カサマツの二番星   作:美涼

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不撓不屈。

「はぁ゛っ、はぁ゛っ…」

 

「お疲れ様。水分補給はちゃんとしておくんだぞ」

 

「わ゛、がりましだぁ」

 

暦の上では冬が近づいているはずなのに、いまだに暑い日が続く11月。

始めの方こそあのオグリキャップに指導してもらえるということで、嫉妬や羨望の眼差しが多かったものの、毎日ぶっ倒れるくらいのトレーニングをする姿を見てからは基本的に誰も話しかけなくなってきた。

基本的には。

 

「にゃはは。今日もぶっ倒れてやんの」

 

「その口縫い合わせたろかスズゥ…」

 

スズノミレイ。

野良レースで出会ったウマ娘。まさかトレセン生とは思っていなかったから、再会した時は驚いた。

彼女は親切にも転入初日にトレセンで迷っていた私を助けてくれた。まさか野良レースに参加していた子をトレセンで見るとは思わなかったから、それはもうよくしていただいてますよ。

弱み握ってるわけではないよ。ファントムレイダーウソツカナイ。

 

「重賞出走予定者がこんなとこで水売っとってええなんて、楽そうでええわぁ」

 

「嫌味かキサマッ!」

 

「嫌味だが?」

 

「即答すんなよ泣いちゃうだろ」

 

「面倒くさ…」

 

ちなみに、私とコイツは同室である。

つまり朝も夜もコイツに付き纏われている。正直鬱陶しい。

 

「そういやレイってデビューの予定立っとるん?」

 

「んや。本格化来てからって言っとった」

 

本格化。思春期の一定段階になると体が急成長を果たすというウマ娘の特性…らしい。

なぜらしいと言ったのかというと、本格化が起こる時期には個人差があるらしく、その判断材料は「本人が漠然と感じられるかどうか」という漠然とした目安しかないからだ。

また、何らかの切っ掛けでそれを自覚するというケースが多いことから、トレセン学園では定期的に選抜レースという形でデビュー前のウマ娘が本格化に入っているのかどうかを確認するそう。

 

オグリさん曰く、中央には本格化前にデビューした子もいるらしい。まあその子は例外中の例外らしいけど。

 

「へー。そんじゃ明日の選抜レースは走るん?」

 

「うん。まー私がどんだけ通用するかは全くわからんけど」

 

「いやーレイ普通に勝ちそう」

 

「そんなことないやろ。普段からトレーニングしてきた子らと私じゃ天と地ほどの差があるて」

 

「バカみたいな坂っていう条件付きとは言え重賞ウマ娘に勝ったのはどなた?」

 

「私♡」

 

「うわキツ」

 

「泣くぞ」

 

本当に泣くぞ。おばさんにはうわキツが1番効くんだからな。正直私も自分でやっといてキモイなとか思っちゃったけども。

 

まあ選抜レースがどんな感じなのかはわからないから、どこまで通用するかわからないというのは本音だ。オグリさんのトレーニングを受けてきたとはいえ、いまだにコンクリートで舗装された坂を走る感覚が抜けない。

 

「おーいスズー。そろそろ戻って来ーい」

 

「ほれ。トレーナーさん呼んどるで行って来い」

 

「うげ。あの顔は坂路を走らせる顔だ。まあいいや、また後でね」

 

「おう。じゃあね」

 

そう言ってスズは彼女のトレーナーの所に走っていった。

それと入れ違うかのように、丁度オグリさんがやってきた。

 

「レイダー。明日の選抜レースなんだが、一度先行で走ってみてくれ」

 

「先行…ですか?」

 

「ああ。レイダーは今まで逃げで走ってきていたと思うんだが、一度先行策の場合の先行争いを経験しておいた方がいいと思ったんだ」

 

「え、でも逃げるんだったら先行争いは関係ないんじゃ?」

 

「逃げの場合でも、前を塞がれたりスタートのミスで先行争いに加わってしまう事もあるんだ。明日は本番じゃないから、一度試してみてくれないだろうか」

 

「まあ、そういう事なら。わかりました、明日は先行で走ってみます」

 

「無茶振りをしてしまって申し訳ない」

 

先行か。前に一回練習してみたけど、位置取りの駆け引きとかスパートのタイミングとか考えるのが難しくてやめたんだっけ。まあ正直先行も差しもできるけど、逃げが1番楽だ。最初から最後まで先頭走ってればいいから。

 

そんな会話をして、今日のトレーニングは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで翌日。選抜レースが行われる日。

 

私は今、ゲートの前にいる。

今日の選抜レースはダートの800m。カサマツトレセンにあるコースの、大体3分の2くらいを走るレースだ。そして、カサマツのコースは小回りだ。だから、コーナーを曲がる時に外に引っ張られすぎないようにしなければいけない。

そんなコースでの先行策。うまくいけばいいけど。

 

周りを見渡すと、その場のほぼ全てのウマ娘が緊張した様子で、顔がこわばっていた。

 

まあ、無理もない。選抜レースは本格化のきっかけ作りでもあるが、メインはトレーナーが居ないウマ娘がスカウトされる為だ。言いかえれば、ここで無様な走りを見せればスカウトされる機会は遠のくだろう。私には関係ないけど。

 

で、私の他に1人、全く緊張していない奴がいる。

 

名前は確か、ハウンドレザー。詳しくは知らないけど、なんでも特待生なんだとか。

いまだトレーナーは付いていないらしいが、それも時間の問題だろう。

 

そんな事を考えていると、私のゲート入りの順番になった。

ゲートに入ると、気持ちが切り替わる。目の前のコースを、最高速で駆け抜ける自分の姿が目に浮かぶ。ああ、早く走りたい。

 

少しして、全員がゲートに入った。

しばしの静寂。それが破られると同時に、私は駆け出した。




・キャラクター紹介

スズノミレイ
既にクラシック級の地方重賞ウマ娘。にゃはは〜などのゆるい雰囲気が特徴。
わざわざトレセンを抜け出してまで野良レースに参加していたのは、カサマツでのレースの八百長事件に巻き込まれ、謹慎という処分が下されたものの納得いかなかったから、反抗心で参加していた。
ファントムレイダーによくちょっかいをかけて返り討ちにされている。


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