ロック・リー転生伝 作:六亭猪口杯
ガイ先生との修行を始めてしばらくたった頃。
基本的な肉体作りは変わらず、体術の型や組手が加わった事で牛歩の歩みだった成長が徒歩位まで上がったのを感じていた。
「…良し、ここまで!」
「ありがとう…ございました…!」
修行時間はアカデミー終わりから日が沈み始めるまで。
これはガイ先生と最初に決めた約束事だ。
『焦る気持ちは分かる。でもやり過ぎはかえって成長を阻害してしまう』
と諭されてはぐうの音もでない。
そもそも師として仰ぐと決めた以上、弟子の俺に否はないが。
「リー、少しいいか」
クールダウンしていると珍しくガイ先生が静かな声で追いかけてきた。なんだろ?何かミスしてたかな?
「はい、先生。なんでしょうか?」
少し言い淀むガイ先生。
本当に珍しい…いつもなら竹を割った様な快活さで暑苦しく聞いてくるのに…
「…修行前に時折、掌でチャクラを回していただろう?」
すまん、盗み見てしまった…と謝る先生。
「いえ…別に謝られる様なことじゃありませんよ?」
目敏い忍には既にバレてるだろうし、稽古をつけてもらう時点で隠しきれるものでもないとは思っていたし。
それでも、アレが何を目的にしているかなんてわかる人の方が少ないはず…と、考えていると。
「すまん…アレは何を想定しているんだ?」
再度の謝罪の後、真剣な表情で俺を見つめる先生。
疑いの目とは言わないまでも何処か確信があるかのような目だ。
バレているんだろうか?
アレがただのチャクラコントロールの練習ではないと言う事が。
グルグルと頭の中で回る疑問にふと答えが過ぎる。
カカシ先生って4代目火影の班だったよな?
ガイ先生がカカシ先生と同期って事は四代目の術を見ている可能性があるのか…
それで腑に落ちた。
不器用な子供が何故か4代目火影の術、螺旋丸の修行をしている様に見えている訳だ。
…真実を言うわけにはいかない。
螺旋丸の事を話すのもアウトだ。
何故知っているのかを説明出来ない…少々胸が痛むが仕方ない。
「何を、と言われましても…チャクラコントロールの練習の一環で始めた事なんで」
やってる内に色々試している感じですかね?と続ける。
全てが嘘と言うわけではない。
チャクラコントロールの練習として行っている一面もある。
…螺旋丸に至る事が出来なければ本当にそれで終わってしまうし。
「将来的には攻防に利用出来ないかな、とは思っていますが」
このくらいならそこまで不自然じゃない、よな?
少しの沈黙。俺の目を見つめていたガイ先生がフっと笑って
「お前のその修行…それの完成系の一つを俺は見たことがある」
話してくれるのか!?内心で驚く俺に落ち着け、と手を振りながら続ける先生。
いかん、衝撃のあまり表に動揺が出てた…
「4代目火影が考案した忍術、螺旋丸。掌に嵐の様なチャクラの塊を作り出して相手に叩きつける高等忍術だ」
まさか此処で螺旋丸について聞けるとは思わなかった…
呆然としていると、ニカっと笑った先生が続けて話しだす。
「リー。お前が修錬しているそれは、4代目火影が生み出した術に繋がる可能性を秘めている」
勿論、容易な道ではないだろう。と少し興奮している俺を宥めるような口調で。
「それでも挑戦する価値は有る。…やってみるか?」
思っても見なかった話だ。
体術だけでなく、螺旋丸の習得まで手伝ってくれるのか…!
「是非!お願いします!」
「わかった。…詳しそうな奴に話を聞いておこう!」
すまんが俺では教えられそうに無い…と若干悔しそうな顔で言うけれど。
「いえ!先生のお陰で更に強くなれるかもしれない道が拓けたんです!」
隠れてコソコソと練習するよりも実物を見たことのある人が見てくれている方が格段に効率が良い。それに態々詳しい人に聞いてくれるというのだから頭が上がらない。
「本当に、ありがとうございます」
「気の早い奴だな…」
苦笑しながら頷く先生。
その後、真剣な表情に戻って問いかけてきた。
「リー。螺旋丸の練習をする時は俺が近くにいる時にすると約束できるか?」
アレは危険すぎる。と忠告される。
…言うほど危険だろうか?現状なら基本的にチャクラをコントロールする範囲は自分の掌の上だけだし、チャクラの供給を切れば直ぐに霧散するのに。
ナルトは自来也に放ったらかしにされてたからそんなにヤバいとは思えないんだけど…
まぁ先生の言う事だ。次から修行は先生の監督の元でやろう。
「はい、先生の見ていない所では修行を控えるとお約束します」
折角のチャンスだ。自己練習よりも良い環境になるなら隠れてやる理由もない。
「よろしい!明日は休息のため修行は無しだ…隠れて修行するんじゃないぞ?」
茶目っ気たっぷりにそう告げる先生。
「分かりました…休みですね」
稽古を付けてもらっている身で言う事は何もない。
だから素直に受け取ったんだけど…
「偶には青春を楽しんで来い!」
ハッハッハッ!と大きく笑う先生の後をついて行きながら考える。
青春を楽しむ…何をすれば良いんだ?
ガイ先生流に考えるなら夕陽をバックに殴り合ってくれば良いんだろうか…
流石にそれを先生に聞くわけにもいかず、考えている内に気付いたら自宅に着いていた。
まぁ、なる様になるか。
翌日、アカデミーにて。
「今日の授業は組手だ!」
おぉー!と口々に騒ぎ出すクラスメイト達。
静かなのは日向くんくらいなモノだ。
かく言う俺も体術を試せるこの授業は楽しみにしていた。
今日は修行も無いし、全力でやらせてもらおう。
「呼ばれたものは相手と共に前に出るように!」
要するに少年時代によくある二人組を作って〜と言う奴だ。
幸いこのクラスは偶数だからあぶれるって事は無いけど…後半になると選べる相手が減っちゃうんだよな。
数人が呼ばれて前に出て、組み手というか取っ組み合いみたいな応酬を繰り広げるのを見ていた。
「ロック・リー!前へ!」
俺か。
普段なら適度に練習出来る相手とやるところだけど…
今日は修行も無いし、このあと倒れても何の問題もないからな。
迷うことなく人混みを避けて座っているイケメンに声を掛けた。
「日向くん。手合わせ願いたい」
どうせなら現状をその身で以て知っておきたい。
そんな思いから真っ直ぐに日向ネジへと向かって頭を下げる。
日向は俺を見て少し笑って答える。
「勝負にならない奴とやっても意味がない」
その点で言えば此処の全員が役者不足だ。と続ける日向。
確かにお前から見れば力不足も良いところだろうが…
「落ちこぼれ同士でやってろ、と?」
「耳は良いんだな」
感心した様に言うがそれで引き下がるなら此処で声なんか掛けるものか。
少々大人げないけど…挑発させてもらうとしよう。
「その落ちこぼれが一泡吹かせてやると言ってるんだよ」
グダグダ言ってないで構えろよ、天才くん。
そう続けて片手をヒラリと上に向けて手招きする。
我ながら安い挑発だと自嘲するが。
「…面白い。吐いたツバを飲むなよ?」
まだ若いといっていい歳だからか簡単にノッてくれた。
少し罪悪感が湧くが…今どれだけ通用するのか試させてほしい。
すまない、と心の中で謝罪しながら皆の前に立つ。
「お、相手は日向か…お互いにベストを尽くすように!」
珍しそうに言う先生の声と共に周りがざわつきだす。
無理もない。日向の天才児がこういう場に出てくるのは皆のお手本としてであって対等な相手としてではなかったのだから。
「クリーンヒットが入ったら決着、危険だと判断したら直ぐに止めるからそのつもりで」
確認するように俺達へと語りかけてくる先生を他所に。
静かに俺を睨みつける日向への挑戦に少しワクワクしている自分に驚く。
深呼吸を一つ。頭を戦闘状態に切り替える。
「準備は良いな?…開始!」
先手必勝!!
号令と共にチャクラを通わせた右足で思いっ切り踏み切る。一足で日向の懐に踏み込むと同時に足から肩へと運動エネルギーを伝達、鉄山靠の様な形で衝突の瞬間にチャクラを集中させ…ッ!?
「…少し、驚いたぞ」
日向に触れる直前で肩の経絡から僅かにチャクラが分断された感覚があった。
一瞬にも満たない刹那、俺が僅かに怯んだ隙に乗じて反撃しながら後退したのか…この天才児、不意討ち気味に突っ込んだのに対処してきたな。
「それは重畳。…これからもっと驚かせてやる」
痺れた肩を軽く回しながら確認…行動に支障はないな。
再度飛び込む。
「同じ手はもう食らわない!」
左腕を払う様にして迎撃してくるのが
それに合わせる様にして右手で指を絡め取る。
「なっ!?」
驚いた顔の日向を右手一本で強引に引っ張る。
少し体勢を崩した日向のボディが空いた。
「コイツで…!」
握りしめた左拳を渾身の力で
胴体直撃コース!流石に貰っただろ!
「…舐めるな!」
絡めとった指を強引に外しながら飛び上がる日向。
無茶苦茶するなコイツ!と思っていたのも束の間、回し蹴りが俺の頭を目掛けて飛んできた。
「…ッ!」
ギリギリで右腕を立てて防御に成功、しかし踏ん張りが利かずに背後へと飛ばされてしまった。
…流石、天才と呼ばれるだけの事はある。
俺がない頭を絞って少しばかり考えてきた作戦は悉く対処された。
それにしても…
「お得意の柔拳はもう使わないのか?」
最初の一撃以降、血継限界である白眼と柔拳を使っていない。
純粋な体術で遅れを取っているのだ。
「一度見せただろ?それで十分だ」
これ以降は使う気はないって事か。
舐められてるが…それが今の俺とコイツの実力差だ。
「そうかい…」
甘んじて受け入れよう。
今の俺では日向の本気を引き出すに値しないのだと。
「満足したか?」
構えながら問いかけてくる日向。
「まさか…俄然燃えて来た所だ!」
それなら本気を出さざるを得ない様にしてやる。
確かに強い。今この場でひっくり返す事は出来ないだろう差があるのは間違いない。
でも、
絶対に追いつけない様な差じゃない。
以前のように漠然としたモノではなく、努力で埋められるとわかる程度でしかない。
それに血継限界と柔拳を使わない今のお前相手なら、
そこまで追い詰められても同じ事が言えるか試してやる。
そんな反骨精神が俺の心に火をつけた。
「行くぞ天才…!」
最初の踏み込みと同じ様に右足で踏み切る。
それに対応して回避、反撃しようと身構える日向。
お前なら、俺が同じコース、同じタイミングで飛び込めば当然そうするよな?
身体の何処かで堰が崩れた様な、錠が外れた様な感覚がした。
体内で通るチャクラの量が跳ね上がった。これなら…!
「もう一丁!」
懐に飛び込む途中で左足を地面に叩きつけて加速。
身体が軽い。今ならこいつに勝てる…!
加速した身体ごと日向に右拳を叩きつける!
引くのが間に合わず、驚愕の表情を浮かべる日向の顔面。
その数センチ横を通り抜ける俺の右ストレート。
肝心なところで外すとかダッセェな俺?
拳を振り抜いた姿で硬直する俺と回避行動に移ろうとしている途中で固まった日向の目が交差した。
…俺の負けか。
「俺の…」
「そこまでだ!!……大丈夫か!リー!?」
負けだ。と宣言する直前で先生が割って入ってきた。
「すごい量の鼻血が出てるぞ!?」
鼻を擦ると瑞々しい赤色が指に付着する。
アレ、何か身体が重い…?
「…あ、マズいかも……」
物凄い虚脱感で全身から力が抜けた。
膝から崩れ落ちる俺が最後に見たものは。
「おい!?……誰か、医務室の先生を呼んできてくれ!…」
何故か俺を支えている日向ネジが大声で何かを言っている姿と。
慌てて走り出す先生と、クラスメイト達の姿だった。
昼過ぎに確認したら恐ろしい程の伸びにビビりながらの投稿です。
何でこんなに読んでもらえてるのか不思議ですが楽しんで頂けているならとても嬉しいです。