名前の表記と伝わりづらかった部分を少し変更しました。ストーリーに影響はありません。
投稿前にチェックはしていますが、できるだけ早く訂正していきます。
船内に月明かりが差し込んでいる時間帯、まだ日付の変わらない夜にウェンディは目を覚ます。寝巻きから着替えてウェンディが外に出ると、船のデッキから見える距離にくいなが来ていた。
「どうした?」
船から飛び降りるとくいなが腰掛けていた状態から立ち上がる。
「眠れないのか?」
うつむいて黙っているくいなを見てウェンディが切り出すと、くいなが首を振った。
「何かあったのか?」
「…何も?」
「話してくれないとわからないよ」
くいなは何か悩みを抱えているような状態だった。くいなが少しずつ口を開くようにウェンディは話しかける。
「昨日、緑色の髪をした少年にあった」
「………ゾロのこと?」
「彼は君の道場の門下生の中でかなりの実力だと思うんだけど、まだ君よりは弱いけど」
「なんでゾロより私を誘ったの?」
「今は君の方が強い。だけど、将来どっちが強いかわからない。それでも私は君に仲間になって欲しいと直感的に感じた」
「ゾロは誘わないの?」
「同じ海賊船に夢を競い合う仲間が居てもね。それは仲間じゃなくてライバルだよ。敵船や海軍ならまだしも同じ海賊船で仲間同士の本気の決闘はNG。だから誘わないし、私は彼でなく君に船に乗ってもらいたいんだ。父親と何かあったのか?」
ゾロの話は普通に受け答えしたところでウェンディは父親の話しにそらす。くいなが悩んでいることをポツリポツリと話しだす。
「お父さまと…言い争いになった」
「なるほど、何か言われたのか?」
「…女じゃ世界一の剣豪にはなれないって」
「普通の親ならそういうね。そう言われて、君はどうした?」
「それはないって思った。間違っているって!同じ女の子のウェンディだって海賊王を目指してる。私だって世界一の大剣豪になれるって!女でも世界一になれるはずだって!私は世界一の剣豪になるって!………怒鳴った」
くいなは黙る。ウェンディはくいなが口を開くのをじっと待った。
「…その後、言っちゃいけないこと言った」
「そうか、…じゃあ、謝らないとな。行こうか」
「えっ?」
「ほらっ、行くぞ」
ウェンディはくいなを引っ張ってくいなの家に向かう。
「どうしてウェンディも来るの!?」
「君は私を頼っただろう。それに答えるなら最後までだ。中途半端は嫌いだ」
「そ、そう」
急に決まった方針にくいなは戸惑っている。しかし、非は自分にあるとわかっているくいなは何かきっかけが必要だった。それがゾロでは恥ずかしくてとても相談事を言えない。ある程度信用できる相談を恥と感じない相手はウェンディだった。ただいきなり強引にことを進めるウェンディに少しばかりくいなは戸惑っていた。
「誰か走って近づいてきてる」
「あ、ゾロ?」
月光だけしか映らないが、満月の比較的明るい夜もあって、くいなはゾロを見つけることができた。
「何してんだ?」
「…ちょっとね」
「あ、お前!昼にいた奴だな。くいなと何してんだ?」
ゾロはウェンディを見て、昼に会話した相手を思い出していた。ウェンディはゾロの質問に正直に答えようかとくいなを見ると、その目は制止を訴えていた。
「私の船の乗組員になって欲しくて交渉している」
「船の乗組員?なんで?」
「世界一の剣豪になってもらうため」
「な!?ずるいぞくいな!」
とっさに出たでまかせで少しは話をそらしたウェンディだったが、余計なこともしたためにくいなに睨まれる。
「ゾロ、その人の話は半分だけ聞いといて、…それで何の用?ここにいるってことは私の家に用があるんでしょ?それとも私に用があるの?」
「…お前との2001戦目を申し込みに来た。お前との勝負はこれで最後にするつもりだ。決着をつける。俺と真剣で戦え!」
ゾロは持ってきた真剣を前に突き出す。
「真剣は持ってるだろ?」
「私と…」
くいなはウェンディを見る。ウェンディはうなづく。
「いいよ」
くいなはゾロの申し出を受けた。
満月の夜。真剣を持った二人が向かい合う。
くいなは大業物、和同一文字をゾロは無銘の刀を二本持ち込んだ。
風が吹くとゾロがくいなに向かって駆け出す。くいなは向かってくるゾロの剣を止め、避ける。二刀流の方が手数は多く、くいなは攻めきれない。しかし、二刀流の呼吸の合間に攻撃を仕掛ける力量は十分に持っている。くいなはゾロの太刀筋をかいくぐって、きわどい攻撃をしていく。真剣の戦いは負ければ死もある。二人の緊張感は研ぎ澄まされていく。
「おりゃあああ」
「やあああああ」
月明かりを反射する刀剣が行き交う。くいなもゾロも一進一退の攻防が続いている。真剣という慣れない剣に戸惑いつつもしっかりとした剣捌きが互いを高めていく。普段の調子を取り戻しながら、徐々に剣を振るう速度が上がっていく。
くいなが剣を振り下ろせば、ゾロは二つの剣で防ぎ、ゾロの二本の剣での攻撃を防ぎきれないくいなは二閃目を避ける。ここまでほぼ互角。しかし、徐々にだがゾロが押され始める。だが、ゾロは自分の不利な立場を認めない。必死にくいなに食らいついていく。生死もかかる緊張感から互いのスタミナは普段以上に削れていく。ゾロが押され始めてから十分ほど、肩で息をするゾロに対し、呼吸が乱れないくいなが圧倒的優勢だった。
「真剣二本は重いでしょ」
一定の距離が開き、ゾロが踏み出せないほど疲弊しているのを見て、くいながゾロに話しかける。
「まだ、体力が、足りていないようね」
「うるさい!!」
残りの体力を振り絞ってでも負けを認めないゾロが叫ぶ。くいなは一気に走り込み、気づいたゾロも対処をしようとするが、その手に力は入っておらず、くいなの切り上げでゾロは二本の剣ごと弾き飛ばされる。そのまま逆手に持った剣を倒れこんだゾロの首元に突き刺す。
「私の2001勝ね」
くいなは剣を引き抜いて汗を振り払う。
「ちっくしょー、くっそー、悔しい!」
くいなはゾロを見下ろす。
「ゾロ」
「ぅ、うっ、…」
声をかけられたゾロは悔し涙を浮かべながらもくいなを見る。
「私もね。悔しかったことがあった。悩んだことがあった。女の子はね。大人になったら男の人より弱くなっちゃうんだ」
「えっ?」
「それで私もいつかゾロに追い抜かれるんじゃないかって不安だった。でもね、ウェンディが教えてくれた。女でも世界一は目指せるって、同じ女の子が同じくらい大きな夢持ってて、まっすぐその道に向かってる。なら、私も世界一の剣豪を目指せるはずって………ゾロ、私負けないよ。これからゾロもどんどん強くなる。でもね。私はこれからも負けてあげないから。私は世界一の大剣豪になるんだから!!」
立ち上がっていたゾロに向かって、くいなが宣言する。
「俺だって世界一の大剣豪になるんだ!いつかくいなを倒して!世界一の大剣豪になるんだ!どっちが先に世界一になれるか競争だ」
「弱いくせに生意気よ、そうね。必ずどっちかが世界一の剣豪になる」
ゾロは手を伸ばす。その手をくいなは掴んだ。
「「約束だ」」
コウシロウに女であるから世界一になれないって言われて、言い争いになったという。コウシロウもコウシロウで実の娘から世界一の剣豪でもないくせにわかったようなこと言うな、と言われだいぶ落ち込んでいた。夜が明けるとくいなは和同一文字を持ってウェンディの前に現れた。
「眠れたか?」
「あまり」
「今生の別れというわけでもない。そう悲観するな」
くいなは剣道の基礎はすべて習得している。大人の戦いでの駆け引きもある程度わかり、コウシロウも教えることは何もないというほどに強い。やり残したことはないということで、ウェンディの仲間に加わることにした。海賊になることに猛反対だと思われるシモツキ村のみんなには何も言わずに出ていくという。
「お父さまにはことの経緯を話したわ」
「家族には黙っていくわけにはいかないだろ」
「それから、私の許せないことをしたら、ウェンディでも斬るよ。あなたの海賊船に乗るのは夢への橋掛けだからね」
「もうそれは耳にタコができるほど聞いたよ」
くいなとウェンディが泊めてある船に乗り込むと、ひとつの人影が船に近づいてきた。
「くいな、見送りがきたぞ」
「何よこの犬」
「人の話を聞け」
ルカは犬じゃない狼だ、と一言つぶやいたことで話せる獣を前にくいなは混乱する。しかし、せっかくの見送りに来てくれた人を待たせるのは悪いと感じ、ウェンディが出迎える。
「ゾロくんだね」
「お前は、確かウェンディだったか?」
「そうだよ。…これからくいなは私たちの船に乗る。次会うときは敵同士かもしれない。お手柔らかに頼むね」
「俺が賞金稼ぎになってとっ捕まえてやる」
「ははは、私は捕まるくらいなら逃げるよ。別にワンピースを争うライバルでもあるまいし、まあ、くいなは受けて立つだろうね」
「どういうことだ?」
ゾロは首をかしげたまま固まる。その表情を見てウェンディはほくそ笑む。そして一本の刀をゾロに渡す。
「あげる。餞別だよ」
「これは?」
「良業物の一工、白夜。うちに剣士はくいな以外いないし、くいなには大業物の和同一文字がある。まあ、なんだ。余った」
「いいのか?」
「いらないなら返してくれてもいいよ」
「いる」
ゾロも一端の剣士、刀には目がない。白夜はウェンディが剣士が仲間になった時の餞別で渡そうと考えていた剣だったが、くいなは和同一文字という白夜以上の名刀を持ち込んだため、行き場をなくした白夜をゾロに渡すことにした。宝の持ち腐れが嫌いなウェンディらしい行動だった。
「ゾロ!?」
正気を取り戻したくいなが甲板からゾロを見つける。
「くいな!元気でな!」
「…ゾロもね!」
別れはそれだけだった。ライバルにかける言葉はいくつもあるけど、二人は昨夜けじめはつけたのだから、もう話すことはなかった。
「また会おう」
ウェンディはゾロに背を向けて甲板に飛び乗る。
「出航だ!」
4人目の仲間を加えた一行は海に出た。
「もう島影も見えないか」
出航してしばらく、くいなは船尾で背後を眺めている。
「未練たらたらじゃないか」
「ちょっとね。寂しいかな」
くいなは思うところがあるのか、ずっと海を眺めていた。くいなが復活するのに1日かかり、次の日はルカの指導のもと覇気の習得だったり、斬撃を飛ばす練習だったり、体力づくりだったりと大忙しな特訓期間が待っていた。
くいなはその中でもウェンディの日々の特訓がゾロ以上の特訓量だったことに戦慄した。
「なんでそこまでやるの?」
「暇、だし」
「確かに、一面大海原だから暇だけど…」
一万回のレイピアでの突き。数時間かけ、今しがたそれを終えたウェンディは一息つく。
「私はさ、剣の師匠いないんだよね」
「でも、太刀筋は悪くない」
「たくさん努力して少しずつわかったんだよ。どうすれば剣に重さを乗せられるか、どうすれば剣を早く振れるか、どうすれば斬撃を飛ばせるか」
「最後の発想は意味わからないけど」
「ほんの少しずつわかってきた。人に教わればすぐわかったかもしれないけど、遠回りだったからついでに自分を鍛えることもできた。その名残というか、続ければ強くなれるじゃん?幾多の海賊が死んだと言われるグランドラインに生半可な強さだと、二の舞だし、それは嫌だから強くならないとね」
「それなら私も強くならないとね」
たった数日でくいなはウェンディの指導のもと斬撃を飛ばせるようになり、船のマストの上から飛び降りてもノーダメージ程度に身体能力が向上していったのが、ウェンディやイッカクと同様に覇気は習得できない。
「「「わからない」」」
「理解するより感じろ」
天才肌のルカから覇気を習得するのは困難を極めていた。コノミ諸島に戻らず、周辺海域を詮索したり、島々を巡り巡っていた。
コノミ諸島まで残り数十キロまで来たところだった。
「船だ」
「どこだ?」
「2時の方角、3隻」
ルカが双眼鏡を使って敵船を見つける。海軍船が商船っぽい何かと言い争いになっている。そして海軍船から海軍船へと抗議もしている。
「何かトラブルがあったみたいだ。おそらくまだ見つかっていない」
ルカがウェンディに報告する。しかし、ルカの耳にひとつの声が聞こえた。見聞色に優れたルカにはたくさんの人の声が聞こえていた。
「助けてと叫んでいる」
「見聞色?」
「ああ、それも一人二人じゃない。かなりの人数だ。数十人の声が助けてと叫んでいる」
ウェンディはルカに向けていた視線を海軍船2隻と1隻の商船。トラブルを起こしているのは見て判断できたウェンディだが、それでも海兵と商人の間に起きたトラブルで数十人から助けを呼ぶ声が聞こえるとは思えない。
「ウェンディ?」
「海軍は私たちの敵だし、攻撃してもいいでしょ」
船のマストをたたみ、パドル最大回転量で海軍船に突き進む。視界にはっきりと捉えられるようになったところで海軍船がウェンディたちの船に気づく。
「あーーー!!!この前の泥棒のガキだ!!!」
船首に堂々と立っているウェンディを見つけた海兵の一人が叫ぶ。敵船を知らせる警鐘が鳴り響き、海軍船2隻は慌てて船の向きを調整し、砲弾を撃ち込んでくる。
「敵さんやる気だね」
「ちょっと、砲弾撃ってきてるよ!」
「まあ大丈夫じゃろ」
「声は商船の方から聞こえる」
砲弾を打ってきてうろたえるのはくいなだけで、他のメンバーはいつもと変わらず冷静沈着に物事を進めていく。
船に直撃しない砲弾は見過ごし、当たる弾はイッカクが打水で弾き、ルカが蹴り飛ばして、ウェンディが能力で空中に止める。
「くいな、落ち着いて、…そう、そして放て」
次に飛んで来た砲弾にくいなは斬撃を飛ばして破壊する。
「できた!」
「その調子だ、船の守備はイッカクとくいなに任せる。ルカいくぞ」
「あいよ」
「わかった」
「ウェンディ、商船に敵は少ない。だが、海軍船の1隻には結構強そうな奴がいる」
「そうか気をつける」
ウェンディは空を飛び、ルカは海軍船を足場に商船へ近づく。二人が商船へ立つのは同時。そしてその前には一人の海兵がいた。
「海軍がいても海賊が商船を襲うものなのか?お嬢さん」
「普通は襲わないね。普段であれば見過ごしたさ」
「なら今、どうして来た?」
「なぜだろうね?」
「質問に質問で返すのは礼儀がなっていないぞ」
「海賊に礼儀を求める海兵がいるとは驚きだ」
商船の入り口に海兵が立っていては押し通るしかない。
「悪いけど、下にいる人たちに用があるんだ。邪魔しないでくれる?」
「…その者たちをどうする気だ?」
「うーん、…どうするかは会ってから決める」
海兵は十二分に考えてから結論を出す。腰の刀に触れていた手を引っ込める。
「………ついてこい」
海兵は商船に侵入し、その後をウェンディとルカが続く。
「ウェンディ、どうやら海軍も一枚岩じゃないようだ」
「だいたい察してる」
立場の違いあれど、今は3人は同じ想いを持って商船を突き進んでいく。
5人目の仲間回収まで結構短縮しすぎてる気がする。