連は(……でも…柔らかかったな…)という雑念を必死に振り払い、赤熱長刀で呪霊を滅多切りにする真希の後ろ姿を追いかけた。
連「……あー、真希。本当に悪かった。わざとじゃなかったんだ。後で購買のアイス、何でも奢るからさ」
連が恐る恐る声をかけると、真希は残った呪霊の腕を豪快に斬り飛ばしながら、肩越しに鋭い視線を投げた。
真希「アイス一本で済むと思ってんのか? ……大体、アンタ、今一瞬変なこと思い出してただろ。顔に出てんだよ。もう一発引っぱたかれたいか?」
連「ひえっ、ごめんなさい……!」
特級術師としての威厳が完全に消失した連が、真希の数歩後ろを縮こまって歩いていると、広々としたエントランスホールに出た。そこではパンダと狗巻が、複数の呪霊と対峙している真っ最中だった。
パンダ「おーい、二人とも遅かったな! こっちはもう一掃――って、なんだ連。その頬の綺麗な手形は」
狗巻「おかか?」
パンダがニヤニヤしながら連の顔を覗き込み、狗巻は心配そうに(あるいは察したように)首を傾げる。
真希「パンダ、余計なこと聞くな。連、突っ立ってないで仕事しろ! さっさとソイツら片付けるぞ」
真希は「赤熱長刀」の切っ先を、残った呪霊たちに向ける。その刀身からは、彼女の苛立ちを反映したかのように激しい火花が散っていた。
連「……はい。了解です」
連は溜息を吐きながら、掌に新たな熱量を集める。
連「(……謝罪のアイス、ハーゲンダッツの詰め合わせにするか。……いや、まずはこの場を完璧に制圧して、機嫌を直してもらわないと)」
連が指を鳴らすと、パンダと狗巻の周囲に炎の狼たちが現れ、援護陣形を組む。
連「ルプス、パンダの左右を固めろ。アクィラ、棘の喉を狙う奴を焼き落とせ! ……真希は、好きなだけ暴れてくれ!」
パンダ「ハハハ! 随分と気合が入ってるな、連。……ま、理由は聞かないでおいてやるよ!」
狗巻「しゃけ!」
気まずさと殺気、そして二年生チームの抜群の連携が混ざり合い、都心ビルの呪霊たちは一気に壊滅へと追い込まれていくのだった。
ビルの最上階、展望ロビー。
そこにいたのは、無数の腕と顔が蠢く、肉塊のような巨大な呪霊だった。
パンダ「おいおい、五条の言ってた『万が一』がこれかよ!」
狗巻「おかか! 大丈夫!!」
狗巻の拡声器を使った呪言が肉塊を縛るが、その巨体ゆえに反動も大きい。
真希が俺の貸した「赤熱長刀」で斬りかかるが、呪霊の超速再生がそれを上回る。
真希「連! まだ余力あんだろ、出し惜しみすんな!!」
連「……ああ、分かってる。真希、その刀を空へ放れ!」
真希が迷わず長刀を放り投げる。俺は空中でそれを掴み、術式を最大出力で上書きした。
連「『星焔の創世宮』――極一対・恒星大剣(ステラ・ギガブレード)!」
長刀が、眩い青白さを放つ巨大な光の剣へと姿を変える。
俺はその剣を振り下ろし、呪霊の「核」ごとビルの一角を焼き切った。
連「――焼き切れ」
轟音と共に、呪霊は断末魔を上げる間もなく原子レベルで消失。展望ロビーの窓ガラスがすべて割れ、夜空に星の炎が舞った。
任務完了。伊地知さんの車に揺られ、高専に戻った頃には夜も更けていた。パンダと棘は医務室へ向かい、校庭の隅には俺と真希の二人が残る。真希の横顔は、街灯に照らされて相変わらず険しい。……というか、あの件(ラッキースケベ)以来、一度も目が合っていない。
連「……なあ、真希。本当に、本当に悪かった。わざとじゃないんだ、信じてくれ」
真希「…………」
無言。これが一番怖い。
俺は意を決して、特級術師のプライドを捨てて頭を下げた。
連「何でもする。 真希の気が済むまで、どんな願いでも聞くから、頼む。許してくれ!」
その言葉に、真希がピクリと反応した。
彼女はゆっくりとこちらを向き、口角を吊り上げる。その笑顔は、呪霊を斬る時よりも邪悪に見えた。
真希「……『何でもする』、つったな?」
連「(うわ、嫌な予感しかしない)……ああ、言った」
真希「なら決まりだ。アンタ、明日から私の専属鍛冶師兼、組手の相手になれ」
連「え?」
真希「私が望む時に、望む性能の武器を、望むだけ錬成しろ。それと、アンタのその眷属(ペット)どもを全部出して、私が納得するまで相手をしろ。……文句ねぇよな?」
それは、特級術師である俺を「自分を強くするための道具」として使い倒すという、真希らしい合理的な、そして最も過酷な要求だった。
連「……分かった。それが条件なら、喜んで引き受けるよ」
真希「ハッ、いい返事だ。……あ、それと」
真希が少しだけ顔を赤らめ、そっぽを向く。
真希「……さっきのアイス、ハーゲンダッツの詰め合わせにするのも忘れんなよ。変態特級」
そう言い捨てて、彼女は寮の方へと歩き去っていった。
連「(……何とか許された、のかな?)」
自分の右手の感覚を思い出し、再び顔が熱くなるのを抑えながら、俺は静まり返った高専の夜空を仰いだ。
波乱の任務は、こうして(一応の)終結を迎えたのだった。
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