【書籍化】自滅する天才悪役貴族に転生したけど、設定厨知識で闇堕ちフラグをへし折ったヒロインたちの様子がおかしい 作:涼暮皐
そんな感じで目下のところ、俺もやるべきことは山積している。
これを俺は、自分の中で《天地人》の3つの課題に分けて考えることとした。
ひとつ目は《天》の課題。
これは、要するに世界全体に関わる大きな問題への対処、天運の問題だ。
――
これは同時に、どこかにいるはずの勇者――すなわち本編主人公への支援といった行動も視野に入れている。自分で倒さずとも勝ってくれればいい。
初代『Cross Lord』において、ゲーム上のラスボスは《魔王》だ。
これはどのルートであっても変わらない。
ただしルート次第で、復活した六代魔王であったり、クラウが新しい七代魔王になったりと、同じ《魔王》でも
現にこの世界ではシギナスと、それを防ぐべくラヴィナーレ邸の全員が、ひとときとはいえ《魔王》という座に手を伸ばしかけた。
今回、少なくともクラウは味方に引き込めている。
だが六代目の復活や、ほかの誰かが七代目に就任する可能性は未だ残っていた。
それを防ぐ、あるいは防げずとも打倒することは必須の要件だ。
この世界で生きていくためには、考えておかなければならない点である。
ちなみにシギナス戦での僭称を利用して、俺たちが《ラヴィナーレ邸の人間で七代目の座を埋めてしまう》という方法は、今のところは使えない。
単純に
己がその座に相応しいと証明する必要がある、魔王化の
唯一、単体で行けそうなのは(というか実際に原作で行けたのは)クラウだが、それも今の段階ではまだ
術師として一流のシギナスに、フィーの《マナ接続》という裏技を足して、初めて名乗りを上げられるポジションなのだから。普通そうそう届かない。
もっと言えば、この世界のクラウは本人の性格がかなり違うため、下手すると《王権宣言》の条件のひとつである《
実際クラウは、割と根本的には利己的で悪属性*1っぽいんだが、爻印教という環境要因から離れた今だと、だいぶ中庸寄りに変わっている気配がする。
……まあ、こんなもの厳密には言えないんだけど。
しかし我らがラヴィナーレ邸メンバー、ヤミが悪、アビ子は善から悪化、アロルドはもはや言うまでもないって感じで、なかなか悪属性な集団だ。
中身の俺も、自認的には中庸ってところだが、前回の一件でミリアを遠ざけてまでフィーの救出を優先してしまった件を思えば、これは割と悪寄りの行為とも言える。
善と言い切れそうなのは、今のこの家だとフィーくらいのものだろう。
別のところでは、まさにミリアがゴリゴリの善属性*2って感じだ。
ともあれ。
明確に見えている《魔王による滅び》は、予期している以上は避けるべき事態だ。
もしも《歴史の修正力》的なモノが実在する場合、魔王の就任自体はもしかしたら防げない可能性もあるが、そうだったところで倒す手立ては用意しておきたい。
……できれば実際に戦うのは、原作主人公に任せたいところだけど。
さて、続けてふたつ目は《地》の課題だ。
これは要は、地に足をつけて生きていこうみたいな話で、この世界で生きるために必要な経済面の安定や戦力面の向上、四大術への習熟などを意味している。
原作知識のお陰で強力な武具やアイテムなどはある程度、所在がわかっている。
それらを集めて回ることも視野に入るだろう。
またヤミやフィーの体質問題の改善もここに入れて考えるべき課題だ。
俺は今や、外からやって来た異邦人ではないのだから。
この世界の地に根差して今後を生きていく。
魔王がどうこう以前に、この世界で生涯を過ごすことを考えて人生設計をしていく必要があった。ラスボスを倒せばそこで終わりなわけじゃないのだから。
その中で、術を学んだり歴史を調べたりして、己の設定厨知識欲も満たしていければ大満足だろう。
――そして、最後の三つ目が《人》の課題である。
これは文字通りだ。原作のアロルドには存在しなかった、他者との交流を積極的に増やし、あえて計算高く表現すれば味方につけていく。
そういう意味では、前ふたつの課題を達成するための手立てのひとつでもあろう。
この近辺には原作の仲間キャラが多く、そいつらは基本的に、対爻印教の戦力として計算できる。
逆に言い換えれば敵に回る公算が低いワケだ。原作の初代『クロスロ』において、主人公パーティに加入しながら裏切ったのはアビ子ただひとり*3である。
どこに爻印教の魔の手が潜んでいるかわからない以上、原作キャラは(ほぼ)確定で味方と言い切れる希少な存在なのだ。これを頼みにしない手はない。
あと会いたい(本音)。
まだ知らない設定を俺に開示してくれ(願望)。
そういう意味では、俺は怖いがミリアと顔が繋がったのも幸運ではあるだろう。
すでに原作を大きく改変してしまった以上、何かの間違いで敵に回る原作キャラが絶対にいないとは言い切れない……が、ミリアだけは別だ。
善属性の極北みたいなアイツが爻印教に堕ちることは、天地がひっくり返ってもないと断言できるからだ。
どんな甘言も報酬も効かなければ、どんな脅迫や人質にも屈しない。
むしろミリアに「こいつ爻印教か?」と疑われることのほうが懸念材料だ。
この場合、――たぶんマジで事実なところ*4が。
「……となると、だ」
この天地人の三方針は、全てにおいて俺の設定厨力が大前提。
だがやるべきことは大別すれば三つでも、細かく分ければ無数にある。
となれば、重要なのは優先順位をつけることだ。
最優先はもちろん爻印教対策である。
魔王以前に、まず爻印教の連中に戦力で負けては話にならない。
さすがRPGの世界だけあって、どうあれそもそも強くないといけないってのが、目下のところは最大の課題だ。
俺の設定厨力×アロルドの才能によって、成長速度自体はチートレベルと言っても差し支えない反面、誰も俺の成長など待ってくれないというのが現実だ。
その意味で言えば、シギナスなんてハッキリ言って雑魚だった。
いやシギナスが雑魚なら俺など稚魚だったが、要するに《魔王》としての器がまだ完成しきっていなかった。魔王という枠の中で考えれば弱い状態だったワケだ。
本人もそうだし、これは同時に勢力としてもという意味だ。
魔王とは、その名の通り《王》である。
これはつまり、魔王は王としての能力で
これがマズい。
歴史的には《勢力》と呼べる集団を作った魔王は、実は限られる。
魔王なんだから配下を集めて軍勢を整備する――なんてコトを真面目にやったのは実は初代と六代目くらいで、それ以外の魔王は地上の権勢になど興味がなかった。
なぜか。
それは魔王になるような連中が基本的にどいつもこいつも個人主義で、自分以外の人間とか別に知ったことじゃないぜ――みたいな連中ばかりだったからだ。
世界を混沌に落とし込んだ歴代最強と呼ばれる初代魔王。
乂印教最大の《編纂》によって歴史から消された二代魔王。
魔王化を術として確立しながら乂印教会に滅ぼされた三代魔王。
誰も正体を知らない四代魔王。
巨大な迷宮を創り上げ死ぬまで出てこなかったとされる五代魔王。
暗黒時代を招き、初代に匹敵すると謳われた六代魔王。
そして――まだ見ぬ七代魔王。
単体でも世界最強クラスの術師たちが、魔王という肩書きを得ることでさらに強化される一方、なんだかんだ世界が滅んでいないのは、魔王だからといって世界に興味などない連中も割といたから――というか積極的に世界を手中に収めようとした者が初代と六代くらいしかいないから、というのが正確なところだろう。
……まあ初代はまだ今の世界ができあがる前の時代の魔王だから、そもそも滅ぼすものがなかったとも言えるし、六代のときもほぼ滅びかけまで普通に行ったから暗黒時代呼ばわりなんだけど。
とにかく、言いたいのは《魔王が魔王軍になると激ヤバ》ということ。
――それをしてくるのが爻印教なのだ。
魔王になったからといって、誰彼構わず適当に配下として強化できるわけじゃない。
それに足るだけの契約は必要で、同じ《爻印教徒》であるというタグづけは、そのハードルを大きく下げる。
要するに、魔王化して以降の味方戦力を確保しやすい。
誰が魔王になろうと引きこもってくれるタイプなら正直それでいいのだが、原作のクラウがそうだったように、爻印教という組織に魔王が属すると非常にマズい。
場合によっては
もちろん、それで目をつけられるのは避けたいが……これは今さらか?
もうすぐ学院の春学期*6が始まる。つーかもう始まっている頃かもしれない。
別に毎日必ず出席しないといけない系のシステムじゃないけど、とはいえ原作でもメインの舞台になっていた憧れのエルピス学院だ。
できれば積極的に通いたいし、少なくともクラウのことは通わせてやりたい。
となると、遅くとも来月――
ならば。
「……引っ越すか、まず、普通に。インフィディアに」
※
とまあ考えをまとめて、俺は休憩を終えると部屋を出た。
ヤミは仕事で、とっくにどこかへ消えている。アビ子も不在の様子だが、都合よく廊下を歩いていたクラウを捕まえることができた。
「よろしいんじゃないでしょーかねー」
そんな彼女に引っ越しの予定を伝えてみたところ、特に否やはないとのことで。
「……まあ考えてみりゃ、そもそもクラウは最初からインフィディアにいたしな」
これはアビ子も同じだし、俺(アロルド)とヤミも学院が始まれば必然的に拠点を移すことにはなる。
事実上、本格的な引っ越しということになるのはフィーだけというワケだ。
彼女だけはイースティアの住人である。名目上、フィーもラヴィナーレ家で雇った使用人であるため、強制的に随伴させる大義名分はあるが、できれば合意は欲しい。
両親を亡くしたこの土地に留まり続けることと、そこから離れること。
そのどちらを彼女にとっていいのか、俺にはわからないが。
「……まあいいや。それよりクラウ、ちょっと屋敷の探検に付き合ってくれ」
「ははあ、それはもちろん。先輩のご命令とあらば命まではお許しするわたしです」
「それより上はねえよ」
ある意味ヤミより従順*7で、逆にモノを頼みにくいクラウと連れ立ち廊下を歩く。
というのも、引っ越すとなればこちらの屋敷は基本的に用済みなのだ。
なら今のうちに、先送りにしていたラヴィナーレ屋敷の探検をしておきたかった。
そもそもこっちは広すぎる。向こうの邸宅ですら五人でまだまだ部屋が余るのに、こっちは十倍いたって収まりそうだ。無駄すぎる。
なんなら売り払ってもいいくらいだが、そこはまあ《元ラヴィナーレ家の屋敷》というだけで曰くつき物件なのは、さすがに想像に難くない。今のところは皮算用か。
「入ったことない部屋ばっかなんだよな……つっても、似たような部屋が並んでるだけで、あんまり面白そうなモノはないかもしれないけど」
とはいえ、俺ではない元のアロルドが使っていた屋敷である。
彼がやっていた研究の資料など、何かしらの発見は期待したいところだった。
「左右対称な構造のほうが、術の制御には都合がいいですからねー」
そんな俺の後ろをちょこちょこ歩いてクラウは言う。
「ん? なんの話だ、そりゃ?」
「む? 何と言われましても、このお屋敷にかけられてる術のお話ですが」
「……」
「……」
「……、何それ?」
「はい……?」
思わずきょとんとクラウの目を見つめてしまう俺。
問題は、見つめ合う先のクラウもまた似たような表情であることか。
「アロルド先輩のご手腕では?」
「いや、……なんのことかさっぱりなんだけど」
「……むむぅ。ですが――」
俺から視線を切ったクラウが、代わりに周囲へそれを巡らす。
そらからこくりと頷くと、再びこちらを見て。
「屋敷の至るところにかけられた術からは、だいたい先輩の気配がしますがー」
…………、おぉん?