自滅する天才悪役貴族に転生したけど、設定厨知識で闇堕ちフラグをへし折ったヒロインたちの様子がおかしい 作:涼暮皐
――食後、俺はひとまずひとりで自室に戻った。
目覚めたティーには、まだ家族の件については伏せている。
その件も含め、ひとまず今後の方針をひとりで考えてみたくなったのだ。
「……さて……」
今後の方針は大きく分けて三つ。すなわち、
①俺が死なないようにすること。
②ヤミやアビ子のような闇堕ちキャラを助け出すこと。
③この世界そのものについて調べていく。
①は、単体では簡単だろう。
原作におけるアロルドの終わりは全てのルートで同じだ。すなわち
まあ最終的には半ば暴走からの自爆であり、おそらく主人公たちに仮に勝っても、そのまま自我を失って終わりだろうが。
いずれにせよ、こんなものは
問題はそれ以外のこと。
単純に、実家であるラヴィナーレ家が今も悪事に手を染めている問題だ。
その影響が俺にまで波及しては、主人公たちと敵対しなくても教会に追われる。
ここは対処が必要だろう。できたら実家とは縁を切ってしまいたい。
事故に見せかけて編纂書院に消されるエンドは勘弁だった。
②は①にも関係してくるが、俺の未来だけではなく、原作で酷い未来が見えている連中くらいはできたら助けたいと思う。
放っておいても、このままではやがて《世界が滅ぶ》クラスの事態が起きる*1のだ。
言い換えれば原作のストーリーが開始される。その対処も必須事項だ。
基本的には、この世界のどこかにいるはずの原作主人公に任せたい。その中で原作主人公の手から零れそうな連中だけ、こちらで拾い上げていくような方針か。
それがたとえばヤミであり、そしてアビ子である。
③は、言ってみればそのための手段だ。
いやまあ、俺の設定厨としての興味という理由も多分に含まれてはいるが。
俺でも知らない数多くの裏設定や、知っていても違いが出たゲームと現実の落差。その辺りをまとめて頭に叩き込んでおく必要はあるだろう。
「少なくとも地下室の一件で、詠唱がオリジナルでも効果は出るとわかったしな」
……というか、その件を冷静に思い出すと、今さら恥ずかしくなってくる。
くぉ……好きなゲームのオリジナル詠唱*2を考えてしまった……!
そういうタイプの二次創作はやったことがなかったのだ。
設定厨は、すでにある
「くっ、地球なら黒歴史確実……! でも実際に効果あったし、いいよな!?」
誰にでもなく言い訳をするように俺は言った。
俺はあくまで受け手オタク。作り手側に回ったことはなかったんだけど……!
かぶりを振って、なんかカッコつけて詠唱した過去*3を記憶から振り払う。
それから改めて方針を考えた。
まず必要なのは、やっぱり戦力の強化だ。これは急務だろう。
今、俺が持っている攻撃手段は《冥術をわざと失敗して痛みを与える》技だけだ。
そんなもん技でもなんでもない*4。
戦闘において攻撃手段の中心となる、このふたつを学ぶ必要があるだろう。
そして、やるからには受け継いだアロルドの才能と、俺の設定厨知識を全開放して遠慮なく自身を強化していきたい。
転生者によるチートな知識無双というヤツを、俺もやらせていただこう。
たとえばアイテム。
魂術は、練度はともかく術の内容自体は装備するアイテム次第だ。
俺の知識で手に入る強力なアイテムを蒐集すれば、それだけで強い魂術が使える。
差し当たっての戦力強化は、原作知識によるアイテム蒐集でカバーできよう*5。
ただ魂術はあくまで武器スキルだ。
いくらアロルドの術の才能を引き継いでいるとはいえ、武器を持っての戦闘経験は俺にはない。いくら設定厨でも、剣や槍や斧や弓が使えるようにはならない*6のだ。
前線で戦うのなら、この辺りにもフォローが必要となってくる。
メインとしては、だから、やはり命術。
原作のアロルドと同じ、いわゆる後衛魔法使いタイプを理想とするべきだろう。
つまり長期目標としては命術の訓練を続けつつ、短期的な穴埋めとして原作知識で強力な武器を集めて魂術で補う。それだけで結構な戦力にできる自信はあった。
「……原作開始まで、あと一年か……」
ヤミに訊ねて、現在の年号が
つまり来年が乂歴の千年祭。――原作の開始年だ。
その
――原作開始前のキャラクターの動向は、正直なところ大部分が謎だ。
最も肝心な主人公ですら、元は孤児で、旅をしてここまで来たという大雑把な過去しかわからない。名前も入力式だから、この世界でどんな名前かも謎*7なのだ。
つまり、あらかじめ主人公をこちらから見つける方法はない。
向こうから現れるのを待つしかないわけだ。
では、ほかの仲間はどうか。
原作のパーティメンバーには二種類があって、ひとつはメインストーリーの流れで絶対に仲間になる《強制加入系》キャラだ。
本編に深く関わるキーキャラクターたちで、ルート次第では仲間にならなかったり敵対することもあるが、仲間になるルートでは必ず加入する。ルートごとのヒロインキャラなどが典型例だと思えばわかりやすいだろう。
強制加入系というのがちょっと誤解を招きやすい表現だが、あくまで《Aルートに進む場合は、aというキャラが必ず仲間になる》といった塩梅だ。別のBルートで、そのaというキャラが仲間になるとは限らない。ルートごとに面子が決まっている。
バトル面では基本的にハイスタンダードで扱いやすいキャラが多い。強制加入系の仲間だけでもクリアまで進めるようにするためだろう。
ただし、シナリオ都合でいきなり別行動になってパーティから外れたりすることも割とよくある。典型例がまさにアビ子で、彼女はほとんどのルートで仲間にできるのだが、必ず永久離脱して敵に回ってしまう厄介なキャラだ。
アビ子が好きでメインで育てていると痛い目を見る羽目になる。
よってその補完のためにあるのが、二種類目――つまり《自由加入系》キャラだ。
こちらは酒場で勧誘したり、サブクエストの流れなどでパーティに参加する。
メインストーリーに深くは関わらないが、全てのルートで必ず仲間にできる上に、途中でいなくなったりもしないため、安定した攻略の戦力になってくれる。
選択肢もかなり多く、三十人近いキャラを仲間にできるのは初代『Cross Lord』の魅力のひとつと言えるだろう。
バトル面では特殊なキャラやピーキーな能力のキャラも多いが、使いこなせるなら強制加入系キャラにも引けを取らない。RTA御用達のぶっ壊れキャラや、通常攻略より低レベル縛りなどで活躍する癖のあるキャラなど種類が豊富で、初代『Cross Lord』のゲーム面での面白さを支えてくれている。
こちらの自由加入系キャラだったら、比較的にコンタクトを取りやすい。
仲間にするまでのハードルがやたら高い実質的な隠しキャラなんかもいるけれど、大半は学院都市インフィディアか、その周辺で、序盤のうちに出会えるからだ。
やはり強制加入キャラは、目的を持って各地を移動しているだとか、身分が特殊で会うだけでも難しいとか、そんなんばっかりだ。メインキャラってそういうもん。
反面、自由加入系キャラならば、まあ人格的に偏屈な奴もいるが、言っても味方側キャラである。場合によっては俺が仲間に勧誘したって構わないだろう。
原作ではパーティメンバーは6人制限で、ほかの仲間はシステム上、酒場で待機という形になるが、この世界でだったら別に30人引き連れたっていいんだし。
もちろん、現実的に30以上の仲間を集めるのは難しいだろうし、俺の身分が足を引っ張って*8仲間にできないかもしれない。
そもそも俺が原作の仲間キャラを引き連れるということは、それだけ原作主人公の戦力が減るということにも繋がる。
原作の流れを歪ませる可能性がある行為は、やはり極力、避けるべきだろう。
――本心を言えば。
細かい理屈なんて抜きにして、単純に原作のキャラとは話してみたい。
ただ、そんなファン心理を優先できるような状況じゃないのだ。できる限り原作のキャラには会わないでおくほうが――基本的には、やっぱりいいのかもしれない。
「まあヤミとアビ子は手遅れとしても、こいつらはバッドエンド確定だしな」
それなら構わないだろう。
いやまあ、アビ子を助けるということは、主人公の手に聖剣が渡らないということだから、実はすでに割と致命的な原作改変に手を染めているわけだが。
――その辺りは追々考えるとしよう。
なんか、原作の強武器でも手に入れて主人公に回すとか、そういう感じでフォローできるんじゃないですかね。……アカン、すでにして適当になりつつある。
ちなみに、ティーに関しては原作にはまったく登場していない。
これはモブとしても、だ。完全初見キャラである。
原作には出てこないだけで存在している人物だったのか、それとも彼女は、ここで俺が助けない限り死ぬ運命だったのか。
どちらかはわからない。ただあの場にはアビ子もいた。
それが話を厄介にしている点でもあるだろう。
――原作の過去に《サロスがアロルドに薬を盛る》という事件はあったのか?
正直、今やその点からして疑わしい。
サロスの薬は完成していない。あんなものは毒と大差ないだろう。原作アロルドが薬を盛られた場合、大変なことになっていた可能性がある。
なにせヤミの証言を聞く限り、アロルドは
つまり冥術だけなら、俺はすでに原作アロルドを越えているわけだ。今の俺程度の実力で、である。――それ以下のアロルドが、サロスの投薬から生還できたのか?
できたとしたら、それはそれで問題だ。
もしも効果が出たのなら、薬を盛られたことは早晩アロルドも気づいたはず。
だとすればサロスを見逃したとは思えない。見つけ出して殺す、あるいは償わせるために脅迫する、くらいは原作アロルドなら絶対したはず。
だが俺の知る限り、原作のサロスは一年後もこの街で実験を続けている。
考え得る可能性はいくつかある。
①原作のサロスも薬を盛ったが、効果は出なかった。
②原作のサロスも薬を盛り、効果も出たが、害のあるものではなかった。
③原作のサロスは薬を盛らなかった。
こんなところだろう。
①か②の場合は、今の俺が原作と違うのかどうか見極められない。
結局、俺があの薬でどうなるのか、結果まで見ないで治してしまったからだ。
俺もティーのようになったかもしれないし、俺には効かなかったのかもしれない。薬が未完成だったとしても、服用した結果どうなるのかまでは謎のままだ。
ただし。
もし③だとすれば、そもそも最初から原作には存在しないルートにいることが確定する。その場合、アロルドが怪我をすること自体が原作にはない展開かもしれない。
俺がいることで展開が変わったのではなく、
俺がこの世界に来る前から、とっくに未知のルートだった。
「だとすると、見極めるべきは……なぜ原作と違うルートにいるのか、だ」
原作のルートごとの違いは、いわば別々の並行世界だ。
それなら無限にあってもおかしくない。俺が今いるこの世界のルートが、原作にはなかった未知のルートだとしても、納得できないことはないだろう。
問題は、いったいいつ、どこで、なぜ、誰の選択の影響によって分岐したのかだ。
アロルドの訓練事故。
サロスの研究の進捗。
現状、原作と違う可能性があるのはこの二点だ。後者には、アビ子がサロスの診療所に囚われていたことも含むかもしれない。
だがこの違いが、いったい何によってもたらされたのかと考えると――。
「……いや、わっかんねえ、これ……」
サロスの研究に関して言えば、編纂官から黒幕の存在を示唆されている。
そいつがサロスに目をつけたことで差が生じた可能性はあるだろう。
だが、アロルドの事故が原作になかった場合、それはなんの違いで起きたんだ?
原作ならば、ルートの分岐は主人公の選択によって決定される。
だがこの世界でも――現実でも選択が理由とは限らない。
アロルドが気紛れで危ないことをしただけとか、たまたま調子が悪くてミスをしただけ、なんて理由ならお手上げだ。考察するだけ時間の無駄でしかない。
「そういや、アロルドの事故の詳しい内容は聞いてなかったな……」
あとでヤミに確認しておこう。
そう心に決めて、そこで俺はふっと息をついた。
いろいろとっ散らかったことを考えたが、結論はひとつだ。
この世界は、俺の存在とは無関係に――最初から俺の知らないルートだという可能性がある。
まだ原作開始前なのが厄介だが、できれば何かしら、この時点で《明確に原作とは違うものごと》を見つけたい。違う、ということは確定できるからだ。
この場合、むしろ原作と同じだったほうが厄介か。
そちらは確定できない。違いがないのか、見つけていないだけなのかを、見極める手段が存在しないからだ――いわゆる《
ま、この世界には白いカラスがいるが。それはともかく。
「目標は決まった」
調べたいことはいろいろある。それはこの屋敷にいたままでは叶わない。
情報収集と、そしてできればアイテムの回収も兼ねて。
最初の目標とすべきは、原作において本格的に物語が始まる街。そういえば原作の主人公も、このイースティアから出発して、次に向かったのだ。
――学院都市インフィディアに行ってみよう。