は、「……連先輩、フランスで何学んできたんすか?」と戦慄しながら呟いた。
最強へと一歩近づいたはずの連だったが、高専のヒロイン二人を同時に驚かせてしまう気まずさだけは、特級呪霊の比ではないことを再確認する羽目になった。
パリからの帰国後、連は早速、真希と野薔薇を誘い出した。先日のお詫びと、無事の帰国祝いを兼ねたショッピングデートだ。
真希「おい、このシャツはどうだ? お前に似合う色だろ」
真希が連に濃紺のシャツを勧める。隣では野薔薇が「私のセンスの方がいいに決まってるでしょ!」とピンクのジャケットを突きつけてくる。
連「悪くないけど、さすがに二人同時は疲れるな……」
賑やかなショッピングモールを歩き回る三人。昼食時、人気店の席が偶然にも狭いカウンター席しか空いていなかった。
野薔薇「仕方ないわね、詰めるわよ!」
野薔薇が連と真希の間に強引に座り込む。連は両脇を二人の体温に挟まれ、食事どころではない。
連「……狭いな」
野薔薇「文句言わないの!」
その時、店員が運んできた熱々のスープが、野薔薇の目の前で少し傾いた。
野薔薇「わっ!」
野薔薇が咄嗟に身を引いた反動で、連の方へと強く寄りかかる。その衝撃で連の顔が真希の方を向き、お互いの顔が触れ合う寸前になる。
野薔薇「……っ」
真希「……連」
真希の冷たい視線が連を射抜く。野薔薇は顔を真っ赤にしてフリーズしている。
連は「またか!」と頭を抱えたくなったが、その場の呪術戦以上の緊張感に、冷や汗を流すしかなかった。
連「……す、すみませんでした……」
真希「今のは不可抗力だろうが。……まあ、お前が会計するなら許してやるよ」
真希の容赦ない要求に、連は財布の軽さを感じながら、これが「最強」の代償かとため息をついた。
これが、渋谷事変直前の、束の間の平和な日常だった。
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