空を舞う海賊   作:槇塚 憂淋

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大巨漢イッカク

 ウェンディがコノミ諸島グアバ村近辺に住み着くことになって早1年。

 ウェンディの能力ソラソラの実の能力を向上させるために修行し、そして1年の月日を費やした結果、船の作成に成功した。

 

「イッカクの造船技術がここまでとはな」

「見よう見まねじゃ。もともとわしは漁師、造船のことなぞウェンディの買った本と手探りで始めた木の打ち方や切り方くらいじゃよ」

「高いだけあったな、あの本」

「船作るにも裏市場を回らんといけんしな。まあ、わしの鈍った体を鍛え上げられたのは思わぬ副産物じゃな」

 ウェンディの能力のおかげで船を作るのも容易であった。

 

「さて、完成したし航海してこい」

「何を言う。はよ乗れ」

「わしは海賊にはならん」

「バカめ、海賊王の船を作ればもはやお前は大罪人だよイッカク」

 

 イッカクはウェンディの物言いに面白おかしく笑う。不機嫌顏で地に降り立ったウェンディの頭をごしごしと撫でるとイッカクは一言呟いた。

 

「なら、わしと勝負せんか?わしは強いぞ」

「なめないでもらおうか」

「わしに勝てたら仲間に加わろうぞ」

 

 イッカクを仲間に加えるため、ウェンディはイッカクに相対する。

 

「この石が地や海に落ち、音を奏でたら試合開始じゃ」

 

 イッカクは空に石を軽く放り投げる。それが上に登っていくのを止め、重力に従って落ちていく。地に着いた一瞬。ウェンディは能力をイッカクに向けて放つが、イッカクは持っていた塩水をウェンディの方に向けて放つ。サメの魚人が得意とする打水だ。ウェンディはイッカクを浮遊させてバランスを崩そうという行動を止め、打水を浮遊能力で上空へと弾くが、

 

「隙有りじゃな」

 

イッカクはその隙に海に飛び込んだ。海への能力干渉は陸上に比べて難易度が跳ね上がる。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしたウェンディはすぐに空気を纏い海に飛び込む。まるでシャボン玉の中にいるような状態を維持して海での戦闘を望んだ。イッカクは海流を操作し、それを叩きつけるが、海への干渉を無理やり起こし、海流を固定し、固定の反動を利用してイッカクに一撃を入れる。

 大したダメージにもならないが、空間操作を並行して行うことにイッカクは驚いた。イッカクは高速に泳いでウェンディを牽制するが、まるで鳥のような行動をとって行動するウェンディに速度でも負ける。

 

「参ったのう。わしの本場でさえまだ負けておるか」

 

 イッカクはふてくされたように笑い。ウェンディに突っ込む。その勢いのまま海流を背負い。叩きつける。ウェンディは咄嗟に海流を固定するが、イッカクが懐に入るのを許してしまう。

 

「さすがに動けるほどの余裕はないじゃろ」

 

 イッカクの拳を手をクロスさせて防御するがその勢いはウェンディを陸まで吹き飛ばすには十分だった。イッカクはウェンディに追撃するために水中から海流一本背負いを放つが、陸での空間操作数は海と比べて一つ少ない。ウェンディはあっさりとイッカクの攻撃を止めてみせる。

 

「やっぱり海はきついね」

「まったく、こちとら魚人として最低限の誇りはあるんじゃがな」

「まあ、でも終わりだよ」

「ん?」

「気泡解放」

 

 海面に顔を出していたイッカクは爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 イッカクは目を覚ます。

 

「…負けたか」

「私の勝ち。だからイッカクは私の部下だよ」

「まあ、ええじゃろ。ウェンディを一人で旅させるわけにもいかんしな」

「どういう意味かな。これでも一人前の行動は取れるよ」

「見た目が問題じゃ。それはそうと、わしをどうやって打ち負かしたんじゃ?」

 

 ウェンディがイッカクを倒したのはソラソラの実の応用、空間固定だ。大量の空気を集めた気泡に入っていたウェンディはイッカクに殴り飛ばされる瞬間にその気泡を掌握し、圧縮した。大量の空気をピンポン球サイズまで圧縮してあったものを解き放ったのだ。至近距離に気泡があったイッカクは爆発的な空気の拡散により倒された。

 

「空間情報の書き換えではないのか」

「あくまでも圧縮は空間固定に分類されるよ。その上位である空間操作は酸素や窒素を変えるとか、その空間だけ無重力とか。もう一点の空間と入れ替えるとか。かなり出鱈目な部類に変わる」

「ぶっ飛んでるな。ソラソラの実の能力はかなりの強さじゃないか」

「その分、集中力と鍛錬が必要だよ」

 

 ソラソラの実の能力はレベルが上がるにつれてそれに必要な集中力が跳ね上がっていく。浮遊はほぼ無意識な状態でも操作が可能であるが、空間固定までなるとそれに集中が入り込み、他の動作はほとんどできないほどだ。しかし、ウェンディはマルチタスクを習得し、並列思考を可能にしたため、同時にいくつかの空間固定が可能となるまで能力を向上させることに成功した。しかし、それほど悪魔の実の能力をもってしても、最上級の空間情報操作の片鱗さえも掴みきれていない。

 

「…空間情報操作なんじゃが、ある一点ともう一点を入れ替えるとなるとその切断面はどうなるのじゃ?まさか最強の切れ味となるのかのう?」

「それは不可能だよ。あくまで空間の入れ替えであり、対象が不確定なものは入れ替えることができない」

「なるほどのう。つまりはまったくきれない切断面という解釈でいいのか?」

「まあ、そういうことになるかな。といってもまだ私も試したことがないけどね」

 

 ウェンディはあくまでも自分がソラソラの実の能力を手に入れた時に手にした説明書きをイッカクに話していた。結局この日、ウェンディはイッカクに自身の能力のことを話し、毎日の訓練日課を過ごして就寝する。イッカクは寝付いたウェンディの頭をそっと撫で、ウェンディの作った魚のスープを飲み干してウェンディの横に寝る。

 

「おやすみじゃ」

 

 イッカクは家の中でウェンディの反対側のベッドに腰を下ろす。幼き少女が何故聡明で、何故頑なに海賊王にこだわるのか、何故両親を失っても平気でいられるのか。イッカクはウェンディの寝顔を見ながら、布団をかぶり目を閉じた。

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