空を舞う海賊   作:槇塚 憂淋

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海賊と海兵

 商船の中に侵入した二人の後を追うために、海軍の1隻がイッカクとくいなの乗る船への攻撃をやめ、商船に寄せて、商船に海兵が群がる。

 

「どうもおかしいのう。奴さんら慌てすぎじゃろ。そっち頼むぞい」

「任、せて!」

 

 自在に斬撃を飛ばせるようになったくいなはイッカク以上に砲弾を潰していく。そして砲弾はやんだ。

 

「もう撃ってこないの?」

「無駄と分かったんじゃろ。白兵戦でも仕掛けてくる頃合いじゃのう」

「そう」

「くいなよ、わしは海から戦うことにするが、船上は一人で大丈夫か?」

「…わからない」

「わしらの見立てじゃ、大人の男にも引けを取らんほどには鍛え上げられておる」

「まだこの船に乗って一週間よ。ウェンディほどの身体能力は持ってないわ」

 

 くいなはウェンディの運動神経の良さを思い出していた。

 

「アレはまあ、別格じゃ。敵の数は減らしておこう」

 

 イッカクは海に飛び込んで近づいてくる海軍船に向かって攻撃を放つ。

 

「海流一閃!」

 

 海中から放たれた手刀はウォーターカッターのようなジェット水流で海軍船を真っ二つに切り裂いた。

 

「うそ…海軍船が切れた!?」

 

 船上でことの成り行きを見ていたくいなはイッカクの攻撃に感嘆する。しかし、感嘆に浸っている時間はない。くいなは剣を構えて、飛来してくる人間からの攻撃を受け止めた。

 

「うぐっ!?」

 

 勢いを殺せず、弾ききれなかった衝撃がくいなの小さな体を吹き飛ばす。

 

「…ほお、女子(おなご)でさえも海賊を名乗るか。世も末だな」

 

 身長2m以上で、サングラスをかけ、リーゼントをした足の長い海兵が、ウェンディたちの船に立つ。

 

「あなた何者!?」

「人に名を聞くときはまず自分が名乗っからだ。俺は海軍少将、シドウだ」

「…あなたが先に名乗っているじゃない」

「相手が女子だから特別に先に名乗っただけだ!」

「自分の発言ミスくらい認めなよ」

 

 くいなは距離をとって間合いを図る。

 

「私は名乗った。女子も海賊の一端であるならば名乗ってみよ」

「私はくいな、世界一の剣豪になる者よ」

「ほお、世界一の剣豪か。ただの奇妙な海賊団かと思えば、ということは船長は海賊王が夢か?」

「ええ」

「昨今の海賊はもうほとんどがワンピースを目指さなくなったというのに珍しいこともあるものだ。なら、全力で潰すほかない」

 

 くいなは斬撃を飛ばし、牽制するが、上に避けたシドウが空中から滑降してくる形で攻撃してくる。

 

「月歩(げっぽう)!」

「空を跳ねた!?」

 

 くいなはウェンディの突き技に耐えて得た糧で、体が勝手に反応し、突撃型の蹴りを危険なく対処する。

 

「ほお、やるではないか女子」

「このままじゃ船が持たない…」

「いつまで持つかな!!」

 

 船上での戦闘が自分たちの船に少しずつダメージを負わせていく。攻めあぐねるくいなはなんとか打開策を考えるが、実力、技量、体格、あらゆる点で目の前の男に劣っていた。まだ子供だからと大人の男には勝てないんだと、くいなはあきらめるような気持ちをウェンディなら倒せると言い聞かせていた。

 

「はあ、はあ、はあ」

「だいぶ疲れてきたようだな。驚いたぞ。その歳でこの俺を止められるとはな。だが、これで終わりだ。ライトニング・蹴り!」

「ただの蹴りじゃない!!って、わあ!?」

 

 くいなは敵の不意打ちに油断し、対処が遅れて刀の上から吹き飛ばされて、その勢いのまま船の壁に大穴をあける。

 

「この俺は雷脚のシドウとも呼ばれる。稲妻のごとき速さで蹴り技を繰り出すのだ」

「痛っ、もう、ただの蹴り、か…」

「耐えるか、次で止めだ!」

「さっきが、止めじゃ、なかったの?」

「そんな過去は知らない!!」

「自分の言葉くらい、覚えてなさい、よ…」

 

 くいなは和同一文字を構えようとするが、まったく手に力が入らない。

 

「スタイリッシュ・蹴り」

「もう雷脚関係ないし…ここまでか…」

 

 くいなは攻撃に備えようにも片膝立ちのまま、立ち上がれないくいなはただ攻撃が来るのを待つだけだった。

 

「千枚瓦正拳!」

 

 しかし、シドウの攻撃はくいなに届くことはなく、イッカクの拳がシドウの蹴りに直撃し、互いに吹き飛んだ。

 

「すまん、遅くなった。海に落ちた海兵の処理に思った以上に時間食われたわい」

「ありがとう…、助かった…」

「くいな!?大丈夫か!?」

「少し休む…」

 

 くいなは倒れこんだ。それを目にしたイッカクは打水を構えてシドウに投げる。

 

「おいおい、怖いな海賊」

「わしの打水を止めるか…、くいなには手加減をしていたのか?」

「海賊とはいえ、10にも満たないような女子に本気で行くわけにもいかんだろ」

「貴様何者じゃ?魚人を見ても驚かんとわ」

「まったく、昨今の海賊は…人に名を尋ねるなら自分からだろう?そう、俺は海軍少将のシドウだ」

「自分が先に名乗っておるではないか」

「…敵に情けをくれてやっただけだ!!」

「わしはイッカク、イッカククジラの魚人じゃ」

 

 名乗ると同時に打水を投げつける。シドウは蹴りで飛来する打水の側面を蹴り飛ばして弾く。

 

「昨今の海賊はすぐこれか、もっと心に余裕をもったらどうだ?」

「その言葉、忘れるでないぞ。今に思い知らせてくれるわ」

 

 

 

 数刻前。

 一人の海兵の後を追う、ウェンディとルカはくいなと海兵の戦闘に入るのを理解した。

 

「まずいな…」

 

 階段を飛び降りながらウェンディがつぶやく。

 

「助太刀に行こうか?」

「いや、私が行く。ルカは海兵さんと目的の場所に向かってくれ」

「了解」

 

 着地と同時に反転したウェンディは来た道を素早く上に登っていく。商船に侵入してきた海兵が多数、ウェンディたちを追いかけているのを知っているウェンディはすぐに海兵の軍勢と衝突する。

 

「そこを通してもらう」

「子どもか!もしや脱走したのか?!」

「…脱走、ね。とりあえず、邪魔」

 

 ウェンディはレイピアを引き抜いて、一気に海兵の間を突き抜けた。海兵たちを次々に吹き飛ばす。その間、空間把握でくいなが押されていくのを視ていることしかできない。船上に出たウェンディの前に十数人の海兵たちが立ち向かう。

 

「脱走者か!?」

「私は海賊だ!そこを通してもらう!」

「海賊だと!?シドウ少将にやられたんじゃないのか?」

 

 くいなと戦闘しているシドウの海兵たちが商船に切り込んできていた。つまり、ウェンディたちと進んでいた海兵の船はイッカクに真っ二つにされている。

 

「致し方ない、か…できればこっちの海軍船を破壊すべきだったな」

「観念したか、小娘!さあ、武器を捨てろ!」

「だから、邪魔するなって!言ってるでしょ!!!」

 

 ウェンディは次々に海兵たちを蹂躙する。吹き飛ばされている海兵は涙を浮かべて、今初めて邪魔と言われましたと吹き飛ばされながらも心の中でつぶやいていた。海兵全員を海に落としたウェンディは自分たちの船に向かって飛翔する。そこで、くいなが蹴りを打ち込まれそうになるも、シドウの蹴りをイッカクが防いだ。

 

「…杞憂だったか」

 

 空中で静止したウェンディは少し考える。

 

「…脱走者ね。ということはこの商船はそういう商船で、海兵も一枚岩じゃない。あの海兵さんがこっち側なら、あのシドウってのが商船側。なら商船壊しても、捕らえられた人たち回収すれば問題ないね」

 

 ウェンディはレイピアを構えて真下の商船に向かって、まっすぐにレイピアを突き下ろした。

 

 

 

「まだ下にいる。結構な人数だな」

 

 海兵とルカが商船を下に下にと進んでいく。

 

「この商船は…奴隷を運んでいる」

「奴隷か、やはりな…同じ人間という種族で、本当に嘆かわしい」

「そうだな、海賊に言われるとは…狼だけど」

「狼の何が悪い」

「いや、そういう意味で言ったのではなくてね」

 

 海兵は常人の身体能力で進む。この先に敵はいないことがわかっているルカは海兵の速度に合わせて進んでいる。

 

「君のところの船長はあの少女か?」

「ああ」

「海兵として数多くの海賊を見てきたが、君らは海賊とは呼べそうにないな」

「知らんし、どうでもいい、他の海賊なんて」

「そうか、訂正しよう。やっぱり君らは海賊だ」

「ふん」

 

 海兵とルカは船首から進み始めて1分ほどが経過した。

 

「海兵として何故このような暴挙に出た?」

「捕まってるんだ。姪が」

「…」

「姉の忘れ形見のあの子が売られるところを黙って見ているわけにもいかない。立場とかはもう捨てる。たとえ賞金首になったとしても絶対に助けるんだ。船を動かすために、支部の連中は騙して付れてきた」

 

 目の前に最後の扉がある。

 

「鍵がかかっているな」

「どけ、壊す」

 

 ルカが扉を蹴り飛ばすと船内に警報が鳴り響く。

 

「時間は少なそうだ」

「ああ」

 

 中に入ると牢屋が数多く存在し、多くの女性が捕まっていた。中には幼子や男の大人もいるが大多数は大人の女性である。

 

「カーンおじ様!」

「ノワール!無事だったか!今助けるぞ!」

 

 海兵は褐色肌の少女のいる牢屋を拳銃を放って鍵を壊す。その間にルカは他の牢屋に捕らえられていた人々を救出する。

 

「みんな落ち着いて俺の指示に従ってくれ!君たちを護衛しながら上に向かう!むやみやたらに走って離れるな。助けられるものも助けられなくなる」

 

 奴隷として捕らえられた者たちはカーンの言葉に従い、ノワールもまたカーンに抱きかかえられながらうなづく。

 

「だが、急げ、警報がなっている状態だと警備がきつくなるはずだ」

 

 全員が牢屋から脱出し、入ってきた扉をくぐると、目の前に3つの影があった。左に立つのはフレイルを持って体を薄手のアーマーを着込む巨体な男。右に立っているのは背中に長い剣を二本×印に背負う巨体な男。そして真ん中には葉巻をくわえながらルカたちに拳銃を向けている初老の男だった。

 

「誰だ?」

「うん?おおお、狼が話すとは珍しい。本当に珍しいぞ。幻聴ではないよな。この狼、売ればいくらになるだろうか」

「あいつは…奴隷商クロム」

「あー、海兵さん、あんたたちはこの船の護衛だろ?困るよ。商品を持っていかれちゃ。だから、死ね!」

 

 ルカはカーンを蹴り飛ばし、クロムからの銃弾から助ける。

 

「おいおい、新商品くん、邪魔しないでくれよ」

「ゲスが!今すぐに喉元噛み切ってやる!」

「怖い。怖い。躾のなっていない犬だな。ご主人様に向かってなんて態度だ。これは傑作、狼ではなく犬か、おい、ジェムス!チャルス!出番だ!」

 

 呼ばれた2名の巨漢な男がクロムの背後から現れる。

 

「狼が相手ですかい」

「うおおおお!!この俺が叩き潰してくれる!!」

「あれは新商品だ。チャルス、叩き潰したら減給だぞ。捕らえろ」

「うおおおお!!そいつは困った!!では、軽く叩き潰すとしよう!!」

「心配すんな、クロムの旦那。チャルスに潰される前にわいが捕まえてしんぜよう。ひっひっひっひっひ!」

 

 二人の巨漢な男たちがルカに飛びかかる。チャルスの巨大なフレイルがルカが避けたことで床に穴を開ける。

 

「馬鹿野郎!ここは船の最下部だ。床に穴開けんじゃねえ!沈んだらどうしてくれる!」

 

 クロムがチャルスを咎める。

 

「海兵、人質を連れて行け!上にはうちの船長がいるはずだ」

「お前は?!」

「心配するな。雑魚の料理に時間はいらん」




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