ロック・リー転生伝 作:六亭猪口杯
「本当に此処で良いのか?」
ラーメン屋の前で確認してくるガイ先生。
一楽。NARUTO読者なら一度は訪れたい場所上位に入る店の前に俺達は居た。
寧ろここ以外に無いでしょう?
「えぇ、ご馳走になります」
暖簾を潜ると元気の良い声で大将のおっちゃんが声を掛けて来た。
「へいらっしゃい!」
「2人なんですが…入れますか?」
好きな席へどうぞ!という言葉と共に適当なカウンター席に着く。
此処があの一楽かぁ…!
スープの香りが食欲を唆る!
「変わってるな…てっきり焼肉辺りかと思ってたんだが」
そんなにラーメンが好きなのか?と問いかけてくるガイ先生。
「焼肉も好きですよ?今日はラーメンの気分だったってだけです」
半分位は嘘だけど。
今まで来る機会の無かった一楽に行けるチャンスだったからお願いしただけだし。
帰ったら別でたんぱく質…兵糧丸でも齧らないとな。
「そうか!まぁ好きな物を頼むと良い!」
このスペシャルなんてどうだ!?とメニューを手渡しながら聞いてくる先生。
「チャーシューメンで」
せっかくなら普通のベーシックなラーメンでもと思ったけど。
チャーシューなら肉だし少しは足しになるだろ…多分。
「塩対応だな坊主…」
大将が少し引いた顔で注文を取ると。
「コイツはこういう態度ですが、心根は立派なもんですよ!」
ハッハッハッ!と笑いながら自分は普通のラーメンを注文する。
「先生も大変だねぇ」
「いや、俺は…」
俺を見やって少し言い淀むガイ先生。
確かに今の俺とガイ先生の関係は何と評したら良いのか分からないな?
でもまぁ別に否定する程のことでもない。
「えぇ、先生に迷惑をかけてしまっている自覚はありますよ」
すみません。とガイ先生に頭を下げる。
「何を言う!迷惑だなんて思うものか!」
バッと抱きしめながら否定するガイ先生。
暑苦しい…!
真横に居るからか熱気が襲って来た様な感覚に陥った。
「ハッハッハッ!仲が良い師弟だな!」
ちょっと待ってな!と調理に入る大将を尻目にガイ先生へと向き直る。ちょっと真剣な話だ。
「ガイ上忍。あなたは俺を努力の天才だと言いましたね?」
努力の天才。
頑張り続けられる才能があるのだと。
「あぁ、それは間違いない!」
先生はサムズアップして応えてくれる。
でも今聞きたい所はまた別の…現実的な部分なんだ。
「では、俺が今の努力を続けたとして日向ネジ…天才に勝てるようになるにはどれだけの時間が要りますか?」
アカデミーで実技がある度に思い知る奴との差。
手裏剣術や忍術は勿論、体術ですらまだあの天才には及ばない。
日々の修行で強くなっている実感はあるもののその差を埋められている気がしない。
そんな思いからつい聞いてしまった。
…これで無理だと断じられたら俺はどうしたら良いんだろうな?
諦めると言う選択肢はないけれど。
自分では測れない目標との距離がどれだけあるのかを知りたい。
「日向…柔拳か。アレに体術で勝つのなら対処法は一つだけだ」
そんな心配を他所に対処法を真剣な表情で続ける。
「全て見切られるのなら見えても反応出来ない速度で殴るしかない」
…当たり前な事だけど凄い脳筋理論だ。
それが出来れば苦労はない、の典型に思えるけど…と疑問を抱く俺に構わず話し続けるガイ先生。
「日向の血継限界と柔拳は接近戦に於いて無類の強さを誇る。体術でその組み合わせを超えるだけの練度を手にできるのは…」
考え込むガイ先生。
少しの間無言の時間が過ぎて、意を決したように話し出す先生。
「俺はその日向ネジが今どれほどやれるのか知らないから想像も絡むが…現状で少なくとも勝負になる練度に至るには後数年。相手が成長するのを踏まえれば最低でも10年はかかるだろう」
それでも些か希望的観測を含むが。
そう言う先生の顔は真剣なもので。
それだけの差があるのだと否が応にも実感させられた。
…そんなに差があるとは思ってなかったな。
「…もしも、」
意を決して俺が言いかけた言葉は大将にかき消された。
「へいチャーシューお待ち!先生にはラーメンね!」
目の前にチャーシューがこれでもかと乗ったラーメンが出される。
「…続きは食べてからにしよう!」
「そうですね。…いただきます」
食べている間は互いに無言だった。
先ほどの質問について考えてくれているんだろうか?
黙々と食べ進めているといつの間にか丼は空になっていた。
「…ご馳走様でした」
「美味かったな!大将、代金は此処に置いとくぞ!」
「おうよ!またの来店お待ちしてます!」
暖簾をくぐって店を出た。
確かに美味しかった、と思う。
でも俺と日向ネジとの差を思い知った事実の方が重く伸し掛かっていた。
「少し歩こう」
そう言うと日の沈んだ街を歩き出す。
その少し後ろをついて行きながら今後の事を考えていると。
「此処でいいか」
いつの間にか公園に着いていた。
…見覚えのあるブランコ、これあれだナルトが留年した時に乗ってた奴だ。と場違いなことを考えている俺に構わず話し出す先生。
「…さっきの話の続きだが」
正直なところ我流でやるなら限界が来るだろう。と告げられた。
その直後に少し慌てた様子で訂正が入る。
「今のままでも立派な忍者になれる…それは保証する!」
しかし…と続けなかったのは優しさからだろうか。
その続きは自分で口にした。
「…でも本物の天才には及ばない、ですか」
俺の目標である才能に依らない忍者にはなれる。
でも真の目的である強さは手にはいらない。
「…難しいだろうな。アカデミーの天才児、日向ネジについては俺の耳にも届くくらいには有名だ」
難しい顔をしてはいるものの真実を告げてくれるガイ先生。
此処で下手な慰めを言わないあなたは良い師匠なんだろうな…
日向ネジ。
日向一族に産まれた血統書付きの天才。
世が世なら既に中忍まで飛び級していてもおかしくないとまことしやかに語られるあの男。
才能の差は隔絶していて、実力を埋められるだけの手札もない。
体術において遅れをとってしまうなら螺旋丸が有った所で意味が無い。俺にはソレを当てる為の搦手がないから。
…未だ未完成にも程があるモノに頼ろうとしてる時点で勝てないと認めている様なもんだな。
それでもあの男に勝てないならその先に進めるはずもない。
「…もしも、あなたに師事させてもらえたらあの天才に届きますか?」
「お前次第だ。俺も全力を尽くすと約束するが…確約はできん」
正直な人だ。
思わず苦笑が漏れた。
一度深呼吸をして表情を整えると。
「何を今更とお思いになるでしょうが…俺に稽古をつけてもらえませんか」
改めて頭を下げる。
俺は強くなりたい。
そのためならあなたの教えに殉じましょう。
追いつくために、置いて行かれないために。
出来る事は全て、言われた事は全てやり遂げます。
そう続けるとガイ先生は大きな声で。
「違うな、リーよ!お前は自分の道を進め!」
俺はその手伝いをする!
その先に待つものを手に入れられるかはお前の努力次第だ!
そう言うと俺の肩を掴んで目線を合わせて来た。
相変わらず暑苦しい…でも今はそれが心地良い。
「…はい!よろしくお願いします、先生!」
「あぁ!早速明日から修行開始だ!」
いつもの場所に集合だ!そのためにも今日は早く寝ろよー!と手を振って別れた。
先生の後ろ姿を見送った後。
自分の行動に矛盾を感じて少しの間立ちつくす。
最初は渋った癖に結局は指導を受ける事にした。
ソレが間抜けに思えて自嘲する様に笑う。
「…俺は何をしてんだろうな?」
最終的に弟子入りして八門遁甲を習得する必要があるとは思っていた。体術に関しても得るものはとても多いだろう。
それでも原作通りの道筋を歩んでいるように思えて嫌な寒気を覚える。
「…螺旋丸の修行は続けよう。形にならなかったとしても手札にはなるはずだ」
原作の俺との差はそこからだ。
そう心に決めて家路を急いだ。
最初は少し気になる程度の事だった。
同僚からやけに頑張ってるアカデミー生が居ると聞いて“努力家とは…青春してるな!”と感心しただけ。
でも、実際に見てみると…
(なんて無茶な…!)
あの歳であそこまで体を追い込むなんて自殺行為に近い!
咄嗟に声を掛けて止めたんだが…まさか動きを見切られるとは。
下忍にすらなっていない子供には見えない程度の速度を出したはずなんだが…
ロック・リーと名乗ったその子には確かに才能と呼べるモノは見当たらない。
強いて言うならその目。動体視力には目を見張るものがあるがそれも瞳術には到底及ばない程度でしかない。
それでも愚直に努力を重ねる姿に俺は過去の自分を見た気がした。
ライバルに負けない様に、特別なモノがなくても俺はお前と対等なのだと証明するために。
無心で努力を重ねた日々が目の前の光景に重なって見えたのだ。
だからか自然と俺の弟子にならないか、と提案したんだが。
『少し、考えさせてください』
提案した時は少し嬉しそうな顔だったのに、一瞬考え込んだと思ったらすぐに無表情に戻っていた。
あれは既に己の道を決めている男の顔に見えた。
その道に殉じても構わないと覚悟を決めている求道者に近いものを感じる。
何故そこまでするのかと問うと。
『才能がなくとも立派な忍者になれると証明するため。俺を馬鹿にした奴らを見返すため』
些か後ろ向きではあるものの志としては申し分無い。
しかし放置するには問題がある。
故に時間が許す限りは監視…監督することにしたのだ。
(さて、今日も来ているかな?)
チラリといつもの修行場を見ると汗だくで丸太に拳を突き入れているリーの姿があった。
不恰好ではあるが教本通りの型をなぞっているのが見て取れる。
…チャクラコントロールが苦手なのは本当らしいな。
(あれでは上達する前に諦めてしまうかもしれん)
常にチャクラで強化して殴る、それ自体は間違っていないんだが。
基礎を飛ばして応用をやろうとしている様なものだ。
恐らくまだアカデミーで教わる範囲ではないのだろう。
そう思ってしばらく見ていると。
「…ダメか。もっと、こう…」
ゆっくりと素振りをし始めるリー。
先ほどと比べると大分マシになっているがそれでも足りていない。
そろそろ声を掛けるか、と思った辺りで
「表に出すのとは大分勝手が違うんだな…」
掌に回転するチャクラの塊を生み出したのを目にして止まった。
周囲に軽く風を巻き起こしながら消えていったそれはまるで…
「あれは4代目が使用していた螺旋丸…か?」
比べるには烏滸がましい程に差はあるが、あのチャクラの塊は螺旋丸を想定している様に思えて鳥肌が立った。
何処でソレを知ったのか、はたまた偶然か定かではないが…リーの才覚であそこまでモノにする為にどれだけの時間を注いだのか分からないはずもない。
訂正しよう…リーはただの努力家なんかじゃない。
アイツは努力の天才だ。
自分の出来る事を模索し、可能性がある物をひたすらに磨く。
地道なチャクラコントロールの修練に愚直なまでに挑み続けた努力の結晶があの掌にあった。
少し呆然としてしまったが。
覚えるまでに時間がかかるだろうがあの歳でアレだけチャクラをコントロールするに至ったほどの努力を積めるのならば。
一体何処まで伸ばすことが出来るのだろうか?
その才と時間の全てを体術とチャクラコントロールに注ぎ込み、接近戦のエキスパートに育ったなら。
その上であの術が完成したとしたら。
故に惜しい…あの原石を鍛え上げる事が許されるならと思わずには居られなかった。
そう考えていた日の夜に師弟関係になるとは思っていなかったが。
最後に交わした言葉を思い出しながら1人呟く。
「鍛え上げてみせようじゃないか」
あの努力の天才を。
忍術が使えなくとも天才たちに引けを取らないように。
格上に食らいつくための技術を。
俺の得た全ての経験を以てお前を導くぞ、リー!
勢いで始めたものなのでどう転ぶか分かりませんが想像以上に楽しんで頂けているようなのでもう少し続けます。
恐らくアカデミー、下忍辺りは軽く流して中忍試験まで飛ぶかと思いますがご容赦下さい。