ロック・リー転生伝 作:六亭猪口杯
気づいたら20000文字超えてて吃驚しました。
本来はテンテンとシカマルの試合だけで終わらせようと思ったんですが…本作における幻術の扱いを説明するならここしかないと無理矢理ねじ込んだ結果です…
幻術や出てくる忍術の捏造、うちは一族への偏見が多く含まれます。苦手な方はご注意下さい。
「は…ぁ…螺旋丸?なんで…?」
ネジとの試合でナルトが使った術を見て思わず素の言葉が出た。
「他にもいたんだね〜」
あんな変態技術を使おうとする子。と呑気に話すテンテン。
テンテンは知る由もないだろうがナルトが螺旋丸を使ったことは別に不思議じゃない。
元々はナルトの必殺技であり、俺のものではないから。
螺旋丸は四代目火影、ナルトの父親が作り出して息子が完成させた親子二代の結晶…ナルトと言えば、の代名詞でもある術だ。
それでは何が問題かと言うと…
(習得にかかった時間的にあり得なくはない…けど)
習得難易度が異常な螺旋丸を、影分身のサポートありだとしても実戦投入できるレベルに習熟したのは驚嘆に値する才能だ。
原作でも手古摺ってたレベルの超難易度、俺が形にするまでに何年も費やしたのをたった一ヶ月でモノにしてみせたのは末恐ろしいなんて言葉では足りない。
でも…もしも口寄せの習得を後回しにして得たものだとしたら。
木の葉崩しでのナルト対我愛羅戦でガマの親分が不在と言う割とどうしようもない状況になる。
あの怪獣じみた大きさの化け狸を相手に出来る数少ない対抗手段が無くなるなら…
(ナルトだけじゃ
砂狸が完全顕現する前に我愛羅を抑え込めるなら問題無いが…それに期待するのは些か楽観的に過ぎる。
それなら顕現した砂狸を抑え込める様な巨大生物を今から用意すれば良い…なんてのは土台無理な話だ。
自来也を何とかして担ぎ出せればどうにかなるとは思うが…木の葉崩しでの里の守りの一端、メイン盾でもある自来也を引っ張って行ってしまうと里の被害がどうなるか分からない。
一対一でも確実に対抗出来る戦力…ガイ先生も不在。
近接戦闘に寄ったナルトを責めるつもりはないがなんでこうなった…?
こんな事を考えてはいるが…別に螺旋丸がガマ親分に劣ると考えている訳じゃない。
当たれば必殺になりうる破壊力を誇るのは間違いないのだから。
後半の敵が再生力やら防御やらがおかしいだけで純正の螺旋丸でも大抵の相手は吹き飛ばせる威力の必殺技だ。
相手のサイズが人間大なら今のナルトの螺旋丸でも十分効果を発揮するだろう。
しかし質量=威力を地で行く
「…無理、だな」
俺が半覚醒状態とも言える予選の我愛羅に螺旋丸を叩きつけた感触から考えるに、先程見たナルトの螺旋丸でも砂の盾…防御を一度散らせるかどうかと言うレベル。
難易度が跳ね上がったであろう木の葉崩しに頭を抱えたくなるのを我慢していると
「何が無理なのよ」
あれだけ隙だらけならそこまで脅威じゃないでしょうに。と呆れた目で見てくるテンテン。
「あー…いや、そう!成長したら手に負えなく成りそうだなって話!」
思わず口に出していた言葉のフォローをする様に誤魔化す。
動揺は隠しきれてないだろうが…真実を知ることは不可能だから誤魔化しきれるだろう。
そんな浅ましい考えを見抜いたのか
「そう?…ま、そういう事にしといたげる」
試合も近いしね?と笑うテンテン。
別に言いたくないなら言わなくてもいいと言わんばかりの声色で続ける。
「先の事を考えても仕方ないでしょ。リーもネジも強くなるんだし」
追いつかれないように強くなればいいじゃない。と続けるテンテンに少し笑みを返す。
「そうだね…うん、その通りだ」
「しっかりしなさいよね…今はいつもみたいに手持ちでどうにかやりくりするしかないんだから」
ほら、シャキッとする!と背中を叩かれた。
テンテンの言う通りだ。
無理なものは無理としてどう対処するか、それを考えなければ成らない。
仮にガマ親分の口寄せが使用不能な場合は…俺が何とかできるか?
ガマ親分の代わりを務められるとは思えないが…六門まで開けば瞬間的には拮抗出来るかも知れない。
他の尾獣と違って一尾の顕現…木の葉崩しの時に行った状態には明確な勝ち筋が存在する。
狸寝入りで砂狸の額にくっついた我愛羅を叩き起こせば良い。
それに伴って我愛羅の
この2つの条件さえ満たせるなら。
要は
…三代目様の救援を呼ぶ為に結界破壊に向かおうと考えていたが三班全員で対
それなら俺一人で行くよりも成算は高い。
ネジの絶対防御…八卦掌・回天なら一尾の攻撃も一発は防げるだろうし、テンテンの口寄せがあれば
その場合、三代目様の方は手つかずになってしまうが…
今後の行動をどうするか思考を回していると
「おめでとう、ネジ!」
テンテンの声で我に返った。
「おめでとう」
観覧席に現れたネジへ祝いの言葉を送る。
「あぁ」
片手を上げて軽く答えたネジが俺を見て少し躊躇いつつ問いかけて来る。
「…リー。アイツに教えたのか?」
…俺の方が先に使ってたし習得難易度から使い手が少ない術だから俺由来だと考えてもおかしくないのか。
「教えてない…俺も驚いたよ」
俺以外に使える下忍がいるなんてね。と続ける。
実際は俺が後追いなんだが…
「そうか…じゃあ他に教えられる奴がいるのか」
あのバカみたいな高等技術を教えられる忍が。と続けるネジに苦笑しながら答える。
「他にも何も…」
螺旋丸について最初期に教えてもらった相手はカカシ上忍だよ?
そう続けると納得した顔になるネジ。
…実際は自来也に教わったんだろうけど。
過去に俺が教わったと言う事実がネジの中でナルトの螺旋丸習得への道筋を作り上げる。
「勿論その時に実物を見せてもらってるから…カカシ上忍も使えるよ」
使い勝手が悪い、隙が大きい、チャクラ消費量も大きいと欠点を教えてもらった事を伝えると
「…流石はガイのライバルと言う訳か」
それくらい出来なければアイツと張り合える訳もないか。
そう呟くネジに頷くテンテン。
「コピー忍者のカカシ上忍と言えば有名人だもんね」
身体能力の化物相手に負け越しとは言えほぼ五分五分の勝率を維持できるのは十分化物だよね…と苦笑するテンテン。
「…コピー忍者か」
何かを考え込みながら呟くネジ。
うちはでも無いのに写輪眼を操る忍。
それも木の葉の里の上忍として。
「厄ネタにしか思えないよね…」
声を潜めて呟くテンテン。
サクラは医務室に向かったのか不在だが、他の連中に聞かれるのもよくないだろう。
「…まぁ、色々想像しちゃうよね」
実際は友人から託された遺品の様なモノで別に暗い理由なんてものは無いのだが…そんな事を言う訳にもいかず適当に相槌を打つ。
写輪眼は白眼と双璧を成す木の葉の血継限界だし、既にうちは一族が壊滅状態のため保有しているだけでも厄ネタっぽく感じても仕方がない…カカシ先生はうちはじゃないし。
木の葉の歴史的に写輪眼の方に価値を見出す連中も多いからなぁ…一族の秘伝中の秘伝とは言え上位互換に至る方法を失伝せずにいられてるからヤバさでは白眼を優に超えるのは間違ってないんだが。
万華鏡写輪眼とかチートにも程があるだろ…
理よりも情で動く集団の内、写輪眼を開眼した上澄みが
木の葉最強のメンヘラ一族はコントロールするのも難しいだろうし…それに関しては歴代の火影達の失策が重なった結果とも思えるが、ならどうしたら良かったのかと問われると難しい。
里を成立するタイミングで族滅、もしくはガッツリ首脳陣に抱え込んで里に情を抱かせ続けないと…なんて、考えても仕方のない事だが。
里に不満を持った連中が増えるとそこで結託しやすいから後者は難しいか…運営視点で考えるとつくづく味方にし続けるのが難しいのに、敵に回すと超厄介な扱いにくい一族である。
そんな事をつらつらと考えていると
「…詮索は止めておこう…変に穿り返して痛い目を見たくはない」
うちはの大虐殺は里の闇に等しい。
それに伴ってうちは関連の話題は自然とタブー視されているのだから。
そう続けたネジが試合会場へと目を向けながら話を変えるように話しだす。
「…また整備し直しだな」
八卦掌・回天と螺旋丸による影響で地面が抉られ、ボコボコになった地面を見て呟く。
「実戦想定って話だしそのまま続けるんじゃない?」
ほら…とテンテンの指差す方向で審判役の忍が中央に立って次試合の選手を読み上げ始めた。
「第二試合、山中イノ対油女シノ!」
山中家のお姫様と油女家の跡継ぎの試合とあって会場のボルテージが上がる。
「頑張ってね」
「任せときなさいっての!…シカマルは次どうするのか考えときなさいよ?」
「面倒くせぇ…ま、程々にな」
チームメンバーの応援に答えながら降りていく山中いの。
シカマルは…座禅を組んでるのか。
「…凄い集中力。何考えてるのかちょっと気になるわ」
この喧騒の中で微動だにせず思考に集中出来るのはシカマルだけだろうね…
「ま、今は目の前の試合に集中しないとだけど」
ナルトがあれだけやれる様になってたんだから他の子も奥の手を用意してるでしょ。と続けるテンテン。
「…始まるぞ」
ネジの声に全員が試合会場へ集中し始める。
「意図的な殺しは無し、俺が不味いと判断したらその場で終了だ…準備は良いな?」
「もちろん」
「問題無い」
「試合開始!」
審判の合図とともに距離を取る油女シノ。
「悪いことは言わない。早めに降参する事だ」
俺達の術は一般的に女子ウケが悪い。と続けたシノから大量の蟲が霧のように広がる。
「うわぁ…」
テンテンは鳥肌が立った腕を擦っている。
蟲が嫌いなのか…いや、演習じゃそんな素振りを見せなかったから大量に湧いてるのが無理なだけか?
そんな疑問を他所に
「…チャクラで操作する蟲か。油女家の常套手段だな」
ネジは冷静に白眼で確認した情報を共有してくれる。
「面倒な…全部吹き飛ばせるレベルまで鍛えれば問題無いだろうけど」
今の俺だと1〜2割は打ち漏らしそうだ。
まぁ見た感じ速度はそれ程でもないから今のままでも逃げるだけなら余裕っぽいが。
そう続けると、蟲から逃げ回っている様子を見ていたネジが呟く。
「仕掛けたな」
ビクリ、と揺らいで動きを止める油女シノ。
対する山中いのは体から力が抜けた様に崩れ落ちた。
「…心転身の術か」
決まりさえすれば大抵の相手を一方的に倒せる幻術系統に属する秘術。
幻術とは相手のチャクラの流れに気づかれない様に合流して自身に都合の良い方向に
チャクラを誘導して対象に幻覚や幻聴、果てには思い込みでダメージを与える事が出来る。
でも心転身の術に関しては話が別だ。
「幻術系統ってだけで本質は別だよねアレ…」
広義的に幻術の一種として公表されているのを知って首を傾げたことを思い出しながら呟くと。
「…?幻術ならそうと気づけば解けるでしょ?」
アカデミーじゃそう習ったけど…
疑問を浮かべたまま聞いてくるテンテンに答える。
「普通の幻術ならね」
幻術を解くには主に二段階手順を踏む必要がある。
第一に、自身にかけられた幻術を解く際は自分が幻術に掛かっていると
幻術に掛けられた時点で自分の認識が狂っているのにそんな事が出来る忍は手練に限られる。
熟練の幻術使いなら"こちらに都合が良い"幻術を見せている間にあの世逝きにされてしまう事が多いらしいし。
第二に、その上で意識的にチャクラの流れを乱す。
態々自分が有利な状況でそんな隙を作るような真似が出来るかと言う話だ。
仲間に解いてもらう場合も同じ、外部からチャクラを流し込んで強制的にチャクラを乱すのが一般的な解法になる。
「一対一で初見殺しが容易な忍術筆頭は幻術だと思うよ」
原作ではいまいち影が薄い印象だが…それは最大手が
…万華鏡写輪眼の場合は普通の幻術とはまた別のやり方っぽいのも幻術の影を薄くするのに拍車を掛けたんだろうけど。
「自分の認識では夢を見てる感覚に近い状態になるからな。途中で気づければ御の字だが…そもそも掛けられない様に立ち回るべきだろうよ」
…白眼なら幻術をかけられても相手のチャクラ流れを見れるから先に対処出来そうだし、ネジと行動を共にしている内はそこまで脅威じゃないと思うけどね。
そうこう話している間に油女シノの蟲達が霧散する。
うわぁ…壁一面に止まってるから斑模様になっちゃってるよ…観覧席からも悲鳴が上がっている。
精神的に負荷を掛けるって意味でも優秀だな油女の家系忍術。
そんな事を考えているとネジが続きを話しだす。
「
眼前の静かな戦闘を眺めていたネジがジッと見つめる先で。
フラリと倒れた山中いのを目の前に両手を上げる油女シノ。
「…どういう意味?」
疑問が増えたんだけど。と聞いてくるテンテンに答えるネジ。
「文字通り他人を乗っ取る術だからな…気づく云々の話じゃない」
ネジの言った通り心転身の術は他人の身体を乗っ取る秘伝忍術だ。
外した時と対多数では使い道が限られるデメリットを考えると妥当ではあるが…
術に掛かった=乗っ取られているのだから自分からチャクラを乱すと言う第二段階がそもそも行えない。
原作では相当な実力差がある相手だと弾かれた様な描写が有った気がするが…この試験中でそれを出来るとしたらネジやナルト、後はサスケ位なものだろう。
…心転身は幻術じゃなくないかな?とも思うんだけど…他人のチャクラに迎合して操作すると言う一点においては一致するからカテゴリーとしては幻術扱いなんだろう、多分。
それはさておき、対抗できない一般忍が
「心転身の術は
「本人の意識が有るのかは不明だが…掛かった時点で勝負が確定しかねない初見殺しだな」
試合会場を眺めながら答えたネジが
「…一対一だったらの話だがな」
あれはもう相性だな。と続けると同時に両手を上げたシノの指先に蟲がとまった。
「成る程。油女家の秘伝忍術か」
蟲を操る家系忍術なら幻術対策も万全と言う訳か。
此処からではよく見えないが、指先を噛まれた瞬間に自身を取り戻した様に見える。
「本体…油女シノに何か異常があった際に発動するタイプか」
白眼でチャクラの流れを追ったネジが解説してくれる。
「指先の蟲からチャクラが流れ込んだタイミングで経絡系に混じった山中いののチャクラが弾き出されてる」
倒れた山中いのの意識が戻ると同時に壁に張り付いていた蟲達の制御を取り戻した油女シノが包囲させた。
「うわぁ…間近じゃなくて良かった…」
虫球に閉じ込められたいのを見て呟くテンテン。
「まだやるか?俺は構わないが」
「…あーもう!降参よ降参!」
まぁあの状況に持っていかれたら心転身の術じゃ無理だよね…と呟くと同時に会場が湧いた。
「良くやったシノ!」
「お、おめでとう!」
犬飼キバとヒナタさんが喜びと共に祝福の声を上げている。
「あー…まぁ、相性が悪かったよね」
「仕方ねぇだろ…基本的に指揮官向きなんだからよ」
秋道チョウジと奈良シカマルは残念そうだが納得した様だった。
互いに怪我なく終わったからか、すぐに観覧席へと引き上げてくる二人。
其々が班員の元へ戻って喜びと悔しさを共有する中、次の組み合わせが呼び出される。
「第三試合、奈良シカマル対テンテン!」
「私の番ね」
立ち上がったテンテンに緊張の色は見えない。
「…注意しろ。油断していい相手じゃないぞ」
「頑張ってね、テンテンさん」
俺達の言葉に
「分かってる。…じゃ、行ってくるわ」
そこで見てなさい…私が勝つから。
テンテンは俺を見つめながらそう言って背を向け、そのまま観覧席を後にした。
次はお前だ。と言わんばかりの目だったな…
「宣戦布告か。アイツも変わったな」
出会った時はここまでやる様になるとは思わなかった。と感慨深く呟くネジ。
「元から才能はあったよ?」
素質が有ったから
そんな事をつらつらと述べると
「…お前の影響も多分に含まれてるだろうが」
技術開発の共犯者が何を言ってんだ…?と睨まれた。
それを言うなら主な対策相手であるネジも助長した原因だと思うんだけど…?と睨み返す。
観覧席の緊張が高まる前にどちらからとも無く笑い合って雰囲気が弛緩する。
「そうかな…そうかもね」
確かに連続式や互乗式の取っ掛かりになったのは俺からかも知れない。
「でも使い方を考えたのはテンテンさんだよ」
それは純粋に彼女の努力の結晶だ。
そう答えると互いに試合会場へと目を向ける。
自然と全員の目が試合会場へと向いて静かになった。
シカマル視点
考え事をする時にいつも行う癖で両手を合わせて目を閉じる。
頭の中でシュミレーションを行う事、累計100回以上。
大抵の場合は初手で嵌め殺される目にあったが数パターン勝ち目が生まれる状況を見つけることができた。
「…これなら、まぁ」
やれなくもないか?と呟くと合わせていた手を解く。
目を開けた時、目の前にいるアスマと目が合った。
チョウジとイノは応援席で応援のため居ない。
…今は試合会場へ続く通路だから当たり前だが。
『頑張ってよ!アンタはやれば出来るんだから!』
『程々にね〜』
別れ際に掛けられた応援?の言葉を思い出して溜息を吐く。
(あの化物共に比べればまだマシとはいえ、だ)
あの女予選じゃ手加減してやがったんだぞ。
砂隠れのテマリは決して弱い相手じゃなかった。
風遁をあそこまで使いこなせる下忍なんていてたまるかよ…
そんな相手に本来なら苦無が刺さった時点で始末出来たのに態々殺さない様に気を使うだけの余裕が有った…今回も同じ様に余裕を見せてくれりゃ良いんだけどな…
「…準備は良いか?」
アスマから気遣うような言葉を掛けられた。
「一応な。あぁ…メンドくせぇ…」
なんで俺があの化物三班とやり合わなきゃならないのか。
「…近接戦闘組じゃないだけマシだけどよ」
先程も考えた事だがもしこれがロック・リーや日向ネジ相手なら即降参レベルだった。
あの化物共相手じゃ身体能力に開きがあり過ぎてどうにもならねぇ。
でもあの口寄せ女が相手ならまだやれなくもない。
(明確な隙…とも言えないが)
予選を見ていて気づいたがあの女はこれで勝ち切ると決めた瞬間にそれ以外への注意が極端に薄くなる。
(組手の相手を考えるとそうなるのも頷けるが…)
普段から
一瞬でも勝ち目を作ったならそれに全力を傾けて押し切る以外に無いと言わんばかりの攻勢。
自分が防御に回った瞬間に全てひっくり返されかねないから。
だからこそチャンスを掴んだら脇目も振らずに殺し切るスタイルになったんだろう。
俺でもそうする…俺の場合はそうした所で勝てるかどうか怪しいもんだが。
何にせよ予選では最後の詰め…麻痺毒の苦無で刺した後大岩で封じるまでの間は周囲への警戒が薄れている様に見えた。
詰める時だけは防御への意識が薄くなる。
それが唯一つけ入ることのできる隙になる…かも知れない。
「…負けるわけにゃ行かねぇだろ」
それが端から見れば大したことのないプライドだとしても。
…柄にもなく、応援されて応えようとしているのだとしても。
テンテン視点
降り立った試合場を軽く見渡して状態を確認する。
真ん中は拓けてるけど外周に少し木々がある演習場みたいな造りだ。
まぁ、観てて分かり易い様にするならこう言う形になるのも分かるけど…
「これじゃ逃げ隠れしながら戦うのは難しいね?」
目の前に立つ相手…奈良シカマルに話しかける。
「…そうだな。俺みたいなタイプにゃ向かい風だ」
面倒くせぇ…と呟くシカマルに
「そんな事言って準備万端なんでしょ?」
何にも用意しないで来るとは思えないし。
「どうだかな…さっさと降参するかもしれねぇだろ」
何処か上の空な様子で答えるのを見て警戒度を上げる。
話してる間にしれっと周囲に視線を走らせてる奴が降参する訳ないじゃん。
「そうするつもりならそもそも此処に来ないでしょうに…」
苦笑しながらポーチの蓋を開ける。
そこにある巻物と忍具を指先で確認する。
「…ま、やれるだけやってみるか」
一つ手合わせ願うぜ先輩。と私を見るシカマル。
よく言うモノだと感心する。
言葉ではやる気無さそうにしているけれど戦闘前に過度な緊張もなく、自然体な様子を見れば分かる。
予選で一方的に手の内を知られてるのがどう響くか。
私も
分の悪い賭けじゃないし、負けた所で取り返しがつく様にしてはあるけど…その分アドバンテージを取られるのは確実だろうなぁ…
何にせよ舐めてくれてた砂隠れのテマリと違って最初から警戒されてるのは向かい風、でも
「厄介な後輩だこと」
「アンタに言われたくねぇよ」
フン、と鼻を鳴らす姿に仲間の姿を重ねて思わず苦笑が漏れる。
「本気で行くから。死なないでね?」
積極的に殺すつもりは無い。
でも
多少のブラフも混ぜて口に出した言葉に
「怖ぇなオイ…」
俺はあんたらと違って普通だってのに。
そう嘯くシカマルと私の間に立った審判役の忍が問いかけてくる。
「…勝負が着いたと判断したら止めに入るぞ。準備は良いな?」
周囲のざわめきが少しだけ遠くなり、周りの音が何となしに耳に入ってくる。
…うん、良い感じに集中出来てる。
「勿論」
「面倒くせぇけど…やるしかねぇか」
互いの言葉を聞いて頷いた審判が手を挙げる。
観客の声が静まり返った。
「始め!」
審判役の忍の言葉と共に距離を取るために後ろへ跳びながら引き抜いた巻物を広げる。
「口寄せの術!」
相手が影を使うと知って使用するのを止めるべきか考えてはいたが…何にせよ一度相手の術の仕様を確かめないと戦い方を決められない。
そのために渡らないと行けない綱の一本目。
視界が大岩でふさがる直前で相手が印を結んでいるのが見えた。
急いで印を結び大岩が着弾すると同時に岩裏で影分身を行う。
大岩の影からはみ出した私の影にシカマルの影が延びてきて繋がった。
「影真似の術、成功」
その声と共に自分の意思で動かせなくなる身体に諦めが混じった声を出す…内心では安堵しながら。
「ありゃま…これはちょっと不味いかも」
横にズレるように歩くシカマルと同じ動きで私の意思と関係なく、強制的に歩き出した足が大岩の影から私を離れさせた。
影真似の術。
影が繋がった相手を強制的に行動不能にする秘伝忍術。
詳細こそ分からなかったが…実際に体験して分かった。これは凶悪な初見殺しだ。
これが秘伝忍術…血継限界じゃないのが信じられない。
目線で周囲を確認して逸れそうになった思考を戻す…目は動かせるのね。
延びた影は私の出した大岩の影を経由している。
最初の賭けには勝てた…これなら凌げる。
思考を回しながらも足は勝手に動き続けた。
…自分の意思じゃなくて動かされてる感覚って新鮮だわ。
「アンタには速攻じゃなきゃ何されるか分かんねーからな」
悪いがこれで終わりだ。と少しずつ距離を詰めてくるシカマル。
それに合わせて私も前に進む。
「すごいねコレ…全然身体が動かないや」
秘伝忍術じゃなければ是非とも教わりたい位、と笑いかける。
笑う私を訝しげに見るシカマルが何かに気づいたように
「お前…っ!?」
驚きの声と共に私を見ると同時に大岩の陰に残された私が大岩を送還。
影の中にいる私と外にいる私、どちらを優先して捕まえるのか?
今回は外にいる私を捕らえた訳だけど…これは影の中なら対象外になると考えても良さそうだね。
距離的には影の中にいた私の方が近い位置にいた訳だし。
仕様の一つは判明した。じゃあ次は?
大岩の影を経由して伸びていたシカマルの影が私の影と分離して体の自由が戻ると同時に懐に忍ばせていた起爆札を投げ捨てる。
接続した影が消えた瞬間に動けるようになった…影による射程の延長も確定と。
起爆札の爆発を目眩ましにしつつ。
口寄せで沼を呼び出して地面を泥沼に変更する。
それと同時に大岩を送還した私が苦無を投げつけた。
…苦無で迎撃されちゃったか。
流石にこれで決まるとは思ってなかったしいいけど。
その隙に追加の口寄せを行いながら距離を取ったシカマルを見る。
思っている以上に警戒されてるなぁ。と内心でため息をつきながら
「…うん、大体分かった」
沼の上を滑るようにシカマルの元へと戻る影を指差す。
影分身をゆっくり逆サイドに歩かせながら。
シカマルは移動する影分身と私を視界に入れ続けられる様に更に距離を取る…その距離なら影真似はできないでしょ?
「大体20mってとこかな」
口寄せした大岩を送還した時に伸びていた所までが最大値だとするなら、だけど。
後は仕様の二点目。
「他の影を経由すればその分距離が延びる感じ?」
大岩の影から切り離された影を見た時いきなり短くなってたし。
そう続けると苦々しい顔になったシカマルが呟く。
「…お見通しか」
「賭けだったけどね…影を扱う秘伝忍術の使い手、奈良家の次期当主。シカマルで良いよね?」
…全部負けた場合は影分身に持たせた起爆札で強制的にリセットする予定だったけども。
使わずに済んで良かった…と内心で呟くと。
「自己紹介は要らないってか。態々ご苦労なこった」
俺みたいな雑魚相手によ…と若干不貞腐れた顔で答えるシカマルに。
「強い奴の事を調べない訳なくない?」
と続けて再度巻物を広げる。
シカマルはそれを見て即座に取り出した手裏剣を投げてくる。
「そりゃ過分な評価だな!」
…影に何か仕込んでる様子はない、か。
それらを反対側の手に握った苦無で撃ち落としながら。
「あの時私のやってた事を全部見通してた下忍は数人だけだった」
ネジと赤銅ヨロイ…それと君。
「警戒するに決まってるでしょ?」
笑いかけると小さく舌打ちを漏らすシカマル。
「…あの状況で周囲を見てたってのかよ」
想定以上の
…これでフィールドは整った。
「失礼なやつ…一応女の子なんですけど?」
自分は膝下まで浸かった状態のまま笑う。
上手く行ってくれると良いんだけど…
「全体的に足元を覆う沼…泥か」
「毒の類いじゃ無さそうだけど…」
会場がそれなりの広さだから出来る方法だね。と続ける秋道チョウジに山中いのが答える。
「自分から出したくせに嵌ったままにしてるのは何故?」
何か企んでるのは間違いないけど…自分が嵌ってる意味が分からない…と呟く。
「…なんでだろう?」
でもあの第三班の破壊魔が作り出した状況だし…考えなしって事はないでしょ。
そう続ける秋道チョウジの目は何時になく真剣で。
今も睨み合ったままの二人を見ている。
シカマルの班員が話しているのを聞いて思わず少し目を見開く。
私、破壊魔扱いされてるの…?
被害規模で言うならリーもどっこいどっこいだと思うんですけど?
これが終わったらちゃんと訂正しておかないと。
そんな事を考えながらもやっぱり何か仕込んでるのはバレてるよね、と苦笑を漏らす。
まぁ、最悪は
その為の見せ札は決めてある。
それだけで勝てるならそれに越したことはないけど…多分無理だよねぇ…
最後の最後まで狙いがバレないように、丁寧に詰みまで持っていかなきゃいけない。
正直通じるかは五分五分だけど…ここまで整えられれば本命さえ見抜かれなければ十分勝てる。
そんな事を考えながら油断なく構えるシカマルへと手裏剣を投げつけると。
「そんなもんが通じるかよ」
空中で撃ち落とされた。
「アンタの投げた物を近づかせる訳にゃいかねぇ」
何が出てくるか分かったもんじゃねぇからな。と続けるシカマル。
流石にバレてるか…と苦笑を作りながら答える。
「やっぱやり辛いね」
弾かれた手裏剣が沼に沈む。
中間より私よりか…想定よりも反応が良い。
相手の能力を上方修正しながら次の手を打つ。
「じゃ、これはどうかな?」
分身体が手裏剣を投げる。
「舐めんな」
注意を逸らす訳ねぇだろ。と迎撃のため投げられた手裏剣で迎撃される前に影分身の私が印を結ぶ。
「手裏剣影分身の術」
投げられた手裏剣が二枚、三枚…十枚まで増えた。
それと同時にチャクラを使い果たした分身体が消える。
先頭の一枚だけ弾かれて沼に落ちるが他の九枚はシカマルへと殺到する。
手裏剣影分身の術。
三代目様から教わったこの術は私の思っていた以上に難しく、想定していた使い方はできないものの使い勝手は大変良いものだった。
つまるところこの術は見た目を似せた影法師を作るような物で口寄せの印を刻んだモノを複製してもコピーからは口寄せ出来ないのだ。
これが物質を増やした際の影響か、はたまた契約の縛りがあるからかは不明だが…少なくとも今の私には不可能だった。
それを知った時は少しガッカリしたものだが…どんな術でも使い方次第で鬼札に化ける、とリーが言っていた様にこの術も使い方次第である。
「…ッ!?」
咄嗟に回避するシカマル…避け切られたか。
もっと投擲術も鍛えないとなぁ…
「おぉ凄…でも、そこからどう避ける?」
口寄せの術、と呟く声と共に避けられた口寄せの印が刻まれた手裏剣から投網が放射状に広がった。
影分身もそうだがこの術の真骨頂は本物と寸分違わぬ偽物を作れる事だが…副産物である増やす場所を自分である程度指定出来る点がこの術の使い勝手をグンと良くしてくれている。
今回であれば影分身が出現する座標を本体の少し前にすることで本命を押し付けることに成功した訳だ。
「クソッ…」
メンドくせぇ!と沼に沈み込みながら避けるシカマル。
咄嗟に足に回してたチャクラを切って膝下まで沈む事で回避するためのスペースを確保したのか。
咄嗟の判断が速い。
単なる頭でっかちじゃない。そうであったならもっと楽だったんだけど。
でもそのおかげで術を使う隙が出来た。
「じゃ、次」
影分身の術。
私の横に十人の私が増えた。
「「「「「人数差って正義だよね」」」」」
増えた私達が沼の上に立ちながら全員で笑いかけると引き攣った笑顔を見せるシカマル。
「…それは反則じゃねぇか?」
目が足りねぇよ…と引き攣った顔でため息をついた。
「アレはどういう絡繰り?」
テンテンさんが影分身で増やせるのは三人までだったよね?と横に居るネジに問いかけると。
「…大胆な真似をする」
少し感心した様子のネジが白眼で確認して思わずと言った感じに笑う。
「…確かにそれならチャクラ量は問題無いだろうが」
動けないデメリットと釣り合うかと問われれば微妙な所じゃないか?と続ける。
「あぁ、
でもパッと見た感じどこにも無いけど…と呟くと
「沼の下だ」
沼に嵌ったままにしてる奴の左足付近に柄がある。とため息交じりに教えてくれる。
「態々呼び出した沼に嵌ったままになってたのはそのためか」
口寄せした泥の中なら追加で呼び出した
態々足を取られる沼に嵌まろうとする間抜けはそうそう居ないし。
思わず感心すると同時に呆れるほど現実主義だなぁ…とも思う。
「三代目様が言ってた通りなら秘宝扱いでもおかしくない物を足蹴にするとは…」
柄に触れてさえいればチャクラの還元は行われる。
だったら別に手で持たなくても良いよね?と言った感じだろう。
沼に沈めたのは長すぎる刀を目の前に出しておくと簡単に対処されてしまうからだろうけど…
「テンテンさんらしいと言えばらしいね…相変わらず思い切りが良い」
希少品と知って喜んでたにも関わらず躊躇いなく泥沼に沈めて足で触れれば良いじゃん!と考えて実行出来る辺り使えるなら使っとこう位にしか思ってなさそうで。
そう続けるリーに対して。
「…本人はそれどころじゃ無さそうだがな」
ネジは呆れた様な声で返した。
それに対してリーは不思議そうな顔をしたがネジはそれ以上口を開くことはなかった。
…ネジの言った通り今の私の左足付近には延ばしたチャクラ刀…草薙の剣が埋まっている。
左足で踏み…接触している部分から使った端からチャクラが補充される状態になってる訳だけども。
(うーん…結構使っちゃったな)
感覚的に事前に貯蔵したチャクラの半分位は使ったと思う。
この後を考えるとこれ以上の消費は抑えたいところだけど…相手がそれを許してくれるかどうか。
先の事を考え始めた思考を切り替えてシカマルへ話しかける。
「じゃ、後は数の暴力で畳み掛けるから」
「避けれるなら避けてみて」
「ほぼ全方位からの連撃を」
「全部対処出来るのなら、だけど」
口々に言うが早いか散った私達からの手裏剣、苦無が投げられそうになっているのを見て。
「メンドくせぇ…!」
影真似の術…!
一番近い位置に居た私の制御が奪われた。
投げる寸前にシカマルとリンクした動きで横を向かされる。
「おぅ!?」
「は?」
「嘘でしょ…!?」
影分身投げた苦無が隣にいた分身とその背後にいた分身に刺さり、シカマルが投げた苦無が別の分身体を傷つけて二人の私が奇妙な声と共に煙になって消えた。
我ながら間抜けな最期だなぁ。
でもまぁ…
「はい、回収」
更に暴れさせようとしている影を囚われた分身を消してチャクラを回収、情報と共に本体へと還っていく。
対象の居なくなった影が所在なくシカマルの元へ戻った。
影真似の術への対策として考えていた策の一つが嵌った事に満足感を覚える。
影にとらわれた対象が消えた時にどうなるのか…先に抑えつけられている分身は消せないのか、それとも消してスカせるのか。
本体が捕らえられても影分身に口寄せさせれば逃げられるかも、と考えていたけど…これは仮説が正しそうだ。
「いい性格してるぜアンタ…!」
満足そうに微笑む私に舌打ち混じりで答えるシカマルがそう言うと同時に少し空いたスペースに身体を捩じ込むように飛び退いた。
少し距離が詰まったか…警戒しておこう。
「一瞬で三人持って行った奴に言われてもね?」
持って行った動きを見る限りじゃ反射的に動いた感じじゃなくて純粋に決断が速いタイプだ。
『私ならこうするだろう』と予測した行動を元に動いてる感じ。
影分身に投げさせた苦無で一体始末すると同時に自身が投げた苦無で他の分身体を撃破、隙間を作って私達の攻撃から回避しきったその手腕。
思っていた以上にやり難い。
嵌めて殺すなら初見殺しでどうにかなるだろうけど…あの二人以外に使ったらミンチになっちゃうかも知れないしなぁ…
再度水面歩行の原理で沼の上に立つシカマルへ残った六人の私が集中砲火を浴びせる。
「距離に気をつけてねー」
「はいはい、分かってるっての!」
うーん…自分と話すって変な気持ちになるわ。
流石に六人がかりでは全部撃ち落とすのは無理な様で基本的に回避する方針に変更した様だ。
「チッ…!」
距離を詰めようとする度に他の私から邪魔が入って思うように動けないシカマルが舌打ちを漏らす。
でも距離が離れてる分有効打を与えにくくなっちゃったのは私も同じ。
このままじゃ先日手…時間が掛かればそれだけ私のリソースが削られるけど、その分撒いた布石は多くなる。
シカマルがそれに気づいてない訳もないし…状況は良い感じに煮詰まってきたかな?
シカマル視点
(あんま良くねぇ状況だな…)
砂隠れのテマリとの試合の時とは別物、作戦なんて無いと言わんばかりの物量戦術…に見せかけた詰将棋。
先程から投げられる苦無に混じっている
「大岩は…流石にもう使ってくれないか」
思考を回しながら小さく呟く。
影真似の術が使いやすくなるから地形変化でもあれだけは大歓迎なんだが。
初手で本体を絡め取るのにミスったからか警戒されてる…いや、最初の奴も影真似の仕様を確かめる為に撒いたブラフだったな。
ギャンブラーなんだか合理的なんだか…と溜息を吐きたくなるのを我慢しながら思考を回し続ける。
影真似の射程距離も把握されたし…俺のチャクラもトドメで使う分以外はそこまで残ってない。
「ドンドン行くよー」
ハイ次!と連射してくる手裏剣を撃ち落とす。
手持ちの忍具も心許なくなってきやがった。
口寄せの印が無い奴を拾って
影分身を十体も出せるとかチャクラ量も化物なのかよ…と辟易するが何かが引っ掛かる。
…そういやあの女、なんで動かねぇんだ?
沼の口寄せは俺の機動力を封じるためかと思っていたんだが。
実際には機動力を封じられてるのは嵌ってる自分の方…つまり。
(水面歩行を
態々沼に嵌ったままになってる理由が。
チャクラの消費量か?
影分身の術に関しては聞いたことがあるが…アレは等分する性質上、まともに運用するには一定以上のチャクラが必要になる。
(あり得なくはないが…)
チラリと投げた苦無で弾いたモノを見る。
(口寄せ…遠隔起動する奴には印がついてる)
分かりづらくされてるが柄の部分に僅かな差異がある。
(…地雷原にするつもりだろうが)
口寄せの起動にも当然チャクラを使用する。
質量や生物か無機物かで大きく変わるって話だから大量に一斉起爆する気なら少しでも節約しておきたいってのは分からなくもないが…
雨霰と投げつけてくる苦無の中に忍ばせた口寄せ用の苦無。
狙いを外れた先は沼地…当然沈む。
見分けが付くとはいえそれは見えていればこそ。
見えなくなったなら話は変わる。
その場で使わないのは有効打に成らないから…後は俺の陣地を削る目的もあるか。
(時間が掛かるとドンドン増えやがるからな…)
既に周囲に埋まった不発弾は十や二十ではきかない。
(何が出てくるか分からねえモンが埋まってる所にゃ近づけねぇ)
動ける範囲がジワジワと削られていく。
事前に考えてた以上に不味い状況だ。
内心で苦虫を噛み潰した様な気持ちになっていると視界の端でボンッという音と共に影分身が一人消えた。
…自爆、じゃねぇな。あんな所で自爆する意味がない。
その際に何かを撒いたって訳でもないから単純に一人消したってだけのデメリットにしかならない行動だ。
(一体何の為に?)
影分身は等分して作る特性上、増やした分だけ分配されるチャクラ量は少なくなる。
維持にもチャクラを使う関係上、増やせば増やすほど脆い分身になるが…一体だけ消えたのが気になる。
限界を迎えたって言うならチャクラを等分されてる他の影分身も同時に消えるはず。
さっきみたいに影分身が術を使用している訳でもないなら維持に掛かる消費は全員同じ…ならば。
(無理に維持する事を考えず、本体に還元することで消耗を最低限に抑えようって腹か?)
沼に嵌ったままの本体が軽くふらついたのを見て推測する。
随分消耗してる様に見えるが…限界まで影分身を出してるなら頷ける。
また一人消えた。
用意した弾が切れたやつから回収してる可能性もあるが…何を仕込んできてるのか分からねえ相手に考えすぎって事はないだろう。
それでも反撃のチャンスなのは間違いない。
僅かに伸びた自分の影が沼の上で揺れるのを確認して。
まだ勝ち目はある。
最初に見せた影真似の術、その射程距離に頑なに入ろうとしない相手を嵌める一回限りの策。
作戦に気づかれてたらアウト、これまでの布石に気づいてなくてもアウト。
相手の能力次第の丁半博打で嫌になるが…今、俺の勝ち目を最大にするならこれしか無い。
(信頼してるぜ…先輩)
用意した奥の手をさり気なく握り込む。
…次に影分身が消えたタイミングで仕掛ける。
静かに覚悟を決めて機会を待つ。
腰の後ろのポーチに仕舞っていた苦無を握る。
(ここまで粘られるとはね…)
予想以上に手強い。
身体能力はそこまで高くない…体術においては私より少し強い程度。
でも判断する速さと正確さ…頭の回転は私の数段上だ。
影分身による波状攻撃を凌がれつつある現状に想定以上の相手だと再認識する。
当初の計画では。
口寄せと同時に影分身、大岩の陰に隠れて自身の影ごと隠す。
事前に考えていた影縛りの術理が正しいと仮定した場合、どちらが囚われても良いように影分身に口寄せの巻物を渡しておけばどちらが捕らえられても一回だけは回避出来る…実際にそれは成功したし、そこまでは予想通りだったのだ。
そうでなくても影分身が残れば不意討ちで大岩を落とせば隙は出来ると踏んでいた。
後はその隙をついて沼を口寄せ、チャクラ刀を隠して影分身体を大量に出して物量で押し込んで試合終了…もしくは焦れて勝負を決めにきたシカマルを狩って既に勝利しているはずだった。
予想以上に粘られた結果、私の時間切れの方が早く来る可能性が高くなって来た。
「そういえばさ…なんで気づけたの?」
最初の大岩を消した時。
私が消す前に気づいて次の攻撃に備えていた。
最初の勝ち目を潰された時の事を問いかける。
答えは期待してなかったけど意外にも答えてくれるシカマル。
「…アッサリ諦めた割には降参しなかっただろ」
アンタは無理ならそう言うだろうからな。と続ける。
「何か仕込んでんのが丸わかりだ」
その間も投げ続けられる苦無を撃ち落とし、回避している。
うーん、やっぱり口寄せ用の奴だけはシッカリ弾かれてるなぁ。
あ、また一人持ってかれた。
逃げるだけじゃなくて反撃する手腕もある。
喋りながら良くやるものだと感心するわ。
「そっか…反省しなきゃだね」
演技力かー…と軽く頬を掻いて続けた。
「でもこれで大分不利になったでしょ?」
攻撃に混ぜ込んだ口寄せの印が刻まれた苦無が地雷の様に埋まっているお陰でシカマル側は殆どスペースがない。
この先の試合を考えると私のチャクラもそろそろ限界だ。
「どうかな…降参する?」
苦無を握りしめて確認を取ると軽く周囲に視線を走らせるシカマル…影分身の数を確認してる?
既に私を含めても四人しかいないけど…それでも私の優位は揺るがないよ?
「そろそろか…」
小さく呟いたシカマルが印を結び始める。
…距離的にまだ届かないし、何よりもそんなモノを見逃す訳にはいかない。
影分身と一緒に投げた苦無がシカマルへと迫る。
シカマルは咄嗟に苦無で迎撃しようとするけど…此処からは一気に詰める。
「口寄せの術!」
ボンッと言う音と共に投網を射出した。
シカマルの投げた苦無が投網に絡まるが…勢いが少し緩み、たわんだ程度で変わらずシカマルへ巻き付きに行く。
「…ここだな」
反対の手に持った玉の様な物を投げつけながら下がるシカマル。
投網に当たった瞬間、ボンッと言う音とともに現れた煙に軽く舌打ちを漏らす。
「煙幕?」
古典的な…と呟くと同時に口寄せを起動。
眼前に大岩を呼び出して盾にすると同時に埋設した口寄せ用の苦無から起爆札を呼び出す。
こんな風に使う予定じゃなかったけど…視界が塞がった時点で何かするつもりだろうから。
周りごと爆破して一度リセットする。
ゴメン、と内心で謝りながら爆風に備える。
爆発音が岩の裏から響き渡った。
予定とは違う使い方をさせられたけど、結構な範囲を吹き飛ばしたし流石にダメージは入ったはず…手足の一本は使い物にならなくなっててもおかしくない。
シカマルの作戦は恐らく今の煙幕で私の視界を奪って距離を詰める算段だと思われる。本体を影真似で縛ってしまえば後は残りの影分身を最初と同じように始末すれば良いだけだし。
でも近寄るなら
私に近づくなら確実に巻き込めるように形成した陣地だ。そう簡単には抜けられないし、無理矢理抜けようとするなら手足の一、二本は使い物にならなくなるはず。
(ま、そうでなくても次で終わるだろうけど)
周囲を警戒しつつ煙幕と爆発の煙が晴れるのを待っていると
「…信じてたぜ、先輩」
少し離れた位置から聞こえた声に向かって咄嗟に苦無を投げつけようとするけど…
「これで詰みだ」
その言葉と共に
影真似の術。
身体操作が不可能になるそれは問答無用で私の身体の制御権を奪った。
「…やられたわ」
思わず感嘆の声が漏れる。
煙幕が張れると同時に残りの影分身共々全員が縛られているのを見て思わず笑ってしまう。
「アンタは詰みまでの道筋が見えた途端に視野が狭くなるからな」
お陰で一発逆転だ。
「範囲外なら問題無いと判断してたんだろうが」
チラリと視線を下に向けると延びた影が最初に確認した時よりも延びているのが目に入った。
「影は日が落ちればその分延びる。時間さえ稼げれば自然と届く寸法だ」
「…成る程。それは失念してたね」
影真似の対象は一体限定だと思い込んでたのもこうなった原因か。
いや、
途中の不利を承知で芝居を打ったって訳だ。
素直に称賛する思いと羨望の気持ちが溢れ出す。
無法だなぁ…影真似の術。
思わず溜息を吐くともうやりたくねぇ…と呟くシカマルと目が合った。
「起爆札はどうやって避けたの?確実に巻き込んだと思ったんだけど」
爆破範囲は相当広くなる様にしてたはず。と疑問を浮かべる私に答えるシカマル。
「埋まってる場所は全部覚えてる。後はアンタ自身に被害が及ばない位置まで行けば事足りるだろ」
…あれだけの数を、全部?
驚愕している私に構わず続けるシカマル。
「煙幕で視界を奪っちまえばアンタのことだ。…俺が勝負を決めに来ると考えるだろ」
…大体あってる。
私には白眼の様な無法探知技能は無いし、距離を詰められた時に対処するための主な術はこの試験では禁止されてる。
だからきっと、私に勝つなら距離を詰めてくると思い込んだ。
試合中もそういう素振りを見せ続けてたから。
「やられたわ…」
これは言い訳出来ない。
試験中は
…それなしでネジやリーに近づかれた時点でほぼ詰みだからと対策を怠ったツケが回って来たってだけの事。
「分身を解け。勝負あっただろ」
そう言うシカマルに笑いかける。
私は負けた…それは確かだ。でもね?
「そうだね。これで…」
詰みだね。
そう呟くと同時にシカマルの背中に苦無が刺さる。
「なっ…!?」
お前…!と沼に膝下を埋めてる私を睨むけど…
「
ごめんね?と謝りながら私が消えていく。
やっぱり
愕然とした顔のシカマルに刺さった苦無から毒が浸透して倒れ込むと同時に刺さった苦無から投網を投射して絡め取った。
観覧席から動揺が広がるのを耳にしながら
「ようやく捕まえた」
沼の中に潜り込んで泥だらけになった顔を拭いつつ立ち上がる。
髪もドロドロだしもうやりたくないわ…と呟くと。
「…いつからだ?」
刺した苦無から展開した投網に絡め取られたシカマルが問いかけてくる。
麻痺毒だけじゃ拘束出来なかったねこれは。
流石に木の葉の忍相手じゃこの辺りで採れる毒は効きが悪い。
その内別の地方からも取り寄せないとなぁ…
それでいつからと言われれば…
「最初から」
最初に大岩を呼び出した時。
二人作り出した影分身の内の一人を本体だと誤認させた。
本体の私は大岩の作り出した影に身を潜めたまま。
「これは賭けだったけど…影真似の術って影の中にいると対象外になるんだね」
影を使うと知ってから色々考えた対策の一つ。
対象の影と他の物体の影が重複していた場合はどうなるのか?
影の中にいようが関係なく縛られるのか。
本人が認識していなければ回避可能なのか。
接続した瞬間に影の中にいようが問答無用に縛られるのか。
今回の様に完全に隠れていれば対象にならないのか。
それが最初にして最大の関門だった。
まぁ予想が外れてたらその時は別のプランで行くだけだったけども。
「後はまぁ…影分身の数と起爆札でタイミングを計ってただけ」
消える度に得られる情報を元に状況を把握するのは容易い。
その為に態々大量展開して徐々に還元した理由だし。
影分身のフィードバックは本体へ還る。
それは影分身が出した分身体も同様…一定時間ごとに一体ずつ消して私に情報を送る様にしてたって訳。
相手が勝ちに来た時は口寄せ用の苦無から起爆札を口寄せする様に決めてたからね。
そう続けると
「…影真似を食らった影分身はどうやって消した?」
見えてないなら咄嗟には無理だろ?と続けるシカマルに
「アレは私が消した訳じゃないよ?」
分身体が判断して消した。と本体と誤認させていた影分身を消した時に得られた情報から答える。
「影分身はもう一人の私。やれる事も考えることも全く同じ」
だから躊躇なく使い潰せる。
私ならそうすると断言できるから。
「君は頭がキレるからね…確実に勝つためには奥の手は最後まで取っておくしかなかった」
途中でも勝てるチャンスは有った。
例えば影分身が影真似を食らった時。
例えば少し前に煙幕を使う前でも同じ。
不意を打つだけならそこでもやれただろう。
でも…
「確実に勝つなら。私を詰ませに来る瞬間以外に思いつかなかった」
その為に色々用意した。
本体を偽装する影分身がチャクラ切れで消えないようにチャクラ刀の口寄せの巻物を渡したり。
私が限界に近いと誤認させる為にふらつく演技までさせた。
影分身を大量に出した後、情報共有の為に消していくのが不自然に映らないように。
初手で泥のなかに潜む為にこんな物まで用意してさ、と呼吸用の竹筒をプラプラと振る。
「沼の中に潜伏した私の近くに来ないように付近に口寄せ用の苦無も何本か刺し込んだし」
君、口寄せ用の苦無とそうじゃないやつ見分けてたでしょ?と問いかけると苦い顔をされた。
「まさか全部の位置を覚えてるとは思わなかったけど」
お陰で完全に安全だった。でももうちょっと粘られてたらどうするか迷ってたわ…と笑うと脱力したシカマルが
「そうかよ…あー、審判。降参だわ」
これ以上何か出来るとは思えねぇ。
その言葉を聞いて審判が宣言する。
「テンテンの勝利!」
宣言されたタイミングで沼と苦無の口寄せを送還する。
若干湿ってる以外は綺麗さっぱり元通りになった試合会場を後にして観覧席へ向かう途中で
「…一つ聞いてもいいか?」
背後のシカマルから問いかけられる。
「もし、本気で…それこそ殺し合うなら。アンタはどうしてた?」
その問いに答える意味は無いと思うけど…と思いながら答える。
「そりゃ初手で試合会場を全域爆破するでしょ」
私も多少巻き込まれるだろうけど…君位の実力なら確実に吹き飛ぶだろうし?
そう続けると
「……そうかよ。あー…もう二度とやりたくねぇわ」
リベンジする気も起きねぇ。と呟くシカマルに
「そう?私は大歓迎だけど」
シカマルみたいなタイプとは初めてだったし。次は互いに手の内を知ってるから五分五分だしね?
そう続けて笑いかけると目を逸らされた。
うーん…やっぱり噂のせいで怖がられてるのかな…
手を振ってるリーとネジに応えながら観覧席へ戻る…前に一回着替えないと。
ドロドロに汚れた服を見て苦笑が漏れる。
お気に入りだったけど…勝利のためには致し方なし。
「次はリーか…」
うちはの子も相当強いがリーには劣る。
勿論万が一はあり得るけれど…リーに勝てる見込みはほぼ無いだろう。
…リーとの試合を楽しみにしているネジには悪いけど。
「勝つのは私だ」
誰にも見えない、観覧席へと続く通路で呟く。
私の使う技術の内半分はリーから着想を得たモノだ。
皆は知らない。
私の使う術の根幹にリーが関わっている事を。
破壊魔だの問題児だの言われてるけど、実際は殆どす
忍術を使えない半端者と蔑まれたリーがどれだけの工夫を、発想を持っているのか。
此処にいる皆にその強さを見せようじゃないか。
頭が良いキャラを書く時に自分の能力不足を強く感じますが脳味噌爆発しそうになりながら考えるのは楽しかったです。
戦闘描写等分かりにくい部分も有るとは思いますが楽しんで頂けましたら幸いです。