自滅する天才悪役貴族に転生したけど、設定厨知識で闇堕ちフラグをへし折ったヒロインたちの様子がおかしい 作:涼暮皐
向かいくる巨大なオド――否、マナの奔流を、アビ子は正面から迎え撃つ。
さきほど俺を穿った一撃を銃撃としてたとえるなら、今度の一撃は砲撃と呼ぶべき熱量がある。喰らえば穴が空く以前に、全身が消し飛びかねなかった。
そんな次元違いの攻撃を、彼女はただ一本の剣で受け止めていた。
「ぐ、うぅ……うぁああぁっ!!」
いつの間に俺のところまで来ていたのか。
背中に庇われる形で、アビ子は魔王級の攻撃を斬り払おうとしていた。
拮抗している理由はひとつ。聖剣が持つ対術特攻のお陰だ。
魂術による同調を行わなくても、アビ子が持つ聖剣には基本性能として術に対する一方的な優位性がある。より正確に言えば、術式ごとオドを切断する能力が。
形のない力を断ち、同時に《術》として成立する要件そのものを斬る。
対象が術であるのなら、どんなものでも理不尽に効果を失わせる聖剣の一撃――。
それは紛れもなく、魔王に立ち向かう勇者の姿で。
「アビ子――ッ!」
「つっ、ぅあああああああぁぁぁ――!!」
――けれど、それでも。
それでもこの熱量を相手にして、全てを相殺しきるのは不可能だった。
「くぅ……っ!?」
「っ――危ねえっ!」
アビ子は術そのものは断ち切ったものの、勢いまでは殺しきれなかったらしい。
堪えきれずに吹き飛ばされたアビ子を咄嗟に体で受け止める。
術自体は――つまり飛んできた洪水のような量の血液は斬ることができても、その内側に含まれていたマナまでは抑えきれなかったからだ。
術式が崩れ、形も速度も保てなくなった血液はその場で溢れるように自壊したが、同時に噴き出したマナの勢いに押されたのだろう。
「おまっ、無茶しやがって……!」
両手で腕を押さえた俺に、カカシみたいな体勢になったアビ子が答える。
「し、仕方ないだろ! こうでもしなきゃ死んでたぞ、アロルド」
「それはそう。ありがとう! でもどうしようピンチ!」
「さてはキミ意外と冷静じゃないな!?」
受け止めたアビ子が、腕の中でじろりと睨むように俺を見上げる。
そんな俺たちをまっすぐに見つめるシギナスは、実に愉快そうに口の端を歪めて。
「――次から次へと苛立たせてくれる。どういう理屈か知らんが術式を斬ったな」
言葉の割に、シギナスは明らかに楽しそうな顔だ。躁鬱が激しいというか、言葉と内心が真逆というか……どうにも捻じれた性格を覗かせる男だ。
俺とアビ子は何も答えなかった。
余裕がないのもあるが、それ以上に不可解でもある。
――追撃がない。正直、今の攻撃を連発されるだけで大概詰むのだが、それをしてこないのは余裕の表れなのだろうか?
それともアビ子の聖剣の能力に興味を持って考えているのか。
なんとか思考を纏めるために、俺はひとまずアビ子に向かって言葉を投げてみる。
「よし、ひとまず逃げるぞアビ子! 逃走!!」
「は――はいぃ!?」
「いいから掴まれ時間稼ぎだ! 作戦もなしに戦えねっつの!!」
幸い、学院の大まかな地形であれば、ゲームの知識で把握している。
俺はアビ子を引っ掴み、ひとまず校庭から脱兎の如く逃げ出すことにした。
校舎を陰にし、その裏手に回り込むようにして距離を取る。
シギナスは欠片も追ってくる気配がなく、俺たちは《逃げる》に成功した。
そうして俺は、手を引っ張って来たアビ子に振り返り、訊ねた。
「さて。どうするよ、アビ子。実際、ピンチなのは紛れもない事実だぜ」
「……なら逃げ出すかい?」
「おいおい。魔王からは逃げられねえって有名な格言、知らねえのか」
「いや、ぜんぜん知らないけど……。ていうかもう逃げてる、普通に……」
「どうせ学院からは出られねえよ。仮に逃げる気でもな。結界で覆われてるわ」
「……そっか」
ふるふると呆れたように首を振るアビ子。
その様子を少し不思議に思ったが、とはいえ俺は続ける。
「まあいい。どうせ奴は追ってこねえよ」
「……? 断言するね?」
「確信がある。まあ性格的にもそういうことをしそうにないが……そこで過信すると痛い目見るからな。ちゃんと根拠もある。奴自身が答えを言っていた」
「それは、どういう……?」
「いや、それより今は奴の話だ。どうするよ、魔王にまでなろうとしてやがるぞ」
俺の問いに、アビ子はふっと目を細めた。
それから手の中の剣を見つめ、それを軽く振ってから答える。
「……魔王、か。なら、それこそぼくの出番だね」
「アビ子、お前……」
「知ってるだろ? ぼくが持ってるのは、かつて魔王を倒した聖剣なんだぜ。ぼくが魔王を斬らなくて、いったい誰が倒すっていうのさ」
「でも、お前――」
「わかってるさ。――わかってる。ぼくに……聖剣を使う才能がないことくらい」
小さく少女はそう零した。まるで悔いるかのような声音で。
そう。きっと彼女は自分で言う通りわかっている。
アビゲイル=ウィンベリーには聖剣を使う適性がない、という残酷な現実を。
魂術は魂の相性だ。適合できない武器とは適合できないと決まっている。どれほど優れた魂術の天才でも、魂の相性だけは覆せない。合う武器を上手く使えるだけで、合わない武器を使えるようになることはない。――そう決まっている。
誰かがアビ子をそういう設定にしたからなのか。
それとも、元よりアビ子はそういう少女なのか。
俺にはそれはわからない。
わからないが、それでも言うべきことなら決まっていたと思う。
「冗談言うな。俺も戦う。ただ聖剣を持ってるからなんて理由で背負わせねえよ」
「……キミまで」
「え?」
「キミまでそれを言うんだな。――聖剣を持ってるからって、背負わなくていいと」
アビ子は悲しそうな表情でかぶりを振った。
そして告げる。
「違うよ。それでもぼくは――背負いたかった」
「……アビ子」
「それがぼくの役割だと言ってほしかった。本当に欲しいのはそっちの言葉だった」
「――――」
「でなければ――ほかにいったい、ぼくに何ができるっていうんだよ」
×
アビゲイル=ウィンベリーの生まれは貧しい。
曾祖父にして英雄――アラスター=ウィンベリーの功績で貴族とはなったものの、領地があるでもない、基本的には一代限りの名誉階級のようなもの。
功績の大きさと、そして子孫が代々受け継いだ聖剣の能力から、子孫も《貴族》という称号そのものは継いでいるが、次第に求められることもなくなり衰退した。
さらには当代の跡継ぎ――アビゲイルに至っては、聖剣の適性すら失くしていた。
英雄も病には勝てない。
代々ウィンベリーの血筋は戦場ではなく、そこから帰ったあとで死ぬ一族だ。
歴代の当主は皆、戦場から生還したあと病で亡くなっている。
別に血筋が呪われているだとか、そういう迷信めいた話ではない。
聖剣があって強かったから戦いでは死ななかったが、立場のせいで一般的な冒険者として生きることもできず貧しかったため病などには弱かった――それだけだ。
実際、アビゲイルの父も流行り病で早逝しているし、その数年後には後を追うかのように母も亡くなっている。
アビゲイルは己で生きていくほかなく、だから冒険者に身をやつした。
そして――その驚くほどの才能のなさに心を刻まれた。
それでもアビゲイルが聖剣で戦ったのは、代々伝えられてきた父母からの教えを、当然のように守ったから。
弱きを助け強きを挫く――そんな、物語の中の英雄のような祖先を持つ以上、その在り方をアビゲイルひとりで曲げることなんてできなかった。
だから振るった。
何かの奇跡でいつか認められ、聖剣に相応しい勇者になれると信じたから。
否、――信じてみる以外にできることがなかったから。
『アビーは強いね。だからその力は、自分以外の誰かのために振るいなさい』
両親から教わったのは、そんな、誰でも言われるようなありふれた理想論。
現実によって歪められていく心は思う。
下らない。それどころじゃない。そんなのは余裕のある奴がやることだ。金のある貴族がやるべきことだ。明日生きるのも精いっぱいの自分に何ができるという?
――それでも。
それでも彼女は父母の教えを守り続けた。
もうとっくに――そんなキレイゴトを心は信じていなかったけれど。
『――ご先祖様も同じだった。戦いたくない、逃げ出したい。そう言いながら魔王を倒したんだよ』
それを信じていなかったのは、たぶん――ウィンベリーの人間全員がそうだった。
嫌だな。面倒だな。戦いたくないな。戦うのは怖いな。
そんな当たり前の人間性を持っていながら、――それでも戦ってきたことを誇りとする一族に、顔を背けることがアビゲイルにはできなかったから。
どうしようもない三流の理想論を、
それでも、そうできたら嬉しいと思う自分の善性に、顔を背けられなかった。
だから。
だからこそ。
『だからこそアビーも、嫌になったら逃げてもいいんだ』
その言葉だけは本当に許せなかったのだ。
結局、最後の理由はそこだ。弱くて才能がなくて聖剣を使えない自分を、それでもいいと許してくれる人たちがいたこと――それが嫌だから意地を張ったに過ぎない。
言ってほしい言葉は、そんなものじゃなかったのに。
それでもやれと。
目指すならがんばれ。願うなら足掻け。祈るなら手を伸ばせ。夢なら掴め。
そう言ってくれる人だけは、ただのひとりも、いなかったのだ。
わかっている。今だって自分だけがなんの役にも立っていない。
アロルドは充分に役割を果たした。クラウだって、見つかればどんな目に遭うかをわかっていながら、素晴らしい術を放って援護していた。先にやられたヤミですら、残るアロルドたちのためにできる限りの情報を持ち帰っている。
――自分だけが、任せられた役割を果たしていない。
だから見放されてしまったのだろうかと、心の弱い部分が嫌な想像をしていた。
だから彼ですら、自分に戦えとは言ってくれないのかと。
もしかしたらと思わせてくれた、この、非常に変わり者の貴族ですら――。
「――いや、わかってるよ。アビ子が前で戦うんだけど?」
「え?」
「だってそうでしょ。俺にどうしろっつーんだ、助けてホントに」
「…………」
きっと、彼にはわからないだろう。
その情けない言葉こそ、少女が最も欲しかったものであるなんてコト。
「や、そりゃ俺だって思うことはあるよ? 女の子を前に行かせて後ろにいる自分に恥じらいはありますが。でも仕方なくないこんなの? 秒で消し炭だわ」
「じゃ……じゃあ、なんで、今……」
「だから最初から俺『も』っつってんでしょ。
「アロ……ルド……」
「それに。俺を信じてくれるなら、ひとつ作戦があ――ごぼぁ」
「――また話してる最中に血を吐いた!?」
格好いいんだか悪いんだかわからないようなことを言った末、いきなりそれどころじゃなくなる自分の雇い主に、少女はもうどんな感情を向けたものか大混乱だ。
「さっき毒喰らったの忘れてた……自分を回復してないからな」
「バカなんじゃないのかキミは!?」
「っせーな、そんな暇も余計なオドもないんだよ。まあでも一応、毒だけ取るか」
そう言って、アロルドはあっさり自分を治療してしまう。
毒と言っても要はライフの減少効果だから、本来なら血を吐くようなことはないのだが、おそらく攻撃を受けまくったせいで生命力の減少が中身に来ている。
毒を治すに越したことはない。
まあ、傷まではそうそう治らないのが回復冥術なのだが――いや。その割には肩の傷は少なくとも塞がっている。やはりアロルドは冥術が抜群に上手かった。
オドを扱う技量は、シギナスさえ遥かに超えている――。
「……アビ子。さっきの話なんだが」
「え? ――あ、うん」
シリアスな調子に戻ったアロルドは、少し言いづらそうにアビ子に切り出す。
なんだろう、と思うアビ子に、彼はすっと顔を上げて。
「……ひとつだけ、お前を強くする方法があるんだけど」
「ぼ、ぼくを……強く?」
「ああ。ただその方法は、アビ子にとって面白くない方法かもしれない。これまでの努力とか時間とか、そういうものを踏み躙る方法かもしれない」
「…………」
「しかもゴリゴリ禁術だ。――つまり混術を使う」
前半の言葉より、禁術を使うという言葉のほうに驚いてアビゲイルは目を見開く。
「絶対に成功するとも言い切れない。失敗したらどんなことになるのかも正直なとこ想像つかない。かなり分の悪い賭けなのは先に言っておく。それでも――」
「――それでもいい」
と。だからアビ子は、話を聞くよりも早くアロルドに頷いた。
何を言い出すのかと思えば、そんなこと。少女はまったく気にしない。
だって――。
「頼ってくれるなら、それでいい。――それがいちばん、ぼくは嬉しい」
だって少女は最初から、正義の味方になりたかったのだから。
そのためなら何を捨てたっていい。
それを捨てるのが彼のためになるのなら――むしろ嬉しいとさえ思う。
「あ」
と、そこで何かに気づいたように。
アロルドは顔を上げ、まじまじと少女を見つめて言った。
「もしかして、ついて来てほしいって頼んだとき嬉しそうだったのは……俺に頼ってほしかったからか?」
「……っ!? ば、なっ……キ、キミはまた、そんな古い話を! いいだろ別に!?」
「くっ……はははは。そういうことか。頼られるのが嬉しい……ね。なるほど」
「な、なんだよ……」
「いや。――今なら確かによくわかる。俺も信じてくれて嬉しいよ、アビ子。お前がいっしょなら勝てる気がする」
「――――っ!!」
本当に。息を吐くようにそんなことを言うのだけ、どうかと思っているのだけど。
それでも悪い気分じゃない。何かのために戦うことを許されるのは嬉しい。
それが自分の気に入ったもののためなら――なおさらだ。
それだけの話。それだけの、取るに足らない、当たり前の感情の話に過ぎない。
「行こう、アロルド。ぼくはキミを信じる。――ぼくが、キミの剣になる」
「ああ。頼むぜ、アビ子。――俺はお前を盾にする」
「言い方が最悪!」
「悪いな。――でも信じてる」
「……っ!? ああもう、キミは本当にっ!!」
顔を赤くして少女は叫ぶ。言葉よりは楽しげな表情で。
そして悪役貴族の青年は――頭の中に組み上げた術を発動する。
それがゲームという原作を踏み躙る、最低の二次創作であると少女は知らずに。
「――《
――余談だけれど。
直後、少女は『よくも騙したな!』と、青年に向けて言ったという。
「――《
※
そうして俺たちは、再び校庭のほうに戻ってきた。
シギナスはさきほどと同じ位置で、ただ立ったまま何かを考えている。
だがすぐにこちらに気づき、実に見下したような表情で小さく吐息を零した。
「……早いな。もう少し怖気づくものと思っていたが」
「は。逃げ出すとは思わなかったのか?」
「逃げ出せばわかる。それに貴様らはどうせあのガキを見捨てられん。だろうが」
そういうことはわかっている辺りが実に悪辣だ。
人を人とも思わないくせに、人が人を思うことは理解している。
「まあいい。貴様らという前哨があるのは、私にとっては好都合だ。本命はこのあとだとも。――差し当たっては教会の狂狼を嬲りたいところだが、メインディッシュの前にはオードブルがなくては寂しかろう?」
「――それで済むといいけどね。あとで泣く目を見ても知らないよ?」
一歩を前に出て、アビ子がシギナスに答える。
同時に突きつけられる剣を睨み、魔王を僭称する男は語る。
「聖剣か。――どうも今夜は運に恵まれすぎていて怖いな」
「運に恵まれすぎてる、ね」
「当然だろう? 我ら
「…………」
「その《四剣》を破った聖剣が敵なのだ。かの座を継ぐ七代目が、最初に超える壁としては相応しかろうよ。――まあ、どうせ扱い切れてもいないのだろうが」
「……そうかい」
小さく、アビ子は頷く。それからわずかにかぶりを振って、
「それなら、申し訳ないけど期待には応えられそうにないね」
「は。別に構わんさ。ただあまり早く壊れてはくれないでほしいがね――!」
――刹那。
ふたりは同時に飛び込んで、彼我の中間にて激突した。
交錯するのは、アビ子が持つ剣と、シギナスが両の手に纏わせた長い爪を持つ血の手甲。両の手から繰り出される素早く細かい斬撃を、アビ子は一本の剣でいなす。
俺では目で追うこともできない、斬撃と斬撃の高速の衝突。今のシギナスを相手に時間を稼ぐことは、もはや俺にはできそうもない。
だから戦闘はアビ子に任せ、俺はティーが横たわる祭壇のほうに走り出した。
「――やはり最初は肉による削り合いだな! せいぜい美しく血を流せよ、残滓!」
「うるさいな。――真正面からでぼくに勝てるってのは自惚れすぎだろ」
「ぬ――!?」
ひときわ大きく腕を弾かれ、シギナスは体勢を崩した。
その隙を逃さず、一気に決め切ろうと真正面から振るわれたアビ子の剣は――。
「――ち」
「ぬぅ――!?」
シギナスの身体の周りを漂う、紅い血の霧に防がれた。
それが鎧の役割を果たして彼を守っているのだ。――とはいえ。
ギリギリギリ、と火花の散るような甲高い音を立てながら剣が血霧を斬っていく。
「やはり聖剣! 術式破壊の特性だけは有効か! ――だがッ!!」
「――!」
「――《
瞬間、炸裂する血液の霧。
だがすでにその場所に少女はおらず、距離を取って全てを躱していた。
「それはもう見てる。ぼくには当たらないよ」
「……なるほど。貴様の評価を一段階、上げてやろう。さすがに体術は私より上か」
「…………」
「だがその程度では意味がない! 身体強化すらできていないではないか! 魂術の基礎も使えぬとは見下げ果てたな。その程度ではとっても――」
刹那。アビ子が両手を引いて構えを取る。
そしてその小さな口から、――魂へ命ずる言葉が零れた。
「――
「なあ――ッ!?」
瞬間。――剣は所有者の命を受け、その魂を震わせる。
剣から紅いマナが飛び出し、鋭い棘となってシギナスを天地から挟み込んだのだ。
「ごぁああああぁ……ッ!?」
突如として上下から襲い来た血の牙に、シギナスは鎧ごと貫かれる。
血を吐き、身悶えしながらシギナスは地面を転がった。
「ばかな――何が、なぜ――これは、私の、マナでは――」
常人なら致命傷であろう傷を負って、なお立ち上がる狂気の司教。
彼はその眼に、ある違和感をようやく捉えた。
さきほどまで美しかったはずの、白と金の装飾に彩られていた聖剣が――。
――何をトチ狂ったのか、今では黒と銀の装飾に変わっている。
「な、なんだ、それは……なんだその剣は。そんな、禍々しいものが、聖剣……?」
「――そう。今はもう違う。ぼくの剣は、――
「は――はぁあッ!?」
「アロルドの回復――つまり神の慈愛を反転させた術で、剣の属性を書き換えた」
――そう。
アビゲイル=ウィンベリーにはどうあっても聖剣は使えない。
ただ彼女には、実際には作中で活かされることのなかった裏設定が存在する。
それは、どのルートでも必ず闇墜ちする彼女らしい、だが皮肉な設定。
すなわち――アビゲイル=ウィンベリーは
「でも、もうそれでいい。神様になんて選ばれなくてもいい。聖なるものなんかじゃなくっていい。――ぼくはただ、ぼくの力で、お前を斬るからだ――!」
術を断つ性質から、術を喰らう性質へ。
変貌を遂げた反転魔剣は、シギナスの術すら取り込んで力に変えた。
「――ブチ撒けろ、ルナクレイヴ――ッ!」
紅い斬撃が、――振るわれる剣に指揮されるよう世界を薙いだ。