真希の「専属鍛冶師」として、毎日ボロボロになるまで組手に付き合わされるようになって数週間。高専の正門近くで、俺は五条に呼び出されていた。
五条「連くん、今日から1年生が一人合流するよ。ほら、君も気になってたでしょ? 十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)の使い手」
五条の隣には、ツンツンとした黒髪に、どこか冷めた、しかし意志の強い瞳をした少年が立っていた。
連「(……伏黒恵。ついに来たか)」
伏黒は、俺が着ている高専の制服と、そこから漏れ出る尋常ではない呪力に一瞬だけ目を細めた。
五条「紹介するよ。2年生の連くん。実力は特級クラス、僕が一番信頼してる生徒の一人さ。連くん、こっちは伏黒恵くん。僕が昔から面倒見てる、期待の新人だよ」
伏黒「……1年の伏黒恵です。よろしくお願いします」
短く、礼儀正しいが壁のある挨拶。俺は軽く手を挙げ、彼に歩み寄った。
連「連だ。よろしくな、伏黒。……五条から聞いてるよ。影を媒体にする術式なんだってな」
伏黒「……はい。ですが、まだ使いこなせているとは言えません」
連「謙遜しなくていい。……影に命を宿すのは、俺の『眷属(けんぞく)』と少し似ている気がしてな。親近感がわくよ」
俺は指を鳴らし、足元の影から「狼座(ルプス)」を、伏黒に見える程度の低出力で顕現させた。
伏黒「――っ!?」
伏黒の瞳が大きく見開かれる。
自分の「玉犬(ぎょくけん)」と同じ四足獣。だが、そこから放たれるのは呪霊のような冷たい気配ではなく、星の熱量を含んだ圧倒的な「力」の塊だ。
連「驚かせてすまない。……お前の『影』には、まだ先がある。もし行き詰まったら、いつでも2年の教室に来い。真希に絞り取られた後でよければ、いくらでも相手をしてやる」
伏黒「……真希さんを知っているんですか?」
連「ああ。毎日ボコボコにされてるよ。……お前も、すぐに分かる」
俺が苦笑いしながら伏黒の肩を叩くと、彼は少しだけ緊張を解いたように見えた。
五条「あはは! 連くん、さっそく先輩風吹かせてるね。でも恵、連くんの言うことは本当だよ。彼は僕とは違うアプローチで『最強』を目指してるから、君の参考になるはずだ」
伏黒「……はい。覚えておきます、連先輩」
連「(……伏黒。お前を、あの宿儺の計画に利用させはしない。そのために、俺は5年修行してきたんだ)」
立ち去る伏黒の後ろ姿を見送りながら、俺は掌に青白い火を灯した。
伏黒の私物もまだ片付いていない男子寮の一室。
そこには、狭い空間に大人数がひしめき合う、カオスな光景が広がっていた。
五条「はいはーい、恵の入学を祝して! 特製・高級寿司オケの登場だよー!」
パンダ「おい連、醤油皿が足りないぞ! 術式でパパっと作れ!」
そんな真面目な会話から数時間後。伏黒の部屋は、五条が持ち込んだ高級寿司と、2年生たちの騒ぎ声でカオスな宴会場と化していた。
連「パンダ、俺の術式を便利屋か何かだと思ってないか? ……ほらよ、『星の小皿』」
俺が指先から青白い炎を出し、数枚の耐熱強化されたガラスのような小皿を錬成する。
伏黒「…………あの。俺の部屋で勝手に盛り上がらないでもらえますか。あと連先輩、その皿、熱いのか冷たいのか分からなくて怖いです。……それに、なんで皿が八角形なんですか」
連「悪い、ちょっと気合が入った。……ほら、真希も醤油」
真希「おう。連、ついでにこいつ(狗巻)の喉に効く温かいもんも出してやれ。棘、これ飲め」
棘「つなまよ……(申し訳なさそうな顔)」
連「はいはい。――『星の雫(ステラ・ドロップ)』」
俺が空中に生成した小さな炎の粒が、コップの水に溶け込む。それは喉の炎症を瞬時に癒やす、反転術式を応用した特製ドリンクだ。
五条「いいねぇ、連くん! 君がいるとパーティーのQOL(生活の質)が爆上がりだ。……あ、そうだ連くん! 僕の分のアイスも錬成してよ! 冷たくて甘ーい、特製のやつ!」
五条が名案を思いついたような顔で、無邪気にねだってくる。
連「……先生、ボケるならもっとマシなやつにしてください。俺の術式で『アイス』を錬成しろって、それもう分子構造から作り直せってことですか?」
五条「えー、できるでしょ? 5年も修行したんだからさー」
連「無理ですよ。俺ができるのは『氷(武器)』か『熱(眷属)』の構築です。アイスを作ろうとしたら、糖分と乳脂肪分を含んだ『甘い氷の棍棒』か、『バニラの香りがする生きた雪だるま』が出てきますけど、それでいいんですか?」
伏黒「……どっちもいらないです」
真希「ハッ、バニラ臭い眷属とか、ただの嫌がらせだな」
連「でしょ? そもそも俺の術式は、戦場を支配するための『創造』なんです。そんなコンビニで150円で買えるものにリソース割かせないでください」
俺がやれやれと首を振ると、五条は「ちぇー、ケチだなあ」と唇を尖らせる。
連「……ったく。はい、代わりにこれで我慢してください」
俺が指を鳴らすと、小さな炎の狼(ルプス)がトコトコと五条の元へ歩み寄り、背中に乗せていたコンビニ袋を差し出した。中には、さっき俺がルプスを走らせて買わせてきた本物のハーゲンダッツが入っている。
五条「わーい! さすが連くん、気が利くね! ……え、これ、ルプスにお使いさせたの?」
連「星の守護獣の無駄遣いだってのは分かってます。……ほら伏黒、お前の分もある。食ってさっさと寝ろ」
伏黒「……ありがとうございます。……あの、連先輩」
伏黒が、アイスを受け取りながら少しだけ口角を上げた
。
伏黒「……『甘い氷の棍棒』、少しだけ見てみたかったです」
連「……お前、意外とそういうとこあるよな」
賑やかな笑い声が、伏黒の部屋に響く。
最強の術師たちに囲まれた、1年生(伏黒)の長い夜はこうして更けていった。
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