五条が認めたもう一人の最強   作:ぐちロイド

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第25話 野薔薇の救済

渋谷の地下ホームを文字通り「焦土」に変えた連の元に、血の匂いと共に通信が舞い込んだ。

 

 

新田『……連! 釘崎が……釘崎がやられた! 真人の術式だ。今、虎杖が……!』

 

 

新田新の悲鳴に近い声が、連の脳を震わせる。

 

 

連「野薔薇が……?」

 

 

その瞬間、連の周囲を渦巻いていた破壊の焔が、ピタリと止まった。絶望が、冷徹なまでの殺意と、それ以上に深い「拒絶」へと変わる。

 

 

連「……死なせない。あいつだけは、絶対に」

 

 

連は地を蹴った。

その速度は、音速を超えていた。パリでの修行で得た「空間膨張」の極意を、移動に転用する。自身の前方の空間を圧縮し、後方を膨張させることで、一瞬にして数キロの距離を跳躍した。

辿り着いた先。そこには、崩れ落ちた野薔薇と、絶望に顔を歪める虎杖悠仁。そして、不気味な笑みを浮かべる真人の姿があった。

 

 

真人「あはは! 見てよ、あの顔。魂の形が崩れる音、聞こえるか――」

 

 

真人が言葉を言い切る前に、連の拳が真人の顔面を粉砕した。

 

 

連「……黙れ、出来損ない」

 

 

連の瞳は、もはや青白い炎ではなく、透き通った絶対零度の銀色へと変色していた。

吹き飛ばされた真人が体制を整える間も与えず、連は野薔薇の傍らに膝をつく。

野薔薇の顔の左側は、真人の「無為転変」によって魂の形状を書き換えられ、今まさに肉体が内側から爆ぜようとしていた。

 

 

連「(魂の書き換えは、肉体の治癒では防げない。なら――)」

 

 

連は野薔薇の額に掌を当て、自身の術式を「反転」の極致へと叩き込んだ。

 

 

 

連「反転術式――『月魄の静止宮(げっぱくのせいしきゅう)』」

 

 

瞬間、野薔薇の周囲の空気が、ダイヤモンドダストのように凍りついた。

それは単なる氷ではない。物質の運動、呪力の流れ、そして「魂の変質」そのものを強制的に停止させる、絶対零度の静止空間だ。

 

 

連「……が、あ……っ!」

 

 

連の鼻から、大量の血が噴き出す。

真人の術式という「因果」を、力技で捻じ曲げ、静止させる。その負荷は、連の脳に焼けるような激痛をもたらした。

 

 

連「(止まれ……止まれ……! 野薔薇の魂、一分一秒、その形を保て!)」

 

 

連の脳裏に、ショッピングモールで笑っていた野薔薇の顔がよぎる。

「私の新作バッグの代金、誰が払うのよ」と言った、あの傲慢で愛おしい声。

 

 

連「……払わせろよ。お前の、わがまま……全部、聞いてやるから!」

 

 

連の呪力が、銀色の輝きとなって野薔薇の魂を包み込む。

内側から爆ぜようとしていた細胞が、連の「静止」の力によってカチリ、と固定された。魂の崩壊は止まり、致命傷の手前で「凍結」されたのだ。

真人「……へぇ。魂の変質を、外側からの力で強引に止めるのかい。君、本当に人間なの?」

 

 

顔を再生させた真人が、不気味な好奇心を隠さずに歩み寄る。

 

 

連「……悠仁。野薔薇を、新田さんに預けろ」

 

 

連は立ち上がることなく、低く冷たい声で命じた。

 

 

虎杖「連先輩……でも、あんたの身体も……!」

 

 

虎杖が見た連の背中からは、術式の過負荷による「星の炎」が、自身の皮膚を焼きながら漏れ出していた。

 

 

連「いいから、行け。……こいつは、俺が殺す」

 

 

連が立ち上がった瞬間、周囲の空間がミシミシと悲鳴を上げた。

右手に「星焔(破壊の熱量)」、左手に「月魄(静止の冷気)」。

野薔薇を救うために引き出した「反転」の力が、連の中で「正転」と激しく衝突し、彼の存在を神格に近い次元へと押し上げていた。

 

 

連「五条さんは封印された。野薔薇は、傷ついた。……なら、俺がこの渋谷の全てを、終わらせてやる」

 

 

連の瞳に宿る銀河が、真人を、そして渋谷の闇を、静かに飲み込もうとしていた。

 

 

 

真人「あはは! 凄いね君! 魂を凍らせて止めるなんて、まるで標本を作るみたいだ。でもさ、それって彼女を『生きたまま閉じ込めた』だけじゃない?」

 

 

真人が無邪気な残酷さで、変形させた腕を鎌のように振り回す。

 

 

真人「そんなに無理して、いつまで保つのかなぁ。君の脳、もう焼き切れる寸前だよ?」

 

 

連は答えなかった。ただ、静かに真人の正面へ歩を進める。

一歩。その足が地を踏むたび、周囲のアスファルトが熱で溶け、次の瞬間には絶対零度の氷となって砕け散る。

 

 

連「……五条さんは言った。俺に足りないのは『エゴ』だってな」

 

 

連の右手が青白い恒星の如き熱量を帯び、左手が深淵の如き極寒の闇を纏う。

 

 

連「今の俺なら、お前の魂ごと『事象』を消せる」

 

 

真人「やってみなよ! 遍照(へんじょう)――」  

 

 

真人が自身の魂の極致を晒そうとした、その刹那。

連の姿が消えた。

 

 

真人「――っ!?」

 

 

空間を膨張させ、一瞬で距離を詰めた連の左手が、真人の顔面に触れる。

 

 

連「反転術式:月魄(げっぱく)――『寂滅の凍結』」

 

 

真人の思考さえも凍りつく極低温。魂の変形すら許さない「静止」の力が、真人の全身を侵食する。

 

 

真人「ガ……ギ……魂が、動……か……」

 

 

連「動かなくていい。そのまま死ね。……正転・『星焔:一等星』」

 

 

凍結し、逃げ場を失った真人の胸部へ、連の右拳が吸い込まれる。

零距離で放たれた恒星級の爆発的エネルギー。凍りついた物質は、逃げ場のない熱量を内部に封じ込め、限界を超えて「相転移」を起こす。

 

 

ドォォォォォォォン!!

 

 

渋谷のビル群を揺るがす衝撃波。

真人の肉体は、分子レベルで粉砕され、同時に蒸発した。魂のストックなど関係ない。その「存在」という情報を、熱と冷気の矛盾で上書きし、消滅させたのだ。

真人「ア……ガ……ボクが……ボクの魂が、消え……」

 

 

煙の中から、わずかに残った真人の頭部が再生しようともがく。だが、そこに慈悲はなかった。連は真人の髪を掴み、地面に叩きつける。

連「領域展開、なんて勿体ないことはしない。……ただ、無に帰れ」

 

 

連が両掌を合わせる。正転と反転の極大衝突。

 

 

連「虚式:『星系崩壊・寂滅の特異点』」

 

 

真人の目の前に、光さえも吸い込む「黒い穴」が現れた。

 

 

真人「あ……ああ、待っ――」

 

 

真人の断末魔は、音さえも飲み込む重力崩壊の中に消えた。

呪霊の根源たる魂、その因果。呪術界が長年恐れてきた「真の恐怖」の一つが、連の掌の中で一筋の塵すら残さず、宇宙の塵へと還元された。

 

 

連「……一つ、終わりだ」

 

 

連は吐血し、膝をつく。

真人を殺した。野薔薇を救った。だが、まだ終わらない。

連の直感は、さらなる悲劇――真希のいる場所で、より残酷な「炎」が上がっていることを告げていた。

 

 

連「……待ってろ、真希。今、行く……!」

 

 

連は焼け付く肺を強引に反転術式で癒し、血の混じった雪が降る渋谷の街を、再び駆けた。

 

 

 

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