空を舞う海賊   作:槇塚 憂淋

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油断大敵

 ウェンディたちの船の上。

 イッカクが海軍少将シドウとの戦闘が激化していた。肉弾戦の戦いで、イッカクは素手を、シドウは脚を武器とする。

 

「やるな魚人!」

「そっちもじゃ人間!」

 

 シドウが飛び蹴りを放てば、イッカクは千枚瓦正拳で対処する。まったくの互角にイッカクはくいなをかばう対処をすることができない。シドウがくいなを狙うような狡い海兵ではなかったため互角の戦いをすることができていた。

 

「月歩!」

「空に逃げても無駄じゃ。打水!」

「それはもう見切っている!」

「なら、連続じゃ!!」

「効かん!!」

 

 空を飛ぶシドウにイッカクが打水を連打するが、シドウは右足を連続で動かして打水を真正面から弾いていく。

 

「こちらがいくぞ!雷脚(スパークシュート)!」

「千枚瓦正拳!」

 

 シドウの蹴りをなんとか弾きかえすが、イッカクは腕が痺れていた。

 

「なるほど、雷脚とはそういうことかいな」

「ふっ、私の蹴りは聞くだろう」

「まだまだ効かんわ」

 

 イッカクは腕を振るいシドウの蹴りを耐えていく。しかし、次第にシドウの攻撃を裁く腕の速度が落ちてくる。シドウの蹴りは一発一発がひたすらに重かった。弾く腕への負担は想像以上の浪費である。

 

「はあ、はあ、はあ」

「思い知らせてくれるんじゃなかったのか?」

「お前さんに余裕などくれてやるものか」

「御託を!これで止めだ!轟雷脚(サンダーショット)!」

「二千枚瓦正拳!!」

 

 イッカクはまだ痺れていなかった右腕から本気を出して、シドウの蹴りに打ち込んだ。直後、二人は吹き飛び、互いに船にぶつかる。

 

「……げほっ、うっ、まさか、まだ本気じゃなかったというのか」

「それはお互い様じゃろうて、いてて、わしの本気をお見舞いしてなお起き上がるとのう」

 

 シドウも今の一撃が効いたのか起き上がれはしてもまったく動けない。イッカクは膝に手を当て、よいしょ、と言いながら起き上がる。

 

「どうやら、今の一撃はわしに軍配じゃな」

「くくく、海賊、やるじゃねえか」

「当然じゃ、わしはこの船のナンバー3じゃぞ?」

「お前以上が二人もいるとは、な」

 

 シドウは前に倒れそうになるのをこらえて立つ。

 

「お前は海賊、こっちは海兵。俺は海の秩序を守るのが使命だ」

「秩序か」

「…思うところあれど、大義を犠牲にはできん!はああああ!!!」

 

 シドウは自分に気合を入れ、また一歩を踏み込んだ。

 

「これが俺の最高の一撃だ!!!」

「受けて立つぞ!海兵!」

 

 シドウの蹴りとイッカクの左腕が交差した。

 

 

 

 商船内最下部。

 ルカは総勢20名の奴隷候補の前に立ちはだかり、チャルスからの攻撃を防いでいた。

 

「はっ!これでぶっ潰れたか!?」

「効かないな」

「なら、この剣はどうだ?」

「武装色・硬化」

 

 毛を鉄壁に変化させて剣を防ぐ。

 

「何!?」

 

 剣が弾かれたジェムスが困惑する。

 

「何やってる!?早く捕まえろ!!」

「うおおおお!今すぐやるぜ!今やるぜ!」

「もう遅れとりません。すぐ終わらせてみせますクロムの旦那!」

 

 チャルスがフレイルを振るい、ジェムスが剣を振ったところで、ルカは瞬時に躱し、チャルスの腹に前蹴りを入れる。

 

「重二脚前蹴り(グラビティ・ドロップ)!」

 

 覇気をまとった一撃でチャルスは吹き飛び、壁3枚を貫いて沈黙した。

 

「な、チャルス!?」

「相棒ぉ!!」

「隙だらけだ。幻爪」

 

 前足の爪でジェムスを切ると、左上から右下に切り裂いた傷に加えて、後から右上から左下に傷が増える。その衝撃で吹き飛んだジェムスもまた気を失う。

 

「ジェムス!何やってるんだ!?起きろ、ジェムス!!」

「弱すぎて話にならん」

「つええ…」

 

 ルカは圧倒的な力で瞬時にねじ伏せた。そして、ゆっくりとクロムに向かって足を進める。

 

「あまり大それたことを言うなよ人間」

 

 ルカは覇王色の覇気をクロムに浴びせようとすると、船が轟音とともに大きく揺れた。

 

「なんだ!?」

「ひっ!?」

「船長か」

 

 ルカの後ろに控えていたカーンが驚きの声を上げ、クロムが恐怖に怯えると同時に、クロムの上の天井が崩れて少女とともに落ちてきた。

 

「ぐえ!」

「よし!船底までは貫いてないな。…うん?ルカに海兵のおっちゃんじゃないか、どうした?」

「…なんでもない」

「おう、やるじゃないか嬢ちゃん」

「捕まってた人たちはそれで全員?」

「ああ」

「なら急ごっか。イッカクが結構減らしたとわいえ、結構残ってるよ」

「了解」

 

 ウェンディが先行し、その後ろをカーンが走り、ルカが集団の最後を走る。

 

『こちら、海軍。今忙しいので用件を早急に』

「……奴らを」

 

 ウェンディたちがいなくなった船の最下部で掠れた声が響く。ウェンディが船の上空から最下部までノンストップで落ちてきた重みで、息も絶え絶えになっているクロムの声だった。

 

『もう少し大きな声でお願いします』

「奴隷ごと、殺せ。世間に、ごほっごほっ、このことが知れたら、はあぁ、げほっ、げほっ、……まずいのはお互い様、だろう?」

『………了解しました』

 

 ウェンディたちは船内を駆け上がる。ウェンディたちが人質を救出して船内から脱出しようと階段を上っていると、海兵が次々と現れる。

 

「カーン軍曹!?」

「邪魔だ!」

「おっちゃん軍曹だったんだ」

「ああ、その肩書きはたった今捨てたがな!」

 

 ウェンディとカーンが先行しているため海兵を次々となぎ倒して階段を駆け上がる。

 

「くそっ!!」

「寝てろ」

 

 カーンが気絶させ損ねた海兵が人質に手を伸ばして捕まえようとするが、ルカがそれを防ぐ。

 さほど時間がかからずに、人質を連れた集団がついに船を出た。

 

「ウェンディ!引き返せ!外は包囲されてる!」

 

 後ろにいたルカが叫ぶ。クロムの会話を聞き、船上に出ると包囲されているのを見聞色で把握し、叫ぶルカだが、早く姪を救いたい一心で目の前にある扉に船内から外に出られるとカーンは安堵した。そして愚かにも船上に飛び出してしまう。そこには船内からの扉に向けて30もの海兵が銃を構えているとも知らずに。

 

「引き返せ!カーン!」

「裏切り者と海賊だ!!撃てえ!!」

「空間停止(ゼロ・ルーム)!!」

 

 咄嗟にカーンにウェンディが叫ぶも、カーンは外に出てしまう。放たれた銃弾をウェンディが止めるも、止められる銃弾は真正面からのみであり、右側から来る銃弾をウェンディはレイピアでなぎ払うのが精一杯だった。左側からの攻撃からカーンを防ぐまで手が回らない。ルカは最後尾で間に合わない。

 

「ぐふっ」

 

 カーンは海兵に撃たれ、倒れた。

 

「おっちゃん!?」

「カーンおじ様!?」

 

 すぐ背後にいたノワールが船内から顔を出す。

 

「人質も抹殺対象だ。撃てえ!!」

 

 裏切り者のカーンはともかくとして、海兵は人質のノワールが現れようとも、撃ち抜かれることを厭わず、それを良しとし、銃弾を構える。ウェンディはノワールを飛翔させ、雨のように降り注ぐ銃弾の中、一人突き進んだ。

 

「くたばれ偽善者どもが!!!」

「ウェンディ!!!」

 

 憤怒の表情を浮かべたウェンディが海兵に突き進む。それを制止しようとしたルカは間に合わなかった。次々に斬られていく海兵は苦悶の表情を浮かべながら海に落ちていく。十秒で海兵を倒しきったウェンディはノワールをすぐに下ろし、カーンの応急処置を始める。

 ルカとの一戦後、血があふれるのを能力で止められなかったウェンディは応急処置だけは覚えていた。しかし、全身に十数発の銃弾を受けたカーンは口からも血を吐き出して倒れ伏していた。

 

「ノワー、ル…」

「ダメ!しゃべらないで!血が出ちゃう!」

「この、子を、信じろ…」

 

 カーンはノワールの向かいでなんとか止血しようとしているウェンディを見る。

 

「おじさん!!」

「おっちゃん!」

「あとは、頼む…」

 

 銃弾は心臓付近の動脈を撃ち抜いていた。カーンが死んだ。


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